Title 狭いすきまにおける粘性流動に関する基礎的研究

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狭いすきまにおける粘性流動に関する基礎的研究(
Abstract_要旨 )
柴山, 俊之
Kyoto University (京都大学)
1967-03-23
http://hdl.handle.net/2433/212149
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
朋
れ博
之 卵士
優
山
氏)
【2
49】
学
学 位 の 種 類
博
1
23 号
学 位 記 番 号
工
学位授与 の 日付
昭 和 4
2年 3 月 2
3日
学位授与の要件
学 位 規 則 第 5条 第 1項 該 当
研 究 科 ・専 攻
工 学 研 究 科 機 械 工 学 専 攻
学位論文題目
狭 いす きまにおける粘 性流動 に関する基礎 的研究
論 文 調 査 委員
(主 査)
教 授 森
論
第
美 郎
文
内
教 授 福 田 国 弥
容
の
要
教 授
玉
田
洗
旨
本論文 は慣性 よ りも粘性 が支配的な狭 いす きまにおける流動を基礎的に論 じ, 例えば軸受 あるいは油圧
機器などの どと く, 狭 いす きまの粘性流動が本質的に性能 を左右す る機械要素の基本特性 を明 らかに し,
かつその性能 の向上をはかることを 目的 と した もので, ニュ- トン流体 に関す る第 1 編 5章 と非 ニュー ト
ン流体 に関す る第 2 編 3 葦 か らな っている。
第 1編第 1章 においては, 通常の静圧気体軸受 にみ られ る多数給気孔 よ り狭 いす きま- の吹出 し流れを
とりあげ, 最大軸受剛性 を与え るよ うに設計試作 したジャーナル軸受 において, 給気孔圧力を測定 して偏
心率を推定 し, 複素 ポテ ンシァル理論よ り導 かれた圧力分布および流量を実測値 と比較検討 して, 理論の
妥 当性 を確かめ, かつ給気孔絞 りの設計理論 について も述べてい る。
第 2章 は多孔質表面 よ り狭 いす きまへの吹出 し流れを論 じた もので, 円板型静圧気体多孔質 ス ラス ト軸
受 を とりあげ, 従来の理論が多孔質材料 内の流れを毛細管群 の流れや仮想的な平行す きまの流れ と仮定 し
た ものであ ったのに対 し, 多孔質材料 内の流れを表わす三次元式をそのまま基礎方程式 と し, かつす きま
内の流れ は多孔質材料 内流れの一 つの境界値 にす ぎな い と い う考 え 方を採用 して, よ り厳密な理論解 を
得 , 圧力分布および負荷容量の実験 に よ って 理 論 の 正 当性 を立証 し, かつ圧縮性の影響 , 透過率の異方
悼 , 従来の理論 との比較について述べてい る。
第 3章では, 第 2葦の理論的根拠 にた って, 理論の一般化 を行 ない, これを従来の理論では取扱 い得な
い種 々の多孔質静圧気体軸受 に適用 して, これ らの軸受の圧力分布 , 負荷容量 , 流量などの基本特性 を解
析的に求 め得 ることを例示 し, 設計計算方式を確立 してい る。
第 4葦 では, 狭 いす きま- の吹出 し流れ に対す る電解槽実験 について検討を行ない, 第 1童の静圧気体
ジヤ- ナル軸受 , 第 2 章の円板型静圧気体 多孔質 ス ラス ト軸受 について, アナ ロジー成立の基本原理を明
らかに し, 実験 方法を述べて理論 との比較検討を行ない, 電解槽実験 の有効性 を論 じている。 特に多孔質
軸受 に対 しては, 比抵抗が相異な り互 いに混合 しない二つの電解層を積層 させ る構造 が有効であることを
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論 じ, その実験 定数 の決定方法 を与 えてい る。
第 5童 で は, スプ ール弁や プ ランジャー ・ ポ ンプ にみ られ る二 円簡問微小 す きまを軸方 向に流 れ る圧 力
差 によ る粘性流 動 を取 扱 い , 内筒が傾 きかつ偏心 した場合 お よび内筒が テーパ を有 L かつ偏心 した場合 に
つ いて , レイ ノル ズの基礎 方程式 を摂 動法 によ って解 き, その結果 よ り, 同程 度 のす きま変化 で あれ ば内
筒が傾 いた場合 の方 が テーパ のつ いた場合 よ り も内筒 の受 け る反 力 が大 きい ことを述べ , また傾 いた 内筒
の偏心 に対 す る復元 剛性 は, 内筒の長 さ と直径 の比 が
第
2編第 1章 は,
1
.
