Dual Energy CT の 躯幹部領域への応用

*
彦
也
子
**
最新技術の応用
治
拓
惠
に基づいて処理・解析され、仮想単色X線画像
田
川
野
︵DECT︶とは
Dual Energy CT
通常のCTは、設定された管電圧に応じて1
種類のX線エネルギーのデータを取得する。こ
や物質弁別画像などの作成が可能となる。こう
町
石
上
と140 のような
して、通常のCTでは困難な、DECTの様々
の
Dual Energy CT
躯幹部領域への応用
2種類の管電圧でX線を発生させるなどして、
な臨床応用が実現可能となっている。なお、2
得されたデータは画像データまたは投影データ
ータに分離する2層検出器方式などがある。取
2種類のX線エネルギーのデータを取得する。
層検出器方式は今年薬事承認されたばかりであ
れに対し、DECTは
DECTの方式はベンダーにより異なり、2種
圧スイッチング方式、2つの管球に互いに異な
本稿では、当施設で使用している高速管電圧
スイッチング方式の仮想単色X線画像や物質弁
の躯幹部領域への応用について紹介する。
別画像を中心に、汎用性の比較的高いDECT
圧でX線を発生させるが検出器側で2種類のデ
る管電圧を設定する2管球方式、1種類の管電
0・5ミリ秒以下の高速で切り替える高速管電
類の管電圧を1回転毎に切り替える2回転方式、 る。
kVp
(823)
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17
80
kVp
1)
できる。
仮想単色X線画像
らによると、仮想単色X線
Matsumoto
前後で最低となる。
前
画像のノイズは
通常のX線は様々な光子エネルギーからなる
スペクトラムを形成し、多色X線とも呼ばれる。 後の仮想単色X線画像は、120 の通常のC
70
keV
仮想単色X線画像は、単一の光子エネルギー︵単
減され、CT値はほぼ同等となるので、しばし
Tと比べて、ノイズやビームハードニングが低
70
keV
位は ︶のX線で撮影したかのような画像であ
kVp
エネルギーの画像を作成できる、線質硬化︵ビ
門脈相で乏血性肝転移を検出する目的などで、
ば標準画像として利用される。腹部造影CTの
良好な低コントラスト分解能が求められる場合、
る。ベンダーにより違いがあるが、様々な光子
ームハードニング︶アーチファクトを低減しう
る、などの特長がある。こうして、通常のCT
2.
低エネルギー画像
前後がしばしば至適エネルギーとなる。
2)
弁別は困難であるが、DECTでは複数のエネ
通常のCTではCT値が類似した異なる物質の
一方、低エネルギーほどノイズが増加するが、
造影剤のCT値が上昇して造影効果が向上する。
1.
標準エネルギー画像
細い血管や末梢の分枝を中心に描出能が改善し、
CT血管造影︵CTA︶では、低エネルギー
画像で血管の造影効果が良好になるだけでなく、
その対策として逐次近似再構成の併用が有用で
keV
ルギーでCT値を計測でき弁別可能なためであ
33
ある︵図①︶
。
や不安定プラークの診断などにも応用される。
造影剤として用いられるヨードのK吸収端エ
成分分析や脂質の鋭敏な検出に基づく副腎腺腫
ネルギーは ・2 であり、低エネルギーほど
より詳細な物質弁別が可能であり、尿路結石の
70
keV
る。以下、それ以外の臨床応用を示す。
40
keV
から
高速管電圧スイッチング方式では、
140 まで1 毎のエネルギーを任意に選択
keV
18
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(824)
keV
keV
①造影 CT(後期動脈相)による肝細胞癌と膵癌の経過観察
a
b
c
d
左(a、c)の通常の CT(120kVp)と比べて、腎機能低下により造影剤量を半減しても、右
(b、d)の逐次近似再構成(ASiR)を併用した低エネルギー(40keV)の仮想単色 X 線画像
で、上段(a、b)では肝細胞癌(矢印)、下段(c、d)では膵癌(矢印)がより明瞭に描出
(筆者提供画像)
されている。
3)
肺動脈や深部静脈などの血
栓の検出能も向上する︵図
②︶
。低エネルギー画像は、
一定の状況下で実質臓器内
の病変の検出能も改善でき
の後期動脈相で肝細胞癌な
る。例えば、腹部造影CT
どの肝内多血性病変や膵癌
などの膵内乏血性病変を検
出したい場合、しばしばノ
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イズの増加を凌いで病変と
4)
背景組織とのコントラスト
を向上できる︵図①︶
。腎機
能低下症例などでは、造影
効果を維持しつつ、合理的
影剤腎症のリスク低下にも
19
に造影剤量を低減でき、造
つながる︵図①︶
。
3)
(825)
3.
高エネルギー画像
像の臨床応用を示す。
1.
