ベジータの妻としてこの世界で生きていく 黄昏道化師 ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP DF化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ このSSは私のドラゴンボール二次創作SS﹁孫悟空の嫁としてこ もしベジータと結婚して の世界で生きていく﹂のIF∼もしも∼の世界を描いた話です。 そんなIF世界の物語です。 チチがもし悟空と結婚しなかったら いたら ? づいてベジータと出会う。 に重力室が爆発。たまたま薬草を取りに来ていたチチが爆発音に気 パン山の隣の山で住む。重力室で修行中、アニメオリジナルよろしく と同じ家になんか住んでいられるかという感じに。ベジータ、フライ で、悟空がナメック星から帰ってきた後、ベジータは出ていく。悟空 ○悟空とブルマが結婚していて、悟空はブルマの家に住んでいるの 悟飯を心配してブルマは共に行くことに。 人︶を産む。ピッコロを生き返らせるためにナメック星に行くという な る。原 作 の 悟 空 と チ チ と 同 じ タ イ ミ ン グ く ら い で 結 婚。悟 飯︵別 ○悟空とブルマは早い時期からお互いを意識していて、相思相愛に る。 かった。長年生きている内に女である今の自分をほぼ受け入れてい ○ 転 生 し た チ チ は 悟 空 と 出 会 っ て も 本 編 の 様 に 悟 空 に 恋 を し な ざっとこの世界の基本設定を前書きに書いておきます。 チチとベジータがくっつくのが嫌な人は見ないでください。 本編とは大幅に展開や設定などが異なります。ご注意を。 ? ⋮⋮数々の矛盾点とか疑問点があることを分かった上で書いてま す。ある程度うまいこと設定を考えてはいますけど。 プロローグ チチとベジータの邂逅 ││││││││││││ 1 目 次 第1話 チチとベジータの邂逅② │││││││││││││ 8 プロローグ チチとベジータの邂逅 元は大学生の男だった私が牛魔王の娘、チチとしてこのドラゴン ボールの世界に転生してから気づけば随分と時が流れていた。 今でこそすっかり女らしさを身に着けた私だけど、まだ10代くら いの頃までの私は、前世の男としての意識もとても強く、女らしくな んて死んでもしてやるものか、孫悟空と結婚なんかするものかと、女 である自分への強い反発心を持っていた。 しかし、今や前世の男として生きた19年よりも長い、27年とい う長い年月を私は女として過ごしてきたのだ。それだけ長く女とし て生きてくれば、さすがに男としての意識を持ち続けることも難し く、今では自分は女だと意識の上でも自然にそう思えるようになっ た。 私がそんな風に思えるようになった大きなきっかけの一つは、15 歳というかなり遅めの時に来た私の初潮だったと思う。 私が15歳になったばかりのある日の昼、いつものように畑仕事を してた時である。妙な体のだるさを感じていた私は熱でもあるんだ ろうかと思って、お父さんにそのことを告げた。すると私が悪い病に でもかかったと心配したお父さんに強引に今日はもういいから大人 しく寝るように言われたので私は早めに寝ることにした。そして私 は寝る前に用をたそうとトイレに行ったのだが⋮⋮⋮ 泣いた。この世界にチチとして転生してた時に匹敵するくらい、そ の時の私はパニックになっていた。まさか生理という物があれ程ま でに派手に血が出る物とは私には思いもよらなかったからだ。そし て、私が初潮になったことを知ったお父さんに頼まれた村の年上のお 姉さんに私はアレコレと世話をされたのだけど⋮⋮あの時の私の醜 態は今思い出しても顔から火が出そうになるくらい恥ずかしい私の 黒歴史になっていた。 1 そんな初潮の出来事は、体は女でも心は男だと前世の性別に固執し ていた私の考えを変化させる大きな転機となった。さすがに初潮が 来たら、今の自分は女であると認めざるを得ないからだ。 