労務構造を“ハイブリッド”化 外国人活用で人材難時代を

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労務構造を“ハイブリッド”化
外国人活用で人材難時代を走り抜く
テクノスマイル
景気が回復に向かい為替が円安に振れたことで、 場では対策が困難だ。
「トヨタのような大手も正社
製造業の国内回帰が現実的になってきた。しかし
員は8割で、2割は期間従業員。中堅・中小企業
経営に不可欠な人材確保においては、労働人口の
になればもっとバッファーは必要」と馬見塚社長。
減少で採用が難しい一方、同時に生産変動に耐え
解決策として「生産を請負というパッケージにし
る柔軟な体制構築も求められる厳しい局面にある。 て切り出すことで効率化できる」と提案する。
「切
その中でテクノスマイルは、その背反する企業の
り出した」生産はテクノスマイルが人材サービス
課題を海外人材やトヨタ生産方式を活かした「ハ
を駆使して効率化する。支援メニューの1つ「ハ
イブリッドワークス・システム」など独自の人材
イブリッドワークス・システム」は、正社員と期
サービスで解決している。馬見塚讓社長は「ダイ
間従業員のみからなる旧来の人材構成に、派遣社
バーシティー化にも寄与できる」と話す。
員や外国人技能実習生ら雇用形態の異なる人材を
多様な雇用形態とTPS の融合で
生産現場を最適化
混成して生産現場を最適化する。欠けた労働力の
穴をいろいろなピースで埋めるだけでなく、トヨ
タ生産方式による現場改善も併せて実施。弾力性
のある労務構造にすることで、生産変動に対して
テクノスマイルは 2000 年設立の総合人材サービ
柔軟になり、固定費である人件費が準変動費に転
ス企業。人材派遣による事業支援だけでなく、自
換可能となる。生産現場を自社で持つ強みと、顧
社で製造部門を抱えて生産請負を行うのが特徴だ。 客の現場改善の経験を活かしており、同システム
設立時から社長を務める馬見塚氏はトヨタ自動車
は商標登録もしている。
OB で、生産子会社のトヨタ自動車九州(福岡県宮
担当する吉村直樹ものづくり支援事業部長は
若市)では副社長を務めた。トヨタで培った現場改
「工場まるごと良くしてくれと言ってもらえれば、
善とマネジメントのノウハウを顧客の課題解決に
ニーズに応じて効率化する」と胸を張る。労務コ
活かしている。
ストの低減だけでなく、定年延長者を含めること
一般的に生産現場では生産変動への対応が効率
で技能伝承も実現できる。習熟が必要な人材と組
化に直結する。その半面、正社員を中心とした現
み合わせて指導的な立場に置くことで、高い技能
を持つ定年延長者の価値を十分に発揮。実習生ら
会
社
概
要
会 社 名:㈱テクノスマイル
所 在 地:〒 822-0142 福岡県宮若市竹原 236
従業員数:817 人
設 立:2000 年
事業内容:製造業、総合人材サービス業
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の技能習得にもつながるわけだ。
この事業では自動車関連を中心に各種製造業を
顧客としている。これまで完成車メーカーへの
1,000 人規模の人材派遣や、カメラメーカーに一度
に 500 人の人材を供給した実績もある。吉村部長
は「ハイブリッド車がエンジンとモーターで駆動
Vol.61 No.4 工場管理
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労務構造を
“ハイブリッド”
化 外国人活用で人材難時代を走り抜く
ハイブリッドワークス・システム概念図 (テクノスマイル提供資料をもとに作成)
トヨタ生産方式による改善
定年延長者の有効活用
注ぐ力
請負工程の
切り出しによる
効率化
外国人技能実習生
人材不足解消への
コンサルティング
製造派遣の有効活用
職場を支える混合型労務構造
するように、当社にはいろいろな人材というパワ
だ。職種は電気・電子や生産技術など機械系と、
ーの選択肢がある。当社はそのつなぎ手であり、
システム組み込みやプログラミングなど IT 系の2
顧客に必要なパワーを提供しながら効率的な稼働
分野で設計・開発に携わる人材。海外への拠点展
ができるようになる」と力を込める。
