腹腔鏡下大腸癌手術のための 3D

治療支援としての画像診断
腹腔鏡下大腸癌手術のための
3D-CT angiography
松
木
充
性がある。よって、われわれはバリエーションに
できないといった欠点を有し、解剖学的誤認に
腹腔鏡下手術は、内視鏡による拡大視効果に
よって細かい作業が可能になり、小さな術創の
富む大腸に関与する動静脈を非侵襲的に描出す
はじめに
ため術後疼痛や運動制限を軽減し、美容上も優
よる血管、周囲臓器への損傷を引き起こす危険
れているといった利点を有する。さらに、病変
を大腸癌の術前マッピン
る 3D-CT angiography
グとして活用し、これを Virtual CT laparoscopy
部以外の腸管露出がほとんどないことも加わっ
て、腸蠕動が術後早期に回復し、経口摂取も早
く開始でき、癒着のリスクも減少する。これら
いった大きな恩恵がもたらされた。
によって、入院期間の短縮と早期の社会復帰と
と呼んでいる。本稿では、 Virtual CT laparoscopy
の活用の実際について述べる。
腹腔鏡下大腸癌手術の適応と術式
腹腔鏡下大腸癌手術は、早期癌では内視鏡的
しかし一方、腹腔鏡下の操作のため術野全体
治療の適応外症例を対象とし、全部位で施行可
を捉えることが困難で、直接臓器に触ることが
64
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(870)
1)
2)
能である。
膜下層までの結腸癌と固有筋層までの直腸癌を
適応としている。リンパ節郭清は、粘膜内癌
リカルピッチ ︵ビームピッチ0・828︶
、
mL
注入器にて5 /秒で急速注入する。その後、
mL
mgI
法を用いて肝上縁から恥骨結合まで
Real Prep
動脈相︵造影約 秒後︶を撮影し、造影 秒後
としている。
では2群、進行癌では3群リンパ節郭清を原則
より恥骨結合から肝上縁に向かって静脈相を撮
50
︶
、S状結腸、直腸癌症例
影し︵ Go and Return
に対しては造影5分後の排泄相を追加する︵図
︵M癌︶では1群、粘膜下層浸潤癌︵SM癌︶
mL
なっている。われわれの施設では壁深達度が漿
再構成間隔1㎜ とする。
進行癌に対しては適切な手技や創部再発、長
造影方法は、非イオン性造影剤300 /
期予後の問題があるため、施設により適応が異
を用い、総量体重︵㎏ ︶×2∼2・5 を自動
53
20
①︶
。これによって得られた 3D-CT arteriography
CT撮影方法
と
、 urography
を融合し、 multiphase
venography
前処置として、腫瘍部位のマーキングのため
画像を得る。
に手術前に施行される大腸内視鏡検査の直後に、
fusion
対応すべき血管である上腸間膜動脈、下腸間
大腸全体に適度に空気が送気された状態で撮影
膜動脈およびそれらの分枝にはバリエーション
する。
使用装置として 列検出器マルチスライスC
T︵ AquilionTM︶
64を用い、管電圧120 、
管電流300 のもと、撮影条件は、0・5秒
kV
ローテーション、コリメーション0・5㎜ 、ヘ
64
難なものとする。よって、術前に
3D-CT angi-
での動脈根部、静脈の処理、リンパ節郭清を困
性腺静脈、尿管との多彩な位置関係が腹腔鏡下
が多く、同時に上腸間膜静脈、下腸間膜静脈、
1)
2)
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mA
①造影 CT プロトコル
㟼⬦┦
᤼ἥ┦
9sec
9sec
9sec
によって大腸に関与する動脈、静脈、
ography
尿管の位置関係を知ることは、安全かつ迅速な
手術の遂行に有用と考えられた。
活用法の実際
Virtual laparoscopy
領域別の大腸癌に対する Virtual laparoscopy
の活用を述べる。
盲腸癌、上行結腸癌に対して
上腸間膜動脈から直接分岐する右結腸動脈の
ある。その郭清時に注意すべきポイントとして、
でのリンパ節を郭清して血管を処理する必要が
進行癌の3群リンパ節郭清では、 surgical trunk
に沿って回結腸動脈根部から中結腸動脈根部ま
1)
根部まで迅速に郭清を進めることができる。し
郭清した後、上腸間膜動脈に沿って中結腸動脈
上腸間膜動脈から直接分岐する右結腸動脈を
認めない場合︵図②a ︶は、回結腸動脈根部を
がある。
有無と 回結腸動脈と上腸間膜静脈の位置関係
a)
3D CT urography
3D CT venography
3D CT arteriography
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b)
c
b
a
300sec
50sec
20sec
0sec
ື⬦┦
造影 CT 動脈相、静脈相、排泄相を撮影し、各々のスライスデータから arteriography、venography、urography を作成し、その後融合し、multiphase fusion 画像を得る。 (筆者提供画像)
かし上腸間膜動脈より直接分岐する右結腸動脈
を認める場合︵図②b︶
、回結腸動脈、右結腸
に郭清する。また回結腸動脈が
en bloc
動脈分岐部を同定、切離した後、中結腸動脈根
部まで
上腸間膜静脈の腹側を走行する場合︵ type /
A
図③︶
、回結腸動脈根部の処理の際、その背側
を走行する回結腸静脈枝や上腸間膜静脈本幹の
損傷に注意して正確に回結腸動脈根部を処理す
る必要がある。しかし、回結腸動脈が上腸間膜
、
静脈の背側を走行する場合︵ type /
B 図④︶
上腸間膜静脈背側の回結腸動脈に沿った綿密な
リンパ節郭清が必要となる。
横行結腸癌に対して
握に有用である。
無、回結腸動脈と上腸間膜静脈の位置関係の把
、 multiphase fusion
画像は、
3D-CT arteriography
