一段と低下する「完全雇用の失業率」

景気循環研究所レポート
一段と低下する「完全雇用の失業率」
2015 年 3 月 31 日
完全雇用の失業率
2 月の完全失業率(季節調整値)は前月から 0.1%ポイント低下して、
再び 3.5%となった。3%台半ばの失業率は、一般に「完全雇用の失業率
=構造失業率」とされており、日本銀行の黒田総裁も「いわゆる構造失業
率は 3%台半ば」「現在(14 年 1 月)の失業率 3.7%は、完全雇用に極め
て近い状況」と述べている(14 年 3 月 11 日の会見)。
一方、日本銀行の政策委員会審議委員に任命された原田泰氏は、3 月 26
原田審議委員の認識
日の就任記者会見で「物価が上がっていない状況での失業率を、完全雇用
であるということはできない」と述べ、「2.5%くらいが完全雇用の失業率
ではないか」との見解を示した。足元の物価動向をみると、2 月の消費者
物価指数は生鮮食品を除く総合(コア CPI)で前年比横ばい、食料・エネ
ルギーを除く総合(コアコア CPI)でも同 0.3%上昇にとどまっている(と
もに消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベース)。こうした中、雇
用情勢に一段の改善余地があるとすれば、日本銀行は、足元のゼロインフ
レ状態から脱却を図るべく、追加の金融緩和を実施する必要がある。
原田審議委員は、財務省の財務総合政策研究所次長だった 02 年 7 月に、
構造失業率の推計方法
「構造的失業とデフレーションについて」という論文を共同執筆してい
る。同論文によると、構造失業率は「2%台半ばから、せいぜい 3%台半
ばの水準」と推計されている。内閣府は現在、同論文で紹介された構造失
業率の算出方法をもとに、潜在成長率の算出に必要な構造失業率を推計し
嶋中 雄二
景気循環研究所長
宮嵜
造失業率は 2.48%となり、原田審議委員の認識と一致する(図 1・2)。
浩
シニアエコノミスト
03-6213-6573
miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp
福田
ているが、内閣府の推計式に現在の経済データを当てはめると、足元の構
図 1. 構造失業率の推計
(%)
0
構造失業率①
(単純なUV分析)
1
圭亮
2
シニアエコノミスト
03-6213-2608
3
構造失業率②
(内閣府)
2.48
3.45
fukuda-keisuke@sc.mufg.jp
4
本レポートは、嶋中雄二の見方に基づ
き、宮嵜・福田が執筆を担当しています。
景気循環研究所
東京都千代田区丸の内 2-5-2
三菱ビルヂング
実際の失業率
5
6
80
85
90
95
00
05
(資料)内閣府、総務省、厚生労働省資料より三菱UFJモルガン・スタンレー証券
景気循環研究所作成
1
10
15
(年、四半期)
2015 年 3 月 31 日
図 2. 内閣府による構造失業率の推計
log(雇用失業率) =0.01-0.15*log(欠員率)+0.87*log(雇用失業率(1 期前))
+0.10*(離職率)+0.01*(非常用雇用比率)
↓
log(雇用失業率)=log(欠員率)=log(雇用失業率(1 期前)
)
となる点から、構造失業率を算出する
(注 1)雇用失業率=完全失業者数÷(完全失業者数+非農林業雇用者数)×100
(注 2)欠員率=(有効求人数-就職件数)÷(有効求人数-就職件数+非農林業雇用者数)×100
(注 3)離職率は事業所規模 30 人以上。
(注 4)非常用雇用比率=(日雇・臨時の雇用者数)÷非農林業雇用者数×100
但し、調査票の変更に伴い、臨時雇用者数に 180 万人の段差が発生している(2013 年 1 月)。
(資料)内閣府「今週の指標 No.1032 2012 年 1-3 月期の GDP ギャップは改善」
構造失業率に含まれる
循環的要因
内閣府の構造失業率の推計方法は、UV 分析を土台にして、構造的要因を加
えるなどの様々な加工が施されている。それでも構造失業率の推計には「相
当程度、循環的要因が含まれている可能性がある」(原田審議委員の前掲論
文)。内閣府の推計式には、構造的要因の代理変数として、離職率と非常用
雇用比率が採用されているが、現在のように好景気で離職者が減少し、従業
員の正社員化が進むと、構造失業率は低下する計算となる。
中長期的な低下局面
一方、構造的要因を取り除いた推計式(雇用失業率を欠員率のみで説明す
る単純な UV 分析)で構造失業率を推計すると、現在の水準は 3%台半ばとな
るが、その中長期的な変化は、資産価格およびマネーストックに約 2 年遅れ
て連動している(図 3)。一般に、地価の上昇局面では、人口移動が活発化す
る傾向があり、求職者も多くの雇用機会を得やすくなるため、構造的失業の
推計に含まれる「摩擦的失業」が減少する可能性がある。資産デフレからの
脱却が進む中、構造失業率は中長期的な低下局面に入った可能性が高い。さ
らにマネー流通量の拡大によって、構造失業率は一段と低下するとみられる。
②
図 3. 構造失業率の中長期的な変化
21
(前年比、%)
(前年比、%)
構造失業率
(単純なUV分析、右逆目盛②)
18
15
9
マネーストック(広義流動性、左目盛)
6
1.5
20
2.0
2.5
16
3.0
3.5
8
4.0
4
4.5
0
3
0
24
12
12
(%)
-4
-8
市街地価格指数(全国、右目盛①)
-12
-3
81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15
(注)構造失業率は図1の「構造失業率①(単純なUV分析)」。
(資料)内閣府、総務省、厚生労働省、日本銀行、日本不動産研究所資料より三菱UFJモルガン・
スタンレー証券景気循環研究所作成
(以
上)
みやざき
ひろし
(15.3.31 宮嵜
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2
浩)
2015 年 3 月 31 日
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