それからの私はいつまでも前世の性別に囚われることをやめよう と 決 意 し た。男 み た い な 口 調 や 言 動 を 改 め た り、髪 を 伸 ば し た り、 ちゃんと女物の服装を着たりするように私はなっていった。思えば ずっと女らしさの欠片もなく、お父さんを嘆かせていたことに気づい た私はこんな自分を娘として大切に育ててくれたお父さんのために も女らしく生きようと思ったからだ。 そして、16歳の時。それまで村でも男女と有名だった私が随分女 らしくなっていた頃、初めて告白された。村の同年代の男の子から。 断りはしたけど、それ程、嫌な気分はしなかった。むしろ女として魅 力的に思われていることに嬉しさを感じていたくらいだった。この 告白も私が意識的に女になった大きなキッカケの一つだと言えるだ ろう。自分が男から女として見られていることをハッキリと自覚し たのだから。 それからさらに数年が過ぎた頃、私はもう女の子に対して恋愛的な 感情を抱くことが完全に出来なくなっていた。恐らく、その頃には完 全に身も心も私は女になっていたのだと思う。かといって、男に対し てそういう感情を持つのも難しかった。前世が男だったことを考え ると、嫌悪感というまでではなくとも、違和感を先に感じてしまうか らだ。 お父さんは27歳になる今になっても浮いた話の一つもない私の ことを嘆いているから、お父さんを安心させるためにも誰かと結婚し た方がいいのかもと私も思わなくもないのだけど、さすがにこればか りはそういう相手と出会って、私がそういう気持ちにならない限り無 理なことだった。 そんな私がある人物と運命的な出合いをしたのは、エイジ764年 2 の秋のことだった。私は住んでいる村があるフライパン山の隣にあ る山に来ていた。目的は薬草などを集めるためだった。フライパン 山の隣の山は薬草の宝庫で怪我などによく効く薬草が山ほど生息し ているからだ。 ﹁さてと⋮⋮こんなもんで十分かな⋮⋮﹂ 時刻が昼を過ぎた頃。私はカゴいっぱいになったカラフルな薬草 を見ながら一人そう呟いた。これだけあればしばらくは足りるだろ う。私はカゴを背中に背負ってフライパン山に帰ろうとした時のこ とだった。 どこからかなにかが爆発したような、凄まじい爆発音が聞こえてき 今の⋮⋮﹂ たのだ。驚いた私は思わず小さな悲鳴を上げながらその場に身を伏 せた。 ﹁⋮⋮な、なに⋮⋮ 恐る恐る立ち上がりながら、爆発音が聞こえてきた方を振り返る と、空に煙が昇っているのが見えた。何故だか、そのことが気になっ て仕方なくなった私は音がした山の上の方へと向かって走り出した。 そして私は爆発が起こったと思われる現場へと辿り着いた。 そこにあったのはたくさんのなにかの瓦礫の山。煙が立ち上る様 子から爆発音がしたとこはここで間違いないと私は思った。そして、 瓦礫を眺めていると、ふと、私の視界の中にある瓦礫が一瞬だけ動い た気がした。気のせいかなと思ったけど次の瞬間、瓦礫の山からある ﹂ 人物が姿を現した。 ﹁え⋮⋮⋮ た。何故なら、その逆立った黒髪が印象的な男は私がよく知っている ││実際には会ったことはなかったけど││人物だったからだ。ド ラゴンボールの世界において主人公である孫悟空と深い因縁を持っ た宿命のライバルである存在⋮⋮その名はベジータ。サイヤ人の王 子だった。 彼がベジータであることを理解した私が次に抱いた疑問はなんで 3 ? そして、その人物の姿を視界に収めた私はそんな戸惑いの声を上げ ? こんなとこにベジータがいるのかということだった。確か、原作知識 によると、今の時期は原作で言えば人造人間襲来前の3年の修行期間 のはず。この時期のベジータはブルマの家に住みながら厳しい修行 をしているはずなのに、なんでこんなフライパン山近くの山にいるの か。 それも、上半身裸で運動用の黒いハーフパンツ姿のベジータの体は 見ているだけでも痛々しい、立っていられるのが不思議な程に、火傷 ﹂ や酷い傷を負っているボロボロの状態だった。 ﹁あ⋮⋮あの⋮⋮だ⋮大丈夫⋮ですか 私は少し緊張しながら瓦礫の山に立っていたベジータに声をかけ た。しかし、ベジータは虚ろな目をしていて、返事をしなかった。無 視されているのだろうかと思い、もう一度声をかけようとした時のこ とだった。 ﹁⋮⋮⋮うっ⋮⋮﹂ ﹂ 不意にベジータが意識を失ってその場にぐらりと倒れてしまった のだ。 ﹁ど、どうしたんですか ると、ベジータは呼吸が荒く、全身が焼けるような高熱を出している ことに気づく。怪我も酷いし、このままじゃダメだと思った私はベ ジータを背負って村まで連れて帰ることにしたのだった。 それから村に帰ってきた私は城にある客室のベッドにベジータを 寝かせて、村に住んでいる医者に事情を説明してベジータを診ても らった。医者によると、ベジータは生きているのが不思議なくらい酷 い大怪我だが、驚異的な生命力があるようだからどうにか回復出来る とのこと。ただ、発熱が酷いため、しばらくは寝たきりで目を覚まさ ないだろうと言っていた。 話を聞いたお父さんは村の人にベジータの介護を頼もうとしたけ ど、私がベジータの介護をすることにした。なんとなく、大怪我して 包帯でぐるぐる巻きになっているベジータのことが放っておけな 4 ? 私はいきなりのことに驚きながらベジータの側に向かい、様子を見 !? かったからだ。そんな私のことを不思議そうに見ていたお父さんの 顔が印象的だった。 ﹂ こうして、私の寝る間も削ったベジータの看病の日々が始まったの だった。 ﹁ぐ⋮⋮うあああ 高熱で悪夢でも見ているのか、苦しみながら魘されるベジータの額 に私は氷水でよく冷やしたタオルを乗せる。すると、少しは楽になっ たのか、ベジータは落ち着いた様子になる。それを見て私はホッと安 堵していた。 ﹁⋮⋮カカ⋮⋮ロット⋮⋮﹂ 不意にベジータは孫悟空の実名である名を口にした。どうやらベ ジータが見ている夢に孫悟空が登場しているようだった。サイヤ人 誇り高き王子であるベジータにとって、下級戦士であるにも関わら ず、自分の2歩も3歩も先を行く悟空はとても認めることが出来ない 存在なのだろう。 恐らく、そんな悟空を超えるため、ベジータはめちゃくちゃな超重 力で修行していたのだろう。ベジータが埋もれてきた瓦礫の山が重 力室の成れの果てであるということを私はベジータを見ていて気が ついていた。 あんな死にかけるくらいの大怪我をしてまでただひたすらに強く なろうと努力をするベジータ。この時の私は何故だか、そんなベジー タのことがとても気になっていた。私はぬるくなっていたタオルを 再び氷水で冷やしてベジータの額に乗せることを繰り返しながらベ ジータの看病を徹夜で続けていた。 │││││││││││││││││││││ 何故だ⋮⋮何故、最下級戦士であるカカロットがこの超エリートで あるこのオレを差し置いて伝説の超サイヤ人になれるんだ⋮⋮。 ナメック星から地球へやって来た後、カカロットの奴が超サイヤ人 になったことを知ったオレは激しい焦りを抱いていた。 5 !! サイヤ人№1の戦士は王子であるこのオレのはずだ 故、奴が超サイヤ人になれるんだ⋮⋮。 んだ なのに何 ⋮⋮ふざけやがって⋮⋮オレはベジータだ オレこそが№1な ! 修行して奴を超えてやるのだ 重力室を作らせた。奴が100倍で修行したならオレはその3倍で トを超えることを心に強く誓った。そして、ブルマの父に300倍の オレは激しく傷つけられたプライドを取り戻すためにもカカロッ ! く倒しやがった カカロットだけでなく、あんな小娘達までもこの れた。しかも、そいつらは超サイヤ人になってフリーザの奴を呆気無 地球もおしまいだとオレが思っていた時、謎の二人の女サイヤ人が現 きていなかった。そんな時、フリーザ達が地球にやって来た。これで だが、そんな決意とは裏腹に200倍の重力すらオレはまだ克服で ! 