VOL. 36 CHEMOTHERAPY NO. 1 79 各 種 血 液 疾 患 に 伴 う真 菌 症 お よ び 抗 生 剤 に 反 応 し な い 発 熱 息 者 に 対 す る ミコ ナ ゾ ー ル の 効 果 ・浦 部 晶 夫 ・高 久 史 麿 東京大学医学部第三 内科 溝 口 秀 昭 ・増 ・ 田 道 東京女子医科大学第一 内科 野 村 戸 彦 武 夫 ・厨 信 一 郎 日本医科大学第三 内科 川 敦 ・天 野 正 道 国立病院医療 センター内科 藤岡 成 徳 ・斎 藤 恒 博 ・三 谷 絹子 三井記念病院血液内科 山 口 潜 ・武 藤 良 知 虎の門病院血液科 (昭和62年9月29日 抗 真 菌 剤 ミコナ ゾー ル を,重 受付) 篤 な血 液 疾 患 に 併 発 した 真菌 症 な らび に 真菌 症 が疑 わ れ た 発熱 患 者 23例 に 投与 し,臨 床 効 果 と副 作 用 につ いて 検 討 した。 対 象 症 例 は,肺 真菌 症 あ る いは 真 菌 性 肺 炎9例,カ 疑 い13例 ン ジ ダ性 食 道炎1例 で あ り,ミ コナ ゾー ル1回200∼400mgを1日2∼3回 臨 床 効 果 は,著 効2例,有 効15例,無 副 作 用 は,皮 疹2例,GOT・GPT・ 効6例 で,73,9%の γ-GTP・Al-P・LDHの な らび に 真菌 性敗 血 症 点 滴 静注 した 。 有 効 率 であ った 。 検 査 値 異 常1例 のみ であ った 。 以 上 の こ とか ら,本 剤 は 内臓 真 菌 症 や 抗 生 剤 が 無 効 な原 因 不 明 の 発 熱 に対 して,試 み るべ き治 療 薬 で あ る と考 え られ た 。 内 臓 真 菌 症 の ほ と ん ど は 続 発 性 で あ り,そ の 大 部 分 が 血 液 疾 患,特 の基 礎 疾 患 に 急 性 白 血 病 ・悪 性 リ ン パ 腫 で あ る こ と が 知 ら れ て い る1粉 。 近 年,Ara-C大 Bと 略)に 比 べ 副 作 用 が 少 な く,全 身 状態 の悪 い場 合 に も投 与 で き る とい う利 点 を有 して い る。 今 回 わ れ わ れ は,本 剤 を重 篤 な 血 液 疾患 に併 発 した 真 血器悪性腫瘍の化学療法が 菌 症 な らび に 真菌 症 が疑 われ た 発 熱 患 者 に使 用 し,臨 床 骨 髄 移 植 療 法 が 導 入 さ れ,造 量療法や 更 に 強 力 に な る に 伴 い 治 療 成 績 も 向 上 し て き て い る が, 効 果 と副 作 用 に つ い て 検討 した の で そ の 結 果 を 報 告 す 同時 に合 併 症 と して の真 菌 感 染症 が 以前 に も増 して 重 要 る。 I. な問 題 とな って き て い る。 こ れ ら,い わ ゆ るcompromised hostの 真 菌 感 染 症, 特 に 肺 真 菌 症 の 確 定 診 断 は 困 難 で あ る こ と が 多 く,剖 検 に よ って は じめ て 診 断 され る こ と も少 な くな い。 ミ コ ナ ゾ ー ル;Miconazole(フ Janssen社 ロ リー ドF注R)は で 開 発 さ れ た 注 射 用 抗 真 菌 剤 で,ア イ ギ リ ス を は じ め ベ ル ギ ー,西 独,ナ メ リ カ, ラ ン ダ な ど30数 か 国 で臨 床 に 供 さ れ て い る。 本剤 は幅 広 い優 れ た 抗 真 菌 力 を 有 し て い る の み な ら ず,Amphotericin-B (AMPH- 昭 和61年6月 対 象 と 方 法 か ら昭 和62年3月 まで の 間 に,東 京 大 学 医 学部 第三 内科,東 京女 子 医科 大 学 第 一 内 科,日 本 医科 大 学 第 三 内科,国 立病 院 医療 セ ン ター 内 科,虎 の門 病 院 血 液 科,三 井 記 念病 院 血 液 内科 に 入 院 した血 液 疾 患 患 者 で,真 菌 症 を 併 発 した症 例 お よび 抗 生剤 に反 応 しな い発 熱 患 者 を対 象 と した。 ミ コナ ゾール は1回200∼400mgを は5%ブ ドウ糖 液200∼500mlに 生 理 食 塩 水 また 希 釈 し,1時 間以上か JAN. CHEMOTHERAPY 20 け て1日2∼3回 Table 3 点 滴 静 注 した。 他 の抗 真 菌剤 の併 用 は Variety 1988 of infections 行 なわ なか った。 臨 床 効 果 の 判定 は,解 熱 な ど全 身 状 態 の改 善 の程 度 に よ り,ま た 肺 真菌 症 で は 胸 部X線 写 真 像 の 改善 度 に よ り,著 効,有 効,無 効 の3段 階 で判 定 した。 真 菌 学的 検 査 で は,消 失,減 少,不 変,増 加 の4段 階 で判 定 した 。 副 作 用 が 出現 した 場 合 は,そ の種 類,程 度,消 長,ミ コ ナ ゾール との 因果 関 係 な どにつ き記 載 した。 