「燃料安」が企業収益に与える影響

景気循環研究所レポート
「燃料安」が企業収益に与える影響
2014 年 12 月 25 日
燃料の輸入価格が下落
日本企業に「燃料安」の追い風が吹いている。財務省が 12 月 25 日に発
表した 11 月の貿易統計(輸出確報・輸入速報(9 桁))によると、同月の
鉱物性燃料(原油及び粗油、石炭、石油ガス類など)の輸入価格指数は前
年比 1.3%下落した。12 年 9 月(同 0.1%下落)以来、2 年 2 ヵ月ぶりの
前年比マイナスである。
年間 4.9 兆円の燃料調達
コスト削減効果
燃料のほぼ 100%を海外からの輸入に依存する国内企業にとって、燃料
価格の下落は企業収益にプラスに寄与する。当研究所が、最近の燃料価格
の下落(14 年 1 月→11 月)が各産業に与える影響を、2012 年 SNA 産業連
関表をもとに試算したところ、石油製品を筆頭に、電気や基礎化学製品、
ガス・熱供給などの産業で大幅な値下げ余地が発生するとの計算結果が得
られた(表 1)。各産業の値下げ幅を、それぞれの売上高(産出額、2012
年)に乗じて合計すると 4 兆 9,192 億円となり、これが最近の燃料安に伴
う、燃料調達コストの削減額(年換算値、全産業ベース)と推定できる。
企業の収益力向上に貢献
足元、円安と資源安が同時進行しているが(図 1)、燃料の平均輸入価
格(円ベース)は 14 年初め以降、下落傾向を辿っている(図 2)。少なく
とも燃料の調達コストに関しては、全ての産業において収益にプラスに寄
与している模様だ(表 2)。中小企業を中心に仕入価格の上昇圧力が緩和
しつつある中(図 3)、14 年度上期の売上高経常利益率は上方修正されて
いる(日銀「短観」12 月調査、表 3)。
「燃料安」は、企業の値下げ原資で
嶋中 雄二
景気循環研究所長
はなく、企業の収益力向上に反映されている可能性が高い。
表 1. 原油等の価格下落が各産業に与える影響(上位 10 産業)
売上高(2012年)
宮嵜
浩
シニアエコノミスト
03-6213-6573
miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp
福田
圭亮
シニアエコノミスト
03-6213-2608
fukuda-keisuke@sc.mufg.jp
本レポートは、嶋中雄二の見方に基づ
き、宮嵜・福田が執筆を担当しています。
景気循環研究所
東京都千代田区丸の内 2-5-2
三菱ビルヂング
(億円)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
石油製品
電気
基礎化学製品
ガス・熱供給
その他の鉄鋼
自動車
政府・その他
小売
卸売
製鉄
全産業計
値下げ余地
(%)
(億円)
184,527
162,772
148,246
42,197
178,315
438,886
500,497
365,510
573,125
112,941
-6.8%
-4.4%
-1.9%
-5.0%
-0.8%
-0.3%
-0.2%
-0.3%
-0.2%
-0.9%
12,551
7,192
2,766
2,121
1,427
1,394
1,223
1,197
1,158
1,041
9,036,283
-0.5%
49,192
( 注 ) 「 原 油 及 び 粗 油 +石 炭 +石 油 ガ ス 」 輸 入 価 格 の ピ ー ク か ら 直 近 ま で の 下 落 幅 ( 9.4% 、 14年 1月 → 同 年 11月 )
が 、 各 産 業 の 産 出 価 格 に 及 ぼ す 影 響 を 、 2012年 SNA産 業 連 関 表 の 均 衡 価 格 モ デ ル を も と に 試 算 。
表中の売上高は、産業連関表の産出額に相当する。
( 資 料 ) 内 閣 府 「 SNA産 業 連 関 表 」 、 財 務 省 「 貿 易 統 計」 を も と に 三 菱 UFJモ ル ガ ン ・ ス タ ン レ ー 証 券
景気循環研究所作成
1
2014 年 12 月 25 日
表 2. 原油等の価格下落が各産業に与える影響(全産業)
売上高
(2012年、億円)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
石油製品
電気
基礎化学製品
ガス・熱供給
その他の鉄鋼
自動車
政府・その他
小売
卸売
製鉄
医療・保健
土木
建築
道路運送
石炭製品
一般機械
その他の製造品
飲食店
その他の化学製品
その他の食料品
水運
窯業・土石製品
金属製品
電子部品・デバイス
パルプ・紙・紙加工品
航空輸送
電信・電話
自動車・機械修理
非鉄金属
鉄道
184,527
162,772
148,246
42,197
178,315
438,886
500,497
365,510
573,125
112,941
440,529
209,520
338,758
161,499
14,197
273,914
134,148
212,736
129,208
144,053
51,715
59,245
107,515
107,904
70,884
23,349
170,558
117,019
85,528
66,554
値下げ余地
(%)
-6.8%
-4.4%
-1.9%
-5.0%
-0.8%
-0.3%
-0.2%
-0.3%
-0.2%
-0.9%
-0.2%
-0.4%
-0.3%
-0.5%
-5.7%
-0.3%
-0.5%
-0.3%
-0.5%
-0.3%
-0.9%
-0.7%
-0.4%
-0.4%
-0.5%
-1.4%
-0.2%
-0.2%
-0.3%
-0.4%
12,551
7,192
2,766
2,121
1,427
1,394
1,223
1,197
1,158
1,041
926
913
859
846
815
737
725
705
663
500
483
403
402
378
332
328
284
270
245
241
値下げ余地
売上高
(億円)
(2012年、億円)
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
情報サービス
その他の対事業所サービス
洗濯・理容・美容・浴場業
娯楽
金融
旅館・その他の宿泊所
飲料
その他の対個人サ-ビス
政府・教育
その他の運輸
広告
その他の耕種農業
ゴム製品
住宅賃貸料
産業用電気機械
畜産食料品
介護
その他の電気機器
分類不明
