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9 September 2015
中国株価下落の日本経済への影響
執 筆 者
中国バブル崩壊の悪影響が拡散
中国経済の先行き不透明感が、世界経済のリスクになっている。その混乱は、8 月下
鈴木 将之
旬に、上海株式相場の下落を発端とした世界同時株安として一気に現れた。
6 月まで減速傾向にあった名目 GDP 成長率に対して、上海株価の上昇率は急激で、実
体を伴わないバブルといえる状況にあった<図 1 >。その反動もあって、6 月から 7 月
EY 総合研究所株式会社
未来社会・産業研究部
エコノミスト
にかけて上海株価の下落がつづいたため、政府が下支え策を打ち、株価はいったん下げ止
<専門分野>
発表し、下旬には 7 月の中国製造業 PMI(財新 /Markit)が 47.1 と約 6 年半ぶりの低
• 日本経済の実証分析・予測
• 産業連関分析
まる動きをみせた。
しかし、8 月上旬に中国の証券監督当局が「一般の状況では市場に介入しない」旨を
水準になったことをきっかけに、世界の金融市場に混乱が広がった。日経平均株価(終値)
も 8 月 24 日に 895 円安、翌 25 日に 734 円安を記録するなど、17 日をピークに 25
日までの 6 営業日で 2,813 円(▲ 16%)も下落した。こうした混乱を治めるために中
国は昨年秋以来 5 回目となる利下げを実施した。それによって、日経平均株価、震源地
となった上海株価ともに落ち着きを取り戻したかにみえた。
ところが、9 月 1 日に発表された中国の 8 月の製造業 PMI(国家統計局)が 49.7
と半年ぶりに 50 を下回ったことで中国景気への懸念が再燃し、同日の日経平均株価は
724 円安となった。中国景気の不透明な先行きという根本的な原因が解消されておらず、
予断を許さない状況である。
これからの問題は、株価下落が実体経済に影響を及ぼしかねないことだ。上海株価が
大崩れし、景気回復が遅れれば、個人消費や設備投資の減速などを招くなど、ただでさ
え停滞感が強い中国の景気減速に追い打ちをかけることになる。いまや中国は世界第 2
位の経済規模であるため、景気減速の悪影響は世界中に拡散することは明らかだ。事実、
2015 年上半期には、中国の景気減速が東南アジア経済の足を引っ張っている。それは、
15 年上半期の中国向け輸出がタイで前期比▲ 6.2%、インドネシアで同▲ 19.2% と減
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少(タイ商務省、インドネシア中央統計庁)したことからもうかがえる。そこで、日本企
業・経済への中国リスクの影響について考える。
図 1 上海総合株価と名目 GDP の推移
出典:Quick
Astra Manager、中国国家統計局より EY 総合研究所作成
輸出からみた中国リスク
日本企業・経済への中国リスクの影響を考える上で、真っ先に思い浮かぶのが貿易関係である。そこで、
各国の輸出総額に占める中国向け輸出の割合を計算してみた<図 2 >。日本の輸出に占める中国の割合
は約 2 割あり、高い方に位置している。実際、01 ~ 08、12 ~ 14 年度に第 2 位、09 ~ 11 年度に第
1 位と、中国は日本の主要な輸出相手国であった(財務省『貿易統計』)。
中国向け輸出割合の高い国は、オーストラリア、台湾、韓国、日本など、アジア地域が目立っている。
これらの国は、大きく二つのグループに分けられる。
一つ目のグループは、資源エネルギー輸出国だ。例えば、中国の景気減速に伴う資源需要の減少によっ
て、オーストラリアなどの中国向け輸出は減っている。中国は、原油需要の約 1 割を占めるなど資源消
費大国であり、その需要の鈍化は国際商品価格を低下させている。この動きは資源依存度の高いアフリカ
諸国の景気を悪化させつつある。
二つ目のグループは、機械産業などを中心に中国と国際分業体制を築いてきた国だ。中国の欧米向け
輸出に加えて、中国の内需自体も鈍化しているため、分業相手である他のアジア諸国の中国向け輸出が伸
び悩んでいる。日本はこのグルーブに属しており、中国向け輸出数量指数は、2 月から前年割れの状態が
つづいている(財務省『貿易統計』)。
つまり、中国の景気減速は、①資源価格、②国際分業を通じた貿易、という二つの経路で、日本企業・
経済に影響を及ぼすことになる。
図 2 輸出総額に占める中国向けの割合
出典:OECD STAN
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Bilateral Trade より EY 総合研究所作成(注)2014 年値(一部 2013 年値)
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現地法人の売上高の拡大
また、中国が最終消費地となるにつれて、日本企業は地産地消を進めてきた。中国向け輸出と、中国
の現地法人売上高を比べると、15 年第 1 四半期時点で、現地法人売上高(6.7 兆円)は輸出(3.1 兆円)
の 2 倍超になっていることがわかる<図 3 >。世界全体では、現地法人の総売上高(31.6 兆円)は輸
出全体(19 兆円)の 1.6 倍、 中国を除くアジアでは現地法人の売上高(8.9 兆円)は輸出(6.9 兆円)
の 1.3 倍弱と、中国における現地法人の展開は明らかに進んでいる。
また、現地法人の展開によって、親会社の特許などのロイヤリティー収入が増えている。それは、特
許使用料などを含む知的財産権等使用料の受取額にあらわれている<図 4 >。リーマンショック後の円
高局面で企業が海外展開を押し進めたこと、12 年末から為替レートが円安に転じたことによって、この
受取額が増加している。14 年度には、知的財産権使用料の受取総額 4 兆円超のうち中国からの受取額は
約 4,600 億円と全体の約 11% を占めるまでになった。
つまり、中国景気の日本企業への影響を考える上で、輸出はもちろん重要であるものの、それ以上に
現地法人の動向が重要になっている。
図 3 中国向け輸出と中国の現地法人売上高
出典:財務省『貿易統計』、経済産業省『海外現地法人四半期調査』より EY 総合研究所作成
図 4 知的財産権等使用料の受取・支払額(対中国)
出典:財務省・日本銀行『国際収支統計』より EY 総合研究所作成
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EY について
EY は、アシュアランス、税務、トランザ
“爆買い”も消滅か?