また,総 合 評 価 と して の有 用 性 につ い て は,臨 床 効 果,真 菌 学 的 検 査,副 作 用 な どを総 合 的 に 勘 案 し,極 め て有 用,有 用, り,1例 有 用性 な しの3段 階 で判 定 した 。 II. 結 対 象 とな った 症 例 の 性,年 齢 別 の 内 訳 をTable1に Table 1 で 年齢 は17歳 Background of the patients 示 か ら79 示す 通 を 除 き白血 病 で 占め られ て い た。 感 染 症 別 の 内 訳 で は,肺 真 菌 症 と真菌 性 肺 炎 が9例,カ 果 す 。 男16例,女7例,計23例 歳 ま で に 分 布 して い た。 基礎 疾 息 はTable2に 炎 が1例,真 菌 性 敗 血 症 疑 い が13例 ン ジダ性 食 道 で あ っ た(TablG 3)。 <臨 床 効 果> 真 菌 症 な らび に真 菌 性 敗 血 症 疑 い につ い て 発 熱 等 の臨 床 症 状 に対 す る 有 効 率 は,真 菌 症 群 で は70.0%,各 種 抗 生 剤 が 無 効 な た め 真菌 性 敗 血 症 が 疑 わ れ た 症 例 で 砥 76.9%の 有 効 率 であ り,全 体 と して73.9%の 有効率で あ った(Table4)。 抗 真菌 剤 に よ る 前 治 療 が 行 な わ れ て い た 症例 は, AMPH-Bの 内 服 が6例,点 滴 静 注 が1例,5-FC内 が3例 で あ っ た が,AMPH-Bが 服 無 効 も しくは 効 果不 明 であ った7例 で は ミ コナ ゾー ル単 独 投 与 に よ り全 例 が有 効 と判 定 され た 。5-FCが 無 効 であ った3例 で は ミコナ ゾー ル単 独 投 与 に よ り2例 が 有 効 と 判 定 され た(Table Table 2 Underlying diseases 5)。 ミコナ ゾー ル の投 与 期 間 と臨 床 効 果 と の関 係 をTaUe 6に 示す が,10日 以 上 投 与 した 症 例 の 方 が 投 与期 間 が 10日 未 満 の 症 例 よ り も有 効 率 が 高か っ た。 <真 菌 学 的 効 果> 真 菌 学 的 検 査 に よ り菌 の 推 移 が検 索 し得 た症 例 は7例 で あ っ たが,そ の うち 菌 消 失 が5例,減 少 が1例,不 変 が1例 で あ っ た。 <副 作 用> 副 作 用 と して は 皮疹 が2例 GOT・GPT・ Table 4 に 認 め られ,ま γ-GTP・Al-P・LDHの Clinical efficacy of miconazole た1例 に 上 昇 が 認 め られ た 。 VOL. 36, CHEMOTHERAPY NO. 1 Table 5 Clinical efficacy of miconasole Table 6 Relationship Table 21 in the patients between medication with pre-treatment period and clinical efficacy 7 Overall clinical utility of miconazole <総 合 評 価> た。 胸 部X線 写 真 で は左 中 肺 野 にalveolar shadowを 臨 床症 状,胸 部X線 写 真 像,真 菌 学 的 検 査 お よび 副作 め た。 抗 生 物 質 に加 え て ミコナ ゾー ル400mgの 認 投与 を 用 の 発現 を 総合 的 に評 価 した ミ コナ ゾール の 有 用 率 は全 継 続 した とこ ろ,徐 々に 解 熱 し,喀 痰 中 の 真菌 の消 失, 体 と して78.3%で またX線 写 真 像 象の改 善 を み た 。 あ っ た(Table7)。 ミコナ ゾー ル が 奏 効 した症 例 の経 過 をFig.1,2に す 。 症 例1(Fig.1)は37歳 示 男 性,急 性骨 髄 性 白血 病 の III. 考 察 内 臓 真菌 症 は いわ ゆ るimmunocompromised hostに 化 学 治療 中 に発 熱 し,抗 生 物 質 の投 与 を 開 始 した が発 熱 併発 す る こ とが 多 く,そ の 基礎 疾 患 の約 半 数 を造 血 器 悪 が持 続 す る ため,真 性 腫 瘍,特 に急 性 白血 病 が 占め てい る。抗 癌 剤 や 副 腎 皮 mgの 菌 症 を 疑 い ミコナ ゾー ル1日400 投 与 を開 始 した。 そ の後,胸 部X線 写 真 に陰 影 が 出現 した ため1日800mgに 陰 影 の改 善 を認 め,ミ 増 量 した と ころ,解 熱 と肺 コナ ゾー ル の連 続 投 与 に よ り平 熱 女 性,急 性 骨 髄 性 白 血 病 の 経 過 中 に肺 炎 を併 発 し,喀 痰 よ りCandida 出 され た 。 