亜人を統べる無能王 優狐 ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP DF化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ 人間は生まれつきスキルという異能を持っているはずが、霧林冬弥 だけはスキルのない無能の異端児だった。ある日魔物を倒した冬弥 は、記憶喪失の女の子・アイリスと出会う。しかし、アイリスは幼い 頃失った妹とそっくりで⋮⋮ 下克上ラブコメファンタジー開幕 ! !? プロローグ │││││││││││││││││││││││ 1 目 次 オーダーメイド │││││││││││││││││││││ 9 プロローグ ││スキル。 それは生まれつき人間が持っている異能。人間である以上、必ず 持っているもの。しかし、俺││霧林冬弥だけはスキルを持っていな い異端児で人からは無能と呼ばれる。それが何を意味するのか⋮⋮ 答えは簡単だ。 全人類の敵であり、廃除するべき存在。人でありながら人に殺され る。 ⋮⋮笑えないよな。 ││◆││ ﹁││はいよ、千円だ﹂ ﹁千円ちょうどだ﹂ ﹂ 人込みで賑わう都。露店があちこち出回る中、俺は一つの露店で旅 んだ﹂ 肩を竦めながら答える。別に魔物狩りを生業としている者は珍し くない。魔物の被害が増え続ける昨今、腕に自信がある者や懐が淋し い者が名乗り出ている。 ⋮⋮そうだな。この近辺で最近魔物の被害は起きてい まあ⋮⋮俺はどちらでもないんだが。 ﹁違いねえ ? た。 ﹁⋮⋮その旅人は何日前から帰って来てないんだ ﹂ 露店商は俺の言葉に笑いながら一本とられたとばかりに頭を叩い い旅人が居たっけな⋮⋮あそこは安全な筈だけどよ⋮⋮﹂ ないが⋮⋮ああ、そういえば神秘の森に向かったっきり帰って来てな ! 1 仕度を整えていた。 ﹁ついでに情報を聞きたい。この近辺に魔物は居るか 商品を皮袋に詰めながら露店商に尋ねる。 ﹂ ﹁あー⋮⋮何だ兄ちゃん。もしかして魔物狩りを生業としてるクチか ? ﹁まあな。魔物の被害は増え続ける一方だろ。だから個人でやってる ? そんな怖い顔すんなって ﹂ 目を細め、正直に答えろと威圧をしながら尋ねる。 ﹁な、何だ兄ちゃん ! ﹂ ! 勘違いするな。魔物は人を喰らう存在。時間が わ、悪かった ⋮⋮その旅人が森に向かったのは一週 ! ﹁⋮⋮何を買ったか覚えてるか ﹂ 間前だ。眠そうな顔してうちの商品を買っていったんだ﹂ ﹁ひいっ 話さないと斬るぞとも告げる。 腰に差した刀の鍔を押して鯉口を切る。それに加えて目でさっさと 何故か生暖かい視線を向ける露店商に対して俺は更に威圧を強め、 くなんてない﹂ た日を正しく聞いた上で準備が必要だということだ。⋮⋮俺は優し 経てば経つ程強大になる。要するに行方不明になった日数や向かっ ﹁⋮⋮俺が優しい ﹁あ、ああ⋮⋮そういうことか。兄ちゃん⋮⋮優しいんだな﹂ 怯える露店商に構わず昔を思い返して威圧を強める。 週間前だったしな⋮⋮ あるんだ。三日前に行方不明になったと言っておきながら実際は一 ﹁すまないとは思っている。だが、以前情報提供者に騙されたことが ! ? ﹂ ? ﹁その旅人が買った物は回復薬五本。