1
2
6を境 と して正負運転 す る ことを示 してい る
。
ビ ンガ ム流体 の非平 行流 れ と して , テーパ つ き円管 , 無 限 幅 テーパ 状す きまお よび環
状す きまにお け る圧 力差 によ るゆ るや かな流 れ を取 上 げ , その非線形微分方 程式 に比栓 半径 あ るい は比栓
厚 さを助変数 に選 ぶ ことによ って厳密解 を得 てい る。 計算結果 は ビ ンガ ム数 の導 入 によ って一般 的な無 次
元 量 で表わ され非平行 ピ ンガ ム流 動の傾 向 と して , 降伏値 よ り塑性粘度 の影響 が顕 著 で あ る こと, ビ ンガ
ム数 の小 さな領域 で は流路 断面積 の変化 の影響 が大 で あ るが , ビ ンガ ム数 の大 きい降伏値 の支配 的な領域
で はその影響 が ほ とんどな くな る ことを述べ てい る。
第 2 葦 で は, 充 て ん層 にお け る擬 塑性流体 とビ ンガ ム流体 の流 れ の圧 力損失 を測定 し, 摩擦公式 につ い
て検 討 してい る。 擬 塑性流体 に対 して は, まず次元解析 によ り摩擦公 式 の形 を予測 し, つ ぎに充 て ん層 の
流 れ が多数 の毛細管群 の流れ と等価 で あ るとい う仮定 を設 け, ニ ュー トン流体 に用 い られ る水 力半径 の概
念 を導入 して , 円管 内流 動の摩擦公 式 か ら類推 され る レイ ノル ズ数 と抵抗 係数 の 関係 を導 いてい る。 つ ぎ
に, ビ ンガム流体 に対 して も同様 の検 討を行 ない , ニ ュー トン流体 に対 して成 立す る摩擦公式 が この場合
に も拡張 され適用 され得 る ことを示 してい る。
第 3葺 で は, 高粘度 の物質 が壁面 に沿 って移 動す る際 の壁面 にお け るすべ りを論 じ, 油粘土 と各種壁 面
との問 の一 種 の摩擦実験 を行 な って い る. 結果 と して , 接触圧 力 が比較 的小 さい場合 に, 接触圧 力 によ っ
て トル クと回転数 の関係 が著 しく変 動す る ことよ り, 壁面 にすべ りが存在す る もの で あ る ことを論 じ, し
か もこれが従来 の壁効果 の概念 で は説 明 し得 ない もので あ り, 近似的 に クー ロ ンの法則 が あて はま る こと
か らむ しろ固体面 問の摩擦すべ りに近 い と述べ てい る。 さ らに このすべ り挙動 が静 的な付着性 と関連 を有
す る こと, 表面 あ らさが あ らい ほど摩擦 係数 が高 い こと, また接触圧 力が大 きい場合 にはすべ りが少 な く
な る傾 向を もつ ことを明 らか に して い る。
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
狭 いす きまにおけ る粘性流動 の基礎 的解 明 は潤滑 あ るい は油圧工 学上不可欠 の もので あ り, これ によ っ
て軸受 あるい は油圧機器 な どの設計方式 が確立 され , 性能 の 向上 が期待 され る もの で あ る。
著者 はまず狭 いす きま- の吹 出 し流 れ を論 じる ことによ って静圧 気体 軸受 を取 り上 げ , 多数 給気孔 を有
す る場合 につ いて複素 ポテ ンシァル理論 が有効 で あ る ことを立証 す るとと もに, 静圧 気体 多孔 質軸受 に対
して は, 新 た に多孔質 材料 内の流れ に対 す る三次元 の基礎 方程 式 を採 用 し, 軸受す きま 内の流 れ はその一
つ の境界値 にす ぎな い とす る独 自の理論 展 開 を試 み , 実験結果 とよ く一 致す る理論結果 を得 て い る。 この
考え方 は, 従来 多孔質 材料 内の流れ を単 に軸受表面 に垂直 な毛細管群 と考 え るか , あ るい は多孔質 材料 内
に仮 想的な 平行す きまを想定 していた理論模型 を よ り厳密 な もの に改 め るの に成 功 した ばか りでな く, 多
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孔質材料の透過率の異方性の影響および種 々の 複 雑 な 軸 受 型 式の設計 に関す る理論的検討を可能な らし
め, この種軸受 に対す る設計方式を確立 した ものである。 さらに本理論 は従来用い られていた理論模型の
評価 に も役立 ち, それ らの適用に有力な指針を与えている。
以上述べた軸受 に対 し, 著者 は電解槽実験が有効であることを立証 しているが, 多孔質軸受に対 して提
案 された二層の電解層の積層構造を用いる方法は新 しい実験技術 と して注 目すべ きものである。
次 に, 二 円筒間微小す きまの圧力差 による軸方向流れを取 り上げ ることによって, 油圧機器 におけるイ ドロ リック ・ ロックの問題 に触れ, 内筒が傾 きかつ偏心 した場合および内筒がテーパ を有 L かつ偏心 し
た場合の摂動法 による理論解 に成功 している。 これは流動特性 および内筒に作用す る反力の計算を可能な
らしめたばか りでな く, 内筒にテーパがある場合 より内筒が傾いた場合 に- イ ドロ リック ・ ロックの危険
.
1
2
6を越えれば無偏心位 置への復元力が減少す ることなど
が多い こと, 傾いた内筒の長 さと直径の比が 1
の実際上有用な新 しい知見を加えている。
また非 ニュー トン流体 に対 しては, まず , ダイなどにみ られ るゆるやかな狭ま りあるいは拡が り流路に
おけるビンガム流体の栓流の機構を厳密に解 明 し, 狭ま りや拡が りの程度が流動特性 に及ぼす影響を検討
し, 結果を適 当な無次元量を用いて図示す ることによって, 応用に使な らしめている。
ついで, 指数親に したが う擬塑性流体 および ビンガム流 体 が充 て ん 層 を流れ る場合の圧力損失を実測
し, 円管 内の流れにおける水力半径の概念の導入 とレイノルズ数 を定義 し直す ことによってニュ- トン流
体 に対 して成立す る摩擦公式が非 ニュー トン流体 に対 して も拡張かつ 適 用 され る こ とを明 らかに してい
る。
さらに, 高粘度な粘塑性物質の流動においては, 壁面 との接触圧力の小 さい場合 に, 固体面間の摩擦す
べ りに近い壁面すべ りが生ず るとの新 しい知見を加えている。
これを要す るに, 本論文 は軸受 , 油圧機器 あるいはダイなどの性能 に本質的な影響を与える狭いす きま
の粘性流動に関す る問題点を基礎的に解明 し, かつ有用な設計資料 および性能改善の指針を与えた もので
あり, 学術上および工業上寄与す るところが少な くない。 よって本論文 は工学博士の学位論文 として価値
あるもの と認め る。
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