動脈硬化と無症候性脳血管障害、認知症リスクとの

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特集:認知症・サルコペニア・フレイルと動脈スティフネスとの関連④
動脈硬化と無症候性脳血管障害、認知症リスクとの関連
(大迫研究)
佐藤倫広(東北大学病院薬剤部、日本学術振興会特別研究員 PD)
今井 潤(東北大学大学院薬学研究科医薬開発構想寄附講座教授)
レベルとは独立した無症候性脳血管障害の要因であるこ
大迫研究
とが大迫研究から示されており(図 2)4)、これが動脈硬化
大迫研究とは、岩手県花巻市(旧:稗貫郡)大迫町の
と無症候性脳血管障害を結ぶ 1 つの機序であると考えられ
住 民を対象とした高血圧・循環器疾患に関する長期前
る。しかし、上記はすべて横断研究の結果である。2 つの
向きコホート研究である。大迫町住民を対象に、悉皆的
前向き研究が PWV と将来の白質病変との関連を示してい
に 家 庭 血 圧 デ ー タ を 収 集、 併 せ て 各 種 動 脈 硬 化 検 査、
るが、いずれもベースラインの頭部画像の情報がないと
頭 部 MRI 撮像、認知機能検査である Mini Mental State
いう研究限界がある 2)。
Examination(MMSE)を継続して実施し、以下のような
認知機能低下
報告を行ってきた。
動脈硬化と認知機能の関連は、前向きな検討で証明さ
無症候性脳血管障害
れ て い る 2)。 大 迫 研 究 で は、 無 症 候 性 脳 血 管 障 害 と
わが国において広く用いられる動脈硬化の指標の 1 つと
MMSE スコア低値との関連が認められており、これは認
し て brachial-ankle pulse wave velocity(baPWV)が あ
知機能障害に動脈硬化が影響している可能性を示唆する 1
る。大迫町住民 363 名を対象とした解析では、無症候性
つの見解である 5)。
脳血管障害として代表されるラクナ梗塞または白質病変
近年、家庭血圧レベル、および家庭血圧の個人内標準
と、高い baPWV レベルとの有意な関連が示されている
偏差として計算される血圧日間変動と認知機能低下リス
(図 1)1)。もう 1 つの動脈硬化の指標である脈圧も、これ
クとの関連を前向きに検討している 6)。家庭収縮期血圧レ
らの無症候性脳血管障害を有する群で高値を示してい
ベルは、認知機能低下リスク(追跡時 MMSE スコア< 24)
る 1)。他の研究においても同様の結果が認められており 2)、
と関連する 6)。一方、家庭収縮期血圧レベルで調整しても、
近年では愛媛の Shimanami Health Promoting Program
血圧日間変動の高値は認知機能低下リスクと関連してい
(J-SHIPP)研究から、Shear Stress や Wall Tension など
る(図 3)6)。血圧日間変動が動脈硬化の指標かは議論のあ
の詳細な動脈硬化指標と無症候性脳血管障害との関連が
るところであるが、大迫研究からは血圧日間変動と N 末
報告されている 3)。血漿フィブリノゲン濃度高値が、血圧
端 B 型ナトリウム利尿ペプチド高値との関連が示されて
図 1 ● baPWV とラクナ梗塞および白質病変の関連(文献 1 より引用)
対象者は脳卒中の既往がない 363 名。解析には、年齢、性別、Body Mass Index、心疾患、総コレステロール値、HbA1 c、降圧薬服用、高脂血症治療薬、
糖尿病治療薬、喫煙、飲酒、および 24 時間自由行動下収縮期血圧を調整項目とした共分散分析を用いている。
p=0.003
(m/sec)
18
p=0.07
p=0.02
17.8
baPWV
p=0.07
17.3
17
16.9
16
15
16.4
なし
16.2
あり
0
ラクナ梗塞
1
2 or 3
白質病変(Grade)
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特集④
図 2 ● 血圧および血漿フィブリゲン濃度の組み合わせと無症候性脳血管障害の関連(文献 4 より引用)
対象者は脳卒中の既往がない 958 名。年齢、性別、Body Mass Index、心房細動、降圧薬服用、高脂血症、および糖尿病を調整項目としたロジスティック回
帰分析を用いている。24 時間自由行動下血圧高値を収縮期≧ 135 mmHg または拡張期≧ 80 mmHg、血漿フィブリノゲン濃度高値を≧ 328 mg/dL と定義した。
* p < 0 .05。
2.5*
無症候性脳血管障害オッズ比
3
1.7*
2
1.5*
1.0
1
Ref
高値
0
低値
高値
血漿フィブリノゲン
低値
24 時間自由行動下血圧
図 3 ● 家庭収縮期血圧レベルおよび血圧日間変動と認知機能低下オッズ比(文献 6 より引用)
対象者はベースラインで認知機能障害および脳卒中既往がない 485 名。解析には、年齢、性別、脳心血管疾患既往、教育歴< 10 年、ベースライン MMSE ス
コア< 27、および追跡期間、血圧日間変動の解析ではさらに家庭収縮期血圧レベルを調整項目としたロジスティック回帰分析を用いている。認知機能低下
を追跡時の MMSE スコア< 24 と定義している。* p < 0 .05。
3
Trend p=0.046
3
2.7*
認知機能低下オッズ比
認知機能低下オッズ比
2.1
2
1
0
1.0
Ref
<118
118∼129
>130(mmHg)
家庭収縮期血圧レベル
(個人内平均値)
2.04
2
1
0
2.7*
Trend p=0.04
1.0
Ref
<7.3
7.3∼9.6
収縮期血圧の日間変動
(個人内標準偏差)
>9.6 (mmHg)
おり 7)、血圧日間変動には臓器障害やそれをもたらす動脈
硬化が影響している可能性が考えられている。
文献
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