米国の広義失業率の低下は、16 年の賃金の本格上昇を示唆

景気循環研究所レポート
米国の広義失業率の低下は、16 年の賃金の本格上昇を示唆
2016 年 3 月 31 日
米国賃金の伸びは緩やか
米国の賃金は、緩やかな伸びに止まっている。イエレンFRB議長は、3
月16日のFOMC後の記者会見で、
「労働情勢が幅広く改善しているにも関わ
らず、賃金の伸びが緩慢なペースに止まっていることに幾分驚いている」
との見方を示した。
16年2月の時間当たり賃金は、前年比2.2%と前月の同2.5%から低下し
た。15年に入り、賃金上昇率は、それまでの横ばい圏を脱したようにも
見えるが、上昇ペースは緩やかで、トレンドが転換したかどうか判然と
しない(図1)
。
狭義失業率と賃金の関係
が変化
賃金の伸びと狭義失業率(一般的な定義に基づく失業率)の関係をみ
ると、87年、95年、04年の過去3回の局面において、賃金の伸びは、狭義
失業率が均衡水準である自然失業率を下回る1~2年前に、大きく上向い
ている。ところが、今回の局面では、狭義失業率が自然失業率を大きく
下回っているにも関わらず、賃金の伸びは鈍く、賃金上昇率が上昇局面
に入ったかどうかの判断すら難しい状況である。狭義失業率と賃金の伸
びの関係が過去と変わってしまった可能性がある。
上記の状況は、労働市場に、狭義失業率では捕捉しきれない労働余剰
が残っていることを示していよう。図1の広義失業率(一般的な定義の
嶋中 雄二
景気循環研究所長
鹿野 達史
景気循環研究所副所長
シニアエコノミスト
宮嵜 浩
失業者に、①就業を希望しながらも過去4週間求職活動をしていないため
(%)
18.0
図1.米国の賃金上昇率と失業率
16.0
16.0
広義
失業率
14.0
シニアエコノミスト
03-6213-6573
12.0
miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp
10.0
福田 圭亮
シニアエコノミスト
03-6213-2608
(%)
18.0
8.0
14.0
2年?
2年3カ 月
1年10カ 月
10.0
広義
自然失業率
狭義失業率
8.0
6.0
6.0
自然失業率
fukuda-keisuke@sc.mufg.jp
4.0
本レポートは、嶋中雄二の見方に基づ
き、宮嵜・福田が執筆を担当しています。
景気循環研究所
東京都千代田区丸の内 2-5-2
三菱ビルヂング
4.0
2.0
0.0
12.0
△
△
時間当たり賃金
(前年同月比) △
2.0
△
0.0
85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17
(注)狭義失業率:一般的な定義(過去4週間以内に求職活動)に基づく失業率
広義失業=失業者+就職希望も過去4週間求職活動していない者+フル希望のパート
広義自然失業率=自然失業率+{広義失業率と失業率の差の94~07年平均}
(出所)米労働省『Employment Situation』、CBO
1
2016 年 3 月 31 日
に失業者にカウントされない者、②フル・タイム労働を希望しながらもパー
ト・タイム労働しか見つけられない者を対象に含んで算出した失業率)は、
いまだに均衡水準を上回っている。この指標ならば、賃金上昇が鈍い理由を
説明できそうである。
賃金上昇率と広義失
賃金の伸びと広義失業率の関係をみると、95 年と 04 年の賃金の伸びは、
業率の関係から、賃
広義失業率が均衡水準(広義自然失業率)を下回る約 2 年前に上昇ペースを
金の伸びは上昇局面
速めている。今回の局面でも、広義失業率が 16 年末に均衡水準を下回ると仮
入りと判断
定し、賃金の伸びが 15 年年初から上昇局面に入ったと判断すれば、賃金加速
のリードタイムは、ほぼ 2 年となる。
つまり、失業率の定義を少し拡大してみれば、失業率と賃金上昇率の関係
は、大きく変化していないと考えられる。このことから、16 年の賃金の伸び
は、よりはっきりとした上昇トレンドを示すと予想される。
イエレン議長は「かなりの企業が、賃金上昇圧力に直面し、若干速いペー
スでの賃金の上昇を許容しているという、アネクドータル(データの裏打ち
のない事例的)な報告があるにも関わらず、統計データでは、広範な賃金上
昇が見られない」としているが、間もなく、この謎も解消されると考えられ
る。
(以
(16.3.31
巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。
2
上)
福田)
2016 年 3 月 31 日
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