在宅と寝たきり ○ケアの実際○ の寝たきり高齢者は、歯科受診をうける機会が少 いくために必要なことの原点である。しかし在宅 口から食べるという欲求は、本来人間が生きて はじめに あるケースがほとんどである。 悲惨な状況にあり、咀囑および嚥下機能に問題が や歯周疾患、不適合な義歯による褥瘡性潰瘍など、 歯石が沈着し、口臭が強く、高度に進行したウ蝕 寝たきりの高齢者の口腔内は、プラーク︵歯垢︶・ 遠 藤 慶 一 なく、口腔衛生については、とくに指導をうける このような潜在的な二ーズに対し、訪問歯科診 口腔衛生 こともな く 放 置 さ れ て い る の が 現 状 で あ る 。 CLINICIAN,98No.47552 特集・寝たきり高齢者へのアプローチ るわれわれ歯科医師は多く経験してきている。 向上し、自立できるケースを訪問歯科診療に携わ ケアを行うことにより、その人のADLが驚く程 療による口腔疾患の治療とその後の継続的な口腔 口腔ケアがあって効果があがる。とくに家族・看 口腔ケアと、歯科医師・歯科衛生士による専門的 口腔の健康保持増進には、日常の介護者による ロ腔ケアの実際 護婦・ホームヘルパーなど介護者によるケアが毎 自体も困難なケースがあり、日常の口腔ケアの重 ない。その人に合った歯ブラシを選択し、毛先を 除去することができず、細菌叢の減少は期待でき わゆる口腔清拭では、プラーク︵歯垢︶を完全に 日実践されることが重要である。 要性は極めて高い。 巧みに使った口腔清掃をすることにより初めて効 なぜロ腔ケアが必要か 口腔内を清潔に保つことは、①口腔疾患の予防、 果が期待できる。 口腔ケアの原則は、なるべく自分でできる所は ②誤嚥性肺炎の予防、③口臭の除去、④二次感染 脳血管障害の後遺症による片マヒの人は、食物 しかし、せっかく歯科治療を終えても、口腔内 の予防、⑤味覚をはじめとする感覚機能を高める 残渣がマヒ側に停滞し易く、毎食後の清掃は不可 である。この際に巻綿子やスポンジなどによるい ことができる。 欠である。 自分でやり、できない所を介護者が補助すること また口腔リハビリによる口腔周囲の筋機能訓練 無歯顎の人は、義歯の清掃と共に、毛先の非常 の衛生状況が悪いと、たちどころに機能が低下し で、嚥下機能や発音機能の回復も期待でき、口か に柔らかい歯ブラシで口腔粘膜・舌・歯肉の清掃 てしまうこと。また重度の寝たきりの場合、治療 ができる。 らおいしくものが食べられ、QOLを高めること (947) 53CLINICIAN,98No.475 歯科衛生士による専門的ロ腔ケアの内容 口腔清掃(PTC−ProfessionaI−Teeth−Cleaning) 快感ブラツシング、歯肉マツサージ、薬物磨き、補 助清掃具の使用、義歯清掃 2.歯科予防装置・薬物処置(歯科医師の指導の下で) ウ蝕予防処置(フッ化物の薬物歯面塗布)、歯石除去 3.口腔機能訓練、摂食機能訓練 開口訓練、うがい、舌運動、口腔周囲筋マッサージ、 唾液線マッサージ、摂食指導 4.歯科保健相談指導 とマッサージを行う。 引器などを使用して口腔清掃をする必要がある。 経管栄養や胃痩の人も口腔内は汚れるため、吸 良好なケアができると、唾液の分泌が促進され、 唾液による自浄作用も期待できる。 日本の現状 イギリスのニューキャスル市などでは、幼少の 頃から口腔衛生教育が徹底され、歯口清掃法、食 事指導・定期検診・フッ化物による予防法など市 民全体に浸透しているため、寝たきりの人でも良 好な口腔の状況にあり、質の高いケアがなされて いる。 日本では、ケアの中で口腔に関するケアは後回 しにされ、なおざりにされているのが現状である。 これを改善するには、本人をはじめ家族、看護、 介護に携わる関係者全員が口腔衛生の重要性を理 解することと、口腔に関する基礎知識を得、口腔 ︵64ぺージヘつづく︶ 内の異常を見る目を養うこと。口腔ケア・口腔リ CLINICIAN,98No.47554 (948) 訪問看護婦のように在宅介護に携わり、専門的口 うケースが少ないのが現状である。歯科衛生士が 期的に訪問し、専門的な口腔ケア︵表参照︶を行 また歯科衛生士が在宅の寝たきりの家庭に、定 ハビリの技術の習得と向上が不可欠である。 口腔衛生の面からより多く貢献できることが望ま QOLを高め、介護者の負担軽減につながるよう、 今後、寝たきりの高齢者の人格を尊重しつつ、 になっていくであろう。 プランの中の口腔ケアの位置づけが確固たるもの 介護スタッフの口腔ケアの技術習得により、ケア ︵54ぺージより︶ 腔ケアと、他の介護スタッフヘの口腔衛生の教育・ れる。 ︵川崎市・遠藤歯科クリニック 院長︶ 指導を行 え る 環 境 の 整 備 が 必 要 で あ る 。 今後に向けて かつて虫歯の洪水だった子供の口腔内が、啓蒙 活動によって見違えるように健康になった如く、 寝たきりの人の口腔内が清潔に保たれるような良 第一位である肺炎の罹患率 の 減 少 が 期 待 で き る 。 好な口腔ケアが浸透していけば、高齢者の死因の 歯科医療から在宅の寝たきり高齢者に対するア プローチの方法としては、訪問歯科診療・口腔ケ ア・口腔リハビリの3つをあげることができる。 気軽に訪問できるかかりつけ歯科医師の存在、訪 問口腔衛生指導を行う歯科衛生士の質と量の確保、 CLINICIAN,98No.47564 (958)
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