トレンド

トレンド
IT で工場全体・設備の稼働率向上と
予防保全の仕組みづくりを支援
シーイーシー
いかに生産設備の稼働率を上げるか。それはす
にすれば、不良品が少なくなるとともに、設備総
べての製造業が抱えている課題だ。その課題を解
合効率は上がる。設備総合効率が上がればライン
決しようと設備の稼働データの収集・蓄積・分析
数や設備を削減したり、設備投資を抑えることが
に乗り出す企業が増えている。その目的は設備の
できるだろう。そうなれば、作業要員やエネルギ
停止要因を見いだすことだ。設備を停止させる要
ーの使用量を減らすことも可能。予防保全をテコ
因や傾向を把握できれば、停止時に適切な対策を
とする保全業務の効率化は利益の拡大をもたらす
素早く実施したり、設備停止前に予防対策を講じ
わけだ。
ることが可能となる。そのために欠かせないのは、 そのステップを歩むための前提は設備の稼働デ
設備の稼働データを収集するだけでなく、集計・
ータをモニタリングし、収集した稼働データを蓄
分析まで自動的に実行する仕組みを構築すること
積・分析することだ。以下、Facteye の機能と活
である。システムインテグレータのシーイーシー
用法を取り上げつつ、予防保全の仕組みづくりに
は Facteye
(ファクティエ)
という製造業向け IT ソ
ついて見ていくことにしよう。
リューションを提供し、設備の稼働データを収
集・可視化し、停止要因を分析したいという製造
業のニーズに応えている。
工場全体を設備単位で可視化
稼働率改善を後押しする Facteye
同社執行役員ソリューションサービス事業部長
まず、シーイーシーが提供している生産ライン
兼営業部長の立石博氏は、
「Facteye が提供する価
開発・保守のためのソリューション「VR + R(ヴ
値は設備の稼働率を上げること、そして保全業務
イアールプラスアール)」について概観しておこう。
を効率化することだ」と話す。設備の故障をゼロ
VR + R の VR は、バーチャルリアリティを意味し、
予防保全図
・機能要素部品の破損・摩耗等により故障が発生したあとに対策をとる方
式
・保全周期を定めて、整備を定期的に分解点検し、不良部品の交換をする
が劣化傾向管理はしない
・整備の劣化周期を定めて、周期単位に点検・交換・整備する方式
・点検や診断によって機能要素部品の寿命を予知。最適保全期間の決定に
よって故障損失や保全費のリスクを最小とする効率的な保全方式
・設備の信頼性、安全性、保全性などの向上を目的として、設計上の弱点
改善や機能向上を行なう。寿命延長はもとより、保全不要の設備を目指
した保全方式
工場管理 2015/02
113
立石 博氏
松井裕晃氏
の出来高を達成できるかどうかといった計画・分
析をシミュレーションできる機能を持つ。RaAP
は、工程設計業務を支援するソリューションとい
える。同社はまた、設備や人、資材の最適配置と
作業の効率化を支援するソリューションとして、
アクティブタグなどの位置検知センサを活用して
作業員やフォークリフトなどの位置情報を収集し、
動線分析機能をもつ RaFLOW(ラフロー)も提供し
R はリアリティを意味する。VR + R は、シミュレ
ている。
ーションによる事前検証とリアルな実績データを
冒頭で触れた Facteye は、生産設備とネットワ
融合し、生産現場の課題を解決するソリューショ
ークで接続して常に設備の稼働状況をモニタリン
ンで構成されている。以下、主要な VR + R 製品
グすると同時に、データを蓄積・分析する機能を
を紹介しよう。
持つソリューションだ。
「特に工作機械の詳細な状
ロボットや自動化設備は生産現場に欠かせない
態や稼働記録が取れることが Facteye の特徴であ
存在だ。同社は、ロボットのプログラムを自動生
り、Facteye は機械が保有しているデータを効率
成したり、自動化設備のレイアウトの最適化を図
的な保全計画の立案に活用するためのツールだ」
ったりするためのシミュレーション機能を持つ
と、ソリューションサービス事業部営業部グルー
Virfit(バーフィット)
を提供している。Virfit を活
プマネジャーの松井裕晃氏は話す。
用することによって、製造業は生産ラインの構想
Facteye の機能は、設備の稼働分析と予防保全
設計・現地立上げに要するプロセスを効率化する
の2つに大別できる。まず、稼働分析機能につい
ことが可能だという。一方、生産現場を実寸法で
て見ていくことにしよう。設備の稼働を分析する
再現し、工場全体の生産をシミュレーションする
ための基本となるのは設備稼働率を把握すること。
機能を提供するのが RaAP(ラープ)というソリュ
Facteye は、運転中か停止中か、停止中であれば
ーションだ。RaAP に生産計画をインプットする
アラーム停止中なのか、というように詳細な設備
と PC 画面上で人と機械、モノが3D で動きだす。 の稼働状態を監視・蓄積し、そのデータに基づい
RaAP は、製造現場における人と機械、モノのバ
て稼働率を算出する。稼働率は、工程、設備ごと
ランスを可視化し、新しい生産ラインが目標通り
などさまざまな視点で把握することが可能。また、
シーイーシーの VR + R ソリューションラインアップ
114
Vol.61 No.2 工場管理
トレンド
IT で工場全体・設備の稼働率向上と予防保全の仕組みづくりを支援
アラーム種別や停止要因ごとに非稼働時間を把握
具の寿命を予測することだ。寿命の予測精度が高
することもできる。
「さまざまな切口で設備の稼働