上腸間膜動脈から直接分岐する右結腸動脈の有
a.上腸間膜動脈から直接分岐する右結腸動脈を認めず、回結腸動脈(ICA)根部を郭清し
た後、上腸間膜動脈に沿って中結腸動脈(MCA)根部まで迅速に郭清を進めることができる。
b.上腸間膜動脈より直接分岐する右結腸動脈(RCA)を認めるため、回結腸動脈(ICA)、
右結腸動脈分岐部を同定、切離した後、中結腸動脈(MCA)根部まで en bloc に郭清する。
(筆者提供画像)
MCA rt:中結腸動脈右枝、Tumor:腫瘍
左側結腸曲進行癌は通常、中結腸動脈左枝よ
り栄養を受けているため、左半結腸切除に際し
(873)
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2)
b
② 3D CT arteriography
a
③ multiphase fusion image(a)と術中写真(b)
a
b
ICA
ICV
SMV
multiphase fusion image にて回結腸動脈(ICA)
が上腸間膜静脈(SMV)の腹側を走行してい
るため(type A)
、回結腸動脈根部の処理の際、
その背側を走行する回結腸静脈枝(ICV)や
上腸間膜静脈本幹の損傷に注意して正確に回
結腸動脈根部を処理する必要がある。
MCA:中結腸動脈、MCA rt:中結腸動脈右
枝、GCT:ヘンレの胃結腸静脈幹、ARCV:
副右結腸静脈、Tumor:腫瘍 (筆者提供画像)
④ multiphase fusion image
multiphase fusion image にて回結腸
動脈(ICA)が上腸間膜静脈の背
側を走行しているため(type B)、
上腸間膜静脈背側の回結腸動脈に
沿った綿密なリンパ節郭清が必要
となる。
ICV:回結腸静脈、MCA:中結腸
動脈、Tumor:腫瘍
(筆者提供画像)
(874)
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理する。しかし、まれに副左結腸動脈によって
中結腸動脈あるいは中結腸動脈左枝を結紮、処
∼8%、本邦で ∼ %といわれている。 3D-
の結腸に流入する動脈で、その頻度は欧米で4
支配されている場合、副左結腸動脈のみを処理
することによって中結腸動脈を温存することが
できる。副左結腸動脈は、中結腸動脈分岐部よ
49
3)
4)
5)
S状結腸∼直腸進行癌に対して
は、副左結腸動脈の同定に有
CT arteriography
用である︵図⑤︶
。
33
く、正常腸管を長く温存しつつ残存腸
管や吻合部への血流を維持して縫合不
全を予防するため、われわれは左結腸
動脈などを温存したリンパ節郭清を行
っている。
第1S状結腸動脈が左結腸動脈から分
行癌3群リンパ節郭清症例︵図⑥︶で、
岐することがある。例えばS状結腸進
6)
間膜動脈より分岐、上直腸動脈より分
脈より分岐、左結腸動脈と同時に下腸
S状結腸動脈の本数、分岐パターン
にはバリエーションがあり、左結腸動
(筆者提供画像)
(875)
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3)
左 側 結 腸 曲 進 行 癌(Tumor) は 副 左 結 腸 動 脈(accessory
LCA)によって栄養を受けているため、副左結腸動脈のみ
を処理することによって中結腸動脈(MCA)を温存するこ
とができる。
MCA lt:中結腸動脈左枝、LCA:左結腸動脈
り中枢側の上腸間膜動脈より分岐し、脾彎曲部 S状結腸∼直腸進行癌の3群リンパ節郭清に
際し、本邦ではS状結腸が長い人が多
⑤ 3D CT arteriography
⑥3D CT arteriography(a)と術中所見(b)
a
b
7XPRU
岐し、腫瘍を支配していることを術前に把握す
ることができれば、中枢側リンパ節郭清を下腸
間膜動脈根部より第1S状結腸動脈まで en bloc
に行い、第1S状結腸動脈根部のみを処理し、
左結腸動脈、上直腸動脈を温存することができ
る。さらに下腸間膜静脈を処理する際、近傍を
走行する左結腸動脈を損傷させないよう注意す
る必要がある。またS状結腸動脈根部処理の際、
近傍を走行する尿管を、また下腸間膜動脈に沿
った2群リンパ節を郭清する際、近傍を走行す
る性腺静脈を損傷させないように注意する必要
がある。
は腫瘍の支配血管、S状
3D-CT arteriography
結腸動脈の分岐パターンを明瞭に描出し、 mul-
画 像 は 下 腸 間 膜 動 脈、そ の 主 要
tiphase fusion
分枝と下腸間膜静脈、性腺静脈、尿管との位置
関係を明瞭に描出する。
70
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6
/&$
6
/&$
65$
,0$ 65$
,0$
3D CT arteriography にて S 状結腸癌(Tumor)が左結腸動脈(LCA)から分岐する第1 S 状
結腸動脈(S1)から栄養を受けているため、画像を基に第1 S 状結腸動脈を的確に処理す
ることによって、左結腸動脈、上直腸動脈(SRA)を温存することができる。
(筆者提供画像)
IMA:下腸間膜動脈
おわりに
は、腹腔鏡下大腸癌手
Virtual CT laparoscopy
術を安全かつ迅速に遂行する上で必要不可欠な
情報となっている。今後、リンパ節特異性造影
剤などを用いた精度の高いリンパ節診断が可能
になればテーラーメードのリンパ節郭清も可能
に
に な り、 そ の 情 報 を Virtual CT laparoscopy
追加することによって、より低侵襲な腹腔鏡下
手術に寄与するものとして期待される。
︵近畿大学医学部
放射線医学教室
放射線診断学部門
准教授︶
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1)
2)