非感染性ぶどう膜炎における 抗 TNF 製剤の役割

園
田
康
平
でなく、長期的観点から患者の quality of vision
を考える必要がある。診療においては、眼科の
あり、姑息的に眼炎症をコントロールするだけ
非感染性ぶどう膜炎における
抗TNF製剤の役割
ぶどう膜炎とは
ぶどう膜は虹彩・毛様体・脈絡膜の総称であ
る。眼球において中膜をなし、全体として一枚
みならず全身科との協力が不可欠である。
代表的なぶどう膜炎
内因性ぶどう膜炎は内科治療が基本であり、今
原田病、ベーチェット病
(1015)
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の﹁被膜﹂である。眼球内での占有体積はわず
かであるが豊富な血流があり、解剖学的特性か
ら眼炎症の起点となりやすい。多くの膠原病・
感染性ぶどう膜炎以外の、全身病に伴うぶど
自己免疫疾患・自己炎症疾患で全身血管炎症が
う膜炎︵内因性ぶどう膜炎︶について考える。
後生物学的製剤など新しい治療の適応拡大が期
生じ、ぶどう膜を介して眼炎症を惹起する。ま
た感染症や癌などが眼に転移するのもぶどう膜
シス、 Vogt 小柳
−
待される。代表的な原因疾患にはサルコイドー
である。
ぶどう膜炎は全身病とつながっている。ぶど
う膜炎の多くは再発する可能性のある慢性病で
−
97
Uve 領域
位を占める。
などがあり、わが国のぶどう膜炎原因疾患の上
視神経乳頭肉芽腫または脈絡膜肉芽腫
斑様の網脈絡膜萎縮病巣
虹彩炎には副腎皮質ステロイド薬や散瞳薬の
点眼、黄斑浮腫や硝子体混濁が強い症例にはス
下を起こしうる活動性の眼病変にのみ、ステロ
テロイド薬の後部テノン嚢下注射を行う。これ
2015年に改訂された﹁サルコイドーシス
の診断基準と診断の手引き﹂に示される﹁眼病
イド薬の内服︵プレドニゾロン ∼ ㎎ /日よ
塊状硝子体混濁︵雪玉状、数珠状︶
隅角結節またはテント状周辺虹彩前癒着
着物、虹彩結節︶
ともある。
ド薬による続発緑内障に対する手術が必要なこ
白内障に対する手術や、虹彩後癒着やステロイ
体手術、炎症あるいはステロイド薬による併発
結節
多発するろう様網脈絡膜滲出斑または光凝固
サルコイドーシスはステロイド治療に比較的
反応が良いが、ステロイドが使いにくい症例や
網膜血管周囲炎︵主に静脈︶および血管周囲
したり、黄斑前膜を生じたりした場合には硝子
60
らの治療に抵抗性であり、不可逆性の視機能低
変を強く示唆する臨床所見﹂は以下の6項目で
り漸減︶を行う。黄斑浮腫や硝子体混濁が遷延
疾患の第1位である。
臓器に生じる。現在、わが国のぶどう膜炎原因
呼吸器系、心臓、皮膚、神経・筋などの全身多
1.
サルコイドーシス
眼病変において前記の6項目中2項目以上を
満たせば、サルコイドーシスによるぶどう膜炎
非感染性肉芽腫性ぶどう膜炎の代表疾患であ
り、原因不明の非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が眼、 と診断できる。
6)
あり、多くは両眼性である。
1)
肉芽腫性前部ぶどう膜炎︵豚脂様角膜後面沈
30
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1)
4) 3) 2)
5)
大が望まれる。
難治例に対しては、今後抗TNF製剤の適応拡
難聴、髄液検査でリンパ球主体の細胞増多を認
もみられる。検査所見では聴力検査にて感音性
炎症は初発時には軽微であることが多いが、再
と呼ばれる網脈絡膜の脱色素を生じる。前眼部
大きな剥離を形成する。晩期には夕焼け状眼底
の漿液性網膜剥離を多数認め、一部は癒合し、
う膜炎を呈する。後極部を中心に円形・類円形
ス漸減療法を試みるが、シクロスポリンやメト
ある。再発例や遷延例には再度ステロイドパル
り再発する傾向があり、注意深い漸減が重要で
た場合や、ステロイド薬の早期減量、中止によ
ら漸減し、長期間内服を行う。治療開始が遅れ
3.
