治療とケア かかりつけ医がDLBを 見逃さないコツ! 永 関 慶 重 年7カ月間の認知症の患者数は2、 035例で 体型認知症︵以下DLB︶に対しても保険適用 2014年9月よりアルツハイマー型認知症 ︵以下AD︶の治療薬アリセプトが、レビー小 Bへの意識が高くなった結果、その診断率は今 し、アリセプトの保険適用拡大とともに、DL 56例で認知症全体の7・7%であった。しか はじめに が拡大された。DLBは、ADには見られない 後さらに増加すると考える。 あった。このうち、DLBと診断されたのは1 多彩な症状を有することが特徴的であり、日常 ® ® また、DLBを正確に診断しアリセプトを投 臨床では見逃せない病態であるものの、その診 与することで、その治療効果を実感しているこ 断はかかりつけ医にとって困難であることが多 い。 当院は、2003年4月の開院当初から﹁物 忘れ診断外来﹂にて、言語聴覚士による高次脳 機能・認知機能検査を行ってきた。開院以来 12 したい。 踏まえて、DLBを見逃さないコツを明らかに とが肝要である。これまで見逃してきた反省を とから、DLBを見逃さずに正確に診断するこ ® (549) CLINICIAN Ê16 NO. 648 109 1) 患者の訴えがなくても 含して病状を把握することが肝要である。 症例1 代前半・男性。本例は当初パーキ 多彩な症状の有無を確認する ンソン病、抑うつ状態からADと診断し、経過 圧の変動、排尿障害、便秘、発汗障害︵体温調 起が認められているからであり、そのため、血 梢自律神経系にも、レビー小体やレビー神経突 ず、心臓、腸管、膀胱、皮膚などを支配する末 DLBの第一発見者の小阪は、本病態を全身 病であると指摘している。それは脳内のみなら DLBと診断したケースである。 寛解増悪の臨床経過が明らかになり、最終的に その結果、図①に示したように、多彩な症状の 省を踏まえて6年間の臨床経過を見直してみた。 PSD︶として対処してきたが、筆者自身の反 中幻視や妄想があるも行動・心理症状︵以下B キンソン症状、レム睡眠行動障害︵以下RB ため、DLBは、認知機能の変動、幻視、パー 枢神経系にレビー小体が確認されている。この また脳内の病理学的特徴として、大脳皮質、 扁桃体、マイネルト基底核、脳幹諸核を含む中 パーキンソン剤とSSRI︵選択的セロトニン 抑うつ気分と左上下肢の振戦と固縮を認め、抗 敏など、多彩な症状を呈していた。受診当初は 的特徴﹂のうつ、自律神経失調症状と薬への過 ズム、 ﹁示唆的特徴﹂のRBD、さらに﹁支持 の認知機能の変動、幻視や錯視、パーキンソニ 特徴である。 れる。これら脳のみならず全身におよぶ多彩な 症状別に図の上段から、DLBの診断基準に 準拠してその経過を呈示した。 ﹁中核的特徴﹂ 3) 整障害︶などの自律神経障害が認められるのが 80 D︶ 、認知機能障害や抑うつ症状などが認めら 2) 個の症状と捉えずに、連続性の時間軸の中で包 症状を呈することから、DLBは、単一かつ別 就寝中に大声を出す、電車に乗る、柱を蹴飛ば 再取り込み阻害薬︶を投与開始した。経過中、 110 CLINICIAN Ê16 NO. 648 (550) 2) ①症例1/80代前半・男性 臨床経過図 ㄆ▱ᶵ⬟ኚື すなどのRBDの症状を認めた。前記薬剤の増 量を行うも十分な効果が得られなかった。受診 カ月くらいから免許証がないと言って探し回 出現し、改訂長谷川式簡易知能評価スケール る、同じことを何回も言うなど物忘れの症状が 11 ︵以下HDS R︶が 点にてADと診断しコ 23 ためこれを中止した。治療開始後2年 カ月頃 たが、幻視が増え異常行動が増加し薬剤過敏の た。振戦と固縮は改善せず抗コリン薬を追加し った。その後、幻視は一時的に改善傾向を認め Dを認め漢方薬を投与するも効果が不十分であ の幻視も出現、殺虫剤を噴霧するなどのBPS 増量するも、風呂場や布団の上に虫がいるなど リンエステラーゼ阻害薬を開始した。5㎎ まで − 䠖 ら5年半を経過する頃から尿失禁を認め、現在 一進一退を繰り返しながら通院を続け、当初か 障をきたすようになった。