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宮崎大学学術情報リポジトリ
Title
児童・生徒の科学的記述力を育成するための学習指導法開
発(2)
Author(s)
隈元, 修一; 小石, 紀博; 兼重, 幸弘; 横倉, 康浩; 火
宮, 一功; 山口, 悦司; 中山, 迅
Citation
宮崎大学教育文化学部附属教育実践総合センター研究紀
要, 16: 1-10
URL
http://hdl.handle.net/10458/3470
Date of Issue 2008-03-31
Right
Description
宮崎大学教育文化学部附属教育実践総合セ ンター研究紀要
第1
6
号,1
-1
0,2
0
0
8
児童 ・生徒の科学的記述力を育成す るための
2)
学習指導法開発 (
隈元修一*・小石紀博**・兼重幸弘*
*・横倉康浩*・
火宮-功*・山 口悦司***・中山 迅***
De
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Ⅰ は じめに
ここ数年
,「確かな学力」の要素 として,思考力,判 断力,表現力 な どが位 置付 け られ, そ
れ らを高めるための指導法の工夫が なされている. しか し, 第 3回国際数学 ・理科教 育調査
(
以下TI
MSSと表記す る)の報告書 (国立教育研究所 ,1
9
9
7)では,論述課題 に対す る 日本 の
子 どもの回答 には,多面的かつ論理的 に自分の考 えを記述す る学力 に弱点があることが指摘 さ
れている. これは,TI
MSS2
0
0
3の結果 も同様である.
この報告 を受 けて行 われた調査研究 (
隈元 ,2
0
0
2;隈元 ・中山,2
0
01;隈元 ・中山 ・猿 田,
2
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01
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2,2
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6;隈元 ・福松 ・中山 ・猿 乱 2
0
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4
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4b)か ら以 下 の こ とを指摘 す る こ
とがで きる. まず,中学校 においては,
①
授業 において,わかった ことを何 かに結 びつけた り理論 を構築 させ た りす る場面が少 な
いために理科の授業や学校のみの知識 と して収束 して しまう.
②
短い文で教師が期待す る答 えを言わせ ることに終始 して しまう授業では,多面的 に考 え
る習慣 はつかない.
③
生徒が短文で答 え,教師が長い説明 を加 えるとい う授業が多 く,文章 を書 く機会が少 な
い.
④ 授業で教師の説明 を聞いているので,ある程度の知識 はある もののそれ らを結びつけて
表出で きない.
また,小学校 においては,
(
∋ 自然事象 に対す る子 どもの素朴 な見方 ・考 え方 に対す る研究が進み, 自分 な りの考 えを
もち,見通 しを もって学習 に臨 もうとす る姿が見 られるようになった ものの,子 ども自身
に基本的な理科 の学習の流れが身に付 いていない.
●
宮崎大学教育文化学部附属 中学校
=宮崎大学教育文化学部附属小学校
=宮崎大学教育文化学部理科教育講座
隈元修一 ・小石紀博 ・兼重幸弘 ・横倉康浩 ・火宮-功 ・山口悦司 ・中山 迅
2
② 結果 と結論の区別がついていない授業が多 く,「わかった こと」「まとめ」 などといった
言葉の くくりで結果 と結論が混同 し,学習が終 わる傾向が強い.
③ 結論 は学習の まとめ とい う意味 とともに実社会や実生活-の適応や理解 といった意味 を
もたせ ることがで きていない.
0
0
7)に引 き
そ こで,本研究では,昨年度 (
隈元 ・福松 ・岡田 ・中山 ・山口 ・小石 ・兼重 ,2
続 き, 日本 の典型的な実践事例の批判的分析 を行 うとともに,宮崎大学教育文化学部附属小学
校 と附属 中学校 において 「
結果」と 「
考察」・「
結論」 を子 どもが しっか りと区別 し, 自分の
言葉で記述 させ るための小 中一貫型の学習指導法 を開発す る. この ことによ り,子 ども一人ひ
と りの考 える力や表現す る力 な ど理科 にお ける確かな学力 を高めることにつ なが ると考 えられ
る.
Ⅱ 日本の典型的な実践事例の批判的分析
1
.方法
本研究で開発す る学習指導法の手がか りを得るために, 日本の優 れた小 中学校 の理科授業実
践 を収集 した小倉
(
2
0
0
7)を取 り上げて,その添付 CDの中学校 での授 業 に使 用 され た ワー ク
シー ト (
記述式の補助教材 )の書式やス タイル,及び記述 内容 について分析 を行 った.
