〈解説1〉生産管理システム導入の問題点とその解決策

解説
1
生産管理システム導入の問題点と
その解決策
システムユニ 岡田 敏明
なぜ生産管理システムの導入に失
敗するのか?
うした数多くの失敗実例を認識・経験しながら、
その実態をあえて検証しないまま営業活動を続け
ているのが実状である。新規の設備投資やシステ
1.生産管理システム導入の実態
ム投資が困難な中で、過去の失敗に至った問題点
ここ数年、生産管理システムの導入失敗が数多
を検証し、早期の生産管理システムの運用・稼働
く発生している。その重大な問題は導入失敗によ
につなげることは最重要で緊急課題の1つと言っ
る直接的な金銭的損害や機会損失だけではない。
ていい。
戦後最悪と言われる景気後退の中で、過去数千万
2.生産管理システム失敗の背景
円かけた生産管理システムが、運用稼働に至らな
¸日本の企業風土と世代交代
いまま、さらには失敗の自覚のないまま、放置さ
なぜ、生産管理のシステム化に失敗するのか。
れているのである。本来なら自社の再生・復活に
日本の製造業は萌芽期から発展期を経て、多く
向けて生産管理システムの活用が経営戦略遂行の
の中堅企業は成熟期に至っている企業が多い。発
大きな武器となるはずである。
展期においては経営陣も含めて各工程(開発・企
各社とも急激な、生産変動・価格変動・顧客要
画・製造・販売)を熟知した横断的な人材が存在
望の変化についていけず、急激な収益の悪化に将
していた。そうした人材がいたからこそ、新製品
来展望が描けないままで思考停止になっている。
の短期開発、部品・製品生産ラインの早期立上げ、
生産管理システム導入の最大の問題は、失敗の自
全社一体となった販売活動が可能だった。各部門
覚がないまま、失敗を隠し、他部門・他社に責任
相互に人的交流があり、失敗経験も含めて、知
転嫁する企業体質にある。さらには経営サイドの
見・ノウハウが共有財産として蓄積されていた。
生産管理システムに対する不信・不満を生み、ま
つまり、ミドルによる縦横斜めの情報共有による
た生産現場からの抵抗にあって改革意欲のある人
生産活動が行われてきた。発展期から成長期にか
材を失っている。これまで何がその失敗の原因か
け、企業の成長・高度化に対応して生産現場の
を検証しないまま、新たなシステム導入を試みて
IT 化・ IT 経営の必要性がベンダー企業・コンサ
失敗を重ねてきた会社が多い。
ルタントを中心に叫ばれた。この間、多くの中堅
グローバル競争の中で、大手企業のみならず、
中堅製造業においても生産管理および生産管理シ
企業で構築された生産管理システムは現場での実
績管理中心で手作り、シンプルなものであった。
ステムの導入の成否が死活問題となってきている。
¹成熟期から停滞期へ向けての認識・対応不足
一方、ベンダー企業やコンサルタント会社もこ
やがて、多くの企業が成熟期から停滞期を迎え
10
Vol.55 No.9 工場管理
特集 現場で本当に役立つシステムづくり
た。
成熟期までの段階に
図 1 生産管理システム構築・運用の失敗行動
失敗原因(失敗学)
失敗につながる行動
1)問題意識は一部の者だけ
①問題意識の欠如
2)日本で使えるシステムがない?
②未知・無知
1 どんなシステムも
同じとの認識、し
たがって自ら調
査・検証しない
3)生産管理の知識・経験不足
③無知
り、必ずしも、そう切
4)システム化まで詰めが甘い
④不注意
実な課題ではなかっ
5)導入手順の短絡・短縮
⑤手順の不順守
た。
6)現場・経営課題の認識不足
⑥誤判断
7)選定までの調査・検討不足
⑦調査・検討の不足
8)企業環境の劇的変化
⑧制約条件の変化
9)自社の新システム設計不良
⑨企画不良
成熟期から停滞期を迎
10)生産管理システムの重要性の欠如
⑩価値観不良
えた。そして、ほとん
11)継続運営までの人材・組織の不在
⑪組織の運営不良
おいては中堅製造業に
おいて生産管理システ
生産管理システムの失敗原因
ムの本格的な導入は現
場で十分対応できてお
しかし、戦後 60 年
余りの歳月の中で世代
交代が進み、多くの日
本企業は成長期を経て
2 近くのシステム会
社/既取引先に頼
む生産管理システ
ム?
