口腔衛生 - e-CLINICIAN

在宅と寝たきり
○ケアの実際○
の寝たきり高齢者は、歯科受診をうける機会が少
いくために必要なことの原点である。しかし在宅
口から食べるという欲求は、本来人間が生きて
はじめに
あるケースがほとんどである。
悲惨な状況にあり、咀囑および嚥下機能に問題が
や歯周疾患、不適合な義歯による褥瘡性潰瘍など、
歯石が沈着し、口臭が強く、高度に進行したウ蝕
寝たきりの高齢者の口腔内は、プラーク︵歯垢︶・
遠 藤 慶 一
なく、口腔衛生については、とくに指導をうける
このような潜在的な二ーズに対し、訪問歯科診
口腔衛生
こともな く 放 置 さ れ て い る の が 現 状 で あ る 。
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特集・寝たきり高齢者へのアプローチ
るわれわれ歯科医師は多く経験してきている。
向上し、自立できるケースを訪問歯科診療に携わ
ケアを行うことにより、その人のADLが驚く程
療による口腔疾患の治療とその後の継続的な口腔
口腔ケアがあって効果があがる。とくに家族・看
口腔ケアと、歯科医師・歯科衛生士による専門的
口腔の健康保持増進には、日常の介護者による
ロ腔ケアの実際
護婦・ホームヘルパーなど介護者によるケアが毎
自体も困難なケースがあり、日常の口腔ケアの重
ない。その人に合った歯ブラシを選択し、毛先を
除去することができず、細菌叢の減少は期待でき
わゆる口腔清拭では、プラーク︵歯垢︶を完全に
日実践されることが重要である。
要性は極めて高い。
巧みに使った口腔清掃をすることにより初めて効
なぜロ腔ケアが必要か
口腔内を清潔に保つことは、①口腔疾患の予防、
果が期待できる。
口腔ケアの原則は、なるべく自分でできる所は
②誤嚥性肺炎の予防、③口臭の除去、④二次感染
脳血管障害の後遺症による片マヒの人は、食物
しかし、せっかく歯科治療を終えても、口腔内
の予防、⑤味覚をはじめとする感覚機能を高める
残渣がマヒ側に停滞し易く、毎食後の清掃は不可
である。この際に巻綿子やスポンジなどによるい
ことができる。
欠である。
自分でやり、できない所を介護者が補助すること
また口腔リハビリによる口腔周囲の筋機能訓練
無歯顎の人は、義歯の清掃と共に、毛先の非常
の衛生状況が悪いと、たちどころに機能が低下し
で、嚥下機能や発音機能の回復も期待でき、口か
に柔らかい歯ブラシで口腔粘膜・舌・歯肉の清掃
てしまうこと。また重度の寝たきりの場合、治療
ができる。
らおいしくものが食べられ、QOLを高めること
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歯科衛生士による専門的ロ腔ケアの内容
口腔清掃(PTC−ProfessionaI−Teeth−Cleaning)
快感ブラツシング、歯肉マツサージ、薬物磨き、補
助清掃具の使用、義歯清掃
2.歯科予防装置・薬物処置(歯科医師の指導の下で)
ウ蝕予防処置(フッ化物の薬物歯面塗布)、歯石除去
3.口腔機能訓練、摂食機能訓練
開口訓練、うがい、舌運動、口腔周囲筋マッサージ、
唾液線マッサージ、摂食指導
4.歯科保健相談指導
とマッサージを行う。
引器などを使用して口腔清掃をする必要がある。
経管栄養や胃痩の人も口腔内は汚れるため、吸
良好なケアができると、唾液の分泌が促進され、
唾液による自浄作用も期待できる。
日本の現状
イギリスのニューキャスル市などでは、幼少の
頃から口腔衛生教育が徹底され、歯口清掃法、食
事指導・定期検診・フッ化物による予防法など市
民全体に浸透しているため、寝たきりの人でも良
好な口腔の状況にあり、質の高いケアがなされて
いる。
日本では、ケアの中で口腔に関するケアは後回
しにされ、なおざりにされているのが現状である。
これを改善するには、本人をはじめ家族、看護、
介護に携わる関係者全員が口腔衛生の重要性を理
解することと、口腔に関する基礎知識を得、口腔
︵64ぺージヘつづく︶
内の異常を見る目を養うこと。口腔ケア・口腔リ
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訪問看護婦のように在宅介護に携わり、専門的口
うケースが少ないのが現状である。歯科衛生士が
期的に訪問し、専門的な口腔ケア︵表参照︶を行
また歯科衛生士が在宅の寝たきりの家庭に、定
ハビリの技術の習得と向上が不可欠である。
口腔衛生の面からより多く貢献できることが望ま
QOLを高め、介護者の負担軽減につながるよう、
今後、寝たきりの高齢者の人格を尊重しつつ、
になっていくであろう。
プランの中の口腔ケアの位置づけが確固たるもの
介護スタッフの口腔ケアの技術習得により、ケア
︵54ぺージより︶
腔ケアと、他の介護スタッフヘの口腔衛生の教育・
れる。
︵川崎市・遠藤歯科クリニック 院長︶
指導を行 え る 環 境 の 整 備 が 必 要 で あ る 。
今後に向けて
かつて虫歯の洪水だった子供の口腔内が、啓蒙
活動によって見違えるように健康になった如く、
寝たきりの人の口腔内が清潔に保たれるような良
第一位である肺炎の罹患率 の 減 少 が 期 待 で き る 。
好な口腔ケアが浸透していけば、高齢者の死因の
歯科医療から在宅の寝たきり高齢者に対するア
プローチの方法としては、訪問歯科診療・口腔ケ
ア・口腔リハビリの3つをあげることができる。
気軽に訪問できるかかりつけ歯科医師の存在、訪
問口腔衛生指導を行う歯科衛生士の質と量の確保、
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