ECB量的金融緩和:イールドカーブの変化を読む

ご参考資料
ピクテ・グローバル・マーケット・ウォッチ 2015年1月13日
先進国
Pictet Global Market Watch
ECB量的金融緩和:イールドカーブの変化を読む
欧州中央銀行(ECB)の量的金融緩和の開始時期と規模を巡る思惑が交錯しています。ECBの国債購入に備えた
債券ならびに通貨投資戦略を、ピクテのグローバル債/ユーロ債運用チーム、共同ヘッドを務めるミカエル・ベン
ハイムが解説します。
図表1:米国国債の利回りと利回り格差
およびFRBのQEプログラム
量的金融緩和:米国とユーロ圏の類似点
(期間:2007年12月末~2014年12月末)
足元の債券市場と欧州中央銀行(ECB)内の意見の不
一致は、ベテランの中銀ウォッチャーにとって、米連邦
準備制度理事会(FRB)が2010年下期に実施した量的
金融緩和第2弾(QE2)に至る時期の市況を思い起こさ
せるに違いありません。
当時のバーナンキFRB議長は、総額6,000億ドルに上
る国債購入プログラムを最終決定するまでの期間を通
じて激しい政治的抵抗に遭い、QE反対派からは、国債
購入プログラムはインフレを煽り、ドルの暴落を引き起
こすことになりかねないとの警告を受けました。同様に、
現在ドラギECB総裁は、国債購入が財政ファイナンス
を禁じる法に抵触し、1920年のハイパー・インフレや資
産バブルの状況をもたらしかねないと主張するドイツ
人を中心としたQE反対派の説得に懸命です。
07年12月
09年12月
期間
QE1
2010年3月31日
~
QE2
購入資産
米国国債:3,000億ドル
政府機関債:1,750億ドル
米国長期国債:6,000億ドル
2011年6月30日
2011年9月21日
OT※1
~
米国国債の利回り格差(10年国債利回りと30年国債利
回りの格差、イールドスプレッド)は、QE2開始が期待さ
れていた時期には、1%(100ベーシス・ポイント)近辺で
推移していました。ところが、イールドカーブはFRBが
QE2開始を示唆した途端に形状を変えはじめ、10年国
債と30年国債のイールドスプレッドは数ヵ月のうちに
160ベーシス・ポイントまで急拡大しました(図表1参照)。
これは、QEが長期のインフレ期待を強めた結果、10年
国債以上に30年国債が売られた(10年国債利回り以
上に30年国債利回りが上昇)ためで、このような状況を
ベア・スティープニングと呼びます。
13年12月
2010年11月3日
2012年末
2012年9月13日
QE3
~
イールドカーブのスティープニング
11年12月
2008年11月25日 資産担保証券(MBS):1.25兆ドル
~
ピクテでは、米・欧の量的金融緩和を巡る類似点は、
上述の状況だけに留まらないと考えます。ユーロ圏国
債の利回り曲線(イールドカーブ)が、4年前の米国国
債のイールドカーブに類似した形状を示し始めている
からです。
2014年10月
残存期間6-30年の米国国債を4,000億ドル購入し、
同時に3年以下の国債を同額売却
2012年6月に2,670億ドルを追加
資産担保証券(MBS):月額400億ドル
米国国債:月額450億ドル
(2014年1月以降FOMC開催毎に100億ドル減額)
※1 オペレーション・ツイスト:長期債券の買い(あるいは売り)オペと短
期債券の売り(あるいは買い)オペを同時に行うことにより通貨供給量
を変えずに金利を動かす公開市場操作
出所:ピクテグループのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
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ピクテ投信投資顧問株式会社
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ピクテでは、同様の状況がユーロ圏の国債市場でも起
こるものと見ています。
足元では、ユーロ圏のインフレ率がECBの目標水準か
ら乖離幅を広げ一段と低下するとの予測に基づき、よ
り長期の30年国債利回りが低下を続けているため、ド
イツの10年国債と30年国債のイールドスプレッドは80
ベーシス・ポイント近辺で推移しています(図表2参照)。
しかしドラギECB総裁は、ECBのバランスシートを現時
点の規模を1兆ユーロ程度上回る2012年年初時点の
規模にまで拡大させることで長期のインフレ期待を高
めるべく、準備を進めています。したがって、目先数週
間はイールドカーブのスティープニング(長短金利差が
拡大しイールドカーブの傾斜が増すこと)を予想したポ
ジションを取ることでリターンが期待できると考えます。
ECBが国債購入プログラムの開始時期を明確に示唆
した時点で、ユーロ圏のイールドカーブのスティープニ
ングが予想されますが、このスティープニングは2010
年の米国国債市場のスティープニングを遥かに上回る
ものとなりそうです。ECBはFRBとは異なり、購入国債
の償還年限を10年以下に限定すると予想されるためで
す。
ユーロは一段安
ECBのQEプログラムからリターンを獲得する手段には、
対米ドルのユーロ売りのポジション構築も考えられま
す。ECBは通貨安を域内の経済成長を促す主要な手
段の一つと考えているため、今後2ヵ月程度は、ユーロ
安に拍車がかかる公算が高いと見ています。
ピクテでは、ECBのQEプログラムから最初に恩恵を受
けるのは域内の銀行だと見ています。2014年の9月か
ら10月は、世界の投資不適格債のデフォルト率が史上
最低水準に留まったにもかかわらず、ボラティリティは
大幅に上昇する展開でした。しかし、足元の状況では、
流動性リスクを取ってもそれに十分見合うリターンが得
られる公算は低いと考えています。
QEの規模ならびに開始時期
QE懐疑派は、ECBが国債購入に先んじて、社債等、国
債以外の債券をバランスシートに積み上げることで時
間稼ぎをしていると批判するかもしれません。
ECBは社債の購入により正しい方向に踏み出したかも
しれませんが、バランスシートの拡大目標を達成する
にはいかにも規模が足りません。
図表2:ユーロ圏国債の利回り格差
(期間:2014年1月1日~2014年12月10日)
14年1月
14年4月
14年7月
14年10月
出所:ピクテグループのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
ECBが購入対象資産を、レポ取引の既存の適格担保
証券に限るとすると、市場規模は5,000億ユーロ程度と
なることが予想されます。ECBの購入による価格の大
きな歪みを避けるため、購入額は市場の10-30%程度
に抑えられることが予想されますから、今後2年の購入
額は500-1,500億ユーロ程度に限定されることとなりそ
うです。
ECBは、最終的には国債の購入を始めざるを得ないと
考えます。また、国債購入の必要性は緊急の度合いを
増しています。企業向け融資が依然として低調に留
まっていることは懸念材料の一つです。
ECBの資産査定により域内大手行がバランスシートを
強化したことが明らかとなりましたが、銀行側が直ちに
融資を拡大させる公算は低いと考えます。バーゼル3、
ドッド・フランク法、デリバティブ規制改革等を通じ、大
手行が規制当局に資本の積み増しを要求されているこ
とが一因です。
低インフレが日本型のデフレを引き起こすことも懸念さ
れます。
期待インフレを測る指標としてECBが注視するユーロ
圏の5年先5年物ブレイクイーブン・フォワードレートは、
低下基調を辿っており、2015年年初には2%を割り込ん
だ場面も見られました。FRBにQEの開始を促したのは
まさしくこの水準だったことは注目に値すると考えます。
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