事例5 担う責任の大きさがさらなるモチベーションを生む

事 例 5
担う責任の大きさが
さらなるモチベーションを生む
朝倉染布
加工部門 検査課リーダー
船津 享子氏
染色整理業の朝倉染布
(群馬県桐生市)
では開発
と検査、品質試験などの部門で女性社員が管理職
技術部門 技術課 開発調色グループリーダー
橋本 宣子氏
経験を積んだ女性社員の定着に課題
として活躍する。子育て支援の見直しがきっかけ
となり、女性社員の定着率が向上。職能等級資格
染色整理とは、織機や編み機から出てきた生機
に基づく人事評価制度の導入も合わさり、間接部
(きばた)
という布生地の外観を整えること。布地
門に加え、技術や加工部門でも女性社員の管理職
を指定された色に染め上げたり、撥水性や難燃性
登用が進んだ。現在、男性が中心である染色工程
を付与したり、風合いを整える。織物業者から入
にも、女性社員を配置し、職域を拡大していくた
荷した生機に付着している糊や油剤を除去する工
めに現場実習やヒアリングを行うことで女性社員
程のあと、染色機で染色する。さらに撥水や吸水
のキャリア形成を支援している。
性などの付加価値を付与したあと、染色具合を確
認し、疵や汚れ、色相などの検査を経て、出荷す
■会社概要■
会 社 名:朝倉染布㈱
所 在 地:〒 376-0007 群馬県桐生市浜松町 1-13-24
設 立:1948 年
従業員数:96 名(男性:60 名、女性:36 名)
事業内容:スポーツウェア、インナーウェア、産業資材、合
成繊維の染色加工
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る。
同社で染色加工する生機の長さはロットにもよ
るが 400 メートルほど。染色機への生機投入時と
染色後の取り出し時や台車を用いて後工程への運
搬作業は相当な重労働になる。そのため、染色を
担当する加工部門は男性が多く、検査や品質保証
を行う工程は女性社員が担当する。検査工程は染
Vol.62 No.9 工場管理
特集 製造業女性キャリアアップの秘策
上司である撹上和久氏は船津氏のリーダーとしての立ち
振る舞いに頼もしさを感じている
疵や汚れ、シワなど検査項目は多岐に渡り、顧客基準に
基づき合否を判定する
めあがった品物を顧客検査基準に基づいて合否判
の定着率向上を目指した。これらの先進的な施策
定する、いわば、要石としての役割を担う。顧客
を打ったことが、女性社員がキャリアを活かせる
によって異なる検査基準や重視するポイントなど
職場づくりへとつながった。04 年以降、結婚と出
の情報を整理し、把握しながら業務をこなさなけ
産・育児が理由の女性社員の退職はない。
ればならないため、経験とスキルを蓄積した女性
社員は重要な戦力。しかし、結婚時や産休後の退
リーダーとしての存在感
職が課題の1つだった。
社内制度を整備し、キャリアを活かす
職場をつくる
女性のライフイベントに関する支援を手厚くし
た同社では、加工後の製品検査を行う部門で、結
婚と出産・子育てを経て職場復帰を果たした女性
こうした課題を受けて、同社では 2001 年ごろか
社員がリーダーとなり、現場をマネジメントする。
ら、雇用や人事、育児・介護などの制度や支援策
船津享子氏は加工部門検査課のリーダーを 14 年
を見直していく。転機になったのは 2004 年。当時、
から務める。現在、女性9人と男性2人の 11 人を
取締役総務部長だった朝倉剛太郎社長が賃金・人
男性リーダーとともに率いる。船津氏は高校を卒
事考課システムの策定と育児介護休業規定を改定
業後、1988 年に入社。入社時は営業部門で営業担
したことが1つのきっかけになった。
当の男性社員のサポート業務を担当し、95 年に検
賃金・人事考課は年功序列から社員の仕事に対
査課へ異動した。
する姿勢や能力、成果など職業能力等級に応じた
異動後、船津氏は育児休暇を同社で初めて活用
配分に改定。一般社員と直属の上司に加えて、部
した。その後、1年で復職する。
「不安もあった」
長相当の管理者との3者面談を2月の年度末と6
と当時の心境を明かすが、検査業務に対する理解
月、12 月の賞与時に実施し、役員会で評価を決定
が深く、経験を積みながら、スキルを上げていっ
する。面談では考課者と被考課者の対話を重視し、 た。船津氏の前任者は男性社員であったが、検査
人事ローテーションの希望や業務に対する不安・
課では女性社員が多く、女性をリーダーに登用す
不満、アピールを率直に言える場とし、評価結果
ることで組織の士気を向上させようと、船津氏に
を本人にフィードバック。不服申し立ても行える
白羽の矢を立てた。
「自身の業務を着実にこなす一
制度にしたことで、社員の資質・労働意欲の向上
方で、後輩のフォローもていねいで周囲からの信
を狙った。
頼も厚かった」と上司である加工部門部長の撹上
また、育児や介護の支援制度を充実させ、育児
和久氏は抜擢の理由を振り返る。
休業は3歳まで、時短勤務は小学校就学開始期ま
リーダーになると自分の業務をこなしながら、
で取得可能とすることで、子育て世代の女性社員
後輩をフォローするという業務だけでなく、課の
工場管理 2016/08
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