2
.結果
今 回調査 した中学校 での1
2件の授業の うち,1
0件 の授業で用い られていた ワークシー トは,
最終段階の 「まとめ」や 「
考察」の部分で,観察や実験 での変化やわかった ことを短い文や箇
条書 きで書 き込 ませ る ものであった. また , 5件 の授業では, ワークシー トに予想や実験の計
画,実験 の結果 について書 く枠が設け られ,そ こに結果 な どを書 き込 ませていた (
図 1)
.
次 に,「
考察」の記述内容 について分析 を行 った.い くつかの ワークシー トでは,「
結果」 と
「
考察」 に記入す る項 目が分 け られている ものがあった. しか し,「
考察」部分の記述 として実
験結果の表面的な変化のみ を記述 し,実験結果 に もとづ いた考察 を含 まない ものがあった. ま
た,実験結果か ら導かれる事項ではない,その単元で教師が身につけ させたい要点 をまとめた
記述が多 く見 られた. また,生徒 の記述 内容 には,箇条書 きが多いこともわかった.
さらに,考察の部分 を多 く記述 しているワー クシー トで は, 実験 の 「考察」 の文章 の 中 に
「
発見で きて よかった」,「自信 をもっ ことがで きた」といった,感想が入 って い る記述 も見 ら
れた (
図 2)
.
3
.考察
今 回の ワークシー トの分析 か らス タイルが定型化 された語句の穴埋 め式の ものや実験結果の
枠が作 ってある ものが多 く見 られた. これ らは,時間をあ ま りかけず に実験及び実験結果 まで
行 き着 くようになっていて,授業時数及び個 々の能力差 も大 きい中学校 の現状 では必然的なス
タイルで もある.ただ し, このス タイルを常用す る と生徒 の多様 な考 えを制限 して しまう場合
がある. これは,TI
MSSビデオス タデ ィで筆者 らが分析 して明 らか となった 日本 の理科授 業
の特徴である 「
短い文で教師が期待す る答 えを言 わせ ることに終始 した り,生徒が短文で答え,
教師が長い説明 を加 えた りす る」 ことに似 ている.
児童 ・生徒 の科学的記述力 を育成す るための学習指導法開発
(
2
)
3
予 想
Ⅰ 塩化バ リウム水 溶液 に硫酸銅水 溶液 を混ぜ る と ・・・ (
・化学変化 の後 は,全体 の質量 は (
] 塩酸 に石灰水 を加 える と ・
) と思 う。
・(
)
・化学変化 の後 は,全体 の質量 は (
Ⅲ 銅 と酸素が結 びつ くと ・・
) と思 う。
(
)
・化学変化の後 は,全体 の質量 は (
) と思 う。
結 果
化学変化
考
実験 前 の合計
反応 した後
変化 の様子
Ⅰの場 合
g
g
Ⅱの場 合
g
g
察
○ どう して質量 が変化 したのか ? (しなか ったのか ?)
小倉 (
2
0
07)添付 CDか ら抜粋 )
図 1 ワー クシー トの例 (
私 は最初 とて も悩 んで いて どう しようか な あ,発 表 しようか なあ と思 って い ま した○それ
で悩 んでいる ときに私 は,先生 にあて られて, 自分が実験 を終 えて思 った こ とを言 い ま し
た○言 い終 えた後 ,発 見で きて良か つた と思 った し, ほんの少 しだけ 自信 が もてて よか つ
考察」 の例 (
小倉 (
2
0
07)添付 CDか ら抜粋 )
図 2 感想 入 りの 「
また, ワー クシー トの中 には,「
結果 」と 「
考察 」の記 入欄 を分 けてあ って も生 徒 の記 述 内
容は
,「結果」 と 「考察」 を混 同 していた り,「考察」 の部分 に観 察や実験 後 の変化 を箇条書 き
に した りした ものが見 られ,事象 の背景 や要 因 を論理 的 に記 した もの は見 られ なか った. これ
も,「日本 の中学生 の回答 には,現象 の要 因 を見定 め る こ とが で きず に,短 い文 で現 象 面 の み
」とい う筆者 らの分析 に合致す る.