3 大手に発注すると
安心。丸投げで失
敗(失敗しても責
任回避)
4 同業他社が導入、
大手で実績がある
(自社に合うか?)
5 経営戦略・生産現
場の課題と無関係
なシステム化
結果
生
産
管
理
シ
ス
テ
ム
の
構
築
・
運
用
の
失
敗
6 現行システムの入
替えでよい(新シ
ステムに期待薄)
どの生産管理システム
の導入はこの時期から失敗に終わるようになった。
さらに、失敗はなかったことにされたり、失敗
っているといえる。
3.生産管理システム失敗の原因
の検証とその対策・方策がほとんどなされないま
¸経営トップ陣の無知・無理解・無関心
ま放置されたりして、ベンダー会社・コンサル会
失敗の最大原因は経営トップ陣の生産管理シス
社のさらなる追加提案に踊らされているのが実状
テムに対する無知・無理解・無関心にあるといっ
である。
てよい。製造業の最重要経営課題は常に競争力の
ºいなくなった「真のベテラン」
ある生産プロセス(開発・企画・調達・生産・販
生産現場において、失敗学の創始者である畑村
売・物流)を構築し、維持・改善し続けられるか
洋太郎先生が言う、「真のベテラン」がいなくな
否かにかかっている。しかし、それを支える生産
り「偽のベテラン」が増えてきたことが大きな課
管理システムと生産管理人材を経営の最重要課題
題となってきた。
と認識している経営トップは案外少ない。
「偽のベテラン」とは、ある程度の役職に就い
¹生産管理と生産管理システムの混同・混乱
てはいるが、これまでのやり方に固執して、周囲
多くの、中堅企業で生産管理と生産管理システ
の変化に応じず、決まりきったことをやる人をい
ムとの混同・混乱が見られる。生産現場でモノや
う。
設備が乱雑に置かれ、生産工程の流れ化ができて
一方、「真のベテラン」とは自分で観察し、自
いない会社が多い。3S(整理・整頓・清掃)すら
分で判断し、自分で試して、その中の要素がどの
まともにできていない会社で生産管理システムを
ようにからんでいるか、全体像をつくり、自分で
導入しても、結果として導入時のマスター登録時
学び取って、やっていく。毎回、頭の中に科学的
やシステム稼働当初から停滞しているケースが大
な理解をつくりながら、新しい全体像を作り直す
半である。つまり、生産管理システムの導入の前
ということをやっている人をいう。
提は開発・生産・販売現場での生産管理をしっか
つまり、新たな仕組みづくり、再構築のために
は「真のベテラン」の存在が不可欠であり、特に
りやることであるが、ほとんどの会社でこのステ
ップが欠落している。
生産管理システムの立ち上げ・運用においてはい
一方で、現場改善を主とされているコンサルタ
かにこうした「真のベテラン」を見出すかまたは
ントの中には「生産管理システムの導入は百害あ
育成するか、さらには支援し、評価するかにかか
って一利なし」と言い切っている方もおられ、混
工場管理 2009/07
11
¹システム化の途中
図 2 生産管理システムの選択と失敗事例
システム選定の背景
①生産管理システムへの無
知・理解不足・認識不足
②自社の生産形態とシステム
との不整合性への検討不足
のまま選定
③自社のみでパッケージソフ
トを立ち上げる前提で選定
④システム部門が主導で選
定。大手・近場のシステム
会社を選定して委託
⑤生産現場の現状の問題・課
題の解決、選定への参画が
ないまま導入決定
システム選定事例
MRP適合職場に製
番管理(製造番号管
理)システムを選定
して失敗
MRP・MRPⅡシス
テムを選定して失敗
スケジューラシステ
ムを選定して失敗
POPシステムを選
定して失敗
その後の経過と結果
MRPシステムと称しているシステ
ムもほとんどが製番管理をベースと
しており、結果としてフレキシブル
対応ができず、在庫の増加につなが
