レポート2

レポート2
印刷業界でからくり改善を本格導入
考える現場、考える人材を育てる
大日本印刷
デジタル技術の普及や IT 化の進展により、紙の
にある現在は大型の自動化投資を見直し、多品種
印刷需要が急速に縮小し、多品種少量生産が進ん
少量生産、変種変量生産に対応していかに人的資
でいる印刷業界。業界大手の大日本印刷の生産現
源を効率的に活用し、生産性向上を図るかが大き
場ではこれまでは需要増大に対応し大型機械やロ
な課題になっている。
ボットなどの導入による自動化を進めてきた。し
「現在、大日本印刷では『未来のあたりまえ』に
かし現在は、多品種少量生産へ対応するため、製
つながる事業拡大や新製品・新ビジネスの展開を
本・梱包工程を中心に自動化に代わる人手作業の
図っています。同時に、多品種少量生産への対応
効率化や生産性向上が大きな課題になっている。
も進めています。これまで大型設備中心に自動化
そうした中で、作業負荷軽減、仕掛り削減、工程
を進めてきましたが、多品種少量生産が進むこれ
短縮などに大きな効果を発揮する「からくり改善」
からは自動化だけで対応できません。人の効率を
の活用に注目。からくり改善はこれまで自動車業
いかに高めるかが重要な課題になります。それに
界を中心に取り組まれていたが、印刷業界でいち
は、従来進めてきた IE の取組みを推進すると同時
早く導入を始めた。人材教育の上でも重要な手法
に、からくり改善も積極的に導入して人の効率を
の1つとして位置づけている。
高め、活人化を図ることが大事になります」と鈴
多品種少量生産に対応できる
人の効率化や活人化が大きな課題
木康仁技術本部本部長は語る
(写真1)
。
同社は3年程前から毎年、日本プラントメンテ
ナンス協会主催の「からくり改善くふう展」を見
印刷業界を取り巻く経営環境は、2000 年以降劇
学し、大いに刺激を受けるとともに、製造部門の
的に変化している。それまで、印刷会社の経営を
現場改善にからくりの効用を活かせるのではない
支えてきた紙の印刷需要が急速に減少し、印刷事
かと考えた。そして 2014 年4月から、同社はから
業の縮小傾向が続いている。印刷需要が増大して
くり改善の本格導入と社内展開を開始した。から
いた 1990 年代中頃までは大型機械を導入して積極
くり改善の取組みに当たっては、他社の導入事例
的に自動化を進めてきたが、印刷需要が減少傾向
を参考にしたが、その中で最も強い印象を受けた
のは自動車メーカーのからくり改善の取組みを見
会
社
概
要
会 社 名:大日本印刷㈱
所 在 地:〒 162-8001
東京都新宿区市谷加賀町 1-1-1
従業員数:39,524 名
設 立:1894 年
事業内容:情報コミュニケーション部門、生活・産業
部門、エレクトロニクス部門
工場管理 2015/01
学したときであったという。
「自動車メーカーのからくり改善道場や選考会な
どを見学した時、現場の人たちがからくり改善に
ものすごく熱心に取り組む真剣な姿を見て強い刺
激を受けました。からくりの発想や考え方、から
くりの原理や機構を実際の現場改善にどう活かし
ているのか。また、からくり改善の効用を現場の
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写真1 技術本部 本部長 鈴木 康仁氏
写真2 技術本部 エキスパート 門真 淳氏
写真3 生産革新研究所 部長 木村 尚伸氏
人たちに理解させ、その活動を普及定着させるの
が困ったことを解決することにあるのだが、動力
にどんな工夫や努力をしているのかなどに関心が
を使った改善に比べて知恵とアイデアを駆使して
あったので、学ぶことがたくさんありました」と
安くて簡単にできることに特色がある。からくり
門真淳技術本部エキスパートは語る
(写真2)
。
改善の効用について、製造現場でからくり改善活
そこで、同社も生産革新研究所内にからくり機
動を中心になって推進する技術開発センター・生
構を学び、試作・動作を検証できるからくり改善
産革新研究所の木村尚伸部長は次のような点を挙
創発の場を設けた(図1)
。
げる
(写真3)
。
自分たちのアイデアと工夫で
成果が見える「からくり」の面白さ
「現場の人たちにはからくりの考え方、原理や機
からくり改善の目的は、もちろん現場の人たち
ってみると面白くて楽しいという人も多く、自分
構について基本的な知識を事前に説明しますが、
現場の人たちの声を聞くと、からくりは実際にや
図1 生産革新研究所内に設置したからくり改善創発の場
からくり機構の検討
試作・動作検証
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Vol.61 No.1 工場管理