を答 えている ものが多 い.
さらに,今 回の分析 で は
,「考察」 の 中に,実験結果 を根拠 に して述べ る結 論 とは別 の , 感
想 についての記述が兄 い出 された. この背景 と して,教 師が 「関心 ・意欲 ・態度 」の評価 のた
め に,記述 内容 を自己評価 の際 の資料 とす る こ とを意 図 して 「
考察」 の欄 に感想 を書 くこ とを
奨励 している可能性 や,「
結果 」か ら論理 的 に導 かれ る事柄以外 の心情 的 な 内容 を書 くこ とを
容認 している可能性 が考 え られ る.筆者 らは,事後 指導 の資料 な どと して,事柄以外 の心情 的
な内容 を書 くこ とは否定 しないが,客観性 を重視す る 「
考察」 の部分 と感想 が混 同 しない よう
に指導す る こ とは,理科 の学 習 において非常 に重 要 であ る と考 えてい る.
これ らの傾 向 につ いて詳 しく知 るため に宮 崎市 内で ワー クシー トを授業 で使 用 してい る1
0名
隈元修一 ・小石紀博 ・兼重幸弘 ・横倉康浩 ・火宮-功 ・山口悦司 ・中山 迅
4
の理科教諭 に 「
定型化 されたワークシー トを使 う理由は何か ?」とい う質問を してみた.する
明確 な指示がで き,授業時間の短縮がで きる」 とい う答 えが 7名,「
必要 な語句 を押 さえ
と,「
後で評価 しやすい」 とい う答 えが 4名か ら返って きた.
ることがで きる」 とい う答 えが 6名,「
この回答結果は,今回分析 した ワークシー トのスタイルと類似 してお り,多 くの理科教諭が,
長い言葉の記述 よ りも語句 による回答 を重要 な知識 としている傾向があることが考 えられる.
しか し,論述学力 を身につけさせ るには,生徒が,単語や短い文でな く,長文で記述する機
会 を積極的に取 り入れ,情報 を取捨選択 し,論理的に記述する学習が必要である.今後は,そ
の学習が段階的にで きるようなワークシー トや記述法の開発 も重要 な課題 となるであろう.教
師は,授業 において断片的な記述でな く,実験の流れを意識 した記述 をさせ るように心がける
ことも大切である.
考察」が混在 した り,「
結果」と関係のない 「まとめ」 とい
観察や実験の後 に 「
結果」と 「
う形で知識 を与 えた りするよ りも,「
結果」を基 に生徒が 自分の言葉で論理 的 に表現 して 「考
察」す る活動 を積極的に取 り入れ,生徒 の科学的に記述する力 を育成する授業のあ り方に関す
る研究の必要性が示唆 された.
Ⅲ 宮崎大学教育文化学部附属小学校の実践事例
1
.理科の学習の仕方のイメージ化
子 どもが主体的な理科学習 を展開す るためには,一連の問題解決の過程 を十分に知ってお く
必要がある.
そ こで,図 3に示す ような問題解決の各段階における留意事項 を表 した ものを教室に常掲 し,
学習の中で随時活用するように した.
年生 まで全4
3
2
名を対象 に,理科学習の学び方集会 を行 っ
また,理科 を学習する 3年生か ら6
た. ここでは,問題解決の過程の中で理想的な姿 を見せた子 どもをVTR等 を用いて紹介 し,
理科学習 におけるあ こがれの姿 として一人ひとりにイメージをもたせ るように した. この姿を
子 ども同士あるいは,子 どもと教師の共通の理想の姿 とした.
(
1) 問題 をみつける
提示 された 自然事象 を見つめ子 どもが 自ら問題 を見つけることがで きるようにする.その
際,提示する事象 は以下の点 に留意す る.
・知識 とのずれがある事象
・子 どもの願いが生 じる事象
・単元全体 を見通す ことがで きる事象
(
2) 予想 を立てる
既有の知識や学習経験 をもとに した問題 に対す る確かめる前の考 えを描画法等 を使 って明
らかにで きるようにする.
(
3)
計画 を立てる
確かめる前の考 えを用いて,「この ような観察 ・実験 をすれば, きっ とこんな結果 になる
」といった見通 しの もとに追究の計画 を立てるようにす る.
はずだ.