っている
大手企業のERPに基幹系システムと
して採用されている。工程ごと、
日々の変化に対応ができず。製番管
理には適用できない
設定データが不正確のケースが多
く、また加工・組立型の工場には材
料・仕掛りの手配・支給・在庫管理
のシステムとの連動が不可欠
現場での実績入力に対する協力が得
られない、単に現場管理の道具にな
って、現場が不信感を持っている
で停滞
生産管理システムの
推進者が不在または力
量不足のためシステム
の運用が中途で停滞し、
生産実績を辛うじて把
握している状態。また、
在庫把握は、一部製品
在庫、資材在庫の把握
にとどまり、工程管理、
原価管理に進まない。
ºシステム担当者の
みで使用
乱の一因につながっているケースも見られる。
生産管理と生産管理システムは車の両輪として
システムの選択は間違っていないが一部の担当
者が使っているのみで、関係者の参画がなく、せ
運用するべきで、双方に通じた人材の育成を早期
っかくの機能を実務担当者が使いこなしていない。
に行うべきである。
たいていは伝票発行機と化している。
º生産管理システムの構築と生産現場との断絶
»生産現場との乖離
生産管理システムの選定・導入・構築を情報シ
生産管理・生産管理システムの連携の重要性を
ステム部門や既存のシステム担当者が中心になっ
認識していないため、生産現場での改善・改革と
て推進している会社が多い。こうした会社の場合、
生産管理システム(マスターメンテナンス)との
生産現場との相互の人的交流も希薄となっている。
連携がなくシステムが形骸化し、現場での信頼感
構築が終われば、運用は生産部門の現場責任者に
を失くしている。
任せてしまう。日本の多くの中堅製造業は、日々
¼過剰な外付け・カスタマイズで頓挫
のユーザー要望に可能な限り対応しようと生産現
基本機能の不足・旧態依然とした現場からの要
場を中心に変化に対応している。そうした現場は
望受け入れ・経営企画部門からの過度の要求によ
日々の変化に強い生産管理システムでなければ活
ってシステムが複雑化し、結果として、開発の長
用できない。つまり、生産指示・実績・進捗情報
期化・コスト増・ブラックボックス化に陥ってい
が必要な時に必要なところへ必要なだけ即座に届
る。
く仕組みが必要となる。しかし、生産管理情報を
½経営戦略への活用ができない
必要としている生産現場の主導したシステム構築
生産管理システムの最重要機能は全生産プロセ
がなされず、生産現場を知らないシステム部門や
スにおいて PDCA を回すことである。しかし、計
ベンダーの SE が増えるにつれ、使えないシステ
画(プランニング)機能が不足しているか、活用
ムが増殖し、現場での運用で行き詰っている。
されていないことで、経営計画の検証につながっ
4.失敗事例に学ぶ
ていない。したがって、課題の見える化、生産性
¸自社に合わないシステムを選択
の向上、流れ化生産の実現、在庫の削減など、経
自社の課題を把握できず、また既存システムの
営課題の早期解決のために導入したのに経営課題
知識の欠如から、製番管理、MRP、スケジュー
の解決につながらない場合が多い。
ラ、POP システムの選定ミスによりスタート時
本来、経営戦略への展開・活用を目的として導
点からシステム選定を間違っているため導入効果
入したシステムが、システムの立上げ・運用の中
が上がらない(図2)。
途で止まっていることにより、膨大なインフラ投
12
Vol.55 No.9 工場管理
特集 現場で本当に役立つシステムづくり
資・システム投資が結
図 3 生産管理システム導入の課題とその対策
果としてムダになって
いる。
5.成功に向けての
処方箋
では、どうすれば生
産管理システムの導
入・運用に成功するの
問題点・課題
対策・改善策
