この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 特集:認知症・サルコペニア・フレイルと動脈スティフネスとの関連② 動脈硬化とサルコペニア、認知機能低下との関連 (J-SHIPP 研究) 小原克彦(国立病院機構愛媛医療センター神経内科医長) もう 1 つの重要な体組成変化の病態である(内臓)肥満は、 サルコペニアと動脈硬化 baPWV の上昇には関連していたが、中心脈圧に対しては サルコペニアの病態に動脈硬化が関連している。サル 影響がなかった。 コペニアの病因として、加齢に伴う活動性の低下や摂取 BMI の変化のみで肥満を定義してしまうと脂肪量の増 栄養素の変化に加え、インスリン抵抗性や酸化ストレス、 大も筋肉量の増加も区別ができない。BMI が血中 B 型ナ 慢性炎症、性ホルモンの変化などのmolecular mechanism トリウム利尿ペプチド(B type natriuretic peptide;BNP) が想定されている。これらの要因はすべて動脈硬化の原 の低下と関連することが報告されているが、血中 BNP 濃 因でもあることから、サルコペニアが動脈硬化と深く関 度は筋肉量と逆相関していることを見出した 5)。中心血圧 連することは容易に想像される 1)。 の上昇は、心負荷につながることから、おそらくその機 臨床的なサルコペニアの診断基準が報告されているが、 序の一部は、中心血圧への効果を介したものであると考 われわれは、CT による大腿筋横断面積を筋肉量の指標と えられる。 して用い、動脈硬化との関連性を調べた。頸動脈内膜中 中心血圧の上昇は脳微小血管病と関連する 6)が、サルコ 膜 厚 よ り は 上 腕 − 足 首 間 脈 波 伝 播 速 度(brachial ankle ペニア肥満と関連性の強い高アディポネクチン・高レプ pulse wave velocity;baPWV)との関連性が強く、サル チンの状態も脳微小血管病の進展が認められた 7)。 コペニア例では動脈スティフネスが高いことを認めた 簡便なフレイル指標としての 開眼片足立ち時間 ( 図 1)2)。この成績だけでは因果関係は分からないが、 Health ABC 研究において、ベースの baPWV が高い例で は経年性の筋肉量の低下が大きいことが報告され、動脈 サルコペニアはフレイルの主要な構成要因であり、フ 硬化がサルコペニア進展の原因となることが示された。 レイルの状態も動脈硬化や心血管病、臓器障害の進展を 伴うことが多い。歩行速度がフレイルの判定要因として サルコペニアと中心血圧 評価されることが多いが、歩行速度の測定には場所が必 baPWV の 上 昇 は、 反 射 波 の 早 期 到 達(augmentation 要であり、診察室内での計測には向かない。われわれは、 index;AI の上昇)を介して中心血圧の上昇につながるこ 開眼片足立ち時間が簡便なフレイルの指標となる可能性 とから、サルコペニアでは、中心血圧が上昇していると を示している。開眼片足立ち時間は、認知機能障害や認 考えられる。大腿筋横断面積のみならず3)、 バイオインピー 知症患者で短縮しており 8)、脳微小血管病の進展を伴って ダンス法から求めた骨格筋量や握力も baPWV の高値や中 いる 9)ことを認めている(図 3)。今後は、サルコペニアと 4) 心脈圧の上昇と関連していることを認めた (図 2) 。一方、 認知機能障害との関連性を明らかにしていきたい。 図 1 ● 動脈硬化指標と大腿筋横断面積(文献 2 より引用) 男性において、大腿筋横断面積は動脈硬化指数と有意な負の相関を示した。 vs. 第 1 分位 * p < 0 .05 (cm2/kg) 2.1 2.0 大腿筋横断面積/体重 大腿筋横断面積/体重 (cm2/kg) 2.1 * 1.9 1.8 1st 2nd 頸動脈内膜中膜厚3分位 * 1.9 1.8 3rd 48 * 2.0 1st 2nd baPWV3分位 3rd この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 特集② 図 2 ● 握力、骨格筋量と中心血圧関連指数(文献 4 より改変引用) サルコペニア指標は、baPWV、augmentation index(AI)、上腕脈圧、中心脈圧の指標である橈骨第2脈圧(PP2)と有意な負の相関を示した。 性別、年齢、BMI、平均血圧、心拍数、脂質、グルコース、インスリン、CRP、降圧薬、脂質治療薬、糖尿病治療薬、喫煙、身体活動度で補正。 (cm/sec) 1,610 n=902 F=7.9 p=0.0004 (%) 93 89 87 56 1,490 85 54 1st 2nd 3rd (cm/sec) 1,650 n=1,427 F=7.1 p=0.0009 1st 2nd 3rd 83 (%) 95 1,620 n=1,431 F=16.7 p=0.0001 85 59 1,530 83 58 1st 2nd 3rd (mmHg) 54 1st 2nd 3rd 57 骨格筋量3分位 80 1st 2nd 3rd n=1,431 F=13.7 p<0.0001 52 60 1,560 1,500 n=1,431 F=8.1 p=0.0003 上腕PP2 89 48 44 61 上腕脈圧 橈骨AI 1,590 1st 2nd 3rd (mmHg) 62 92 50 46 52 握力3分位 n=905 F=12.4 p<0.0001 52 58 1,520 1,460 (mmHg) 54 上腕PP2 1,550 n=905 F=9.3 p<0.0001 60 上腕脈圧 橈骨AI baPWV (mmHg) 62 91 1,580 baPWV n=905 F=6.0 p=0.0026 50 48 46 1st 2nd 3rd 44 1st 2nd 3rd 図 3 ● 脳微小血管障害と開眼片足立ち時間(文献 9 より引用) ラクナ梗塞、微小出血、脳室周囲白質障害(PVH)は、いずれも開眼片足立ち時間(OLST)の短縮と関連していた。 ( ) 内は人数。開眼片足立ちは 60 秒を上限として測定。 (%) 100 (%) 100 (%) 100 90 90 90 80 80 80 70 70 70 60 60 60 50 50 50 40 40 40 30 30 30 20 20 20 10 10 10 0 0 0 1 >2 (1,264) (94) (29) ラクナ梗塞数 0 1 >2 (1,295) (72) (20) 微小出血数 0 OLST(秒) 60 <60 <40 <20 0 1 >2 (574)(636) (177) PVH グレード 文献 1) Kohara K. Sarcopenic obesity in aging population: current status and future directions for research. Endocrine 2014 ; 45 : 15 -25 . 2) Ochi M, et al. Arterial stiffness is associated with low thigh muscle mass in middle-aged to elderly men. Atherosclerosis 2010 ; 212 : 327 -32 . 3) Ohara M, et al. Sarcopenic obesity and arterial stiffness, pressure wave reflection and central pulse pressure: the J-SHIPP study. Int J Cardiol 2014 ; 174 : 214 -7 . 4) Ohara M, et al. Portable indices for sarcopenia are associated with pressure wave reflection and central pulse pressure: the J-SHIPP study. J Hypertens 2015 ; 33 : 314 -22 . 5) Yamashita T, et al. Muscle mass, visceral fat, and plasma levels of B-type natriuretic peptide in healthy individuals(from the J-SHIPP . Am J Cardiol 2014 ; 114 : 635 -40 . Study) 6) Ochi N, et al. Association of central systolic blood pressure with intracerebral small vessel disease in Japanese. Am J Hypertens 2010 ; 23 : 889 -94 . 7) Kohara K, et al. Clinical characteristics of high plasma adiponectin and high plasma leptin as risk factors for arterial stiffness and related endorgan damage. Atherosclerosis 2014 ; 235 : 424 -9 . 8) Kido T, et al. Postural instability is associated with brain atrophy and cognitive impairment in the elderly: the J-SHIPP study. Dement Geriatr Cogn Disord 2010 ; 29 : 379 -87 . 9) Tabara Y, et al. Association of postural instability with asymptomatic cerebrovascular damage and cognitive decline: the Japan Shimanami health promoting program study. Stroke 2015 ; 46 : 16 -22 . 49
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