児童 ・生徒 の科学的記述力 を育成す るための学習指導法開発
立て
る
①帽を
如け
る ⑧渦を
身
の
回
L
J
の
自
薦
か
ら
,
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不
思
議
だ
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愚
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題
に
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よ
う
。
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問
自分の知?ていることや,
捷鼓したことをもとにして
確かめる着の自分の考えを
はゥ書I
Jさせましょう。.
(
2)
5
⑨計
垂を
立て
る
必
要
な
蓮
具
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評
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J
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書
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予
想
か
ら
ど
ん
調
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な
結
集
に
な
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か
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な
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考
え
ま
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.
④観葉をする ④実験をする ⑨括如 整理
鶴奏したこと(
未重さ,負,
形,におい,事豊わI
J)臥
ことばや教主,スケッチ,
写真などで義しましょう,
1E
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だけの実験では<うせ
んかもしれません。だれが
やっても胃じ措黒になるよ
うな美蕨を何虞もします。,
自分の考えは入れずに清美
を蓑しましょう。兼やグラ
フ,スケッチ,乗物を鹿う
なとの工夫をしまレよう。γ
⑥括如l
ら- ⑨績論`
榊る ⑧手とめる
観
轟
や
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か
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と
お
っ
た
結
論
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結
果
か
ら
何
が
善果からわかぅたこと・考
えたことは潮に毒しましょ
う。増やBを使予て養すと
わかI
Jやすく徹ります。.
青見るのかを考えて)を出
しましょう。
よくわかるよ引こまとめま
す。そのためには,農序よ
く整理し,理科で守った曹
糞を正しく使いましょう。
図 3 問題解決の各段階にお ける留意事項
(
4) 観察 をす る ・実験 をす る
観察の対象や実験器具等お よび時間 を十分 に保障 し,一人一人が納得のい く結果 を得 るこ
とがで きるようにす る.
(
5) 結果の整理 をす る
表や グラフ,スケ ッチ ・図等の方法 を使 って 自分の 目の前 に起 こった出来事,つ ま り事実
のみ を記録 した り整理 した りす ることがで きるようにす る.
(
6) 結果か ら-・
結果 をもとに した考察 を行 うことがで きるようにす る.その際,事実 とは明確 に分けて整
理で きるようにす る.
(
7) 結論づける
学習問題や単元全体のめあてをふ り返 って考え,それに対す る答えを整理す ることがで き
るようにす る.
(
8) まとめる
一連の問題解決の過程 をふ り返 り, 順序 よ く整理す ることがで きるようにす る. また,料
学の言葉である用語 を適切 に使 って整理で きるようにす る.
隈元修一 ・小石紀博 ・兼重幸弘 ・横倉廉浩 ・火宮-功 ・山口悦司 ・中山 迅
6
図 4 第 4学年 「
水のすがた」での板書
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図 5 第 4学年 「
水のすがた」での ノー ト
2
.板書の工夫
子 どもが 自らの思考の流れ を整理 した り,学 びを深化 させ た りす るときに,教室の黒板 にか
かれた言葉や線,掲示 された図や表 は重要 な役割 を果たす. この ことは,理科 において も同 じ
事が言 える.そ こで,次の ような板書 の工夫 を行 った.
単元の導入段 階での板書 は,子 ども一人ひ と りが もつ事象 に対す る素朴 な見方 ・考 え方が学
級全体で とらえることがで きるように,で きる限 り視覚 的に とらえることがで きるような工夫
を行 った.そ うす ることで, 自他の考 えの共通点や差異点が明確 にな り,学級共通の学習問題
につ なげることがで きる と考 えた.
次 に追究の段 階では,図4
にあるように黒板上 に残す もの として,「
①学習問題」- 「
②確 か
める前の考 え」- 「
③方法」- 「
④結果」- 「
⑤結論」の流れ を常 に意識で きるように した.
この ことで,問題解決の過程が分か り,理科 の学 び方が身に付 くような板書 を構成 した.また,
児童 ・生徒の科学的記述力 を育成す るための学習指導法開発
(
2)
7
子 どもが黒板 を使 って,考 えた り話 し合 った りす ることがで きるように した.
3
.理科の ノー トづ くり
ノー トは,追究の結果や学習内容 を記録す る場であ り,同時 に考察 した り結論 を導 き出 した
りするなど思考す る場で もある. また, 自分の考 えをノー トを使 って,友達 に分か りやす く伝
えるための媒体 に もなる と考 える.
