この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 英文原著論文紹介 ⑧腎・透析 Excessive fall of blood pressure during maintenance hemodialysis in patients with chronic renal failure is induced by vascular malfunction and imbalance of autonomic nervous activity. Yamamoto K, Kobayashi N, Kutsuna T, Ishii A, Matsumoto T, Hara M, Aiba N, Tabata M, Takahira N, Masuda T. Ther Apher Dial 2012; 16: 219-25. PMID: 22607564 慢性腎不全患者の維持血液透析時に認められる過剰な血圧低下は 血管と自律神経の機能異常によって生じる 増田 卓(北里大学大学院医療系研究科循環器内科学教授) 山本壱弥/小林直之/忽那俊樹/石井 玲/松本卓也/原 美弥子/饗庭尚子/田畑 稔/ 高平尚伸 背景 チド(brain natriuretic peptide;BNP)で評価した。 維持血液透析(hemodialysis;HD)患者における透析時 動脈硬化度の指標として、HD 開始前に form PWV/ABI 低血圧は、HD 治療を安全に行ううえでの重大な障害とな (オムロンコーリン)を用いて上腕−足首間脈波伝播速度 るばかりではなく、患者が質の高い社会生活を行ううえ (brachial-ankle pulse wave velocity;baPWV)を測定 での主要な制限因子となっている。近年、HD 患者の心拍 した。 変動解析から、HD 中に生じる血圧低下の原因として自律 自律神経活動の評価は、HD 開始前から HD 終了までホ 神経活動の不均衡による血管機能障害が関与することが ルター心電図(Aria, Delmar Reynolds Medical, California) 報告された。しかし、HD 中の血圧低下に際して自律神経 で R-R 間隔を記録し、最大エントロピー法で心拍変動解 活動の変化を定量的に評価し、透析時低血圧と自律神経 析を行った(MemCalc、諏訪トラスト)。高周波成分(HF) 活動の関係を詳細に検討した報告は少ない。 を副交感神経活動、低周波成分(LF)と HF の比(LF/HF)を 目的 交感神経活動、エントロピーを心拍変動の乱雑性の指標 として用いた。HD 開始前の 20 分間の HF、LF/HF、エン HD 患者において、自律神経活動の不均衡と動脈伸展性 トロピーの平均値を HD 前値とし、HD 中に記録された の障害を基盤とする血管機能障害が HD 中の血圧低下に及 HF、LF/HF、エントロピーの平均値を HD 値とした。 ぼす影響について検討した。 HD 患者の日常生活における身体活動量を評価するため、 対象と方法 週 3 回、HD 治療を受けている慢性腎不全患者 56 例を 対象とした。ただし、心不全患者、HD の除水量が体重比 5 % を超えた患者、β 遮断薬服用中の患者は対象から除外 加速度計付き万歩計 (Lifecorder GS、スズケン ) を1週間 装着し、患者が費やした運動時間から 1 週間の消費エネル ギー量を算出した。 結果 した。 患者背景因子を表1に示す。年齢、男女比、BMI、LVEF、 HD 中は血圧を 30 分ごとに測定し、HD 開始時、HD 中 BNP、HD 期間、DM 合併率、dry weight、除水率は、両 に収縮期血圧が最低値を示した時点の血圧を記録した。 群間で有意差を認めなかった。血圧不変群と比較して、 HD 開始時の収縮期血圧と比較して、HD 中の収縮期血圧 血圧低下群の baPWV は有意に高値を示し(p = 0 .04) 、血 の低下が 30 mmHg 未満であった患者を血圧不変群、HD 圧低下群の 1 週間の身体活動量は有意に低値を示した(p 中に収縮期血圧が 30 mmHg 以上低下した患者を血圧低下 = 0 .004)。 群とした。 HF、LF/HF、エントロピーの HD 前値と HD 値の比較 患 者 背 景 因 子 と し て、HD 期 間、 糖 尿 病(diabetes を図 1 に示す。HD 前値と比較して、血圧不変群の HF、 mellitus;DM)合 併 の 有 無、 除 水 後 の 体 重 で あ る dry LF/HF、エントロピーは HD 中に有意に増加し(p < 0 .01、 weight を調査した。