CS-807の 産婦人科領域 における臨床的研究

VOL 36
S-
947
CHEMOTHERAPY
1
CS-807の
産 婦 人科領 域 にお ける臨床 的研 究
高 見 沢 裕 吉 ・稲 葉 憲 之 ・竹 本 大 直 ・岩 崎 秀 昭
千葉大学医学部産婦人科
加藤喜市
千葉市立病院産婦人科
河 西 十 九 三 ・久保 田 浩 一
千葉市立海浜病院産婦人科
小 林 総 介 ・平 井 真紀 子 ・田 中
圭
船橋中央病院産婦人科
片 山純 男 ・伊 沢 美 彦
松戸市立病院産婦人科
新経 口抗 生剤CS-807に
つ い て産 婦人 科 領域 感 染症 に対 す る臨 床的 検 討 を行 い,次 の よ うな結 果
を得た。
1)産 婦 人 科領 域 感 染症 患者18例 に対 して,CS-807,1日200mgを2回
与 した際 の臨 床効 果 は有 効 率72.2%で
に分 け,5∼14日
間投
あ っ た。
2)病 巣 よ り26株 の細 菌 が分 離 さ礼
そ の消 失率 は76.5%で
あ った。
3)副 作用 な らび に本 剤 に起 因 す る と考 え られ る臨 床 検 査値 異常 は認 め られ なか った。
CS-807は
三 共 株 式 会 社(東
京)で
経 口用 セ フ ァ ロ ス ポ リ ン剤 で,Fig.1に
開 発 され た 新 し い
示 す よ うな構 造
本 剤 は腸 管壁 のエ ス テ ラー ゼ に よ り加 水 分解 を受 け,
R-3763と
して抗 菌作 用 を発 揮 す る もの で あ り,β-ラ
を有 し,エ ス テ ル を 導 入 す る こ と に よ り経 口 投 与 を可 能
クタ マ ー ゼ に対 して も安 定 で あ る鋤 。 また 本 剤 は グ ラ
に した製 剤 で あ る 。
ム陽 性 お よ び陰性 菌 に対 す る広範 囲 な抗 菌 スペ ク トル を
有 し,こ れ まで の経 口 用 セ フ ァロ スポ リン系薬 剤 が 抗菌
Fig. 1
Chemical
structure
of CS-807 and R-3763
力 を 有 し て い な か っ たEnterobacter,Serratia,indole
(+)Protensに
も抗 菌 力 が及 ん で い る。
CS-807
1.投
与 対 象 お よび 方 法
1.投 与 対象
昭 和61年12月 か ら昭 和62年3月
に千 葉 大 学 産 婦 人 科
学 教 室 お よ びそ の関 連施 設 を受 診 した 産婦 人 科 領域 感 染
症 患 者18例 を対 象 と した。 年 齢 は18∼71歳 で あ った 。
対 象 疾 患 の内 訳 は附 属 器炎6例(う
R-3763
を伴 う),バ
ち1例 は附 属 器 炎 を伴 う),子
合織 炎1例,外
陰 部 膿 瘍1例,尿
併発 した もの1例,術
2.投
ち1例 は外陰 部 膿 瘍
ル トリン腺 膿 瘍5例,子
宮 内膜 炎2例(う
宮溜 膿 腫1例,子
宮労結
道 炎,膣 炎,外 陰 炎 を
後陳 旧性死 腔 炎1例 で あ った。
与 方 法 お よび効 果 判 定
1日200mgを2回
に分 けて経 口投 与 した 。投 与 期 間 は
948
CHEMOTHERAPY
Table
1
Clinical effect of CS-807
MAY, I 988
VOL
36
94欝
CHEMOTHERAPY
S-1
MIC値
5∼14日間,総 投与 量 は1・09∼2・89で あ った。
臨床効果は疼痛 ・腫 脹感 な どの 自覚 症 状 の消 長 ・局 所
発赤 ・浮腫 ・腫脹 ・膿 汁分 泌 な どの他 覚 所 見 さ らに起 炎
菌の消長 ・血清CRP・
はS.epidermidisに
おい て 高値 を示 した が,他
は良好 な値 を示 して お り,そ の 臨床 効 果 は著 効2例,有
効3例,や
や 有 効1例 で あ り有 効 率 は83.3%で
症 例7か
白血 球数 ・血 沈 ・体 温 な どの検 査
あ った。
ら11は バ ル トリン腺 膿 瘍 の症 例 で あ り,病
成績の変化な どか ら総 合 的 に判 定 し,著 効,有 効,や や
巣 よ り 分 離 さ れ た 細 菌 はE.coli,Gram-positive
有効,無 効,不 明 の5段 階 と した。
cocci(GPC),H.influenzaeで