ベーチェット病
NF製剤の適応拡大が待たれる。
ることが多く、今後こういった例に対して抗T
もある。一度遷延型に移行すると治療に難渋す
トレキサートなどの免疫抑制剤を併用すること
脱落︶などがみられる。発症数カ月後には頭髪
による﹁ベーチェット病の臨床診断基準︵19
まい︶
、また毛根の炎症︵頭皮違和感、毛髪の
ベーチェット病の診断はわが国においては、
厚生労働省特定疾患ベーチェット病調査研究班
︵頭痛、項部痛︶
、内耳症状︵難聴、耳鳴り、め
膜や内耳にも炎症を生じるため、髄膜炎症状
全身所見として発症の1∼2週間前に感冒様
症状を呈することが多い。色素細胞を有する髄
発時には激しい肉芽腫性炎症を認める。
じる。両眼性に急激に発症する肉芽腫性汎ぶど
行い、その後はプレドニゾロン1日 ㎎ 程度か
2. Vogt小柳 原田病
める。
全身のメラニン産生細胞を標的とした自己免 原則的にステロイドパルス療法︵メチルプレ
疫疾患で、色素に富んだ脈絡膜組織に炎症を生
ドニゾロン1日1、
000㎎ を3日間点滴︶を
−
や睫毛、眉毛などの脱毛や白髪化、皮膚の白斑
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99
80
−
91年版︶
﹂に基づき、眼所見と全身所見から
診断する。眼症状は診断上ウエイトの高い主症
状であり、眼科医がベーチェット病患者の人生
に大きく関与することを眼科医自身が認識して
おく必要がある。
眼症状は発作性の非肉芽腫性ぶどう膜炎が両
眼に繰り返し生じる。虹彩毛様体炎型では前房
蓄膿がみられることが多く、体位により容易に
移動し、ニボーを形成する。網脈絡膜炎型では
滲出斑や網膜出血がみられ︵図①︶
、濃厚な硝
子体混濁や黄斑浮腫を伴うことがある。これら
の病変が数日から数週間で自然消退するのが特
徴的であり、発作・寛解を繰り返すうちに網脈
絡膜萎縮や網膜血管の白線化、視神経萎縮が生
じ、失明に至ることも少なくない︵図②︶
。
抗TNFα 治療薬であるインフリキシマブが
2007年から保険収載され、ベーチェット病
治療が大きく変わった。失明率が激減し、患者
の大きな福音となっている。インフリキシマブ
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②反復発作を起こしたベーチェッ
ト病症例の眼底
①ベーチェット病ぶどう膜炎(発
作期)の眼底
網膜血管炎、網膜出血、硝子体混濁を伴う。
網膜血管が白線化し、網膜全体の色が悪い。
(筆者提供画像)
(筆者提供画像)
時代の治療薬の選択について、2012年に日
文献
サルコイドーシス診断基準改定委員会 サルコイド
ーシスの診断基準と診断の手引き︱2015
眼科学 教授︶
︵九州大学大学院医学研究院
導入を行う。
懸念される重症例にはインフリキシマブの早期
スポリンの導入が難しい症例や、視機能障害が
奨されている。一方、副作用などのためシクロ
またはインフリキシマブの導入を行うことが推
ればシクロスポリンやアザチオプリンに変更、
通常はコルヒチンから開始し、効果不十分であ
本眼科学会から診療ガイドラインが出された。
2)
http://www.jssog.com/www/top/shindan/shindan2 1new.html
日本眼科学会 ベーチェット病眼病変診療ガイドラ
病︵ベーチェット病︶眼
イン作成委員会
Behçet
病変診療ガイドライン、日眼会誌、116、394
∼426︵2012︶
(1019)
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1)
2)