中国関連でいえば、訪日観光客の“爆買い”にも影響が及ぶ可能性は否定できない。14 年の訪日観光
客の消費額は約 2 兆円であり、そのうち中国からの観光客の消費額は 5,600 億円と全体の 27.5% を占
クションおよびアドバイザリーなどの分野
めた(観光庁『訪日外国人消費動向調査』)。15 年 4-6 月期の観光消費額も 8,900 億円と 6 四半期連続
における世界的なリーダーです。私たちの
で最高額を更新している。このうち中国からの観光客の消費額は 3,600 億円と全体の 4 割を占めるまで
深い洞察と高品質なサービスは、世界中の
資本市場や経済活動に信頼をもたらしま
拡大している。
す。私たちはさまざまなステークホルダー
中国の景気減速が長引けば、こうした“爆買い”にも影響が及ぶことになるだろう。それは、都市部を
の期待に応えるチームを率いるリーダーを
中心とした百貨店などの小売業やホテルや旅館などの宿泊業で大きいとみられる。また、観光地の売上を
生み出していきます。そうすることで、構
支えている面もあるため、地方経済の足を引っ張ることにもなりかねない。
成員、クライアント、そして地域社会のた
めに、より良い社会の構築に貢献します。
EY とは、アーンスト・アンド・ヤング・
グローバル・リミテッドのグローバル・ネッ
トワークであり、単体、もしくは複数のメ
また、中国からの観光客は、家電製品や日用品などを多く購入することが知られている。こうした業界
にも悪影響が広がる恐れもある。
日本国内の消費の回復が遅れる中、国内景気の下支え役であった観光客の減少は、日本企業・経済にとっ
て思いの外、大きな悪影響になりかねない。
ンバーファームを指し、各メンバーファー
ムは法的に独立した組織です。アーンスト・
アンド・ヤング・グローバル・リミテッド
は、英国の保証有限責任会社であり、顧客
サービスは提供していません。詳しくは、
ey.com をご覧ください。
EY 総合研究所株式会社について
EY 総合研究所株式会社は、EY グローバ
中国リスクを前提にした企業経営
中国政府は景気や株価の下支えに手をこまねいているわけではない。例えば、6 月下旬以降をみても、
ルネットワークを通じ、さまざまな業界で
昨秋 11 月以降で 5 回目となる利下げ、公的年金基金の株式運用割合の拡大、証券監督管理委員会の信
実務経験を積んだプロフェッショナルが、
用取引の規制緩和、上海・深圳証券取引所の売買手数料の引き下げ、証券大手 21 社が 1,200 億元以上
多様な視点から先進的なナレッジの発信と
経済・産業・ビジネス・パブリックに関す
を株式市場に投入、悪質な投機的な先物取引の摘発などによる株価下支え策に加えて、人民元の変動幅拡
る調査及び提言をしています。常に変化す
大や輸出促進を狙ったとされる 3 日連続の基準値引き下げなどが続いている。一連の対策をみると、む
る社会・ビジネス環境に応じ、時代の要請
しろ、これらほどの対応をしなければ、株価や景気を下支えできないほど、実体経済が追い込まれている
するテーマを取り上げ、イノベーションを
姿がうかがえる。
促す社会の実現に貢献します。詳しくは、
eyi.eyjapan.jp をご覧ください。
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に作成されており、会計、税務及びその他
の専門的なアドバイスを行うものではあり
ません。意見にわたる部分は個人的見解で
す。EY 総合研究所株式会社及び他の EY
ただし、日米欧に比べれば、金利も高く、金融緩和の幅が大きい上、債務残高 GDP 比が低く、財政
出動の余地もあるため、中国経済は財政・金融政策によって立ち直る可能性があるだろう。また、経済成
長が鈍化しているとはいえ、中国では日本よりも高い成長がつづくと予想され、その購買力の向上にとも
なって販売市場としての魅力も高まっていることも事実だ。
その一方で、足もとの景気減速に加えて、供給能力が過剰であることや、今後の高齢化に社会保障制
度が対応しきれないことなど、構造的な課題も山積している。高度経済成長期から成熟経済へ移行という、
中国経済のソフトランディングは難局を迎えているようであり、それは日本企業・経済にとって大きなリ
スクである。
日本に比べて中国の方が、スピードが速く、規模も大きい傾向があるものの、過剰設備の問題やバブ
メンバーファームは、皆様が本書を利用し
ル崩壊などは、日本経済がこれまで経験したものである。それらの問題への対策に、日本企業のビジネス
たことにより被ったいかなる損害について
の活躍できる機会が多くありそうだ。日本企業が成長していく上では、中国リスクが起きることを前提に、
も、一切の責任を負いません。具体的なア
ドバイスが必要な場合は、個別に専門家に
ご相談ください。
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その悪影響をいかに緩和して、リターンを獲得していくのかという視点が、企業の経営戦略においてます
ます重要になっている。
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