その後種々の症状は 動が見られ、日常生活動作︵以下ADL︶に支 から、認知機能の低下とボーッとするなどの変 10 5Y 4Y 3Y 2Y 1Y (551) CLINICIAN Ê16 NO. 648 111 ᒀኻ⚗ ⸆䜈䛾㐣ᩄ 13 23 HDS-R 䝟䞊䜻䞁䝋䝙䝈䝮 ᗁど䞉ㄗㄆ RBD 䛖䛴 ⮬ᚊ⚄⤒ኻㄪ 㻿㻿㻾㻵 䝁䝸䞁䜶䝇䝔䝷䞊䝊㜼ᐖ⸆ 䝗䝟䝭䞁⿵⸆ ᢠ䝁䝸䞁⸆ ₎᪉⸆ 䝗䝟䝭䞁సືᛶᢠ䝟䞊䜻䞁䝋䞁 (筆者作成) は施設に入所中である。 DLBチェックシート Bを見逃さないようにつとめてきた。シートは、 中核的症状の認知機能の変動、幻視とパーキン ソニズム、示唆的特徴のRBDの4つの症状を チェックするもので、1項目該当でDLBを疑 い、2項目以上で probable DLB として治療開 始の根拠となる。前記症状のみならず、転倒・ ︵ART1637AKE/以下シート︶ の 有効性︵診断基準に準拠し重要な症状を 失神、たちくらみ、めまい、便秘などの頑固な 見逃さない︶ 自律神経障害例で受診した場合にも、このシー トを活用することでDLBの診断確度が格段に 上昇した。 症例2 代前半・女性。主訴は不眠である。 既往歴は特記すべきことなし。現病歴では、受 さらに寝ているときにそこに誰かが立っている 布団を掃除するなどのRBD様の症状、易怒性、 を確認すると、夜中に奇声を上げる、寝ながら の2カ所にチェックがあったため、さらに症状 察前のシート︵図②︶において、幻視とRBD を投与されるも効果がなく当院を受診した。診 診2カ月前から不眠あり、他院内科にて睡眠薬 70 112 CLINICIAN Ê16 NO. 648 (552) 症例1の反省を踏まえ、診察前にシートの記 入を義務付け、重要な症状の有無を確認しDL ②症例2/70代前半・女性の DLB チェックシート を不眠による寝ぼけと思って放置していた。A などの幻視が確認できた。家族はこれらの症状 断できた。 SBRは左側で低下を認め最終的にDLBと診 DLは全て自立していて、HDS Rは 点で 小阪らと対談した吉岩は、このシートの有用 性について述べている。画像診断も含めて最終 正常であった。臨床症状からDLBと診断し、 4) 診断されたAD 例とDLB 例に、このシー 89 29 Rt:4.44䚸 の比率は ・2%であったが、DLBのそれは %でありシートのDLB診断確度が極めて高 27 る。 そDLBの第一発見者になりうるとも述べてい に存在している可能性があり、かかりつけ医こ を呈して受診した患者の中に、DLBが潜在的 ることが多い。このため、頑固な自律神経障害 めまい、排尿障害や便秘などを訴え内科にかか 経障害による、原因不明の失神、たちくらみ、 いと述べている。また、DLBは多彩な自律神 99 疾患の正確な診断と的確な治療を行うべきと考 以上よりDLBの多彩な症状を絶えず念頭に おき、DLBチェックシートを用いながら、本 (筆者提供画像) (553) CLINICIAN Ê16 NO. 648 113 92 − コリンエステラーゼ阻害薬を開始した。他病院 − に依頼したDAT SCANを図③に示したが、 トを使用した結果、ADでは、1項目以上該当 ③症例2/ DAT-SCAN(国立病院機構甲府 病院にて施行) 、左右差を認め DLB の所見 える。 ︵医療法人斐水会 ながせき頭痛クリニック 院長︶ 文献 長光 勉 認知症の新たな潮流/認知症の合図/レ ビ ー 小 体 型 認 知 症 を 早 期 に 診 断 す る た め に、 、 、405∼410︵2015︶ CLINICIAN 小阪憲司ら 認知症医療の新たなる地平 身体を丁 寧に診る︱レビー小体型認知症の自律神経障害と睡 眠︱︵2014︶ 62 McKeith IG, et al ; Consortium on DLB : Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies : third report of the DLB Consortium. Neurology, 65, 18631872 (2005) 小阪憲司ら 座談会 レビー小体型認知症の診療に ついて考える︱かかりつけ医の先生方の日常診療の ために︱、エーザイ︵2015年8月 日︶ 14 114 CLINICIAN Ê16 NO. 648 (554) 1) 2) 3) 4)
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