保険
映像・文字情報制作
非営利・その他
印刷・製版・製本
その他の輸送用機械
非営利・教育
漁業・水産養殖業
水産食料品
畜産
不動産賃貸
精穀・製粉
191,579
297,791
70,135
82,954
218,084
61,716
74,361
86,811
128,328
88,783
79,872
41,337
29,270
586,969
63,915
43,084
87,977
51,983
38,226
114,813
64,219
92,086
47,708
34,450
66,573
14,992
27,460
29,589
60,360
28,226
(%)
-0.1%
-0.1%
-0.3%
-0.3%
-0.1%
-0.3%
-0.3%
-0.2%
-0.1%
-0.2%
-0.2%
-0.4%
-0.6%
0.0%
-0.2%
-0.3%
-0.2%
-0.3%
-0.4%
-0.1%
-0.2%
-0.1%
-0.3%
-0.3%
-0.2%
-0.7%
-0.4%
-0.3%
-0.2%
-0.3%
(注)「原油及び粗油+石炭+石油ガス」輸入価格のピ ークから直近までの下落幅(9.4%、14年1月→同年11月)が、各産業の産出価格に及ぼす影響を 、2012年SNA産業連関表の均衡価格モデルを もとに試算。表中の売上高は、産業連関表の産出額に相当。
239
235
225
224
212
205
205
187
187
180
174
174
168
161
149
144
142
138
138
125
122
121
120
119
113
108
108
103
99
94
(2012年、億円)
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
76
77
78
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
(資料)内閣府「SNA産業連関表」、財務省「貿易統計」を もとに三菱UFJモルガン ・スタン レー証券景気循環研究所作成
図 1. 円安と資源相場下落が同時進行
(67年=100)
500
船舶
廃棄物処理
通信機械・同関連機器
織物・その他の繊維製品
精密機械
米麦
放送
製材・木製品
上水道
不動産仲介
衣服・身回品
化学繊維
民生用電気機器
電子計算機・同付属装置
家具
郵便
業務用物品賃貸業
砂利・砕石
研究
林業
教育
農業サ-ビス
その他の公共サ-ビス
たばこ
その他の非金属鉱物
皮革・毛皮製品
石炭・原油・天然ガス
紡績
獣医
工業用水道
金属鉱物
全産業計
(%)
28,128
26,551
42,546
15,052
33,173
21,210
36,049
19,373
29,160
34,532
17,752
4,405
21,536
21,558
17,681
17,477
54,116
4,431
4,932
5,140
8,621
5,233
5,459
20,813
1,337
3,203
1,307
1,377
3,126
1,346
155
9,036,283
(億円)
-0.3%
-0.3%
-0.2%
-0.6%
-0.2%
-0.3%
-0.2%
-0.3%
-0.2%
-0.2%
-0.3%
-1.3%
-0.3%
-0.3%
-0.3%
-0.3%
-0.1%
-0.9%
-0.7%
-0.6%
-0.3%
-0.4%
-0.3%
-0.1%
-0.8%
-0.3%
-0.5%
-0.5%
-0.2%
-0.2%
-0.8%
-0.5%
94
90
87
86
74
72
70
63
62
61
56
56
55
55
54
46
41
40
33
29
26
19
17
13
11
8
7
6
6
3
1
49,192
図 2. 燃料の輸入価格は下落傾向
(円/ドル)
450
値下げ余地
売上高
(億円)
140
(14年1月=100)
105
石炭
130
ドル円レート(右目盛)
400
120 100
350
110
300
100
250
90
200
石油ガス類
加重平均
95
14年11月
90.6
90
80
150
70
国際商品価格指数(左目盛)
100
60
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
85
原油・粗油
80
13
(年、日次)
(注)国際商品価格指数はトムソン・ロイター/コアコモディティーCRB指数。
(資料)Bloombergをもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
図 3. 仕入価格の上昇圧力が緩和
35
14
(年、月次)
( 注)加 重平均 は2012年暦年 の輸入 金額を もとに 算出。
( 資料) 財務省 「貿易 統計」 をもと に三菱 UFJモルガ ン・ス タンレ ー証券 景気循 環研究 所作成
表 3. 売上高経常利益率(日銀短観、全規模合計)
(「上昇」-「下落」、%ポイント)
30
(%)
13年度
全規模企業(日本銀行調べ、四半期)
25
20
全産業
15
4.44
10
製造業
5
0
-5
非製造業
中小企業(商工中金調べ、月次)
-10
10
11
12
13
14
5.73
3.82
14年度
計画
上期
下期
(4.22)
(4.13)
(4.30)
4.36
4.61
4.13
(5.51)
(5.46)
(5.56)
5.67
5.98
5.37
(3.60)
(3.49)
(3.70)
3.74
3.96
3.54
(注)上段のカッコ内の数値は14年9月調査、下段は14年12月調査。
(資料)日本銀行「企業短観経済観測調査」より三菱UFJモルガン・スタンレー
証券景気循環研究所作成
(年)
(資料)日銀「短観」、商工中金「中小企業月次景況観測」をもとに三菱UFJ
モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
(以
上)
みやざき
ひろし
(14.12.25 宮嵜
巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。
2
浩)
2014 年 12 月 25 日
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巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。
3