ぎんぎつね 悩める神使 ID:93098

ぎんぎつね 悩める神使
今川 美佐樹
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︻あらすじ︼
鉄郎が見た神使と人間女性の交わり
悩める人間だけで泣く、神使にも神はいるのかと迷う鉄郎
自サイトとpixivにマルチ投稿していますが。
部分的に手直し、削ったりしてあります。
目 次 ぎんぎつね 悩める神使 ││││││││││││││││
1
ぎんぎつね 悩める神使 あなたは神使で私は人間だもの、そんなことは分かっていた、最初
からわかっていたことだった、だが、離れたくなかっただけのことだ。
捨てられる、自分は取り残されると思っていた方が楽だったのかも
しれない、苛立ちと焦燥間にさいなまされた日々から抜け出せたわけ
ではないが、今は少しだけマシになった気がすると鉄郎は思ってい
た。
そう、思っていただけかもしれない。
﹁俺を見てた女がいた﹂
人混みの中、神使である自分の姿が見える人間はほとんどいない。
だが、たまにだか、ごくわずかに、そういう人間がいる、気になる
のねと十子の言葉に、いいやと鉄郎は答えた。
行って確かめてきたらと言われて、めんどくせえと返事をしながら
も気になってしまう自分がいた。
それがだ、会うことはないだろうと思っていたのに、また偶然に出
会ってしまった。
だが、一人ではない、そばには狐がいた、それも金色の狐、神使だ
とわかった。
﹁夕飯、きつねうどんにしましょうか﹂
﹁なんでもいい﹂
﹁また、せっかく一緒に食べるんだから、そういう言い方はねえ﹂
離れていたが、二人の会話はよく聞こえた。
まるで、人間のようなと思いながら、気づかれないように後をつけ
ていった。
後になって後悔することになるのだが、このときの彼には、まだ分
からなかった。
﹁美味しい﹂
1
﹁ああ﹂
﹁箸の使い方、上手になったわよね﹂
﹁教えてくれたおかげだ﹂
テーブルで向かい合い、うどんを食べる神使と人間の姿は普通な
ら、違和感を感じずにはいられないだろう、それなのに、この二人は、
なんなんだろうと鉄郎は思った。
感じるのは安定したような距離間と空気だ。
﹁さあて、お腹いっぱい、風呂に入ろうかな﹂
﹁早いな﹂
﹁今日は疲れたから、色々と歩き回って﹂
自分も、そろそろ帰ろう、そもそも何故、こんなにも気になるのか,
正直、鉄太郎にはわからなかった。
﹁一緒に、入るか﹂
﹁狭いわよ、風呂﹂
﹁かまわんさ﹂
その会話に、帰ろうとした鉄郎だったが、もう少しと自分に言い聞
かせた。
しばらくして二人が風呂から出てきた、女は裸で、狐も白い神衣を
脱いでいた。
なんだ、どうして、狐は女の腰に手を回して、乳房をゆっくりと撫
でていた。
女はというと、うっとりとした顔で体を預けている。 それは人の行為ではないか。
何故、神と人が交わる。
それとも女は人ではないのだろうか、いいや、あり得ない。
女は声を漏らしながら、狐の体に手を回して抱きついている。
﹁久しぶりよね
﹁時間はいくらでもある﹂
2
﹁まさか、一晩中﹂
驚いた声で女が聞き返した。
﹁我慢していたからな、ずっと﹂
﹁神様なのに﹂
乳房の間に顔を埋めていた狐は顔を上げるとだからだと呟いた。
﹁神だから我慢していた、人間の男ならそうはいかん﹂
床の上に女を押し倒したまま、ゆっくりと腰を動かす狐から逃げる
ように女は体を動かしながら笑う。
﹁布団を敷いたほうがよくない﹂
﹁このまま、抱いたままでは嫌か﹂
﹁そういうんじゃ﹂
﹁濡れているんだ、どうしようもなく、おまえは﹂
﹁濡れてるわ,同じくらい﹂
あれは神使では、人間ではない、本来のあるべき姿ではない。
これは見てはいけないものだ、そう思いながらも鉄郎は目を離すこ
とができなかった。
自分は人間の十子が好きだ、だからといって、あんな風に交わると
いうのは、いけないことではないか。
あれから数日が過ぎた、狐と出会った。
﹁あんなことして、いいと思っているのか﹂
﹁神もある意味、人間だ、迷い泣くこともある、何かにすがりたいと
きもある﹂
すがるだと、神使いが。
﹁あの女が先に死ぬ、あんたは我慢できるのか﹂
十子が死んだら自分は悲しい、この男は、あの女が死んだら悲しく
はないのだろうか。
そのことを考えたことはないのだろうか。
狐が、じっと自分を見た。
隠れているので、その顔が表情が、よく見えない。
3
﹁苦しくないか、そんなことを考えて﹂
見透かされたような気がした。
﹁女を手放すことはないし、そのつもりもない﹂
﹁どういうことだ﹂
﹁もし、あの女が人間の男と結婚し子供を産み、歳をとっても、私は
あの女から離れないと言っているのだ﹂
そんなことは無理だ、許されるはずがない、神なら。
いや、自分も神だというのに、何故か、否定するようなことを考え
てしまう。
﹁許すとか、いけないことだからと考えていては生きづらくなるの
ではないか、神は自分に取っ手の神がいるか﹂
﹁あんたにとっての神ってなんだ﹂
﹁彼女だ﹂
迷いもなくそう言った狐が羨ましいとさえ思う。
自分にとって十子は、彼女にとって自分はなんだろう。
考えると胸が苦しくなる。
﹁おまえは若い、ゆっくりと答えをさがせばいいのではないか﹂
簡単に言ってくれる。
人と神使の間にあるものなど、この狐にとっては、ただ邪魔なだけ
なのかもしれない。
そして自分はというと、簡単に納得できない割り切れない。
どうしようもない感情を持て余してしまう。
こんなこと十子には言えない、話すこともできない。
何年かたったら、十子を見送って、何十年、百年生きたら、そうし
たら。
自分は、この狐のようになれるのだろうか。
そこに行き着くまでの道のりがどれくらいなのか知りたいと思い
ながら、あまりにも長すぎると思わずにはいられなかった。 4