いほど、予防保全を効率的かつ的確に行うことが
率を把握し生産に大きな影響を持つ設備を洗い出
できる。設備ごとに不具合が生じた場合に、生産
すことによって、効果的な保全計画の立案ができ
にどのような影響をもたらすかを押さえておくこ
る」と松井氏は話す。
とも重要なポイントだ。生産に対する影響度を明
設備総合効率を向上させるには、設備停止の要
らかにすることが、
「どの設備を予防保全の対象と
因や傾向を把握し、適切な対策を実施しなければ
するか」さらに「予防保全のためにどれほどの費
ならない。Facteye は設備が停止した際に走って
用をかけるか」などの判断基準となる。
いたプログラムや主軸負荷、電流値、トルク値、
上述した前提のために欠かせないのが、設備の
運転モードなどさまざまな稼働データを収集する
停止記録と故障原因の解析記録を蓄積し、データ
ことで、アラームとプログラム、機器の状態、設
ベース化することだ。予防保全を実践する企業は
備の操作状態の紐付けも可能だ。そしてそのデー
蓄積された解析記録から、設備のどのデータを監
タを日報、週報、月報など顧客のニーズに合った
視し、どの値を異常とするか、独自のしきい値を
帳票がアウトプットでき、工場管理者の故障原因
定めている。Facteye は、CNC や PLC、各種セン
の解析作業を支援する。例えば、切削現場では、
サと接続して設備の稼働データや機器の状態をデ
稼働率が計画より低いラインの稼働情報を解析し
ータベースに蓄積する。さらに、Facteye は熱や
た結果、自動運転用の切削プログラムが手動運転
負荷、電流値がしきい値を超えるなど設備の変化
モードで実行されていたことが判明。切削条件を
をなど検知するアルゴリズムを備え、その変化を
見直すことで自動運転が可能となり、稼働率の改
グラフで表示する。
善につながったケースもある。設備管理者はその
これらの機能が時間基準保全業務の確実な実施
情報を見ることによってプログラムの改善など、
を支援する。工作機械の切削液を交換するケース
稼働率向上のための対策を素早く実行することが
できるわけだ。
Facteye 日報画面(例)
Facteye はまたアラームの種別に停止した件数、
停止してから動きだすまでの時間
(MTTR)
を提示
する。その情報を分析すれば改善すべき事象を把
握することが可能だ。
海外に進出している製造業が、現地工場の生産
性を向上させるためのツールとして Facteye を活
用するケースも多いという。
「現地工場で稼働する
設備の稼働データを、日本にいる技術者が遠隔監
視で設備の状態を参照し、設備に不具合をもたら
す要因を把握することに利用している」と立石氏
は話す。
時間基準保全業務の確実な実施を支援
Facteye が持つもう1つの主要機能は予防保全
だ。予防保全に関連する Facteye の機能に触れる
前に、予防保全に取り組むために製造業が行うべ
きこと、準備しておくべきことを押さえておこう。
予防保全体制を構築する前提は工場で使用して
いる設備や工具の寿命を可視化し、その設備・工
工場管理 2015/02
115
工場内の設備稼働状況のアラーム監視
稼働時間とアラーム要因の把握
116
Vol.61 No.2 工場管理
トレンド
IT で工場全体・設備の稼働率向上と予防保全の仕組みづくりを支援
予防保全機能の一部
設備停止記録をデータベース化
を例にして Facteye を活用した時間基準保全業務
たらす設備を選定し、さらに予防保全を進めるう
プロセスを見てみよう。基本となるのは工作機械
えでカギとなるデータを決定することはそれほど
が持つ切削液の射出時間データだ。Facteye はそ
簡単なことではない。同社は、日産自動車のクル
のデータを収集・蓄積することができ、管理者は
マづくりで培ったノウハウを凝縮した生産方式
そのデータを切削液交換の期間予測に用いること
「NPW(Nissan Production Way)」を基に、企業
ができる。そして、切削液射出の稼働累計と切削
の改善コンサルティングを展開する日産コンサル
液を交換した日時に基づいて、次の交換時期を管
ティングと連携して製造業の保全業務を支援して
理者に E メールで PC やタブレットに自動通知す
いる。日産コンサルティングが機械の特性を踏ま
る。それによって保全漏れが起こらない仕組みを
えたデータ取得に関するノウハウを提供し、シー
つくることができるわけだ。
イーシーが実際にデータを取得するための IT を提
設備監視機能をクラウドで
提供することも視野に
供して製造業の生産ライン改善支援サービスを展
開している。
現在、設備の稼働状況のリアルタイムな監視に
最近、シーイーシーには製造業の顧客から設備
取り組んでいる製造業の多くは大手企業。しかし、
の状態をリモートで監視したいという引き合いが
中小企業も設備の稼働状況を監視したいというニ
多く寄せられているという。リモート監視を予防
ーズを持っている。中小企業にとってハードルと
保全へと結びつけ、利益を生み出す仕組みをつく
なるのは導入コスト。同社は中小企業が設備のリ
りあげるには考慮すべきことがある。それは、
「機
モート監視を安価に行えるよう Facteye をクラウ
械の特性をとらえてどういうデータを取得するか
ドサービスとして提供することを視野に入れるな
を決めること」
(松井氏)だ。工場には多くの設
ど、引き続き VR + R の強化を進めていく考えだ。
備・機械が存在する。その中から生産に影響をも
(小林 秀雄)
工場管理 2015/02
117