小娘達は去っていった。 ふざけやがって⋮⋮ 3年後には絶対にオレが生き残ってやる 造人間とやらによって全滅することになるという未来を言い残して イムマシンでやって来たらしい。そして、オレ達は3年後に現れる人 そして、フリーザを倒した小娘達の話によると、奴らは未来からタ なっている屈辱に歯噛みしていた。 力 を 理 解 せ ざ る を え な か っ た。オ レ は ま す ま す 奴 と の 差 が 大 き く ヤ人なったのを見て、フリーザに勝つ訳だとオレはカカロットの今の そして、ようやく帰ってきやがったカカロットの奴が実際に超サイ オレを差し置いて超サイヤ人に⋮⋮。 ! てやる こうしてオレは新たな決意でより厳しいトレーニングを 人造人間なんてガラクタ人形はこのオレが必ずスクラップにし ! した。それはずっと前から決めていたことだ。 カカロットとブルマの奴は夫婦らしく、帰ってきたカカロットの奴 がブルマの家に暮らすことになるのは分かりきっていたことだった からな。オレはその時にはブルマの家から出て別の場所でトレーニ ングしながら暮らすことにしていたのだ。忌々しいカカロットと同 6 ! しようとしたのだが、その前にオレはブルマの家から出ていくことに ! ! じ家に住むなんて冗談じゃないからな。 そうしてブルマの家を後にしたオレは適当に見つけたどこかの山 に住むことにした。重力室はホイポイカプセルとかいう奴に収めて 持ち運び出来たから、持っていくのは簡単だった。改めて超重力での 修行を始めたオレは200倍程度じゃカカロットを超えることは出 来ないと感じたことから一気に300倍の超重力で鍛えることにし た。 しかし、300倍の重力は予想以上のとんでもない重力だった。激 しいトレーニングの結果、重力室は爆発してオレは瓦礫の山に埋め尽 くされた。オレは朦朧とする意識でとうにか瓦礫の山から脱出した が、そこでついに限界だったオレは気絶してしまった。オレが気絶す る前、聞き覚えのない女の声が聞こえたような気がした。 7 第1話 チチとベジータの邂逅② 過酷な重力修行の結果、大怪我して意識を失ったベジータ。だが、 偶然、薬草集めに訪れていたチチによってベジータはフライパン山の 村に運ばれた。村在住の医者から手当されたベジータだが、その死ん でもおかしくない程の大怪我のため、中々意識を取り戻さず、高熱で 魘されていた。 そんなベジータのことを何故か放っておけなくなったチチは寝る 間も惜しんでベジータの看病をしていた。それから3日目の昼のこ と。熱が下がったベジータはようやく目を覚ました。 ﹁よかった⋮⋮やっと気がついたんですね﹂ ベッドの側にいたチチは睡眠不足のため、少しウトウトしてたが、 ようやく意識を取り戻したベジータの様子から一気に目が冴えて、嬉 ﹂ しげに安堵の笑顔を浮かべる。 ﹁⋮⋮ぐっ そんなチチに状況を確認しようとしたベジータは無意識に上体を 起こそうとしたが、その瞬間、凄まじい激痛が全身に広がり、一瞬意 あなたは死んでもおかし 識が遠のきかけた。そして、押し殺した苦悶の声を上げた。 ﹁ああ、ダメですよ まだ寝てないと ! まった。 ! ベジータは激痛のため、表情を歪ませながらも強い拒絶の意思をチ ﹁オ⋮⋮オレに触るなっ⋮⋮ ﹂ め、手を差し伸べようとしたが、ベジータに手を思い切り弾かれてし そんなベジータを心配そうな顔でチチはそう言いながら助けるた くないくらいの大怪我をしてるんですから﹂ ! ここはどこだ。⋮なんでオレはこんなとこにい チに示した。そんなベジータにチチは困惑の表情を浮かべた。 ﹂ ﹁貴様は⋮⋮誰だ る ? 況を確認するための複数の疑問をチチに連続して投げかけた。 ﹁⋮私の名前はチチです。ここは私が住んでいるフライパン山の村に 8 ! どうにか上体を起こしたベジータは辛そうな表情のまま、自分の状 ? ある城の客室。