開を見据える企業にとって特にメリットが大きい。
アジアで日本語話せるエンジニア育成
日本で経験を積んだ後、母国にある海外拠点の基
幹人材として活躍を期待できる。
「将来は帰国した
い」という学生の希望も事前にすり合わせており、
一方で足元の人材確保だけでなく、中長期の人
事戦略において重要度を増すのが高度人材の採用
ま
み づか
ゆずる
馬見塚 讓社長
だ。特に中堅・中小企業にとって優秀な人材の獲
得は、発展に不可欠だが容易ではない。日本人学
生の「大手志向」は依然強く、知名度の高い企業
に集中する。テクノスマイルはこの分野でも、外
国人活用により企業の課題解決を提供している。
現在、中国・ベトナム・タイの3カ国で日本語
を話せるエンジニアを養成している。現地の総合
大学や理工系大学と提携、日本で就職希望の学生
に日本語や日本文化を指導する。中国・天津には
自社で日本語学校も擁している。現地で面接し、
来日当初はテクノスマイル所属の派遣社員として
勤務。その後、企業側の希望に応じて転籍も可能
工場管理 2015/03
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タイのラガーバン大学での日本語授業
タイのカセサート大学での面接
事業計画に応じたマッチングが可能。
「背広でいえ
そのため「標準化や明文化など人材育成の見直し
ばオーダーメード。手作りの人材派遣で当たりは
が図られる」
(野々山部長)
など副次的効果も出て
ずれがない」(馬見塚社長)
。これまで中国とベト
いる。今後、4カ国目となるミャンマーでも養成
ナム2カ国の累計で 160 人弱を日本国内の企業に
計画があり、アジアにおける面的展開でさらなる
送り込んできた。
企業ニーズへ対応を図る。
提携大学は、中国が天津大学と天津科技大学、
ベトナムがハノイ工科大学、2014 年にスタートし
社内をダイバーシティー化
たタイがカセサート大学とラガーバン大学だ。
「い
ずれも地域トップクラス」と野々山直樹 E&B 事業
多くの企業にとって人材確保は経営課題として
部長は強調する。日本の大学であれば中小企業で
のウエートが増している。2020 年の東京五輪・パ
は獲得が難しいレベルの人材獲得が可能。指導を
ラリンピックに向けては、土木・建設業界で大量
受けられるのは選抜を経て各国毎年 30 人。
「日本
の人的資源が必要になるため、特に製造業にとっ
の技術に憧れを抱いている。企業規模より事業内
てはさらに他業種との人材争奪の激化が見込まれ
容を重視し、日本でやりたいことができると喜ぶ」
る。馬見塚社長は「景気回復の中にあって、モノ
(野々山部長)などモチベーションも高い。
とカネはあるが人が枯渇している。企業が日本で
1∼2年をかけて日常会話を問題なく話せる日
生産を増やす時に人手不足はより深刻になる。
(人
本語能力試験 N2 レベルまで習得させる。来日後
材の)絶対量が足りず、外国人に頼らざるをえな
はテクノスマイルの北九州研修所
(福岡県築城町)
い」とする。日本のモノづくりの再興にとっては
で半月間の規律訓練などを行い、全国各地の企業
回避できない課題だ。
へ派遣される。企業と学生双方のニーズを聞き、
同時に社内の人材多様化も、日本企業にとって
面接を経て決めるためミスマッチは少ないという。 重要性が増す。人材が硬直化すれば、経営環境へ
また中国の学生を中心に、英語を操ることがで
の対応も困難になる。その柔軟化を実現する手法
きる人材も少なくない。そのためアジアとの橋渡
の1つが外国人の活用であり、人材の“ハイブリ
しとしてだけでなく、グローバル人材としての活
ッド化”だ。
「日本企業が推進すべきとされるダイ
躍も期待できる。ある自動車部品の2次メーカー
バーシティー化にもつながる。当社のプロフェッ
が米国進出を見据えて採用した例もある。さらに
ショナル集団を活用してほしい」と馬見塚社長は
は外国人が社内にいることで、日本人では“なん
力を込める。
となく”通じる部分にも適切な説明が必要になる。
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(日刊工業新聞 西部支社編集部 三苫 能徳)
Vol.61 No.4 工場管理