この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 特集:認知症・サルコペニア・フレイルと動脈スティフネスとの関連⑤ サルコペニアと生活習慣病リスク、PWV との関連 家光素行(立命館大学スポーツ健康科学部教授) 真田樹義(立命館大学スポーツ健康科学部教授) 加齢とともに筋量および筋機能の低下が生じている状 歳以上の 932 名を対象に、DXA 測定から算出した骨格筋 態を「サルコペニア(sarcopenia)」という。寝たきりや虚 指数(四肢筋量 / 身長の 2 乗)を用いてサルコペニア群と正 弱高齢者との関連性があることから近年、多くの研究が 常 群 に 分 類 し た 場 合、 男 性 の サ ル コ ペ ニ ア 群 の 血 中 実施されている。一方、 「血管は年とともに老いる」とい HbA1 c 濃度は正常群と比較して高値を示すことを報告し われるように、中高齢期から動脈硬化性疾患(心疾患・脳 ている 2) (表 1)。さらに、Lee ら 3)は、糖尿病でない 65 歳 血管疾患)などの罹患率が急増する。これは、動脈硬化リ 以上の高齢男性3,132名をHOMA-IR値から4分位に分け、 スクや脂質異常症、糖尿病、高血圧などの生活習慣病リ DXA 法による四肢筋量を 5 年間追跡調査した結果、イン スクが加齢により増大することが関与している。近年、 スリン抵抗性が高い高齢男性ほど四肢筋量の減少が大き 加齢による動脈硬化リスクや生活習慣病リスクの増大に いことを示した。これらの結果から、加齢に伴う筋量低 サルコペニアが影響する可能性を示す研究が報告されて 下が糖利用低下を介して血中HbA1c濃度に影響すること、 きている。そこで本項では、サルコペニアと生活習慣病 あるいは、インスリン抵抗性の増加が骨格筋の蛋白合成 リスク、動脈硬化リスク[特に動脈スティフネス:脈波伝 の低下や蛋白分解の促進を生じさせることによりサルコ 播速度(pulse wave velocity;PWV)]との関連について ペニアをさらに助長させることが考えられる。 概説する。 脂質異常症 サルコペニアと生活習慣病リスク 40 〜 76 歳の中高齢者 410 名を対象に血中総コレステ これまで、サルコペニアと生活習慣病リスクとの関連 ロール(TC)、中性脂肪(TG)、HDL コレステロール(HDL) 性については、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの指標 を測定した結果、年齢や体脂肪率で補正した HDL 値はプ について検討されている。 レサルコペニア群およびサルコペニア群ともに有意に低 値を示すことが報告されている 4)。一方、40 歳以上の 糖尿病 932 名による検討では、正常群と比較してサルコペニア群 70 〜 79 歳 の 高 齢 者 2 ,675 名 を 対 象 に、Dual-energy の血中 TG、HDL 濃度および TC/HDL 比に有意な差が認 X-ray Absorption(DXA)法を用いた四肢筋量について 6 められなったことを報告している 2) (表 1)。このように、 年間追跡調査した結果、糖尿病と診断された高齢者の四 サルコペニアによる脂質異常症リスクへの影響に関して 肢筋量の低下量は糖尿病でない高齢者と比較して有意に は一致した見解が得られておらず、今後さらなる検討が 大きいことが報告されている 1)。また、われわれは、40 必要である。 表 1 ● サルコペニアにおける生活習慣病リスクの影響(文献 2 より引用) 平均値±標準偏差、baPWV:上腕 - 足首間脈波伝播速度、TC/HDL 比:総コレステロール /HDL コレステロール比 ウエスト周囲径(cm) 収縮期血圧(mmHg) 平均血圧(mmHg) 拡張期血圧(mmHg) baPWV(cm/sec) 空腹時血糖値(mg/dL) HbA1c(%) 中性脂肪値(mg/dL) 総コレステロール(mg/dL) HDL コレステロール(mg/dL) TC/HDL 比 正常群 (n=100) 88.6 ± 7.5 131.7 ± 15.5 102.8 ± 13.5 82.0 ± 10.5 1,501 ± 248 95.6 ± 8.4 4.99 ± 0.29 124.2 ± 81.9 188.2 ± 39.0 56.1 ± 13.5 3.53 ± 1.02 男性(41 歳以上) サルコペニア群 (n=63) 83.3 ± 6.5 130.1 ± 21.3 98.6 ± 15.7 75.3 ± 8.7 1,534 ± 324 94.8 ± 10.3 5.26 ± 0.46 109.4 ± 66.3 171.3 ± 35.4 57.9 ± 14.7 3.14 ± 0.98 p値 (ANOVA) p < 0.001 NS NS p < 0.05 NS NS p < 0.001 NS p < 0.05 NS NS 54 正常群 (n=613) 83.7 ± 9.4 124.7 ± 19.2 95.3 ± 14.7 72.6 ± 10.2 1,340 ± 219 94.0 ± 8.8 5.15 ± 0.36 102.2 ± 56.4 210.3 ± 45.7 65.6 ± 14.7 3.36 ± 1.01 