①現状の業務推進・運用システ
ムの限界
②情報の一元化の必要性
③現場(営業・開発・生産)とシ
ステムとの乖離
④業務運用の属人化
⑤顧客要望(メーカー)がますま
す厳しい
⑥全工程をマネジメントする人
材がいない
⑦現状維持型保守的風土
①新業務・システムの早期再構
築(最優先課題)
②システム・情報の一元化
③現場とシステム(現物とデー
タ)の同期化
④業務運用の標準化
⑤顧客要望に合わせたシステム
運用(PDCAを回す仕組み)
⑥システム化を通じたマネジメ
ント人材の育成
⑦保守的風土の打破
か、生産管理システム
成功の前提条件とはな
システム活用・実行
にか。以下のことが成
1.現行の業務の問題・課題の掘り下げ、改善・改革の必要性の再認識
2.新たな仕組みづくりの実行計画(アクションプラン)の作成
3.新たなシステム化の構築
4.仕組みづくりとシステム化を同時並行で推進する
5.さらなる改善・改革の推進人材育成
功企業に共通している。
¸成功のための前提
条件
①経営トップの生産管理および生産管理システ
門か、販売部門の下請け的な位置づけに甘んじて
ム導入に対する理解があり、過去の失敗が検証さ
いる。生産管理システムの稼働・運用において成
れ、達成すべき目標が提示されている
果を生むには今一度生産管理部門の再設計・再構
②さらにその実現に向けて、トップ自ら適正な
推進リーダーとメンバーの人選・支援を行ってい
る
築が必要である。
①生産管理部の役割を経営再建のための新たな
仕組みづくりと生産管理システム化とし、改革プ
③推進リーダーには長年、他社に先駆けた商品
開発や全社設備保全、品質管理活動、現場改革や
ロジェクトと位置づけする
②生産管理システムの構築・運用に当っては、
カイゼン推進を行っている問題意識の高い人材を
自社の生産管理に通じた有力メンバーをプロジェ
充てる
クトリーダーとし、生産管理システム立上げと各
④管理職・スタッフ・現場操業員・協力事業所
まで関係者の全員の理解と、システム化に向けて
の協力体制がとれている
⑤支援会社メンバーと一体になって、段階的に
現場の工程改革を同時進行で行う
③改革プロジェクトを中心に全社の工程分析
(工程ごとおよび工程間にまたがる課題の抽出・
原因の究明対策)を行う
稼働のステップアップを行い、生産システムのレ
④各部門で改革シナリオ作成、6カ月ステップ
ベルアップと並行して生産現場の環境整備、導
で導入・実行・再設計を行いながら、段階的にレ
入・構築・運用のレベルアップを行ってきた
ベルアップ
⑥結果として生産管理システムの構築・運用が
⑤改革プロジェクトは各部門での工程改善・改
できる社内人材が育った(継続して、あきらめず
革と並行して生産管理システムを構築・運用に乗
にしつこくやり続ける体制ができた)
せる
結論として、生産管理システム導入には生産管
理人材と生産管理部門の役割がますます重要にな
ってきているが、中堅製造業でその重要性に気付
いている会社は少なく、それが今日の状況を作っ
ている。
どうすれば成功するのか
―事例に学ぶ―
著者は 2001 年 11 月当社設立からこれまで中堅
製造業(主に加工・組立業)30 社余りの生産管理
6.今後の導入・構築・運用
システムの構築・運用支援に従事してきた。また、
¸生産管理部門の活用
IT コーディネータとして「生産管理と IT 経営」
多くの製造業において、生産管理部門が製造部
の講師として全国の数多くの製造業の経営者およ
工場管理 2009/07
13
図 4 生産管理と生産管理システム導入<生産管理の実践とシステム導入後の運用
による最適生産体制構築に向けて
生産管理の目的は常に良いものを、早く、安く、安定して生産すること
「TPiCS(ティーピクス)」注1)
参照での導入事例を中心に紹
介する。