魔力液三本。簡易テント二式。 た。 の日付が書いてある売却リストと書かれた書類を引っ張り出してき 露店商は皮袋に詰めていた紙束を漁り、目星がついたのか一週間前 ﹁そういうことなら⋮⋮これだな﹂ 表情でストップをかけてきた⋮⋮何故だ。 俺がべらべらとうんちくを披露していたら露店商は疲れたような ﹁いや、もういいよ兄ちゃん⋮⋮﹂ り出せる。回復薬だったら││﹂ るが一週間で朝昼晩と魔物に使っていたと想定して⋮⋮生存率を割 れを買っているとしたら自衛や逃走に使える。何個買ったかにもよ ﹁買った物が分かれば対策がとりやすくなるからだ。例えば臭玉。こ ﹁兄ちゃん。何でそんなことをわざわざ知りたがるんだ 威圧を解き、僅かに覗かせていた刀身を鞘に納めて再び尋ねる。 ? 2 ! 香玉六球⋮⋮とこれ以上はプライバシーに関わるから言えない。悪 いな﹂ ﹁⋮⋮いや、大体察したから気にするな﹂ 下着類を何着買ったかと聞かれて答える強者はなかなか居ないだ ろうしな。 ││◆││ 露店を後にし、俺は足早に森へ向かっていた。香玉六球⋮⋮もし臭 玉と間違えていたら生存率は著しく下がる。おまけに一週間前とも なれば尚更だ。 ││神秘の森。 ダ ン ジョ ン 草木が覆い茂り、木漏れ日が差し込む。見る者を幻想的な景色が迎 えると露店商は言っていた。 ﹁⋮⋮何処がだ。荒れ果てている上に魔の巣窟化しているぞ﹂ ﹂ ﹁逃がすか ⋮⋮焔凪 ﹂ ! める。そのまま一閃。衝撃で生じた波に炎が重なり、即席の炎魔法│ 3 地面の感触からして違う。固くなく柔らかく⋮⋮ネバネバしてる。 溶けないだけマシだが⋮⋮長居はしたくないな。 ﹁⋮⋮難易度も極めて低い。とっとと件の旅人の生死を確認してずら かるとするか﹂ ││スパッ ﹁⋮⋮っ 本ですら危険だ。だから容赦なく燃やす。 ││魔の巣窟と化した場所にあるものは全て魔物と化す。草木一 ての回転斬りを繰り出す。襲撃される前に草木を根元から焼き払う。 懐から属性付加符・焔を取り出して刀に炎属性を付加。炎を纏わせ ﹁⋮⋮豪焔回刃﹂ もので俺を傷つけれると思うな。 死角から迫ってきた蔦を見ることなく抜刀して切り裂く。こんな ! 討ち漏らしがあったのか素早く動いた蔦が頬を掠める。 ! 一矢報いたとばかりに引っ込む蔦。対して俺は刀の先端に炎を集 ! │フレイムウェーブを作り上げる。蔦如きに対して過剰な気がする かもしれないが⋮⋮俺は徹底的にやる男だ。 ﹁⋮⋮こんなものか﹂ 辺り一面を焦土に変え、索敵玉に反応がないのを確認した後、俺は 先を急いだ。 ││◆││ ﹁結構深くまで来たが⋮⋮旅人らしい者は見つからない上に所有物す ら落ちてないとは⋮⋮魔物の巣窟に取り込まれたか或いは││﹂ 索 敵 玉 が 赤 い 輝 き を 放 つ。強 い 反 応 で あ れ ば あ る 程 色 が 変 わ る。 赤ってことはボスか。 ││バキバキベキベキ 目の前にそびえ立つ樹木の幹に人の顔が浮かび、枝が襲ってきた。 ﹁ふん。不意打ちとは⋮⋮どいつもこいつも卑怯な奴だ﹂ 素早く屈み、枝をやり過ごす。この手の魔物は弱点が丸分かりだか ら助かる。 ﹁人面シリーズの魔物は││その顔が弱点だ﹂ 地を蹴り、駆け出す。人面樹が枝で進行を妨げようとするが素早い 身の熟しで隙間を縫うように突き進む。 ﹁終わりだ﹂ 顔に刀を突き刺し、円型の穴を作る。事前に先端へ集束させていた 炎を穴に残し、距離をとってから炸裂玉を投げ付ける。炸裂玉の中身 は火薬。火薬と炎が混ざり合うことで起きるのは爆発だ。 ││ドオォン する。後は時間経過で消し炭になるしかない。ふん、弱すぎて欠伸が 出るぜ。 ││ボスを倒したことで魔物の巣窟化が解け、元通りとはいかない が⋮⋮辛うじて生き残った草木が差し込んだ木漏れ日に照らされて ﹂ 輝く。⋮⋮確かに幻想的な景色だ。 ﹁⋮⋮ん 4 ! 巨大な風穴を開けられた人面樹に追撃の焔凪を放って火だるまに ! 人面樹があった場所に炭とは別に一糸纏わぬ人の姿があった。恐 ? らく人面樹に取り込まれていたのだろう。 ││幸いなのは魔物が人面樹という植物系統だったことだ。これ がスライムや獣系統だったらその場で溶かされたり喰われたりして いて生きていない。植物系統の魔物が取り込んだ獲物は邪魔な衣類 を溶かした後、じわじわと素肌から養分を吸い取ってカラカラにして いく。だからまだこの人物は原形を留めている。 ﹁⋮⋮マジか﹂ 注意深く観察するとまだ生きているらしく微かな呼吸音が聞こえ る。今ならまだ助けることが出来そうだな。 俺は警戒を怠らずに人に近づく。近づいて気づいたんだが⋮⋮こ の人、女の子だ。女の子か⋮⋮厄介なことになった。 ││魔物狩りで今回のように生存者である女の子の治療をしたこ とはよくある。だが、裸を見た責任をとらされかけたり慰謝料を請求 されたり⋮⋮ろくでもない奴ばかり見てきた。だからといって救え ﹂ 5 る命を救わないつもりはないが⋮⋮ ﹁⋮⋮なっ 敢えて言葉に出して自分に言い聞かせる。触診で外面に異常がな ものは戻らない⋮⋮感傷に浸る前に救える命を救え﹂ ﹁落ち着け⋮⋮他人の空似ってやつだ。揚羽はもう居ない。失われた 囲で魔物を駆逐する。それが俺の生き様だ。 全ての魔物を駆逐してやろうとは言わない。それでも手が届く範 被害者を出さないように。そして魔物狩りを始めた。 て悲しくて情けなくて⋮⋮だから力をつけた。二度と揚羽みたいな 目の前で喰われた。無力だった俺は叫ぶことしか出来ず⋮⋮悔しく ││霧林揚羽。俺の大切な妹。俺がまだ十代の頃に魔物に襲われ、 ││◆││ 似過ぎていた⋮⋮ この女の子は││俺の失った大切な妹の揚羽に生き写しのように た。整っている顔は珍しくはないが⋮⋮似過ぎていた。 顔にかかっていた髪を横に退けて素顔を見た俺は驚きに目を見開い 過去を思い返して溜息を吐き、俯せの女の子を抱き起こす。そして !? いか調べる。⋮⋮その際に小さな蕾や割れ目を触ることになるが許 してほしい。 ﹁外面に異常なし。呼吸も正常⋮⋮魔物による交配の跡もない。多少 生命力を吸われた程度で済んだのは幸いだったな﹂ 皮袋から取り出した外套で女の子の身体を包み込み、肌を隠す。起 きた時に裸なのと外套で包まれているのとでは羞恥心は後者の方が 少ない。⋮⋮まあ、助けたのが男である俺だと分かったり現状を把握 したらどっちみち責任をとらそうとしたり慰謝料を請求されるんだ けどな。 ﹁ん⋮⋮﹂ 女の子が身じろぎをし、ゆっくりと目を開ける。眠そうだがそれよ りも虹色という極めて珍しい目に惹かれる。