ここでは,前述の板書 との関連 をもたせ,図 5にあるように問題解決の過程 を子 どもが 自ら
身に付 けることがで きるように見開 き 2ページの ノー トの使 い方 を指導 して きた.特 に,結果
と結論 については, しっか りと区別 して記述す ることがで きるように した.
Ⅳ
宮崎大学教育文化学部附属 中学校の実践事例
ワー クシー トにおける生徒 の記述の分析結果の考察 を もとに,宮崎大学教育文化学部附属 中
学校で最近行 った授業での生徒の記述 について分析 を行 った.
これ らの授業ではワークシー トを使用せず, レイアウ トか ら自分で考 えて記述す るように通
材料」,「方法 上 「
結果」,「
考察」
常の ノー トを使用 している.生徒 には,「テーマ」,「目的」,「
とい う段階 を常 に示 し,授業では,「
結果」 と 「
考察」 を明確 に分 けて指導 している (
図 6)
.
「
結果」 とは,五感でわかる変化 と し,試薬の色が変わって も色の変化 だけを言 った り,記
入 した りす るように している.
結果」 か ら言 えることについて生徒が話 し合い,互いに説 明 を し, 最 終 的
「
考察」 では,「
には, 自分の言葉で記述す る ように している. また,化学分野 な どで,現象 の要因について深
く思考す る場合な どでは,試薬の変化や物質の色や形状 などの変化か らわかった ことを最初の
「
考察」 とし,それ らをふ まえた上で,その原因について考 え, 2段階で 「考 察 」 を記 述す る
ように指導 している. これによ り,記述が苦手 な生徒 も書 くことがで きるような配慮 も行 って
いる. これ らの取 り組みの結果,生徒の 「
考察」には,「
結果」 との関係が記されるようになっ
た.
以上の ことか ら
また, この ような取 り組み を行 っている と図 6 ・図 7の レポー トの ように 「
炭酸水素ナ トリウムを加熱す る と水,二酸化炭素,別の物質がで きた」 と書 き, この実験 か ら
判断で きる もの とそ うでない もの を生徒が区別 し,生 じる物質の名称 の 「
炭酸ナ トリウム」 と
い う記述 をする生徒 は見 られなかった. これは,「
結果」,「
考察」 とい う段 階 にお け る記述 の
ルールが生徒 に定着 した結果だ と考 え られる.
考察」 を 2段階 に分 けることで, この40名の学級では,3
6名が, 図 6 ・図 7の よ う
また,「
な記述 を授業の中で行 うことがで きた.残 りの 4名について もレポー トの添削 を しなが ら記述
に取 り組 ませた.
この ような レポー トは,生徒 の評価 において,記述 を 「
知識 ・理解」 だけで な く, 「関心 ・
意欲 ・態度」等すべての観点の資料 として活用す ることも可能である.
隈元修一・
小石紀博・
兼重幸弘.
横倉康浩・
火宮-功・
山口悦司・
中山 迅
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児童 ・生徒の科学的記述力を育成す るための学習指導法開発 (
2)
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7 授業の レポー ト (
2)
Ⅴ おわ りに
MSS及びTI
MSSRの分析結果 を基 に記述力 を身につけさせる授業の実践を行っ
これまで,TI
て きた.本研究では,小学校の授業 において 「
結果」と 「
結論」,中学校では 「
結果」と 「
考察」
を明確 に分けることで,生徒 は,実験結果か ら何がわか り,何 を考えなければならないかがわ
かるようになると考えて実践 を行 った.
小学校では,授業の流れを 8段階 とし,生徒の思考 に沿った授業の展開 し,記述がで きるよ
うに取 り組んだ.中学校で も小学校 と同 じように生徒の思考の流れを生か した授業の展開を行
い, 自分の言葉で事象 を説明するとい う点 を重視 した.
本研究では,生徒の記述す る力 を育てるために,ス タイルが定型化 されたワークシー ト (
請
句の穴埋 め式の ものや実験結果の枠が作 ってあるもの)を使わず, レイアウ トか ら自分で考 え
考察」が
るために通常の ノー トを使用 した.そ して,観察や実験の後 に 「
結果」 と 「
結論十 「
,
,
結果」 と関係のない 「まとめ」 とい う形で知識 を与 えた りするよ りも 「
結果」
混在 した り 「
を基 に生徒が 自分の言葉で論理的に表現 して 「
結論」イ 考察」する活動 を積極的に取 り入れた.