ネック工程
納期回答
(ネック工
程考慮)
受注
残管理
アラーム
受注・引合い
生産計画
(MRP計算)
原材料
発注
生産現場の
生産工程改
革・改善を
先行して進
め、生産管
理システム
と連動
〔導入成功事例¸〕
マスターメンテナンス
(確定期間・基準在庫・製造ロット・製造リード日数…)
原材料
入出庫
在庫
滞留
不良在庫
進捗管理
実績入力
仕上げ
指示
加工
在庫
徐々にその成果を上げつつあ
出荷指示
る(構築支援期間平成 18 年
キーマン
製品
入出庫
在庫
仕上げ
長年使ってきたオフコンの
手組のシステムが運用面で多
くの課題を抱えるようになり、
導入を決断。東尾光紹社長の
図 5 生産管理システム構築方法分類
強力なリーダーシップで中心
大きく分けて、生産管理パッケージソフトを中心にして構築する方法
と手組(ゼロから開発)の方法がある。どちらも一長一短がある。いず
れにしても自社内で中心となる推進人材が不可欠
シ
ス
テ
ム
構
築
方
法
12 月∼平成 19 年 11 月、現在
は運用支援中)。
生産活動現場
メンバーに社内エースを指名、
その後も継続フォローがあり、
難易度
コスト
効果
超難
激高
不明
難
高∼安
有
全社パッケージ(ERP型)採用
段
階
的
採
用
現在、東尾メックでの生産
ムの中核の位置づけになり、
工程改革・工程改善
(生産形態・基準在庫・製造ロット・製造リード日数…)
先パ
行ッ
モケ
デー
ルジ
参使
考用
型
野市)配管用継手製造・販売
管理システムは、全社システ
伝票発行
(確定)
加工指示
東尾メック(大阪府河内長
基幹(生産管理)
パッケージ採用
成功につながった。
1.TPiCS 導入決定まで
の経緯
これまで生産管理について
以下の取組みを行ってきた。
一部パッケージ採用
(POP/会計など)
易
安
有
BPR
(ゼロベース)で全社システム
超難
高
有
段
階
的
構
築
生産管理システム構築
超難
高
有
原価管理システム構築
易
高
有
①品質管理(QC 活動)・保
全活動(TPM)・開発・営業
独手
自組
モみ
デ手
ル作
構り
築
型
活動などさまざまな取組みを
息長く継続してきた。例えば
工程のラインバランスおよび
外注の業務体制についても相
等レベルが上がってきていた
②各部門にパソコンを配置
びスタッフ・システムベンダー・コンサルタント
し、部門単位で実績把握ができている
と交流を重ねてきた。また、国内の製造業のみな
③生産管理システムについてはこれまで自社開
らず、中国・タイでの導入支援を行ってきた。当
発で長年取り組んできた。実績管理などのノウハ
社においても必ずしもすべてが満足いく結果では
ウ・管理帳票などのシステム資産がある
なかった。しかし、こうした経験を通じて、どう
すれば成功するのか、多くの知見を得ることがで
きた(図4、5、6)。以下に当社でのこれまで
の導入支援実績の中から、生産管理システムのパ
ッケージソフトである攻撃型生産管理システム
14
2.生産管理システムの現状の問題・解決すべ
き課題(図7)
①全社的な仕組みがないためにうまく機能して
いないのが現状
②データが一元化されていないため各人バラバ
Vol.55 No.9 工場管理
特集 現場で本当に役立つシステムづくり
ラでパソコンを使用し
図 6 システム導入・支援の失敗・成功から学んだもの
ている
③簡素な仕組み(シ
ステム)で全員に仕組
みを守らせることが必
要
<当社の導入支援の流儀>
<失敗のケース>
1
受注・
導入条件
顧客からの支援依頼からスタート。売らな
い・売り込まない・勧めない
困っていないところに導入しても
(問題がない? わからない?…)
2
短期構築
ワンステップ6カ月で稼働までを目標とする
一定の成果を出して、次のステップに移行
