748 CHEMOTHERAPY JUNE 耳 鼻 咽 喉 科 領 域 感 染 症 に 対 す るPivampicillinの 馬 場 駿 吉 ・本 堂 1974 臨 床応 用 潤 ・和 田 健 二 ・波 多 野 努 ・高 須 照 男 名古屋 市立大 学医学部耳鼻咽喉科学教室 (主任:商 須 照男教授) 抗 菌 スペ ク トル も当 然 これ に 準 ず る と考 え て よい。 I は じ め に Fig. 最 近,数 多 く の 合 成Pendllin剤 の な か で もAmpiclUlnは Proteu 1 Structural formula が 開 発 さ れ た が,そ 比 較 的 安 全 性 が 高 く, E.coli,, s な どの グ ラム 陰 性 桿 菌 に も抗 菌 力 を も つ と ころ か ら,ひ ろ く臨 床 に 応 用 さ れ て い る の は 周 知 の と お り で あ る。1969年Denmark Leo社 で 開 発 さ れ たPivampicillin はAmpicminのPivaloyloxymethyl と 消 化 管 でAmpicminが esterで,内 吸 収 分 離 さ れ,従 服す る 来 のAmpicillin の2∼3倍 の 高 い 血 中 濃 度 が え られ る と さ れ て い る1)。 今 回,我 々 は 本 剤 を耳 鼻 咽 喉 科 領 域 の 数 種 感 染 症 に臨 床 応 用 し た の で,そ の小 験 を こ こ に 報 告 す る次 第 で あ る。 II化 学 構 造 な らび に性 状 本 剤 はFig.1の ご と き 化 学 構 造 を 有 す る Ampicillin のPivaloxymethyl esterで が 離 れ,Ampicillinと あ る が,腸 管 でPivalic acid し て 体 内 に 移 行 す る と 考 え られ て III 臨 床 的 検 討 い る2)。 化 学 名 はPivaloyloxymethyl nicillinate D-α-aminobenzyl hydrochlorideで,分 分 子 量500.1,融 粉 末 で あ り,20℃ 溶 で あ る が,エ 子 式C22 点155∼156℃(dec.),白 で 水,ク ロ ロ ホ ル ム,ア pe. O6S, は じ め てAmpicillinと 男 子14例,女 子11例,計25例 の耳 鼻 咽 喉 科 領域 感 染 症 で,そ の疾 患 お よ び年 令分 布 はTable1に ル コー ル に 易 あ る。 体 内 で 分 解 され て し て の 抗 菌 作 用 を 発 揮 す る の で, Distribution 1. 使 用 対 象 色結晶状の微 ー テ ル に は 難 溶 の 物 質 で あ る. 本 剤 そ の も の は 抗 菌 力 を も た ず,生 Table 1 H30 CIN3 示 す とお りで 2. 投 与 方 法 お よ び投 与 量 成 人患 者 に は1日 量4カ 4カ プ セ ル=500mg)を6時 of the patients treated with pivampicillin プ セ ル(1カ プセ ル125mg× 間 お きに4回 分 服,学 童 に (male: 14 cases, female: 11 cases) VOL. 22 NO. 4 CHEMOTHERAPY は3カ プ セ ル(125mg×3カ プ セ ル=375mg) を 食 後 に3回 分服 させ た。 3. 効 果 判 定 基 準 臨 床 効 果 の判 定 に は次 に示 す4段 階 の基 準 に 従 っ た。 著 効:主 要 自 ・他 覚 症 状 が3日 以 内 に改 善 し, 6日 以 内 に治 癒 した場 合 。 有 効:主 要 自 ・他 覚症 状 の改 善 は3日 を や や 超 え た が,6日 以 内 に ほ ぼ治 癒 した場 合 。 や や有 効;6日 間 の投 与 で,主 要 自 ・他 覚症 状 は改 善 され た が,治 癒 に は至 らな か っ た場 合 。 無 効:本 剤 の投 与 に て,ほ とん ど症 状 の緩 解 が え られ な い か,ま た は悪 化 の傾 向 を認 め た場 合。 4. 臨 床 成 績 1) 急 性 化 膿 性 中耳 炎 お よ び慢 性 化 膿 性 中 耳 炎急性増悪症 急 性 化 膿 性 中耳 炎7例 炎 急 性 増 悪 症1例 要 はTable2に お よ び慢 性 化 膿 性 中 耳 に対 す る本 剤 の治 療 効 果 の概 示 した。 す な わ ち,急 性 化 膿 性 中耳 炎 で は7例 中2例 が著 効,4例 が有 効,1例 がや や 有 効 で,無 効 例 は認 め られ なか っ た。 著 効,有 効 例 は比 較 的 速 や か に鼓 膜 発 赤,耳 漏 の停 止 な ど症 状 の改 善 が え られ た。 