ぎんぎつね 悩める神使 今川 美佐樹 ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP DF化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ 鉄郎が見た神使と人間女性の交わり 悩める人間だけで泣く、神使にも神はいるのかと迷う鉄郎 自サイトとpixivにマルチ投稿していますが。 部分的に手直し、削ったりしてあります。 目 次 ぎんぎつね 悩める神使 ││││││││││││││││ 1 ぎんぎつね 悩める神使 あなたは神使で私は人間だもの、そんなことは分かっていた、最初 からわかっていたことだった、だが、離れたくなかっただけのことだ。 捨てられる、自分は取り残されると思っていた方が楽だったのかも しれない、苛立ちと焦燥間にさいなまされた日々から抜け出せたわけ ではないが、今は少しだけマシになった気がすると鉄郎は思ってい た。 そう、思っていただけかもしれない。 ﹁俺を見てた女がいた﹂ 人混みの中、神使である自分の姿が見える人間はほとんどいない。 だが、たまにだか、ごくわずかに、そういう人間がいる、気になる のねと十子の言葉に、いいやと鉄郎は答えた。 行って確かめてきたらと言われて、めんどくせえと返事をしながら も気になってしまう自分がいた。 それがだ、会うことはないだろうと思っていたのに、また偶然に出 会ってしまった。 だが、一人ではない、そばには狐がいた、それも金色の狐、神使だ とわかった。 ﹁夕飯、きつねうどんにしましょうか﹂ ﹁なんでもいい﹂ ﹁また、せっかく一緒に食べるんだから、そういう言い方はねえ﹂ 離れていたが、二人の会話はよく聞こえた。 まるで、人間のようなと思いながら、気づかれないように後をつけ ていった。 後になって後悔することになるのだが、このときの彼には、まだ分 からなかった。 ﹁美味しい﹂ 1 ﹁ああ﹂ ﹁箸の使い方、上手になったわよね﹂ ﹁教えてくれたおかげだ﹂ テーブルで向かい合い、うどんを食べる神使と人間の姿は普通な ら、違和感を感じずにはいられないだろう、それなのに、この二人は、 なんなんだろうと鉄郎は思った。 感じるのは安定したような距離間と空気だ。 ﹁さあて、お腹いっぱい、風呂に入ろうかな﹂ ﹁早いな﹂ ﹁今日は疲れたから、色々と歩き回って﹂ 自分も、そろそろ帰ろう、そもそも何故、こんなにも気になるのか, 正直、鉄太郎にはわからなかった。 ﹁一緒に、入るか﹂ ﹁狭いわよ、風呂﹂ ﹁かまわんさ﹂ その会話に、帰ろうとした鉄郎だったが、もう少しと自分に言い聞 かせた。 しばらくして二人が風呂から出てきた、女は裸で、狐も白い神衣を 脱いでいた。 なんだ、どうして、狐は女の腰に手を回して、乳房をゆっくりと撫 でていた。 女はというと、うっとりとした顔で体を預けている。 それは人の行為ではないか。 何故、神と人が交わる。 それとも女は人ではないのだろうか、いいや、あり得ない。 女は声を漏らしながら、狐の体に手を回して抱きついている。 ﹁久しぶりよね ﹁時間はいくらでもある﹂ 2 ﹁まさか、一晩中﹂ 驚いた声で女が聞き返した。 ﹁我慢していたからな、ずっと﹂ ﹁神様なのに﹂ 乳房の間に顔を埋めていた狐は顔を上げるとだからだと呟いた。 ﹁神だから我慢していた、人間の男ならそうはいかん﹂ 床の上に女を押し倒したまま、ゆっくりと腰を動かす狐から逃げる ように女は体を動かしながら笑う。 ﹁布団を敷いたほうがよくない﹂ ﹁このまま、抱いたままでは嫌か﹂ ﹁そういうんじゃ﹂ ﹁濡れているんだ、どうしようもなく、おまえは﹂ ﹁濡れてるわ,同じくらい﹂ あれは神使では、人間ではない、本来のあるべき姿ではない。 これは見てはいけないものだ、そう思いながらも鉄郎は目を離すこ とができなかった。 自分は人間の十子が好きだ、だからといって、あんな風に交わると いうのは、いけないことではないか。 あれから数日が過ぎた、狐と出会った。 ﹁あんなことして、いいと思っているのか﹂ ﹁神もある意味、人間だ、迷い泣くこともある、何かにすがりたいと きもある﹂ すがるだと、神使いが。 ﹁あの女が先に死ぬ、あんたは我慢できるのか﹂ 十子が死んだら自分は悲しい、この男は、あの女が死んだら悲しく はないのだろうか。 そのことを考えたことはないのだろうか。 狐が、じっと自分を見た。 隠れているので、その顔が表情が、よく見えない。 3 ﹁苦しくないか、そんなことを考えて﹂ 見透かされたような気がした。 ﹁女を手放すことはないし、そのつもりもない﹂ ﹁どういうことだ﹂ ﹁もし、あの女が人間の男と結婚し子供を産み、歳をとっても、私は あの女から離れないと言っているのだ﹂ そんなことは無理だ、許されるはずがない、神なら。 いや、自分も神だというのに、何故か、否定するようなことを考え てしまう。 ﹁許すとか、いけないことだからと考えていては生きづらくなるの ではないか、神は自分に取っ手の神がいるか﹂ ﹁あんたにとっての神ってなんだ﹂ ﹁彼女だ﹂ 迷いもなくそう言った狐が羨ましいとさえ思う。 自分にとって十子は、彼女にとって自分はなんだろう。 考えると胸が苦しくなる。 ﹁おまえは若い、ゆっくりと答えをさがせばいいのではないか﹂ 簡単に言ってくれる。 人と神使の間にあるものなど、この狐にとっては、ただ邪魔なだけ なのかもしれない。 そして自分はというと、簡単に納得できない割り切れない。 どうしようもない感情を持て余してしまう。 こんなこと十子には言えない、話すこともできない。 何年かたったら、十子を見送って、何十年、百年生きたら、そうし たら。 自分は、この狐のようになれるのだろうか。 そこに行き着くまでの道のりがどれくらいなのか知りたいと思い ながら、あまりにも長すぎると思わずにはいられなかった。 4
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