女性(41 歳以上) サルコペニア群 (n=156) 77.6 ± 7.7 123.9 ± 19.8 94.7 ± 15.2 72.0 ± 11.4 1,452 ± 355 96.1 ± 9.0 5.17 ± 0.41 103.9 ± 65.9 207.9 ± 45.9 69.1 ± 15.3 3.14 ± 0.90 p値 (ANOVA) p < 0.001 NS NS NS p < 0.001 NS NS NS NS NS NS この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 特集⑤ 図 1 ● サルコペニアおよびメタボリックシンドロームにおける動脈スティフネスの影響(文献 6 より引用) (cm/sec) 1,800 p<0.05, vs. 正常 #p<0.05, vs. メタボ †p<0.05, vs. サルコ 1,600 baPWV *#† * * * 1,400 1,200 1,000 800 正常 メタボ サルコ サルコ・メタボ 高血圧 サルコペニアとメタボリックシンドロームの合併(サル 中高齢男性の肥満を呈さないサルコペニア群の血圧は、 コ・メタボ)がさらなる生活習慣病リスクを高めることが 正常群と比較して有意な差が認められなかった 5)。また、 注目されている。われわれは、30 〜 84 歳の女性を対象と 40 〜 76 歳の中高齢者 410 名を対象とした研究では、正常 した検討により、サルコペニア群およびメタボリックシ 群、プレサルコペニア群、サルコペニア群に分類したが、 ンドローム群は正常群よりも baPWV が高値を示し、サル 血圧には有意な差が認められなかった 4)。一方、40 歳以 コ・メタボ群はさらに高い値を示すことを報告している 6) 上の 932 名で検討したわれわれの結果では、男性のサル (図 1)。このように加齢に伴う筋量の低下とメタボリック コペニアでは拡張期血圧が正常群よりも低値を示した シンドロームの合併は、加齢に伴う動脈スティフネスの が、女性では有意な差がないという結果を報告している 2) 増大を加速化させる可能性が示されている。 (表 1) 。このように、加齢に伴う筋量の低下は血圧にほと まとめ んど影響がない可能性が考えられる。 加齢に伴い発症するサルコペニアは、生活習慣病リス サルコペニアと PWV クや動脈スティフネスの増加を加速化させる可能性が報 動脈スティフネスの指標である PWV におけるサルコペ 告されてきている。さらに最近では、メタボリックシン ニアの影響について、われわれは、40 歳以上の 932 名を ドロームとの合併であるサルコ・メタボでは、これらの 対象に検討した結果、女性のサルコペニア群の上腕−足首 リスクを相乗的に増大させることから、今後これらの病 間 PWV(baPWV)は正常群と比較して高値を示したが、 態の関連性の機序を解明する必要があると考えられる。 男性では差がなかったことを報告した 2)。さらに、最近、 文献 1) Park SW, et al. Excessive loss of skeletal muscle mass in older adults with type 2 diabetes. Diabetes Care 2009 ; 32 : 1993 -7 . 2) Sanada K, et al. A cross-sectional study of sarcopenia in Japanese men and women: reference values and association with cardiovascular risk factors. Eur J Appl Physiol 2010 ; 110 : 57 -65 . 3) Lee CG, et al. Association between insulin resistance and lean mass loss and fat mass gain in older men without diabetes mellitus. J Am Geriatr Soc 2011 ; 59 : 1217 -24 . 4) Abe T, et al. Influence of severe sarcopenia on cardiovascular risk factors in nonobese men. Metab Syndr Relat Disord 2012 ; 10 : 407 -12 . 5) Kohara K, et al. Leptin in sarcopenic visceral obesity: possible link between adipocytes and myocytes. PLoS One 2011 ; 6 : e24633 . 6) Sanada K, et al. Adverse effects of coexistence of sarcopenia and metabolic syndrome in Japanese women. Eur J Clin Nutr 2012 ; 66 : 1093 -8 . 55
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