Page 1 Page 2 氏 名 片野坂 徳 章 学位(専攻分野) 博 士 (農 学) 学位記

KURENAI : Kyoto University Research Information Repository
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海洋性低栄養細菌の16SrRNA遺伝子情報を用いた系統分
類学的解析( Abstract_要旨 )
片野坂, 徳章
Kyoto University (京都大学)
1999-03-23
http://hdl.handle.net/2433/181912
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
氏
名
芹
轟
窟
鎧
士
学位 (
専攻分野)
博
学 位 記 番 号
農
学 位 授 与 の 日付
平 成 11年 3 月 23 日
学 位 授 与 の要 件
学 位 規 則 第 4 条 第 1項 該 当
研 究 科 ・専 攻
農 学 研 究 科 水 産 学 専 攻
学 位 論 文題 目
6Sr
RNA遺伝子情報 を用 いた系統分類 学 的解析
海洋性低栄養 細菌 の 1
博
第
(
農
葺
学)
1
062 号
(
主査)
論 文調査委員
教 授 内 田 有 性
論
文
内
教 授 中 原 紘 之
容
の
要
教 授 加 藤 暢 夫
旨
外洋の従属栄養細菌 を計数す る際に,低濃度ペプ トン培地 (
ST10 4培地 ;
0.
5
mg/L) を用い ると,Zo
Be
1
1
2
21
6
E培地な ど
の高濃度ペ プ トン培地 を用いた場合 に比べて 2, 3桁高い値が得 られ る。 このよ うな低濃度有機物培地で増殖可能な従属栄
養細菌は 「
低栄養細菌」 と定義 され る。本研究の 目的は外洋 で常在 してい る低栄養細菌種 をその 1
6
Sr
RNA遺伝子の塩基配
列情報に基づき系統分類学的に位置づ ける事にある。内容 は以下の とお りである。
第一章では, これまでの研究背景 として,寒天平板培地や高濃度 (5g
/L) のペプ トンを含むST培地では増殖 できない
Obl
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go
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o
phs:00)が外洋 で優勢 に存在す ることを述べてい る。
が,STIO 4培地では増殖可能な偏性低栄養細菌 (
また, この よ うな00が常法で分離 された海洋細菌や,海水 中の細菌粒子か ら分離 ・培養 を経ず に直接抽 出 したゲノムDNA
か らPCR増幅 した1
6Sr
RNA遺伝子 (
1
6
Sr
DNA)をクローニング して得た1
6
Sr
DNAクローン (
unc
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ne
s
:UBC) の どち らとよ り近縁であるかを解析す るための,1
6
Sr
DNAの塩基配列情報 に基づ く系統分類 の必要性 について述
べている。
第二章では,黒潮海域 (
外洋)か ら分離 した00分離株 の1
6
Sr
DNA塩基配列 を決定 し,同 じ海水試水か ら分離 した通性低
栄養細菌 (
ST培地で も増殖可能 ;Fac
ul
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phs:FO)分離株 ,お よび00として分離 したが,継代培養 を繰 り
Adapt
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o
phs:AFO)分離株 のそれ と系統学分類的に比
返す うちにFO化 した適応化通性低栄養細菌 (
較 した結果 について述べてい る。今回分離 した 3群の低栄養細菌分離株 はすべてプ ロテオバ クテ リア γサブグループに属 し
たが,そのなかで00分離株 はFO分離株 と系統分類学的に明 らかに異な,
ること,またAFOは00よ りFOに近縁 であること
を明 らかに している。00にみ られ る偏性低栄養性が,FOが一時的に陥った特殊 な生理状態 にす ぎない とい う仮説 を否定 し
た。 さらに00分離株がデー タベース中の既知の海洋細菌やUBCとも系統分類学的に異なる新奇な細菌であることも明 らか
に した。
第三章では,00分離株の 1
6Sr
DNAとそれ らを分離 した同一の海水 中のUBCのそれ を比較 した結果,00に近縁なUBCを
6
Sr
DNAの増幅が
得 られなかったことを述べてお り, これは混成ゲノムDNAをテ ンプ レー トとしてPCRを行 うと,偏 った 1
なされ るためではないか と考察 している。ただ し,異なる海域か らは00分離株 の 1つ と近縁 なUBCを分離できた事 を述べ
てお り, このことか ら00分離株の外洋での優 占性 を遺伝子 レベルで も明 らかにできた と述べてい る。
0
4
培
第四章では,微量ではあって も添加 したペプ トンが,ある種 の低栄養細菌の増殖 を制限 してい る可能性 を考 え,ST1
地に加 え, 3種類 (
i
SW,C,お よびCPN)の培地 を新たに調製 し,00を計数 し,分離 した00株 を系統解析 した結果 を述
i
SW培地)やi
SW培地に微量のグル コースを炭
べている。現場海水 をろ過滅菌 したのみで新たに有機物 を添加 しない培地 (
素源 として添加 した培地 (
C培地)お よびi
SW培地にグル コース,無機態窒素, リンを添加 した培地 (
CPN培地) を用いた
O 4培地 を用いたそれ と同等 あるいはそれ以上に高 く,それ らの低栄養培地か ら分離 した0
0の
低栄養細菌の計数値 は,STI
4
培地では増殖 できない00株 を兄いだ した。 STIO 4培地 を用いて分離 した00はすべてプ ロテオバ クテ リア γサ