ヨード︵水︶密度画像、ヨードマップ
高エネルギーほどコントラストや造影効果が
低下してしまうが、ビームハードニング、ブル
造影CTのヨード︵水︶密度画像やヨードマ
ップは、臓器の灌流や病変の血流の評価、嚢胞
ーミングや金属アーチファクトを低減できる。
と充実性腫瘍の鑑別などに有用である。例えば、
肺灌流の評価は、急性および慢性肺血栓塞栓症
︵胸部CTの場合は空気︶の3物質弁別により
管球方式では、ヨード、軟部組織および脂肪
密度画像は仮想単純CTとして利用できる。2
密度画像は造影効果を強調でき、水︵ヨード︶
その逆である。よって、造影CTのヨード︵水︶
つつ水密度値の影響を無視するのに対し、後者は
でき、前者は物質のヨード密度値の差を強調し
︵水︶密度画像と水︵ヨード︶密度画像を作成
きる。ヨードと水を基準とした場合、ヨード
高速管電圧スイッチング方式では、任意の2
種類の物質を基準とした物質密度画像を作成で
細胞癌などの充実性腎腫瘍と容易に鑑別できる
行える。また、腎嚢胞が低吸収でなくても、腎
果判定も、腫瘍内出血の影響を受けずに正確に
情報が得られる。化学療法による腫瘍の治療効
死を正確に評価でき、治療方針の選択に有用な
確に診断できる。同様に、急性膵炎では、膵壊
り腸管壁の吸収値が上昇しても、腸管壊死を正
に同定できる。絞扼性イレウスでは、出血によ
ージョン画像を作成すればその責任血管を容易
虚血の診断に利用され、冠動脈CTAとのフュ
薬剤負荷時と安静時での心筋灌流の評価は心筋
の診断や重症度評価などに有用である︵図②︶
。
ヨードマップと仮想単純CTを作成でき、同様
︵図③︶
。
物質弁別画像
の目的で利用できる。以下、様々な物質弁別画
20
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(826)
5)
②肺動脈 CTA による急性肺血栓塞栓症の評価
a
b
c
左上(a)の標準エネルギー(70keV)と
比 べ て、 右 上
(b)の 低 エ ネ ル ギ ー(40
keV)の仮想単色 X 線画像で肺動脈の
末梢の分枝が良好に描出され、特に左
肺動脈内腔の造影剤と血栓(矢印)と
のコントラストも上昇している。左下
(c)のヨード(水)密度画像のカラーマ
ップでは、その血栓より末梢に楔状の
肺灌流低下域(矢印)が描出されている。
(筆者提供画像)
大動脈ステントグラフト
内挿術後の経過観察ではエ
ンドリークの描出能が改善
し、特に2型エンドリーク
の場合は静脈相のみで十分
で、合理的な被曝低減のた
めに動脈相の撮影を省略で
きる可能性がある。低エネ
ルギーの仮想単色X線画像
ほどブルーミングや金属ア
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ーチファクトが目立たない
のも利点である。
仮想単純CT
2.
単純CTと仮想単純CT
は完全に同一とはいえない
が、検査目的によっては単
純CTを仮想単純CTで代
用して単純CTの撮影を省
略でき、各検査全体の被曝
21
6)
(827)
③造影 CT のみによる腎細胞癌と高吸収嚢胞の鑑別
a
b
c
d
上段(a、b)は標準エネルギー(70keV)の仮想単色 X 線画像であるが、左(a)の単純 CT
および右(b)の造影 CT で右腎に多数の嚢胞を認め、腎細胞癌(矢印)と高吸収嚢胞(矢
頭)の鑑別に悩む病変もある。下段(c、d)はともに造影 CT であり、左(c)の水(ヨー
ド)密度画像は仮想単純 CT として利用でき、実際に単純 CT(a)と類似している。右(d)
のヨード(水)密度画像で腎細胞癌(矢印)は高ヨード密度、高吸収嚢胞(矢頭)は低ヨー
(筆者提供画像)
ド密度を呈し、両者を容易に鑑別可能である。
(828)
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脂肪酸エチルエステル︵リピオドール︶が単純
療効果判定の際、ヨードを含むヨード化ケシ油
低減につながる
︵図③︶
。肝動脈化学塞栓術の治
肝と低吸収の病変の鑑別が容易になる。
れている。また、通常のCTでは困難な、脂肪
臨床応用として、脂肪沈着の定量評価も期待さ
ともに脂質の鋭敏な検出に利用される。肝への
6.
骨髄浮腫の検出
CTで高吸収を示すのに、仮想単純CTではそ
うならない点などは注意を要する。
る。2管球方式では、黄色髄を脂肪、赤色髄を
水︵カルシウム︶密度画像は、海綿骨からカ
ルシウムを除去して骨髄浮腫を鋭敏に検出でき
DECTを用いた尿酸とカルシウムの2物質
弁別は、尿酸塩結晶の同定による痛風の診断だ
軟部組織、骨塩をカルシウムで見立てた3物質
3.
尿酸とカルシウムの弁別
けでなく、尿路結石の成分分析、特に尿酸結石
弁別により海綿骨からカルシウムを除去でき、
骨髄脂肪が液体や出血で置換されるとCT値が
圧迫骨折などを通常のCTより容易に診断可能
上昇する。こうして、感染性脊椎炎や新鮮椎体
ヨード︵カルシウム︶密度画像やヨード︵ハ
イドロキシアパタイト︶密度画像は、石灰化除
であり、特にMRI禁忌症例などで有用である。
内腔の描出能が改善する。2管球方式では、ヨ
ードと骨の2物質弁別により、同時に自動骨除
去も行われる。
5.
脂肪の検出
脂肪︵水︶密度画像は、仮想単色X線画像と
がDECTの高いポテンシャルに関心を寄せ、
DECTの臨床応用はバラエティに富み、こ
こで紹介できたのはそのごく一部である。本稿
おわりに
去CTAを作成でき、高度石灰化を伴う血管の
9)
4.
石灰化除去CTA
とカルシウム結石の鑑別にも有用である。
®
7)
8)
(829)
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6)
有効活用が広がるきっかけになれば幸いである。
︵東京女子医科大学東医療センター
放射線科
准教授︶
︵*東京女子医科大学東医療センター
放射線科︶
︵
**東京女子医科大学東医療センター
放射線科
教授︶
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