6カ月を超えると息切れ、中断
社内推進人材が育たない
3
構築体制
システム部門は後方支援に徹する。リーダー
はトップ、推進責任者は現場から
現状のシステムに固執、最大の
抵抗勢力になる場合も……。
4
支援体制
最初から最後まで自社支援(5名)。運用開
始になるまで支援(社内人材の早期育成で早
く手離れ)
下請けに丸投げで、途中頓挫、提
案内容と構築システムの乖離。
時間とコストが膨らむ
5
現場展開
現場運用
生産現場での活用とシステムメンテナンス
(改善・改革とマスターの連動、連携)
システム・スタッフ部門のみで運
用、現場無視、経営者不在
6
経営戦略立案
活用・推進
経営戦略と現場の工程改善と連動した攻撃型
生産管理を核とした戦略的IT経営の推進
経営戦略・生産現場にほど遠いシ
ステム化、カスタマイズに陥り結
果として、すべてが停滞
④ 現 場( 製 造 )で 納
期回答・納期照会がで
きていない(確実な納
期回答のためには各工
程間のデータの一元化、
計画・実績の精度アッ
プと検証が不可欠)
3.T P i C S 導 入 の
図 7 各工程における問題点
狙い
①鋳造、加工、塗装、
鋳造
焼鈍
研削
鍍金
加工
検査
脱脂
塗装
成形
梱包
在庫
外注、仕上の各工程を
重点的にどう管理(仕
組み)するかの検討・
仕組みを構築したい
②生産計画による管
理運営・計画・実績の
把握により全工程での
PDCA(計画・実行・
検証・対策)を回す
③開発・営業・製
造・外注先との情報の
バ朝
ラ一
ン品
ス種
な・
ど枠
制数
約制
条限
件・
が湯
多量
い れ作
る業
者
の
出
勤
状
況
に
左
右
さ
況白
が銑
把検
握査
で以
き降
て焼
い鈍
な工
い程
の
状
先 る小 な設
入
径 い備
れ
品
能
・
が
力
先
ネ
の
出
ッ
把
し
ク
握
が
に
が
で
な
で
き
っ
き
な
て
て
い
い
い
が加 な設
困工 い備
難が
能
で多
力
あく
の
る大
把
量
握
受
が
注
で
の
き
対
て
応
い
代特
替定
機の
械加
が工
少機
な
いに
集
中
し
、
いロ
なッ
いト
単
位
の
管
理
が
出
来
て
握加
出工
が済
で検
き査
て工
い程
なの
い状
況
が
把
い前 な設
後 い備
工
能
程
力
と
の
の
把
能
握
力
が
差
で
が
き
大
て
き
い
で専
き用
な機
いが
多
く
細
か
な
生
産
が
段
取
り
替
え
に
時
間
が
か
か
る
握業パ
がなッ
でどド
きの印
て付刷
い帯・
な作シ
い業ー
のル
能貼
力り
把作
れ出製
てし造
いて側
なおで
いり過
、去
営の
業実
情績
報よ
がり
取算
生産管理に対する要望
・月間計画はあるが、いつ着手できるのかわからない
・加工設備の負荷が高く生産ができない
・ロットをまとめて欲しい
・段取替えの少ない持込みをして欲しい
・特急品、割込みが多すぎる
連携相互の情報共有と
即時対応の実現
④工程の標準化と標準作業の徹底。TPiCS の導
②生産情報の一元管理、情報の共有ができるよ
うになった。
入により各工程内・工程間の生産性実態把握とマ
③各工程の連携と作業計画の遵守ができた
スターメンテナンス、計画の精度アップ
④生産を標準化することで入庫・出庫計画の作
⑤責任者(プロセスマネジメント)の明確化と
決断・判断ツール(武器)の提供
⑥生産計画(完成品・製品入庫計画)を正確に
守った生産活動により、正確な納期回答を達成
⑦責任者(プロセスマネジメント)の明確化と
決断・判断ツール(武器)の提供
成が可能となった
⑤生産計画・実績・進捗・対策と生産工程での
PDCA の実現
今後の課題として、次の取組を行っていく。
①お任せ生産から脱却し、ルールに基づいた生産
②営業要求に対する最適生産の実施