他 方,慢 性 化 膿 性 中耳 炎 急 性 増 悪 症 王例 は本 剤6日 間 の投 与 で も耳 漏 は持 続 し,無 効 と判 定 され た が,耳 漏 よ りの菌 検 査 に て本 剤 の抗 菌 ス ペ ク トル の 域 外 にあ る Pseudonionas nosaが 検 出 され て お り,も aerugi- と も と 適 応 外 の症 例 と考 え られ る。 従 っ て,こ の成 績 も当然 とい え よ う。 2) 急 性 扁 桃 炎 お よ び扁 桃 周 囲膿 瘍 急 性 扁 桃 炎12例,扁 治 療 効 果 はTable3の 桃 周 囲膿 瘍2例 に対 す る ご と くで あ る。 急 性 扁 桃 炎12例 に つ い て み る と,著 効6例, 有 効5例,や や 有 効1例 で,き わ め て よ い成 績 が え られ て い る。 これ ら症 例 か らの検 出菌 の多 くが本 剤 に高 い感 受 性 を もつ βあ るい は α溶 血 連 鎖 球 菌 で あ る こ と も高 い治 効 率 が え られ た理 由 で あ ろ う。 症 例No.10の本 剤 耐 性 の黄 色 ブ ドウ球 菌 検 出例 は,投 与6日 間 で 治 癒 した ので,一 応 有 効 と し た が,少 々理 解 に苦 しむ 症 例 で あ る。 な お,副 作 用 と してNo.7に 投 与3日 み られ た が,6日 目頃 か ら食 欲 不 振 が 間 の持続 投 与 を完 遂 しえ た。 749 750 CHEMOTHERAPY JUNE 1974 VOL. 22 NO. 4 751 CHEMOTHERAPY 扁 桃 周 囲膿 瘍2例(No.12,13)は 有 効1例,や や有効 1例 で,後 者 もや や 治 癒 ま で の 日数 が の び たが,治 癒 に 至 っ た症 例 で あ る。 この2例 は,い ず れ も膿 瘍 に切 開 を 加 え,濃 厚 な膿 汁 の 多量 排 出 を み て い るが,そ の 好 気 性 培 養 で は菌 陰性 で あ り,嫌 気 性 菌 の 関 与 が 疑 わ れ た。 3) 耳 〓 ・鼻 〓 外 耳 道 お よ び鼻 尖部 の〓 各1例 の 成 績 は と もに 著 効 で あ った 。 これ ら2例 は と もに分 泌 物 が え られ な か った た め,細 菌 検 査 が行 な え な か っ た が,お そ ら くブ ドウ球 菌 性 の も の と推 定 され よ う(Table4)。 4) 先 天 性 耳 瘻 孔 化 膿 症 右 側 耳 前 部 の先 天 性 耳 瘻 孔 化 膿 症1例 に 本 剤 を応 用 し た が 無 効 で あ っ た。 こ の症 例 は初 診 時,化 膿 巣 に 切 開 を 加 え排 膿 を は か り,Pivampicillin1日500mgを6日 間 投 与 した が,膿 汁 の著 明 な減 少 は え られ な か った 。 な お, 本 例 か らはABPCに デ ィ ス ク法 で(十)感 受性の黄色 ブ ドウ球 菌 を検 出 して い る(Table4)。 5) 総 合 治 療 成 績 以 上,25症 例 の治 療 成 績 を ま とめ る とTable5の くで,著 効10例,有 効10例,や や 有 効3例,無 著 効,有 効 合 わ せ た治 効 率 は80%で ごと 効2例 で, あ り,本 剤 感 受 性 菌 に よ る急 性 感 染 症 に は よ い成 績 が え られ た 。 Table 5 Overall clinical results with pivarnpicillin 6) 副 作 用 25例 中1例 に 投 与 開始 後3日 目頃 よ り食 欲 不 振 を訴 え た もの が あ った が,治 癒 に 至 る ま で6日 間 の投 与 を持 続 で き た。 治 療 対 象 の す べ て が 外 来 患 者 で あ った 関 係 上,肝,腎 な どの機 能 検 査 が 行 な い え な か っ た が,臨 床 上,肝 障 害, 腎 障 害 を思 わ せ る よ うな 所 見 は み られ ず,そ の他 に は と くに 副作 用 と思 わ れ る もの は み られ なか っ た。 752 CHEMOTHERAPY IV ま と Pivaloyioxymethyi い こ と が指 摘 され て い る が,我 々 の25症 例 で は1例 に食 Leo社 発 され た 新 し い 合 成Penicillin剤 に よ っ て開 で,Ampicillinの esterで あ る。 本 剤 は,そ 欲 不 振 を み た にす ぎず,投 与 量 が375∼500mg/day程 度 で,短 期 間 の投 与 な らば,こ の よ うに副 作 用 の発 現 は 少 の ままの か た ち で は抗 菌 作 用 を もた ず,生 体 内 で 分 解,吸 収 され Ampicillinと 1974 学 会 シ ンポ ジ ウム席 上 の発 表6)で も胃腸 障 害 が比 較 的 多 め Pivampicillinは1969年Denmark JUNE な い と思 われ る。 従 っ て,投 与 量 は あ ま り増 量 しな い配 慮 が必 要 で あ ろ う。 