中に,sワlo-
-1
0
41-
ブグループに属 したが,i
S
W培地,C培地,お よびCPN培地 を用 いて分離 した00は, γサブグループだけではなく,プロ
テオバ クテ リア βサブグループや F
l
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グループに属す る系統学的 に多様かつ新奇な細菌
4培地 に含 まれ る微量のペ プ トンが, γ サブグループ以外 の0
0の増殖 を阻害 してい
も存在 していた。 以上の結果 か らST10-
る可能性 を考察 している。 さらにCP
N培地か ら分離 した 1株 の00株が大西洋や太平洋の海水試水か ら得 られているUBCの
1つ と近縁であることか ら,将来UBCの一部 は00として分離 され る可能性 を明 らかに した。
第五章では,得 られた結果 を総括 してお り,系統分類学的に新奇 な偏性低栄養細菌が外洋域全般 に広 く普遍的に分布 してい
ると結論 してい る。
論
文
審
査
の
結
果
の 要
旨
極 めて有機物濃度が低い低栄養環境 である外洋海水 中には,海水の有機物濃度 より数万倍高い濃度のペプ トンを含む高濃
度ペプ トン培地には増殖できず,それを海水程度 に希釈 した低濃度ペプ トン培地でのみ増殖可能な偏性低栄養細菌
(
Ob
l
i
g
a
t
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Ol
i
g
o
t
r
o
p
hs:00)が多 く存在す る。本研究は, これ ら00の1
6
Sr
RNA遺伝子の塩基配列情報か らその系統分類学的位置 を
検討 したものである。本研究の評価すべき点は以下のとお りである。
1.黒潮海域の同一の海水試水か ら00と,高濃度ペプ トン培地で も低濃度ペプ トン培地で も増殖 可能な通性低栄養細菌
(
Fa
c
ul
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t
i
v
eOl
i
g
o
t
r
o
p
hs:FO)
,お よび最初 は00として分離 したが,継代培養 を繰 り返す うちにFO化 した適応化通性低
栄養細菌
(
Ad
a
p
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dFa
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g
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r
o
p
hs:
AFO)を分離 し,それ らの 1
6
Sr
DNA部分塩基配列 を決定 した うえで比較
OやAFOとは系統的に全 く異な り,00の偏性低栄養性が,何 らかのス トレスによる一時的な生理状
した。その結果00はF
6
Sr
DNAがデータベース上の
態にす ぎないのではな く,00固有の特徴である可能性 を示 した。 また大部分の00分離株 の1
既知の細菌 とは相 同性が低い ことか ら, これ ら00分離株 が固有の増殖特性 を持つ系統分類学的に新奇な細菌であることを
初めて証明 した。
2.上記の00を分離 した海水 中の細菌粒子 をろ過濃縮 し,そ こか ら直接抽 出 したゲノムDNAか ら1
6
Sr
DNAをPCR増幅
6
Sr
DNA (
unc
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i
a
lc
l
o
ne
s;UBC)を得 よ うとした。それ
す ることによ り,その海水 中で優 占 している細菌 1
らと00分離株 を系統分類学的に解析 した ところ,00分離株 と近縁なUBCが存在 し,00が海水 中で優 占している可能性 を
6
Sr
DNAがUBCとして回収できなかった こともあった ことか ら,混成種のゲ
遺伝子分布 の情報か ら示 した。 しか し00の 1
ノムDNAをテ ンプ レー トとしてPCRを行 う際に,偏 った増幅によ り00分離株 の 1
6
Sr
DNAが組み込まれたUBCを得 ること
ができなかった可能性があると考察 し,分離培養 を経ないDNA直接解析法の限界 も示 した。
3.現場海水 をろ過滅菌 した培地やそ こにグル コースな どペプ トン以外の有機物 を添加 した低栄養培地を新たに調製 し,
低栄養細菌の計数 を行 った ところ,低濃度ペプ トン培地を用いた計数値 と同等あるいはそれ以上高い計数値 を得た。 またそ
れ ら各低栄養培地か ら分離 した00には低濃度ペプ トン培地では増殖できない ものが多い ことか ら,微量のペプ トンによっ
て も増殖が阻害 され る00が存在す ることを初めて明 らかに した。
4.1
6
Sr
DNA塩基配列 によ り,系統解析 を行 った結果,低濃度ペプ トン培地か ら分離 され る00がすべてプロテオバ クテ
リア γサブグループに属す るのに対 し,それ以外 の低栄養培地か らはプロテオバ クテ リア βサブグループやF
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s
グループに属す る系統分類学的に新奇 な00を分離できる事 を明 らかに した。 またその中には大西
洋の海水試水か ら得 られているUBCに近縁な00を分離す ることに も成功 した。
以上のよ うに本論文は新 しく改良 した低栄養液体培地を用いることにより,系統分類学的に新奇かつ多様な偏性低栄養細
菌 を多数分離す ることに成功 し,海洋分子微生物学,微生物生態学,お よび系統分類学に寄与す るところが大きい。
よって本論文は博士 (
農学)の学位論文 として価値 あるもの と認 める。
年 2月 1
7日,論文な らびにそれ に関連 した分野にわた り試問 した結果,博士 (
農学)の学位 を授与 され る学
なお,平成 11
力が十分あるもの と認 めた。
ノ
-1
0
42-