⋮⋮恐らくこの女の子 が件の旅人だろう。 ? ⋮⋮よく分かりませんが貴方様は私の王子様ってこと ? 6 ﹁あ⋮⋮﹂ ぼーっとしていた女の子は辺りを見渡し、俺を見て頬を赤く染め る。何故か救助した女性は皆同じ反応をするんだよな⋮⋮訳が分か らない。 俺はいつ罵倒等が来てもいいように精神統一を始める。美少女や 美女に罵倒されて喜ぶ性癖は持ち合わせていないし、意外と精神ダ メージが大きいからな。 ﹁あの⋮⋮何で私はこんな格好をしてるんでしょうか⋮⋮それに、こ ﹂ の感じは何なんでしょうか⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮覚えてないのか ⋮⋮すいません、どういう意味でしょうか それで ? い⋮⋮この子もそのクチだろう。 ﹁覚えてないのか ﹁あー⋮⋮君は旅をしていてこの森に来たんじゃないのか 森 ﹂ 魔物に取り込まれたショックで記憶喪失になることは珍しくはな ? 女の子は俺から離れると自分の足で立ち上がり、首を傾げた。 ? 魔物に取り込まれて俺に助けられたんだが⋮⋮﹂ ﹁旅 ? でしょうか ﹂ 何 故 そ う な る と 叫 び た い の を 堪 え て 額 に 手 を 当 て る。⋮⋮ こ 何でもいいから身元特定の手掛かりになれば 言ってみてくれ﹂ 幸いだ。 光明がさしたか ? ﹂ ﹂ ? ﹂ ? 笑んでいた。⋮⋮気のせいか ﹁女とか雌とか呼んでたら俺が世間から白い目で見られるわ ええ ! ? ⋮⋮俯いていたが何か言った時、悪寒がした。振り向いた時には微 私のことは雌でも女でも好きに呼んで下さい﹂ ﹁いえ⋮⋮分かりました。ではトウヤ様と呼ばせていただきますね。 ﹁何か言ったか ね⋮⋮それなら仕方ありません⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮嘘つきの匂いがします⋮⋮でも貴方様は何も知らないようです ﹁王子様は辞めろ。俺には霧林冬弥っていう名前があるからな﹂ ﹁はい。何処までもお供します││王子様﹂ 踵を返し、歩き出す。 整えるぞ⋮⋮ついて来い﹂ ﹁⋮⋮それよりそのままの格好だと風邪を引く。都に行って身嗜みを お嬢様かよ じない。だから黙っておく。というか何なんだよこの子⋮⋮箱入り 明らかに言って感じているんだが⋮⋮わざわざ教える必要性は感 ﹁⋮⋮知らん﹂ るだけで身体が熱く感じるのは何故でしょう ﹁言葉は分かっても意味が分からないんですよね⋮⋮それに言ってい て身内の恥的ダメージが半端ねえ。 あかん。頭痛がしてきた⋮⋮この子、揚羽に似過ぎているだけあっ ﹁一つだけ分かることがあるって何も分かってないじゃないか⋮⋮﹂ か ﹁殿方に助けられた女子は身を捧げる⋮⋮ってどういう意味でしょう ! ﹁ほう ﹁一つだけ⋮⋮分かることがあります﹂ れはかなり重症だぞ、オイ。 ! ? ? 7 ? ﹂ い、お前の名前はありきたりだけどアイリスだ んでな その虹色の目に因 ﹁私、アイリス⋮⋮ふふふ。有難うございますトウヤ様﹂ ! 畜生。クールぶっていたのに本性引き出された⋮⋮アイリスのや つ、なかなかやるじゃないか。 8 ! オーダーメイド アイリスを連れて都││グランヴに戻った俺は視線を感じていた。 ⋮⋮注目されるのも仕方ない。アイリスは外套に身を包んでいるも、 グランヴは絶えず風が吹き続ける。行動を阻害しないような素材で 作られている外套は風に吹かれてめくり上がる。⋮⋮その都度に見 えそうで見えない状態を作り出し││まあ、要するに外套の下は裸だ とバレた訳だ。 幸いなことにグランヴは治安が良く、暑いこともあってアイリスに 群がる馬鹿共は居ない。というかちらほら見かける子供達の中には 全裸で駆け回る強者まで居る始末。⋮⋮子供ならまだセーフだが大 人がしたら通報されて御用だ。露出犯を見逃すほど衛兵は甘くない。 ﹂ ﹁冬弥様、冬弥様﹂ ﹁何だ くいくいと外套を引っ張られた俺はアイリスと目線を合わせるた ﹂ めに屈む。⋮⋮アイリスの身長は俺の腰までしかない。気分は兄と 妹というよりは父と娘といった感じか。 ﹁お腹が空きました。冬弥様は空きませんか なく旅をしていたが⋮⋮アイリスの記憶についてギルドに依頼する ちなみに都から西に進むと森があり、東に進むと砂漠がある。宛も 誰かに何かを説明するのが趣味の一つだから尚更良かった。 きりに頷いていた。⋮⋮知ってますとぶった切られなくて良かった。 やや説明口調になってしまったがアイリスは記憶喪失だからかし そこに生息している砂魚という魔物だ﹂ 呼ばれる焼き魚だな。アイリスが居た森とは逆の方角に砂漠があり、 ﹁⋮⋮取り敢えず露店で何か買うか。この都で有名なのは砂漠焼きと 何故かジト目で見られてしまった。⋮⋮解せぬ。 ﹁⋮⋮冬弥様って放っておいたら餓死するタイプですよね⋮⋮﹂ みれば確かに腹が空いてるな﹂ 空腹を訴えることもなかったし、特に気にしていなかった。言われて ﹁⋮⋮ああ、そういえば飲まず食わずで魔物狩りをしてたな。身体が ? 9 ? べきか悩むな。何故かと言われたら色々あるとしか答えれないが。 ││◆││ ﹁お、兄ちゃんじゃないか。⋮⋮隣に居るのは森に行ったきり帰って 来なかった嬢ちゃんだな。無事だったのか⋮⋮﹂ ﹂ ﹂ ﹁ああ。魔の巣窟化していたが間に合った。それより砂漠焼きを二串 くれないか ﹁あいよ。二百円だ﹂ ﹁二百円ちょうどだ。一円玉で払おう﹂ ﹁に、兄ちゃん⋮⋮俺に何か恨みでもあるのか ﹁特にない。強いていうなら一円玉が嵩張って邪魔だったから消費し ただけだ﹂ ﹁じ、自分勝手な⋮⋮﹂ ズバッと冬弥節を披露して露店商を絶句させた後、砂漠焼きを二串 ﹂ 受け取ってアイリスに手渡す。 ﹁二本も⋮⋮ ﹁ああ。俺は兵糧で十分だ﹂ 驚くアイリスを尻目に懐から錠剤を取り出し、呑み込む。何も飲ま ずに錠剤や食べ物を飲めるのは少し自慢だ。 ﹂ ﹁⋮⋮ こ れ は 本 気 で 何 と か し な い と 食 べ る 喜 び を 忘 れ か ね ま せ ん ね ⋮⋮やはり私がひと肌脱ぐしか⋮⋮ ん 道行く人が違う、そうじゃないと言いながらコントみたいに と言ってるが外套脱いだら裸になるぞ。 いる時点で独り言とは言えないと思うが。⋮⋮というかひと肌脱ぐ ⋮⋮都についてからアイリスの独り言が多い気がする。聞こえて ! ﹁冬弥様⋮⋮思ってることだと思いますが⋮⋮口に出てます﹂ ﹁⋮⋮気をつけよう﹂ 成る程。ひと肌脱ぐとは実際に服を脱ぐ訳ではないのか⋮⋮紛ら わしい。 ││◆││ 10 ? ? ? ずっこけた⋮⋮何故だ。 ? 都の中でも圧倒的な存在感を放っている建物のスライド式の扉を 開 け て 室 内 に 入 る。ま ず は ア イ リ ス の 服 を 調 達 し な い と い け な い。 此処は下着からフォーマルドレスまでオーダーメイドで仕上げてく れる店であり、世界各地に支部を構えていて⋮⋮俺も時々世話になっ ている。 もしかして冬弥様ですか ﹂ ﹁い ら っ し ゃ い ま せ。ノ ー ブ ル・フ ォ ー マ ル F T、グ ラ ン ヴ 支 部 へ ⋮⋮ってあら あれ⋮⋮ ? ﹁やっぱり 腰に刀を佩いているのは冬弥様くらいだとお姉様││ ﹁ああ。確かに俺は冬弥だが⋮⋮﹂ かったら凌辱されてたんじゃないか て本能の赴くままに行動を起こしかけた馬鹿も居たし⋮⋮俺が居な た。目の保養にはなるが、TPOを弁えようぜ⋮⋮実際受付嬢に対し 余談だが、俺が世話になった支部の受付嬢は貝殻ビキニを着てい 支部で情報を共有してるのか俺の容姿は伝わっているみたいだな。 気づいて小首を傾げた。⋮⋮この人とは初対面の筈だが、世界各地の 受付に居た羊のコスプレをした女性が業務的な挨拶をし⋮⋮俺に ? ⋮⋮受け取ってもらえますか ﹂ ﹁それでですね⋮⋮お姉様から冬弥様へプレゼントを預かってまして とは憧れみたいなものか。 何も言ってないのに答えてくれるのは助かるな。慕う⋮⋮ってこ いるということです﹂ ﹁あ、お姉様といっても血の繋がりはありませんよ。⋮⋮お慕いして 似てないが⋮⋮ トラド支部⋮⋮確かにそんな感じの名前だったな。姉妹にしては です﹂ あ、トラド支部の担当をしていて冬弥様に救っていただいた方のこと ! か 私の気持ちを込めて的なやつか⋮⋮当然のことをしたまでなんだ ﹁お姉様が身につけていたものみたいですよ ﹂ 殻と一枚の貝殻をそれぞれ紐で結んだ⋮⋮って貝殻ビキニじゃない そういって羊のコスプレをした受付嬢が取り出したのは二枚の貝 ? 11 ? ? ! が。⋮⋮やっぱり受け取らないと駄目だよなぁ⋮⋮アイリスに渡す のは駄目か ﹁⋮⋮冬弥様ってモテるんですね⋮⋮下着をプレゼントってかなり脈 ありじゃないですか⋮⋮﹂ 今まで黙っていたアイリスがジト目で俺を見る。重ね重ね言うが ⋮⋮俺は当然のことをしただけだ。モテたい訳ではないんだが⋮⋮ ままならないものだ。 ﹁⋮⋮ 彼 女 に 伝 え て く れ。用 途 に 困 る も の を プ レ ゼ ン ト さ れ て も 困 る。だが⋮⋮まあ、貰っておく⋮⋮それはそれとしてアイリスにオー ダーメイドを頼む﹂ 貝殻ビキニを皮袋に詰めてアイリスを前に押し出す。 ﹁畏まりました。では冬弥様のお連れ様を預かりますね﹂ ﹁ア イ リ ス。金 の 心 配 は せ ず に 好 き に リ ク エ ス ト を 彼 女 に 伝 え る ん だ。そしたら素材から作ってくれるから﹂ ﹁わ、分かりました﹂ アイリスはぎくしゃくしながら羊のコスプレをした彼女に連れら れて店の奥に引っ込んだ。⋮⋮受付嬢謙店長なのか トラド支部とは違って店員は居ないんだな。 ? 12 ?
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