あらゆる病気に対する万能薬 不皿雨鮮 ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP DF化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ Q.それは何でしょう。 目 次 あらゆる病気に対する万能薬 │││││││││││││││ 1 あらゆる病気に対する万能薬 とある病院の小児科。最新の医療設備やら何やら揃っており、毎日 のように多くの小さな患者とその親達がその病院へやって来る。子 どもというのは無邪気で天真爛漫で、しかし変なところで大人よりも 大人らしく、小学校高学年や中学校、高校と成長していく度に社会の 縮図を構成する。 ともあれ、子どもというのは病気になりやすい。子ども故の行動力 とコミュニケーション、そして何にでも触れる好奇心。それがあちら こちらから菌を持ち込み、自ら病気として発症する。それは勿論、免 疫力を高める為に、抗体を作る為に、無意識に周囲の菌を集めている という面もあるらしく、ここ最近の徹底した無菌防菌除菌というのは 実のところ子どもにはあまりよろしくないらしい。 アレルギーが、免疫の異常な活性化からなるのだとすれば、最初か ﹂ いんですけど、ただこれまでにもウチの子は風邪を引いたりはしてい 1 らそれらに慣らしておけばいい話なのだ。昨今増えている花粉症患 者も、空気清浄機などで花粉を浴びないが故の賜物であるらしい。し かし、どうやらそれも、現代医療はアレルギーを無くす薬というのを 作ろうとしているらしく、そしてそれが完成に近づいているという話 も聞こえる。 文明発展によって起こる現代病を、現代医療が解決するというの は、理にかなっているようで、しかしいたちごっこのようである。 ﹁││ただの、風邪ですね。大丈夫です、お薬を飲めばすぐによくなり ますよ﹂ 医師、原割夏目は、高熱に苦しむ八歳の少年とその母親に、笑って そう告げる。夏目の後ろで、看護士である中原高貴があれこれと動き ﹂ 回りながらその三人の様子を見ている。 ﹁本当に、ただの風邪なんですか ﹁と、言いますと そう言ったのは少年の母親だった。 ? ﹁いえ、その原割先生の診断にケチを付けるとかそういうことではな ? るんですが、これまでとは症状が全然違いますし、それにドラッグス ﹂ トアで風邪薬などを買って飲ませても、多少しか効果がなかったです し、その、別の病気という可能性があったりしませんか ﹁大丈夫ですよ。風邪というのは一つの菌やウイルスによるものでは ないので、菌の種類によって症状が変わることもあります。それにド ラッグストアで買える風邪薬等は、副作用などがない分、少し効果が 弱いものなんです。効果がなかったということは、恐らく風邪薬の効 果と症状に少し齟齬があったのでしょう﹂ 夏目は丁寧に説明をする。夏目には子どもはいないが、しかし弟が いる。弟が病気にかかった時はとんでもない不安に襲われたものだ。 だから目の前の母親の気持ちは分からないでもない。ましてやただ の風邪と診断されてしまえば尚更だ。 ﹁はぁ⋮⋮、でも、その⋮⋮﹂ 丁寧な説明。しかし、母親はそれにまだ納得がいかないらしい。ど うしたものかと夏目は少し考える。 ﹁⋮⋮分かりました。それでは一週間様子をみましょう。それでまだ ﹂ 改善されないようでしたら、詳しい検査をしてみましょう。少しの時 そんなにウチの子の具合は悪いんですか 間とお金が掛かりますが﹂ ﹁精密検査ですか !? す。治ればよし、治らなければ念の為に、ということです﹂ ││精密検査という言葉が、どうやら母親には重病とイコールで繋 がっているらしく、既にパニックになっていた。残念ながら、こうい う状況に夏目は弱い。相手を落ち着かせようにも、こちらもパニック になってしまうのだ。 しかし、こういう時に頼り甲斐のあるパートナーが、一人いるのだ。 ﹂ ﹁⋮⋮すいません、お話を聞かせて頂いてましたが、市販の風邪薬が効 かず、症状もこれまでとは違う、ということですよね ? そう言いながら夏目の肩をぽんっと叩いたのは、高貴だ。看護士で ﹂ あり、頼りになる機転の効くベストパートナーだ。 ﹁え、あ、はい。えっと、その、貴方は⋮⋮ ? 2 ? ﹁いえ、ですから一週間様子を見て、それでも治らなかったらの話で !? ﹁ああ、すいません。僕は中原高貴と申します。僕はここで看護士を しているんですが、実は臨時の医師でもあるんですよ。それで、よろ しければ少しお子さんを診断させて頂いてよろしいでしょうか ﹂ お代も結構です、別の医師からの解釈というのも参考になるでしょう ? 