4.TPiCS の導入の成果と課題
③信頼される納期回答の実現
導入の成果としては、
さらには、スケジューラソフト(アスプローバ)
①次工程への納期が明確になり生産計画の作成
が可能となった
工場管理 2009/07
の導入により、複数ラインごとの進捗管理・工程
管理を行えるように取組み中である
15
図 8 K 社中国・南通工場での問題・課題と改善目標
国・南通工場)から生産管理システ
ム導入支援を開始、その後本社部門
①品質改善・工程改善による適正在庫
②滞留・手待ちの削減、フレキシブル対応
③納期遅れゼロ、納期案内・納期回答
(約束通りに納品)
④原価低減(収益改善)
目標
とのシステム連携を行い、現在は各
営業所まで含めた全社システム運用
を行っている。
障害
①実績(進捗…不良・ロス率)見えない
②具体的手段がわからない
③計画が立てられない、当てにできない
④仕組みがない
K 社は今治タオルの歴史そのもの
①仕組みの構築
(設備・システム)
②人材育成
③継続的改善
と言っていい老舗企業であり、リー
ディングカンパニーであった。国内
での製造原価の高騰や流通からの価
現実
格圧力などから、15 年前に中国で
①品質不良・工程不良による不要原糸・生地・製品の増加
②前後工程のアンバランスによる滞留・手待ちの発生
③納期遅れの発生、納期案内・納期回答ができない
④製造原価高
タオル工場設立。
海外への進出当初は成功したもの
の、地方の名門であるとの意識と商
品企画・販売を流通任せにしてきたことにより、
管理道具としての生産管理システムは導入でき
たが、実際の工程を動かすのは人であり、生産の
改革が遅れ、次第に流通に主導権を握られ下請け
効率化・顧客満足度の向上、売上機会損失の防止
体制になっていた。受託生産体質を脱しきれず、
を実現できるように、今後も運用努力が求められ
責任の不明確な在庫を多く抱えることとなり、生
る。
産管理人材の不在・生産管理システムの未導入に
〔導入成功事例¹〕
より、実態の把握ができないまま、収益構造が悪
K 社(愛媛県今治市):タオルおよびタオル製品
化していた。新経営陣のもとで、外部から生産技
製造販売業
術顧問を迎えて、生産プロセスの再構築を先行し
1.TPiCS 導入決定までの経緯
て実施した。新生産プロセス見通しが立った時点
事業内容:タオルその他タオル製品の製造・販
である 2005 年5月を第一ステップとして中国南
売(老舗企業、業界最大手の1つ)
通工場から当社が生産管理システムの導入支援を
導入支援: 2005 年5月より、製造子会社(中
開始した。現在は第二ステップの本社販売・物流
図 9 K 社中国南通工場での現状の課題と業務フロー
現状の課題
①日本本社との連携(生産進捗・在庫見込み)が悪く、緊急対応している。結果として過剰在庫・滞留在庫発生
②染め加工を外部に委託しており、ボトルネックとなっている(現在は染め加工の内製化を進めている)
④縫製計画立案から生地払い出しまでの統一ルールがなく、生産・出荷の優先順位が属人化
③必要な計画・実績・検証データが少なく、全体の生産進捗把握・全体最適化生産パターンが遅れている
④一気通貫でのモノづくりに向けて、生産ロットを見直し、全プロセスの工程能力アップ、基準在庫の設定が必要
受注情報・販売計画
日
本
本
社
販
売
計
画
・
生
産
計
画
・
発
注
・
生
産
・
出
荷
指
示
生産指示
追加・変更
キャンセル
生地工程
原
糸
過剰在庫
滞留在庫
整
経
・
製
織
染
め
加
工
縫製工程
乾
燥
倉 庫
検
品
過剰在庫
滞留在庫
縫
製
飛び込み
生産変更
刺
繍
検
査
・
検
品
倉 庫
セ
ッ
ト
・
出
荷
日
本
本
社
緊急出荷
染め加工(協力事業所)
16
