シリーズ:財政健全化の論点整理② ~選択に迫られる

EY Institute
03 March 2015
執筆者
シリーズ:財政健全化の論点整理②
~選択に迫られる公共事業
債務拡大の原因
財務省によると、1990年度から2014年度にかけて国債残高が603兆円増えた原因として、
鈴木 将之
EY総合研究所株式会社
経済研究部
エコノミスト
<専門分野>
► 日本経済の実証分析・予測
► 産業関連分析
歳出側では公共事業費(59兆円)や社会保障費(210兆円)、歳入側では税収減(197兆円)の
影響が大きいという(財務省『日本の財政関係資料』)。
そこで、以下では、歳出側の公共事業費に焦点をあてる。この公共事業費は、財政健全化に
加えて、景気・雇用対策などに幅広く影響を及ぼす歳出費目である。特に、景気対策としての効
果が低下してきたことが知られている一方で、12年末からの景気回復では人手不足から公共事
しんちょく
業の進捗の遅れが目立ったことなどから、公共事業費に注目すべきだと考えられる。
転換点を迎える公共事業
公共事業は転換点を迎えているようだ。まず、一つ目の転換点は、公共事業が縮小されるよう
になったことである。債務拡大要因としての公共事業費をみると、90年代には景気対策として活
用されてきたこともあって、公共事業による国債の増加が目立った。しかし、00年代になると、財
源上の制約から、公共事業を以前ほど増やせなくなり、むしろ削減されるようになった。
二つ目の転換点は、12年末からの景気回復局面で、これまで需要不足に覆い隠されてきた人
手不足が明らかになったことだ。その人手不足がボトルネックとなって、公共事業の進捗に遅れ
がみられるようになっている。その一因は、これまで公共事業が削減されてきたことによって、建
設業の就業者数がピークの97年から3割も減ってしまったことだ。さらに、円安による資材価格
の高騰と相まって、公共事業が遅れがちになった。人口減少などから、今後、公共事業が増加
するという展望を持ちにくいことも、建設業が積極的な採用に踏み切らない一因になっている。
三つ目の転換点は、以上の変化を受けて、公共事業の景気対策効果が低下していることだ。
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生産工程における輸入原材料の使用頻度が高まっていることに加えて、景気対策として公共事
業を増やしても、人手不足というボトルネックなどから工事が遅れ、思うような効果が発揮できな
くなっているようだ。
公共事業の選択と集中
少し長い目でみれば、今後、更新投資が増えることによって、新規の公共事業に資金が回らな
い恐れがある。なぜなら、高度経済成長期に建設された社会インフラが更新時期を迎えている
からだ。国土交通省によると、30年代には維持管理・更新投資の金額が10年時の投資額を上
回るようになり、新規の公共事業を行えなくなると試算されている(国土交通省『国土交通白書』
平成23年度版)。
こうした点を踏まえると、財源が限られる中で、公共事業の優先順位をつけなければならない
状況になっている。例えば、更新投資需要が増えるものの、人口減少によって一部の社会インフ
ラへの需要は低下しているため、全てを更新する必要性は薄れている。その代わりに、超高齢
社会を支えるインフラ整備や、防災対策などの公共事業の別の面から重要性は高まっている。
15年度予算案では、公共事業費は6兆円と据え置かれた。その中で競争力強化の視点から、
物流拠点としての京浜・阪神港などのインフラ整備は増額され、老朽化や防災対策は前年度か
ら1.0%増となる一方で、一般的なインフラ整備の財源は1.2%削減されている。
財政健全化を進める上では、公共事業も例外なく削減対象になる。その一方で、防災や競争
力強化などから、インフラ需要があることも事実だ。そのため、人口減少など将来の変化を見据
えた上で、社会インフラの選択がますます重要になっている。
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図 1990年度末を基準とした国債残高の増加要因
(兆円)
50
その他収入
税収減
その他歳出(除く債務償還費)
公共事業関係費
地方交付税交付金等
社会保障関係費
歳入
歳出
40
30
20
10
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出典:財務省『日本の財政関係資料』(平成26年10月)よりEY総合研究所作成
図 更新・維持投資の増加
新設(充当可能)費
(兆円)
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維持管理・更新費
維持管理・更新費が2010年度の投資総額を
上回る額(マイナス表記)
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出典:国土交通省『国土交通白書(平成23年度版)』よりEY総合研究所作成
(注)2011年度以降は国土交通省の推計値
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