また,可 能 なか ぎ り投与 前,投 与 中 お よび投 与 後 に病
GPCは
消 失,E.coliは
あ った。CS-807投
減 少,H.influenzaeは
巣から細菌の 分離培養 を行 い,細 菌 学 的効 果 と して菌消
あ った。 これ らの症 例 の 臨床 効 果 は有 効3例,や
失,減 少,菌 交 代,増 加,不 変,不 明 の6段 階 で判 定 し
1例,無
や有 効
あ った。
症 例12お よ び13は 子 宮 内躾 炎 の症 例 で あ り,症 例12
た。なお分離 菌 の同 定 は(株)科
学 技 術研 究 所 臨 床 検 査 部
は附 属器 炎 を併発 して いる患 者 で あ る。病 巣 よ り4種 の
(東京)で 実施 した。
II.臨
効1例 で有 効 率 は60%で
与後
不明で
床
成
績
細 菌 を分離 したが,Lactobacillus
CS-807を 投与 した18例 の 年 齢,体 重,臨 床 診 断,投
与量と期間,分 離 同定細 菌 名 とそのminimum
tory concentration(MIC),細
inhibi-
菌 学 的効 果,臨 床 効 果
および副作用 の一 覧表 をTable1に
示
した。
示 す よ うに8種 の細 菌
さ らに子 宮 溜 膿腫(症 例14),子
15),外 陰 部膿 瘍(症 例16)尿
Table
2
Clinical
効1例
宮 労 結合 織 炎(症 例
道 炎,膣 炎,外 陰 炎 の併
後 陳 旧性 死 腔 炎(症 例18)の
症例に
対 して本 剤 の投 与 を行 った が,こ れ らの症 例 にお け る臨
床 効 果 は症 例15,16,17で
や有 効 で あ った。
を分離 同 定 した。 これ ら の 細 菌 に 対 す るR-3763の
消
で あ った。
発 例(症 例17),術
症例1か ら6ま で は附属 器 炎の症 例 であ る。 これ らの
sp.P.avidumは
Dstaphytococcus(GDS)とB,fragilisは
不 明 で あ った。 これ らの 臨床 効 果 は著 効1例,有
示 した。 ま た,治
療効果判定 に関 して疾 患 ご とに整 理 してTable2に
症例のうち5例 よ りTable1に
失,Group
effect
of CS-807
有 効,症 例14お よ び18で や
950
MAY. 1988
CHEMOTHERAPY
Table 3
*1: Gram
positive rods
Bacteriological
*2: Gram positive
coccus
effect of CS-807
*3 : Gram positive
bacteria
*4: Group D Staphylococcus
以 上18例 に対 す る臨 床 効 果 は著 効3例,有
や や有 効4例,無
効10例,
効1例 で 有 効 以 上 の 有 効 率 は72.2%
で あ った。
フ ァロ ス ポ リ ン 剤 が 抗 菌 力 を 有 し て い な いEnterobacter,Serratia,indole(+)Proteusに
また,病 巣 よ り分 離 され た26株 の細 菌 の う ち消 失 を
認 め た もの1斜朱
ロ セ フ ァロ ス ポ リン系薬 剤 で あ り,こ れ までの経口用セ
減 少1株
り,菌 消失 率 は76.5%で
不 変3株,不
明9株
であ
あ った(Table3)。
本 剤 に起 因 す る と考 え られ るア レル ギ ー反応 や 胃腸障
も抗 菌力が及
ん で い る。
今 回,各 種 産 婦人 科領 域感 染症18例 にCS-807を1日
200mg,5∼14日
間経 口投与 し,臨 床効果 を検討 した。
18例 にお け る臨 床 効 果 は著 効 が3例(16.7%),有
効
害 な どの副 作用 は全例 に認 め なか った。 また投 与前 後 に
以 上 が13例(72.2%)と
お け る 臨 床 検 査 値 の 異 常 変 化 も全 例 に 認 め な か った
副作 用 お よび本 剤 に起 因 す る と考 え られ る臨床検査値異
(Table4)。
常変 化 は全例 に認 め られ ず,極 めて安 全 な薬剤 であると
III.考
CS-807は,腸
按
管 壁 の エ ス テ ラー ゼ に よ り脱 エ ス テル
化 され て活 性体 として吸 収 され抗 菌作 用 を発 揮 す る新 経
