シリーズ:個人消費の論点⑨;pdf

EY Institute
27 March 2015
執筆者
シリーズ:個人消費の論点⑨
~観光消費への期待大
観光消費2兆円台へ
訪日外国人観光客による消費(観光消費)が注目されている。というのも、訪日観光客は2014
鈴木 将之
EY総合研究所株式会社
経済研究部
エコノミスト
年に1,300万人超まで増えているからだ(日本政府観光局)。12年末から為替レートが円安に
転じたこと、ビザの要件緩和やLCCの就航などが、日本への観光を後押ししている。もちろん、ア
ジアを中心とした諸国の経済成長によって、購買力が高まっているという構造的な要因が、観光
の後押しになっていることも事実だ。
<専門分野>
► 日本経済の実証分析・予測
► 産業関連分析
観光庁によると、14年の訪日観光客の消費額は2兆円を超えた(観光庁『訪日外国人消費動
向調査』)。この2兆円は、日本のGDPの0.4%に相当する規模である。また、1人あたりの消費単
価も15万円を超え、過去最高額を更新した。これは、『家計調査』から計算される13年の1人あ
たり月間消費額(10万円)の1.5倍に相当する金額である。15年2月の春節(旧正月)では、中
国からの訪日観光客が増えており、小売店の販売が伸びたようだ。
観光消費が全体として増える中でも、14年10月から消費税の免税対象品目が拡大されたこと
などにより、買い物代が7,000億円超にまで増えたことが注目される。なぜなら、家電製品に加
すその
えて、食料品や化粧品などへと観光消費の裾野が広がっているからだ。こうした消費の広がり
は、都市部の百貨店などの売上が増えていることからもうかがわれる。
また、観光客が増えるにつれて、観光客の足が主な観光地からそれ以外の地方へ向かいつつ
あることも注目される。こうした動きは、地方の活性化にも一役買うと期待される。
観光消費からの好循環を起こせ
観光消費は、統計の中ではサービスの輸出になるものの、小売店などから見れば、日本国内
での消費である点に大きな違いはない。なぜなら、国内消費だろうと、観光消費だろうと、売り上
Contact
EY総合研究所株式会社
03 3503 2512
[email protected]
げが増えれば、企業の利益や労働者の雇用機会や所得が増えることもある。
国内経済への好循環という視点からみれば、宿泊・飲食などの観光関連産業では、人手を多く
使う産業が多いため、雇用機会を多く生み出す傾向がある。国内では、人口減少とともに観光需
要の伸び悩みが懸念される中で、こうした分野への恩恵は大きいとみられる。
なぜなら、サービス業で効率を上げるためには、消費需要が大きく変動することはあまり望まし
くないからだ。例えば、繁忙期と閑散期の差が大きければ、待機時間が長くなったり、人員を調
整したりしなければならず、結果として安定的な雇用を生み出しにくい上、利益を上げにくくなる。
国内需要を補完するように、観光需要が伸びれば、そうした懸念は和らぐことになるだろう。こう
したことを踏まえると、一定の需要が見込める観光消費には、観光地の雇用機会の創出を通じ
た地方経済の活性化効果も期待される。
もちろん、観光消費はサービス輸出であるので、訪日観光客の購買力と、為替レートの影響を
含めた価格に左右される可能性が高い。これらについては、今後も海外経済では成長が続き、
円安傾向も保たれるとみられる。そのため、当面、観光消費には追い風が吹くといえる。
15年2月は中国の春節の影響もあって、訪日観光客数が139万人と前年の同じ月に比べて
57.6%も増えており、観光産業は引き続き好調さを維持するとみられる。ただし、世界の観光客
数をみると、フランスは8,300万人、米国は7,000万人、スペインは6,000万人などに比べて、
日本の訪日観光客数1,300万人は多くはない (世界観光機関UNWTO、日本政府観光局
JNTO)。そのため、現在のような環境を活かして、さらに観光産業を活性化することが重要だ。
図 訪日観光客数とその消費
EY | Assurance | Tax |
Transactions | Advisory
EYについて
EYは、アシュアランス、税務、トラ
ンザクションおよびアドバイザリー
などの分野における世界的なリー
ダーです。私たちの深い洞察と高
品質なサービスは、世界中の資本
市場や経済活動に信頼をもたらし
ます。私たちはさまざまなステーク
ホルダーの期待に応えるチームを
率いるリーダーを生み出していき
ます。そうすることで、構成員、クラ
イアント、そして地域社会のために、
より良い社会の構築に貢献します。
EYとは 、ア ーン スト・ アンド ・ ヤン
グ・グローバル・リミテッドのグロー
バル・ネットワークであり、単体、も
しくは複数のメンバーファームを指
し、各メンバーファームは法的に独
立した組織です。アーンスト・アン
ド・ヤング・グローバル・リミテッドは、
英国の保証有限責任会社であり、
顧客サービスは提供していません。
詳しくは、ey.com をご覧ください。
出典:観光庁『訪日外国人消費動向調査』、日本政府観光局『訪日外客数』
よりEY総合研究所作成
EY総合研究所株式会社について
EY総合研究所株式会社は、EYグ
ローバルネットワークを通じ、さま
ざまな業界で実務経験を積んだプ
ロフェッショナルが、多様な視点か
ら先進的なナレッジの発信と経済・
産業・ビジネス・パブリックに関する
調査及び提言をしています。常に
変化する社会・ビジネス環境に応
じ、時代の要請するテー マを取り
上げ、イノベーションを促す社会の
実現に貢献します。詳しくは、
eyi.eyjapan.jp をご覧ください。
© 2015
Ernst & Young Institute Co., Ltd.
All Rights Reserved.
本書は一般的な参考情報の提供のみを
目的に作成されており、会計、税務及び
その他の専門的なアドバイスを行うもの
ではありません。意見にわたる部分は個
人的見解です。EY総合研究所株式会社
及び他のEYメンバーファームは、皆様が
本書を利用したことにより被ったいかな
る損害についても、一切の責任を負いま
せん。具体的なアドバイスが必要な場合
は、個別に専門家にご相談ください。
EY Institute
02
シリーズ:個人消費の論点⑨
~観光消費への期待大