して抗 菌 力 を発 揮 す る とい わ れ て お り,血 中濃 度 は従 来 のAmpicillinの2∼3倍 の 高 さに 達 す る 1)2)3) 。 ま た,JEPPRSENら4)は 慢 性 副鼻 腔 炎 あ るい は 鼻 茸 の患 者 を対 象 と してPivampicillin とAmpicillin 250mg筋 356mg経 文 1) 口投 与 群 注 群 の上 顎 洞 粘 膜 あ るい は 鼻 茸 率 は63∼72%で は血 清 内 か ら粘 膜 組 織 内 へ の移 行 2) あ る と報 告 して い る。 また,上 顎 洞 炎 の 3) ぐれ JORRAN, FOLTZ, 副作 用 に 関 し,JEPPESENら5)はPivampicillinを 投与 した亜 急 性 また は 慢 性 副 鼻 腔 炎 患 者45例 中3例 に蕁 麻 疹, 枢 気,腹 痛,下 痢 の 副 作 用 を認 め,こ の うち1例 は投 与 を た だ ちに 中 止 した と述 べ て お り,第21回 a new orally active Agents & Chemoth.: F. in J. the 第21回 438•`441, W. 431 W.M.M. KIRBY: as compared 1970 WEST, I. H. BRESLOW of & H. pivampicillin, 1970 P. ILLUM: mucosa sodium and Concentration following of ampi- administration pivampicillin. Acta of Otolaryng. 1972 F. & P. treatment 74, & pivampicillin pharmacology & antral 428432, ryng. 6) ibid.: L.; MAINE of 442•`454, JEPPESEN, in DE Clinical JEPPESEN, 73: 5) 討 に待 ち た い 。 PIVAMPICILLIN E. ampicillin た の で,本 剤 の 特 長 で あ る血 中濃 度 の上 昇 が,臨 床 効 果 J.B. ampicillin. cillin の 比 較 対 照 試 験 は行 な わ な か っ と どの よ うに 結 び つ い て い るか は判 然 とせ ず,今 後 の検 M.C.; pharmacology ibid.: 4) た成 績 を あ げ う る こ と を認 め た 。 今 回 は,Ampicillinと Antimicr. ester. WALLICK: 本 剤 を 臨床 応 用 し,著 効,有 効 合 わ せ て80%の 治 効 率 を 受 性 菌 に よ る急 性 感 染 症 には,す Pivampicillin, ampicillin with 我 々 は,前 述 の ご と く数 種 の 耳 鼻 咽 喉 科 感 染 症25例 に え,Ampicillin感 & L. TYBRING Clinical 治 療 に お け る本 剤 の 有用 性 に つ い て も評 価 が行 な われ て い る5)。 DAEHNE, VON W.; W. O. GODTFREESEN. K. ROHOLT ∼437,1970 組 織 内濃 度 を測 定 し,両 者 が ほ ぼ 同 程 度 の 移 行 を示 す と 述 べ,Pivampicillinで 献 ILLUM: of 375•`382, Pivampicillin(Pondocillin) maxillary sinusitis. Acta Otola- 1972 日本 化 学 療 法 学 会 シ ン ポ ジ ウ ムAmpicillin類 似 抗 生 物 質 抄 録 集 別 冊"Pivampicillin"1973 日本 化 学 療 法 IN THE TREATMENT LARYNGOLOGICAL OF OTO-RHINO- INFECTIONS SHUNKICHI BABA, JUN HONDO, KENJI WADA, TSUTOMU HATANO and TERUO TAKASU Department of Oto-rhino-laryngology, Nagoya City University, Medical School (Director: Prof. TERUO TAKASU) Clinical investigation was made on the effect of pivampicillin in oto-rhino-laryngological Excellent or good results were observed or other infections. in 80% among 25 patients with suppurative One patient complained of anorexia as side effect. infections. otitis media, tonsillitis
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