良好 な有 効 率 を示 した。 また,
い え る。
以 上 の 結果 よ り,本 剤 は経 口用 セ フ ァロスポ リン剤 と
して今 後 さ らに検 討 に値 す る もの と考 え られ る。
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CHEMOTHERAPY
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952
CHEMOTHERAPY
文
献
MAY, 1988
2) KOMAI,T; K. FuJimuro, M. SEKINE& H. MASUDA,
1) SUGAWARA,
S.; M. IWATA,M. TAJIMA,T. MAGAR
CS-807, a New Orally Active Cephalosporin, II ,
IBUCHI,H. YANAGISAWA,
H. NAKAO,J. KUMAZAWA
Absorption-excretion
& S. KUWAIIARA.CS-807, a New Orally Active
Animals. 26th Interscience Conference on Antimi-
Cephalosporin.
vivo
crobial Agents and Chemotherapy, New Orleans,
Con-
1986
Antibacterial
I. In
vitro
and
in
Activities. 26th Interscience
ference on Antimicrobial
Studies in Experimental
Agents and Chemother-
apy, New Orleans, 1986
CLINICAL
AND
EFFICACY
OF CS-807 IN OBSTETRIC
GYNECOLOGICAL
INFECTIONS
HIROYOSHI TAKAMIZAWA, NORIYUKI INABA, OHNAO TAKEMOTO and HIDEAKI IWASAKI
Department
of Obstetrics
and Gynecology,
Faculty of Medicine, University
of Chiba, Chiba
KIICHI KATO
Department
of Obstetrics and Gynecology,
Chiba Municipal
Hospital, Chiba
TOKUZO KASAI and KOICHI KUBOTA
Department
of Obstetrics
and Gynecology,
Chiba Municipal
Kaihin Hospital, Chiba
SOSUKE KOBAYASHI, MAKIKO HIRAI and KIYOSHI TANAKA
Department
of Obstetrics and Gynecology,
Department
of Obstetrics
Funabashi
Central Hospital,
Funabashi
SUMIO KATAYAMA and YOSHIHIKO IZAWA
The
clinical
investigated,
efficacy
of the
and the following
oral
and Gynecology,
cephalosporin
results
rate
in obstetric
Hospital, Matsudo
and gynecological
infections
in two divided
doses per day to 18 patients
isolated
side-effects
from the lesions, 76.5 % was eradicated
nor abnormal
was
for 5-14 days, its
was 72.2 %
2) Of 26 strains
3) Neither
CS-807
Municipal
obtained.
1) When 200 mg of CS-807 was administered
efficacy
Matsudo
laboratory
findings
related
by the treatment.
to the drug
were observed.