ま た,St. Jaciumに 代 か ら内 臓 真菌 症 は次 第 に増 加 して き てお り,な か で も強 力 な化 学 療 法 の ため に極 端 な 白血 球 減 少症 を き たす こ との多 い造 血 器 悪 性 腫 瘍 では 真菌 症 を併 発 す る頻 に 復 し肺 陰 影 の消 失 を み た 。 症 例2(Fig.2)は65歳 質 ホ ル モ ン剤 が 広 く臨 床 の場 で使 用 され る よ うに な った 1960年 tropicalisが 検 よ る敗血 症 を も併 発 し 度 が増 加 して きて い る2,4)。 内臓 真 菌 症 の 治 療法 と して は,こ れ ま で はAMPH-B の静 注 が 主 と して 用 い られ て きた 。AMPH-Bは 腎毒 JAN. CHEMOTHERAPY 22 Fig. 1 Cagle 1: Y. Fig. 2 K., 37,yrs. Case 2: M. M. K., 65 yrs. 性,発 熱,悪 心 な どの副 作 用 が比 較 的 強 く,ま た 内 服 剤 Suspected mycotic F., Candida septicemia pneumonia 性 は,MC値Candida albicans と して用 い られ て い る5。FCは 抗 真 菌 スベ ク トルが 狭 い ptococcus neoformans こ とや 長 期 間 の 使 用 に よ り耐性 株 を作 りや す い との報 告 fumigatus 1.25•`5 ƒÊg/ml, 0.04∼5μg/ml, 0. 04•`1. 25 ƒÊg/ml, Fonsecaea 属0.08∼0.31 μg/mlお よびPhiolophora属0.04∼2.5μg/mlで を持 つ 薬 剤 の 出現 が まち 望 ま れ て い た 。 報 告 され て い る7)。 あ ると に よ り合 今 回 の 検討 で は,血 液 ・ 喀 痰 ・ 咽 頭 粘 液 お よび 気 管 支 リブ トコ ッ クス 痰 中,ま た 剖検 時 た真 菌 が確 認 で きた 症 例 を 内臓 真 菌 症 ア スペ ル ギ ル ス症 な らび に コ ク シ ジオ 群 に,抗 生 物 質 が 無効 の発 熱 が続 い て い る症 例 を真 菌 性 ミ コナ ゾー ル は1967年GODEFBOI, E. F.ら 成 され た イ ミダ ゾー ル系 抗 真 菌 剤 で,ク ンジ ダ症 Cry- Aspergillus も あ る こ とか ら8),よ り安 全 で しか も 強 力 な 抗 真 菌 作 用 症,カ 1985 イデ ス 症 に有 効 と され て い る。本 剤 のin vitro抗 真菌 活 敗 血 症 疑 い に 分 類 した。 VOL. 36 NO. CHEMOTHERAPY 1 臨 床症 状 を 中 心 に した ミコナ ゾー ル の有 効 率 は73.9% と良 好 な有 効 率 で あ った 承 23 と考 え られ る。 症 例 別 に有 効 率 を比 較 す る と,内 臓 真 菌 症 で70.0%,真 菌 性 敗 血 症 疑 いで76.9% 文 1) YOUNG, と原 因 不 明 群 でむ しろ 高 い 有効 率 が 得 られ た。 真 菌 性 敗 ed 血 症 疑 い の症 例 の中 には 細 菌 感 染 症 が 含 まれ て い る可 能 605•`612, 性 を否 定 で きず,ミ コ ナ ゾール と同 時 に 用 い た抗 生 剤 が 2) 奏 効 して 高 い有 効 率 を もた ら した と も考 え られ る が,一 般 に 内臓 真菌 症 が重 篤 な臨 床 経 過 を辿 る こ とを合 わ せ 考 3) 4) in J. Med. with cornpromiz- Int. Med. Ann. 80 1974 J. W. ons Fungemia M.: with 76: R. Am. G. L. J. P. fungal neoplastic 458•`463, MYEROWITZ, BODEY, Opportunistic patients Am. et 1984 al.: Disseminated Clin. Pathol. al.: Fever et infecti- disease. patients. 68: and Cancer candi29•`38, 1977 infection 41: in 1610•`1622, 1978 投 与 期 間 と有 効 率 の 関 係 で は,長 期 間 投 与 に よ り有 効 5) 研 究 班 の報 告 にお いて も投 与期 間30日 以上で有効率の 6) 39, 7) 味 か ら も必 要 と思 わ れ た 。 前 治 療 無 効 例 に 対 して も ミコナ ゾー ル の有 効 性 が示 さ れ たが,本 剤 の有 用 性 を裏 付け る も の と いえ る。 ミコ ナ ゾ ール は 副 作用 も少 な く,内 臓 真 菌 症 や抗 生 剤 無 効 の 原 因 不 明 の発 熱 に対 し 試 み るベ き治 療 薬 で あ る BRASS, C.: 章: 真 菌 感 染 症 。 