母親は無料なら、と高貴からの提案を受ける。ありがとうございま す、と高貴は告げて子どもの診断を行う。しばらくの後に、うん、と 告げて、なるほどと呟く。 ﹁これは少し特殊な風邪のようですね。ただの風邪ではないようです ﹂ が、風邪と言えば風邪です﹂ ﹁と、言いますと ﹁これ、は ﹂ 出してそれを薬用の袋に詰めて母親に手渡す。 そして、と高貴はにやっと笑って、よくあるビタミンの錠剤を取り が他の国に広まるとまた日本が遅れてるとか言われちゃうんで﹂ ね。ああ、でも、内緒にしてくださいね、実はまだ研究段階で、これ つまり、治ればその後は病気になりにくくなるという特別な風邪です もの免疫力などを高める風邪というのがあることが分かったんです。 ﹁⋮⋮実はここだけの話、最近になって、風邪の中に、治った後に子ど ? ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ うすれば、絶対に治ります﹂ ﹁絶対に、ですか﹂ ・ ・ ・ ・ ﹁⋮⋮はい、分かりました﹂ ら﹂ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 飲んでみてください。これまで、多くの人がそれで治ってきましたか 薬で言えば、絶対に治るという効果ですね。まぁ、騙されたと思って、 ・ お薬というのは正しく飲めば、正しく効果が発揮されます。今回のお んだ後はお子さんを安静に、適温の部屋で寝かせてあげてください。 ﹁はい。絶対にです。ただし、少し効果の強いお薬ですので、お薬を飲 ・ く効くので、原割先生が処方されたお薬と一緒に飲んでください。そ で、結構重要なお薬なんですけど、特別ですよ。このお薬はとてもよ ﹁特 別 な 風 邪 を 治 す 薬 で す。ビ タ ミ ン 剤 の 箱 っ て い う の は フ ェ イ ク ? 3 ? しかし、それでも納得して母親は帰っていった。惚れ惚れするほど の話術。高貴は相手を丸め込み、信じ込ますことに関して言えばエキ スパートとも言える。しかし、それは無知な人間に対して効果を示 す。それこそ今回高貴が渡した薬のように。 ﹁あの子、ただの風邪だね。まぁ、これで治るでしょ。それに多分、病 気にかかりにくくなるだろうし﹂ それに渡した薬ってアレ⋮⋮﹂ 帰ってしばらく。いなくなるのを確認してから高貴は呟く。 ﹁どういうこと ﹂ ﹁あ は は、ア レ は た だ の ビ タ ミ ン 剤 だ よ。だ い た い 免 疫 を 高 め る 風 言っていることが無茶苦茶よ 邪って何よ、そんなの存在する訳ないじゃん﹂ ﹁⋮⋮どういうこと ? ・ ・ ・ ・ ・ ﹁⋮⋮だから、絶対に治る薬を渡した﹂ ・ 風邪薬が効かなかったのはそういうことだと思う﹂ と薬の効果も少ないっていうのはよく言われる話でしょ 市販の う。実は凄い重病なんじゃないか、ってね。治そうと本気で思わない とかって、子どもにも分かるものなんだよ。だから子どももそう思 とした病気でも大病じゃないかって疑う。で、そういう心配とか疑い ら。あのお母さん、多分物凄く心配性なんだろうね。だから、ちょっ ﹁簡単なこと、プラシーボ効果の応用だよ。よく言うじゃん、病は気か いる。 の風邪が治った後に病気にかかりにくくなる。まるっきり矛盾して 治った後に免疫を高める風邪ではなく、しかしこの後、少年はただ ? ・ ・ そういうことも成り立つんだ﹂ 結構いいこと言ったつもりなのに、それだけなの !? ﹁病院内では姉さんと呼ぶのはやめなさい﹂ ﹁あれぇ ﹂ て奇跡が起こるかもしれない。人間ってのは不思議なもので、だから 治りなんてしないんだ。逆に言えば、治ろうとすればどんな病気だっ 医療が進歩したって、患者自身が治ろうとしなかったら、治る病気も はは、昔、姉さんにやられたことと同じだよ。││結局さ、どれだけ ・ ﹁そ。この薬を飲んだら治る。そう思って飲めば、効果を示す。あは ? 4 ? ﹁そんなこと思ってるから、それだけなのよ、この愚弟が。幼い頃はあ !? んなに素直で可愛い子だったのに、今じゃ捻くれ返っちゃって。はぁ ⋮⋮﹂ 盛大に溜息を吐いて、夏目は笑う。 ああ、今日もこの病院は、治ろうとする小さな患者達で一杯だ、と。 はるか昔、自分が親代わりで、治ろうとする患者の一人であった実の 弟、中原高貴││旧姓原割高貴の後ろ姿を見て。 5
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