あなたが隣の山で酷い大怪我をしていたのを偶然見 つけた私がここに連れてきたんです﹂ チチの説明からベジータは気絶する前のことをすべて思い出した。 300倍の重力修行に耐えきれずしくじって重力室の爆発に巻き込 まれ、瓦礫の山から抜け出したところで力尽きたことを。そのことに ベジータは自分の不甲斐なさに歯噛みしていた。 そして、自分の体を見ると包帯などが巻かれていたことから、ベ ジータは目の前のチチに自分が助けられたことを悟り、苦々しい顔を 浮かべる。 ﹂ ﹁一応言っておきますけど、今のあなたの体はまだほとんど治ってな い状態だからまだ当分は安静してないとダメですよ﹂ 貴様⋮殺されたいか チチはベジータの体を心から案じてそう注意した。 ﹁⋮⋮⋮オレに命令するな⋮ ﹁∼∼∼∼∼∼ ﹂ を軽く小突いた。 しかしチチは動じることもなく、ベジータの包帯ぐるぐる巻きの腕 ﹁えい﹂ に指図するチチに対して激しく恫喝した。 そんなチチの気持ちはプライドの高いベジータには伝わらず、自分 !? ジータは声にならない悲鳴を上げて、せっかくどうにか起こした上体 ﹂ が再びベッドの上に沈んでしまった。 ﹁き⋮⋮貴様⋮⋮なにしやがる⋮⋮ 何故ならチチの瞳は言動とは裏腹に、心からベジータを案じている 風船から空気が抜けていくように急速に萎んでいった。 チチの自分を見る瞳を見た瞬間、ベジータの怒りはまるで穴の開いた まるで煽るようなチチの言動にベジータは激しく激昂するのだが、 人のくせに、強がらないでください﹂ ﹁非力な私に軽く小突かれただけでそんなにも痛がってるような怪我 睨む。 さすがのベジータも激痛の余り、少しだけ涙目になりながらチチを ! 9 ! ただ、それだけのことでベジータの全身に凄まじい激痛が走り、ベ !? そんな気持ちが ことが伝わってくるような、とても優しげな瞳だったからだ。 何故だ。何故、初対面の自分をそんな目で見る ベジータの中で渦巻いていた。今まで敵意や憎しみを込めた目で見 られることは数あれど、こんな瞳で自分を見る存在に出会ったことが なかったベジータは戸惑いを隠せずにいた。 ﹁とにかく、怪我が治るまでは嫌でもここで大人しく寝ててもらいま すから。分かりましたか⋮⋮えっと⋮⋮⋮﹂ チチはベジータの名前を呼ぼうとしたけど、本来なら初対面の自分 がベジータの名前を知っているのはおかしいので、どう呼べばいいの だろうと悩んでいると ﹁⋮⋮ベジータだ﹂ 素っ気なくだが、ベジータはそうチチに自分の名を告げた。本来な らベジータは名乗ろうとしなかっただろうが、何故かこの時のベジー タはチチに名乗る気になったのだった。 そのことが嬉しく感じたチチは思わず自然に笑顔を浮かべる。た だ名前を教えただけで嬉しそうなチチにベジータは思わず一瞬、見惚 れてしまう。そして、自分らしくない行動に戸惑っていた。 そんな時、不意にベジータのお腹が大きな音を立てて空腹を主張し て城中に鳴り響いた。いきなりのことにチチは驚いたように目を大 きく見開いた。今まで寝たきりで何も食べてなければ空腹になるの も無理からぬことだが、王子である自分が人前で腹の音を鳴らしてし まったことにベジータは強い屈辱感を感じていた。 ﹂ 隠しにしか聞こえないため、チチはますますおかしな気分になって笑 いが込み上げてきていた。 とはいえ、これ以上笑うのも悪いと思ったチチは強引に笑いを止め てから﹁なにか食べる物作ってきますね﹂と言い残して部屋を出て 10 ? そんなベジータを見ていたチチは目を見開いたあと、おかしそうに 死にたくなければ笑うな クスクスと笑い始めた。 ﹁わ⋮⋮笑うな ! 気まずそうに赤面するベジータのそんな脅迫の台詞はただの照れ ! い っ た。そ ん な チ チ の 後 ろ 姿 を な ん と も 言 え な い 複 雑 な 気 分 で ベ ジータは黙って見送った。 ﹁ふ∼⋮⋮ふ∼⋮⋮はい、どうぞ﹂ チチは城の台所で作ってきたお手製の雑炊をベジータに食べさせ ようと丼からスプーンに掬い、息で冷ましながらベジータの口に近づ ける。 