欧州銀行株:収益悪化懸念で下落

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ピクテ・マーケット・フラッシュ 2016年2月18日
先進国
Pictet Market Flash
欧州銀行株:収益悪化懸念で下落
ここ数週間、欧州の銀行株が大きく下落しています。不良債権の増加やマイナスの中銀預金金利に起因する利鞘
の悪化等、収益性が懸念されています。一方、2007-2008年の金融危機時とは異なって、流動性ならびに支払能
力には問題が認められません。デフレ圧力や世界経済の減速懸念等、外部要因の影響も大きいと思われます。
欧州銀行株の足元の状況
銀行危機の再燃を巡る懸念が強まる中、ここ数週間、
欧州の金融株が大幅に下落しています。一方、欧州の
銀行株が欧州株式市場全体と比較して下落している
のと同程度に、米国の銀行株も米国株式市場全体に
対して下落しており、欧州の銀行株に固有の問題では
ない可能性も示唆されます。とはいえ、世界経済の減
速を巡る各種の懸念が、銀行セクターの収益期待を損
なう可能性は否めず、銀行株の重しとなる状況が続く
公算は高いと思われます。
欧州銀行株の下げの要因
欧・米の銀行株の利益予想については、ここ数週間の
うちに、下方修正を促す新たな要因が浮上しています。
①原油ならびにその他資源価格の下落に起因する損
失が発生していることから、2007-2008年の金融危機
以降続いてきた企業信用の改善基調が悪化に転じた
との見方が強まりつつあります。米銀ならびに一部の
欧州系銀行が2015年10-12月期にエネルギー・セク
ター向け融資で損失計上したことから、資源価格の低
迷が続いた場合、同様の損失計上が続くのではとの不
安が高まっています。損失がどの程度まで膨らむかは、
資源価格がどこまで下落し、価格の低迷がどのくらい
の期間続くか次第です。もっとも、貸倒による損失の発
生は、数四半期にかけて、緩やかに増えていくことが
予想されます。この点において銀行のトレーディング勘
定が保有する証券の時価評価(評価減)に伴って、即
刻の損失計上を余儀なくされた2007-2008年の金融危
機時とは、状況が大きく異なります。
ピクテ投信投資顧問株式会社
②低金利・マイナス金利は、通常、銀行の純金利収入
ならびに利益(収益)に負の影響を及ぼします。ユーロ
圏では、欧州中央銀行(ECB)が(市中銀行の預金に
適用する)中銀預金金利のマイナス幅を3月のECB政
策理事会で10ベーシス・ポイント(0.1%)引き下げる公算
が高いと思われますが、中銀預金金利の引き下げは、
欧州銀行の利益を圧迫するだろうと考えられます。一
方、米国では、数週間前まで、年4回の利上げが銀行
の利鞘を改善するとの見方が大勢だったのに対し、足
元の市場は、利上げのペースが鈍り、銀行の収益は
期待されていた程には改善しないとの見方が強まって
います。更に、1月末には日本銀行がマイナス金利を
導入したことから、マイナス金利が世界的に広がり、適
用期間が長期化するのではとの懸念が浮上しており、
金利の下限を巡る議論も絶えません。欧・米の銀行に
は、いずれも、悪材料です。
③信用市場ならびに株式市場の低迷を受け、トレー
ディング収入が落ち込んでいることから、欧・米の投資
銀行ならびにグローバル銀行は、ともに収益が悪化し
ています。資産運用業界でも、資産運用残高の減少が、
収益の悪化につながる可能性があります。
システミック・リスクは想定外
上述の通り、銀行は、複数の理由で、収益の悪化が懸
念されていますが、少なくとも現時点では、流動性なら
びに支払能 力についての問題は見当たりません。
2007-2008年の金融危機時とは異なり、銀行の収益悪
化が経済全体に波及するシステミック・リスクも想定さ
れません。
<次ページに続きます>
※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内
容が変更される場合があります。
巻末の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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(これまでに発表された2015年10-12月決算を基に算