これ らの実践か ら生徒の科学的に記述する力 を育成す る授業のあ り方に関す る研究の必要性が
あること,小中学校が共通 したフォーマ ッ トで授業 を行 うことで小 ・中の理科教育の連携の在
り方が示唆 された.
附記
本論文は,以下の発表 を加筆 ・修正 した ものである.
)
2
0
0
7 「中学生の科学的記述学力の評価 に関す る研究 (
l
l)
」
隈元修一 ・中山 迅 ・猿 田祐嗣 (
F日本科学教育学会研究会研究報告』第2
2
巻,第 1号 ,p
p.
8
1
8
4
.
小石紀博 (
2
0
0
7)「
小学校理科 における確かな学 びをもとめて :ともに科 学 的 な見方 ・考 え
」『理科の教育』2007年11月号 ,pp,25-27.
方に高め合 う理科学習
なお,本研究の一部は,平成 1
9年度宮崎大学教育文化学部 ・学部附属共同研究補助金の援助
を受けている.
1
0
隈元修一 ・小石紀博 ・兼重幸弘 ・横倉廉浩 ・火宮-功 ・山口悦司 ・中山
迅
引用文献
(
1
9
9
7)「中学校 の数学教育 ・理科教育の国際比較一 第3
回国際数学 ・理科教育調査報告
国立教育研究所
」
書- 『
国立教育研究所紀要』第 1
2
7
集 ,p
p.1
2
7
0
.
隈元修一
(
2
0
0
2)『中学生の科学的論述学力の評価 に関す る研究』宮崎大学大学院教 育学研 究科 修士 学
位論文.
隈元修一 ・中山
迅
(
2
0
0
1)「中学生の科学的記述学力の評価 に関す る研 究 (
1
):TI
MSS 自由記述 問
」『日本科学教育学会年会論文集』第25巻 ,pp.507-510.
題の分析 か ら
隈元修一 ・中山
迅 ・猿田祐嗣
(
2
0
0
1)「中学生の科学的記述学力の評価 に関す る研 究 (
2
):複 数 の見
」『日本科学教育学会研究会研究報告』第16巻,第 2号 ,pp.41-
地 を要求す るTI
MSS理科課題 の分析
4
4
.
隈元修一 ・中山
迅 ・猿田祐嗣
(
2
0
0
2)「中学生の科学的記述学力の評価 に関す る研 究 (
2):複 数 の 見
MSS理科課題の分析
地 を要求す るTI
要』 第
9巻 .pp.
9
9
1
0
6.
隈 元修一 ・中山
迅 ・猿田祐嗣
」『宮崎大学教育文化学部附属教育実践研究指導 セ ンター研 究紀
(
2
0
0
6)「中学生の科学的記述学力の評価 に関す る研究 (
9)
」『日本科学
教育学 会研究会研究報 告』 第2
1
巻,第 2号 ,p
p.
4
7
5
0
.
(
2
0
0
4
a)「中学生の科学的記述学力の評価 に関する研究 (
5
)
」
『日本理科教育学会九州支部研究紀要 』p
p.1
a
l
d.
隈元修一 ・福松棄一 ・中山 迅 ・猿 田祐品司(
2
0
0
4
b)「中学生の科学的記述学力の評価に関する研究 (
6)
」
『日本科学教育学会研究会研究報告』第 1
9
巻,第 2号 ,p
p.
8
3
8
6
.
隈元修一 ・福松東一 ・岡田能直 ・中山 迅 ・山口悦司 ・小石紀博 ・兼重幸弘 (
2
0
0
7)「児童 ・生徒 の科
隈元修一 ・福松東一 ・中山
迅 ・猿凹祐嗣
」『宮崎大学教育文化学部附属教育実践総 合 セ ンター研
学的記述力 を育成す るための学習指導法開発
5
号 ,p
p.
6
7
7
3
.
究紀要』第 1
小倉
康
(
2
0
0
7)『平成 1
5-1
8
年度科学研究費補助金基盤研究 (
A)(1)研究成果報告書 「優れた小 中学
校理科授業構成要素 に関す る授業 ビデオ分析 とその教師教育への適用」
』