本来ならこんな屈辱的な食べ方はベジータは死んでもしたくない とこだったが、生憎、今は少しでも動けば激痛で悶絶してしまうため、 チチに食べさせてもらうしか手がなかった。美味しそうな雑炊の匂 ﹂ いを前にしたベジータが空腹を耐えられなかったというのもあるの が。 ﹁おいしいですか ﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂ 一口食べさせてもらったベジータは気恥ずかしさからチチになに も答えられずに難しい顔で咀嚼していた。ベジータの本音は今まで 食べたことがないくらい、うまかったという感じだったがそんなこと 口が裂けても言えるものか、とこの時のベジータは思っていた。 こうして不思議な縁で出会ったチチとベジータ。二人がやがて互 いを特別な存在と思うようになるのはまだまだ先のことであった。 ││││││││││││││││ ベジータさんが目覚めてから3日後の昼のこと。少し目を離した 隙にベジータさんが部屋から居なくなっていることに気がついた私 はベジータさんを追いかけて村から飛行機で飛び出した。 多分、ベジータさんの行き先は西の都のブルマの家だ。壊れた重力 室を新しく作ってもらうために行ったのだろう。少しは動けるよう になったとはいえ、まだまだ安静が必要な体なのに無茶をするベジー タさんのことが私は心配で仕方がなかった。もしかしたら倒れてい 11 ? るかもしれないからだ。 こうして、西の都のブルマさんの家までやって来た私はインターホ ン を 押 し た。そ う し て 出 て き た の は 薄 紫 色 の 髪 を し た 幼 い 男 の 子。 ﹂ あの孫悟飯︵幼年期︶に酷似した子だった。 ﹁ボクの家になにかご用ですか ﹂ もしかして、お姉さん ﹁その⋮この家に髪が逆立った男の人が来ていないかしら ﹁それって⋮⋮ベジータさんのことですか はベジータさんのお知り合いなんですか ﹂ いるみたいだ。私は原作通り昔に一度悟空達と会ったきりだったの 原作のチチの位置でブルマが悟空と結婚しており、悟飯の母になって しかし、実際にはどうやらそうではなかったらしい。この世界では はラディッツが来なかったのかもしれないと私は解釈していた。 うしてなのかと私は不思議に思ってたけど、もしかしたらこの世界に なのに、エイジ761年を過ぎてもこの世界は平穏無事だった。ど はずなのだ。 ず、ピッコロ共々命を落とし、当然、地球人類滅亡という流れになる 襲来した時に孫悟飯の加勢がないため、孫悟空はラディッツに勝て る孫悟飯が誕生していない。つまり、エイジ761年にラディッツが チチ︵私︶が孫悟空と結婚しなかったこの世界では当然、息子であ そんな答えを聞いて私は長年の疑問がすべて氷解する気分だった。 ロさんだと答えてくれた。 悟空で母がブルマだという。ついでに師匠は誰かと尋ねたらピッコ すると、この子は予想通り孫悟飯と名乗った。両親の名前は父が孫 つか気になったことを尋ねた。この子の名前や両親の名前を。 こうして孫悟飯そっくりの男の子に案内されている途中、私はいく てきてください﹂ ﹁そうなんですか。ベジータさんなら中にいるので案内します。つい ﹁ええ、ちょっとね﹂ ? ? だが、どうやら私が悟空と結婚しないことでこの世界はかなり原作と 異なる歴史を歩んできたようだ。 12 ? ? 恐らく原作との差がありつつも、大方は原作通りに進んだみたい だ。今の時期は人造人間襲来前の3年前くらいだけど、悟空とブルマ が結婚していることで多分、悟空と同じ家にいることを嫌ったベジー タさんがブルマの家を飛び出して、あの山にいたのだろう。 ということはこの世界ではベジータさんとブルマが結ばれること は決してないということだ。 そう考えた時、私は何故かホッとしたような、嬉しい気持ちがした。 