日 本 臨 床41: Antimycotic Antimicrobic therapy: A Newslett. critical 1: 35•` 1984 平 谷 民 雄, 山 口 英 世: miconazOle (base)のin otherapy 8) 伊藤 1983 appraisal. 増 加 す る こ とを認 め て お り8),本 剤 が 充 分 な 臨 床 効 果 を 以上 の継 続 投 与 が 再 発 防 止 の意 福 嶋 孝 吉, 84∼97, 例 が増 加 す る傾 向 が 認 め られ た。 池 本 ら の ミコナ ゾー ル 発 揮 す る に は20∼30日 GOLD, 献 al.: resistance. leukemic 考 え られ る。 et host diasis. え る と,副 作 用 の 少 な い ミコナ ゾー ルは 真 菌 症 が疑 われ る発 熱 患 者 に 対 して 積極 的 に試 み るべ き治 療 薬 の一 つ と R. 池 本 秀 夫, 32: 534∼540, 他 (5施 設): イ ミダ ゾ ー ル 系 抗 真 菌 剤 vitro抗 菌 活 性 。Chem- 1984 ミコナ ゾー ル の深 在 性 真 菌 症 に 対 す る 臨 床 試 験 成 績 。Jpn. 37: 615∼662, 1984 J. Antibiotics CHEMOTHERAPY 24 CLINICAL WITH EFFECTS MYCOSIS JAN. OF MICONAZOLE ASSOCIATED HEMATOLOGICAL PYREXIA RESISTANT IN PATIENTS WITH DISEASES 1988 VARIOUS OR WITH TO ANTIBIOTICS AKIO URABE and FUMIMARO TAKAKU Third Department of Internal Medicine, Faculty University of Tokyo HIDEAKI MIZOGUCHIand First Department of Internal of Internal of Internal Tokyo Women's Medicine, Medical College SHIN-ICHIRO KURIYA Medicine, ATSUSHI TOGAWA and Department MICHIHIKO MASUDA Medicine, TAKEO NOMURA and Third Department of Medicine, Nippon Medical School MASAMICHI AMANO National Medical Center Hospital SEITOKU FUJIOKA, TSUNEHIRO SAITO and KINUKO MITANI Department of Hematology, Mitsui Memorial Hospital HISOMU YAMAGUCHIand YOSHITOMOMUTO Department of Hematology, Toranomon Hospital Tokyo Miconazole, an antimycotic agent was administered to 23 patients with mycosis associated with severe hematological diseases or with pyrexia suspected as being mycotic in order to examine its clinical and side-effects. Subjects were 9 cases of pulmonary mycosis or mycotic pneumonia, 1 case of Candida esophagitis and 13 cases of suspected mycotic sepsis. Miconazole was given by drip infusion2 or 3 times a day at a dose of 200 to 400 mg. Clinical results were remarkably effective in 2, effective in 15, and ineffective in 6 cases, with an efficacy rate of 73. 9%. Side-effects were eruption in 2 and abnormal values of GOT, GPT, T-GTP, Al-P and LDH in 1. The above results suggest that this preparation is effective against visceral mycosis and antibioticresistant pyrexia of unknown cause.
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