HD における除水量の評価として、HD p < 0 .01、p < 0 .05)、血圧低下群のエントロピーは HD 前後の体重変化を HD 後の体重で除した値(除水率)を算出 中に有意に低下した(p < 0 .05)。 し た。 心 機 能 は、HD 前 の 左 室 駆 出 率(left ventricular 56 ejection fraction;LVEF)と血清脳性ナトリウム利尿ペプ この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 英文原著論文紹介⑧ 表1 ● 患者背景因子 血圧不変群(26 例) 血圧低下群(30 例) p値 62 ± 12 61 ± 13 ns 12/14 12/18 ns 20.8 ± 2.6 20.9 ± 2.5 ns 69 ± 9 65 ± 7 ns BNP(pg/mL) 376 ± 263 362 ± 238 ns 透析期間(年) 4.6 ± 5.3 5.1 ± 6.7 ns 9/17 16/14 ns Dry weight(kg) 53.2 ± 9.1 53.1 ± 14.2 ns 除水率(% 体重) 3.5 ± 1.2 3.4 ± 0.9 ns 1706 ± 494 2028 ± 465 0.04 892.2 ± 791.4 567.5 ± 819.2 0.004 年齢(歳) 男/女 BMI(kg/m2) 左室駆出率(%) 糖尿病の合併(有 / 無) baPWV(cm/sec) 身体活動量(kcal/ 週) 値は mean ± SD で表示、BMI:body mass index、BNP:血清脳性ナトリウム利尿ペプチド、baPWV:上腕 - 足首脈波伝播速度 図 1 ● HF、LF/HF、エントロピーの HD 前値と HD 値の比較 ○:血圧不変群、●:血圧低下群、値は mean ± SD で表示、* p < 0 .05、** p < 0 .01:HD 前値 vs. HD 値、† p < 0 .05、‡ p < 0 .01:血圧不変群 vs. 血圧低 下群、HD 前値:血液透析前の HF、LF/HF、エントロピーの平均値、HD 値:血液透析中の HF、LF/HF、エントロピーの平均値、HF:高周波成分、 LF/HF:低周波成分と高周波成分の比 (ms 2) (%) 10 100 80 LF/HF HF エントロピー 40 ** 8 ** 60 30 20 6 4 0 0 HD前値 HD値 * 10 † ‡ 2 20 * 0 HD前値 考察 HD値 HD前値 HD値 ントロピーが増加しない血圧低下群では、血圧低下が大 きいにもかかわらず心拍数の反射性増加は認められず、 透析時低血圧の主な原因として、HD による循環血漿量 循環血漿量の変動に対する調節機構が破綻していること の減少が挙げられ、自律神経機能の障害が加わると血圧 が示された。 維持が困難となって、急激な血圧低下が生じるといわれ また、本研究では血圧低下群において baPWV が有意に ている。本研究では、除水率に両群間で差を認めなかっ 高値を示し、血圧不変群と比較して動脈硬化の進行がよ たことから、HD 中の血圧低下の原因として HD による除 り顕著であることが示された。動脈硬化の強力な促進因 水過多による影響は少ないと考えられた。 子である糖尿病の合併や透析期間には両群間で有意差を HD 患者の自律神経活動の検討では、HD 中に血圧低下 認めなかったが、1 週間の身体活動量は血圧不変群と比較 を示さない患者は LF/HF が増加するのに対して、低血圧 して血圧低下群で有意に低下していたため、身体活動量 を示す患者は LF/HF が十分に増加しないことが報告され の低下が動脈硬化性病変の進展に関与したと思われた。 ている。本研究では、血圧不変群は HD 中に HF、LF/HF、 エントロピーが有意に増加したが、血圧低下群では HD 中 結論 に HF、LF/HF は有意な変化を示さず、エントロピーは有 HD 患者における透析時低血圧の発生機序として、動脈 意に低下した。これは、HD 中の血圧低下の出現機序とし 硬化性病変に起因する末梢血管の収縮・拡張能の低下に て自律神経活動の不均衡、あるいは自律神経活動全般の 加えて、自律神経活動の不均衡による血圧維持の代償不 活動性低下が関与すると考えられた。さらに、エントロ 全が主な要因と考えられた。 ピーの低下は心拍調節機能の反応性低下を表すため、エ 57
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