あれ なんでベジータさんとブルマが結ばれることがないと知っ たことで私はこんな気持ちになっているんだろう 私は自分の気持ちに首を傾げながら、重力室製造を中庭で待ってい ﹂ たベジータさんと再会した。 ﹁お前⋮⋮なんでここに⋮ を吐く。 ? は言いません。⋮⋮ただ、重力室が完成したら私の村に来ませんか 村の方がなにかと過 ? んですけど、ベジータさんには言っても無駄っぽいのでやめろとは私 ﹁⋮⋮ふうっ⋮本当はあんな大怪我するような特訓はしてほしくない 悪そうだった。 私は咎めるような視線でベジータさんを見る。心なしか居心地が ﹁じゃあ、また無茶な特訓するつもりなんですね⋮⋮﹂ で、知らないフリをして色々質問した。 私は重力室のことなんてベジータさんからなにも聞いていないの らな﹂ ﹁⋮⋮重力室を作ってもらってる。前の奴は爆発してダメになったか ﹁一応聞きますけど、ここになにしに来たんですか ﹂ 私はとりあえず大丈夫そうなベジータさんの様子を見て安堵の息 い﹂ ﹁もう⋮そんな体でまた無茶して⋮⋮あんまり心配させないでくださ も驚いていた。 私が来ることなんて予想外だったに違いないベジータさんはとて !? どうせまたあの山で生活するんでしょう ? 13 ? ? ごしやすいと思いますよ﹂ ﹁何故そんなことを⋮⋮﹂ 私がなんでこんな提案したのか理解出来なさそうなベジータさん は戸惑いながら尋ねてくる。 な ん で ⋮⋮ か。な ん で こ ん な 提 案 し た の か、私 に も よ く 分 か ら な い。 ただ、知らないところでベジータさんが一人でまた無茶していると 思うと私は心配で夜も寝られなくなりそうだったから思わずこんな 提案をしたのだ。 ﹁⋮ふん、まあいい。⋮どこで修行しても同じことだ。重力室が完成 したら行ってやる﹂ ぶっきら棒ながらも、ベジータさんが私の提案を了承した。 ﹁よかった。なら、私は先に帰っていますね﹂ こうしてベジータさんと約束した私は村に帰ることにした。ある 14 場 所 に 立 ち 寄 っ て か ら。そ の 場 所 と は 聖 地 と 呼 ば れ る カ リ ン 塔 だ。 まだボロボロの体のベジータさんがあのまま修行するのはさすがに 心配なので、仙豆で治してあげたかったからだ。 そう考えてブルマの家を後にした私は飛行機でカリン塔周辺に降 りるとカリン塔を登り、首尾よく仙豆をもらって村へと戻った。その 翌日の昼。約束通り村に来たベジータさんに私は城の中の一室にベ ジータさんの部屋として案内した。 早速中庭でホイポイカプセルに収納されている重力室を展開させ ﹂ て修行しようとするベジータさんに私は仙豆を手渡した。 ﹁お前⋮⋮これは ベジータさんは複雑そうな感じの顔で早速一つ仙豆を食べた。す ﹁⋮⋮礼は言わんぞ﹂ 不思議な豆です﹂ るところからもらってきました。食べるだけでどんな怪我でも治る ﹁せめてそのボロボロの体を治してから特訓して欲しかったので、あ 驚いた声を上げる。 私から仙豆3個入りの袋を手渡されたベジータさんは中身を見て、 !? ると、一瞬で大怪我が完治した。 楽しみにしててください ﹁食事は私が準備するからベジータさんは用意しなくても大丈夫です ﹂ よ。私の料理の腕は知っていますよね ね がいがある。私はなんだか楽しい気分になっていた。 を前にすると一心不乱に美味しそうに食べてくれるのでとても作り じゃないベジータさんも、食べ物にだけは素直らしく、美味しい料理 私は夕食のメニューを考えながら中庭を後にした。あんまり素直 ﹁さて、なにを作るか考えなくちゃ﹂ ずにそのまま重力室に入った。 すると一瞬だけベジータさんはこちらを振り向いたけど、なにも言わ 私 は 重 力 室 に 入 っ て い く ベ ジ ー タ さ ん の 背 中 に そ う 声 を か け た。 ? こうして私とベジータさんが同じ村の中で生活することになるの だった。 15 !
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