出した)欧州銀行の支払余力比率は2007-2008年の金
融危機前の水準を遥かに上回っています。銀行の流
動 性 は 潤 沢 で あ り 、 的を 絞 っ た 長期 資 金 供 給 オ ペ
(TLTRO)を通じた、上限の無いユーロ建ての流動性
が入手可能です。米ドル建ての流動性についても問題
はありません。一方、香港ドル建ての流動性について
は、ここ数週間、銀行金利に対する上昇圧力が高まっ
ています。
図表1:欧州銀行の株価と期待インフレ率の推移
日次、期間:2014年1月1日~2016年2月12日
170
2.4%
160
2.2%
150
2.0%
140
1.8%
130
1.6%
120
1.4%
ユーロストックス銀行指数(左軸)
一 方 、 市 場 の 流 動 性 に は 懸 念 が 見 ら れ 、 た とえ ば
「AT1債」(「その他Tier1(中核的自己資本)」として資
本算入可)利回りの急上昇や、クレジット・デフォルト・
スワップ(CDS)の大幅拡大は、信用市場を中心とした
流動性の低下が一因かもしれません。実際のところ、
AT1債の流動性は枯渇状況にあることから、AT1債の
保有者がCDSの保証を買うことで、エクスポージャーを
ヘッジする動きも見られます。
110
(とりわけ、不良債権に苦しむ)イタリアの銀行ならびに
ドイツ銀行を巡る懸念は払拭されません。とはいえ、
(シエナを拠点とするモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ
銀行は恐らく例外として、)イタリアの銀行の支払い能
力に問題があるとは思われません。また、(利益の大
幅悪化は避けられないものの)ドイツ銀行の支払い能
力についても同様です。
デフレ・リスクが拡大するに連れて、欧・米の銀行に余
波が及ぶリスクも増しています(図表1参照)。更に、重
要なのは、銀行セクターの市場感応度(ベータ)は市場
の混乱時に上昇する傾向が見られることです。銀行は
レバレッジ(借入比率)が高く(総資産がどの程度自己
資本で賄われているかを示す自己資本比率は、欧州
銀行の場合は5%以下、米銀の場合もこれを若干上回
る程度に過ぎません)、貸出先セクター、貸出先地域の
いずれも広範囲に及ぶからです。足元の状況を勘案す
ると、前者ではオイル・ガスならびに各種商品セクター
向け貸出、後者では、新興国向け貸出が懸念されます。
外部要因を巡る懸念材料
欧州銀行株の下落は、銀行セクター固有の問題では
なく、世界の株式市場の混乱やグローバル経済の先
行きを巡るより広範な懸念に起因する公算が高いと思
われます。原油価格の低迷、中国経済の成長鈍化な
らびに(市場混乱時の)当局の不手際、各国中央銀行
の成長支援能力の衰え等を巡る懸念が株式市場の大
幅下落をもたらしたものと思われます。このような状況
に加えて最近までのドル高の影響もあり、米連邦準備
制度理事会(FRB)は利上げを早まったのではないか、
米国経済は景気後退(リセッション)に陥るのではない
かとの懸念も強まっています。
1.2%
期待インフレ率(5年先・右軸)
100
1.0%
90
0.8%
80
14年1月
0.6%
14年7月
15年1月
15年7月
16年1月
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
足元の状況では、金融セクターの中では、バランス
シート・リスク(不良債権リスク)が低く、業務粗利益の
悪化(総売上減)に対する脆弱性の低い、銀行以外の
金融機関が選好される傾向が見られます。一方、銀行
銘柄では、市場エクスポージャーが低く、国内のリテー
ル業務に注力する銀行が相対的に有利となる可能性
が考えられます。保険銘柄には、銀行に比べてリスク
が低く、バランスシートが健全で配当支払い能力が高
い傾向が認められます。生命保険会社に比べて市場リ
スクが低いと見られる損害保険銘柄も注目されていま
す。
銀行にとってデフレ圧力が特に懸念されるのは、インフ
レがマイナスに転じると、債務の実質価値が増すから
です。
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