Vol.55 No.9 工場管理
特集 現場で本当に役立つシステムづくり
部門との連携を終えて、
全社での運用段階にな
っている。
2.生産管理システ
図 10 生産管理システム導入による現状の課題・改善項目と効果と結果
現状の課題・改善項目
TPiCSでの機能
【1】縫製部門に対する
生地供給の遅れ、
過剰供給
在庫引当・ロットまとめを
自動化
製品納期の遅れ
生地の過剰在庫
縫製部門の生産指示に基づ
く生地生産(システムの連
携)
ムの現状の問題・
解決すべき課題
中国人スタッフ(幸
い中国人工場長以下
15 人全員が日本語が
【2】要るものがいる時
必要なだけ生産さ
れていない
堪能で、工程内で問
追加・変更・キャンセルに
強い
製品・生地・原糸の在庫把
握
PDCAで回す仕組み
工程ごとの進捗把握
効果
①製品・生地・原糸
適正在庫の維持
②工程改善
結果
[1]
原価把握・コスト
削減
[2]
在庫削減・在庫
照会
①遅れ・進みの状況
が事前にわかる
②計画変更について
できるかできない
かわかる仕組みの
実現
[3]
納期照会 納期
遵守・短納期対応
段取り時間短縮
[4]
現場作業の効率化
差し立て管理で生産
状況が見える
[5]営業・生産
(進捗・
顧客・製品)
計画・
実績情報が見える
題・課題の抽出を巻紙
分析で実施した(図8、
9)。
3.T P i C S の 導 入
の成果と課題
¸今後の完全運営稼
動に向けて
①推進責任者・責任
【3】モノを捜す動作を
なくしたい
【4】営業・製造・物流
での連携不十分
【5】不良率がわからな
い
【6】生産管理業務の
人材不足
在庫管理・在庫照会機能
工程ごとに作業指示
情報の共有化
返品の入出庫管理
返品率算出
生産実績管理・実績把握
不良率算出
攻撃型生産管理の実現
生産管理システム導
入・稼働
[6]
品質向上・不良率
の低減
[7]
生産管理
人材の育成
体制を再度明確にする
②半期、一年単位でステップごとにスケジュー
ル立案・マイルストーン(成果がわかる指標…活
用状況・リード日数・適正在庫率…)を明確にし、
推進責任者が日々確認する
③日々の運営を徹底する(PDCA =計画・実
行・検証・対策を回し続ける)
A.オペレーション表の徹底、
¹全社統合システムの構築(本社での導入)
①提案書の作成(目的・効果・タイムスケジュ
ールの再確認)
②経営戦略との整合性(擦り合せ)と戦略推進
体制支援
③全社的なシステム化の完成により、さらなる
レベルアップ
B.実績入力の徹底、
A.南通の生産性・収益性分析の改善
C.在庫差異要因の徹底追及
B.本社企画・営業・物流支援体制構築
D.計画管理(生きた計画…できることは可能
3.人材育成(プロセスマネジメント人材・リ
な限り対応する)
ーダーシップ人材・改善推進人材の育成)
E.マスターメンテナンス
④教育・研修の継続
F.注残リスト・進捗確認
⑤自社マニュアルの作成、改訂
G.計画外の原因・要因追及
注1)攻撃型生産管理 TPiCS =ティーピクス
TPiCS とはティーピクス研究所(本社東京)の MRP
(他社の MRP と区別して f =フレキシブル― MRP と称
している)を主体とした生産管理システムで現在導入
企業 1,550 社、中国語版・英語版があり、海外の日系
企業にも数多く導入されている。
〈問い合せ先〉ティーピクス研究所
〒 112 ― 0011 東京都文京区千石4―8―6
TEL5395 ― 0055
工場管理 2009/07
〈参考文献〉
1)畑村洋太郎、「失敗学のすすめ」、2005 年、講談社文庫
2)ティーピクス研究所「攻撃型生産管理」
筆者:おかだ としあき 代表取締役
所在地:大阪オフィス
〒 540 ― 0012 大阪市中央区谷町3―2― 12
甲南アセット谷町ビル8階
T E L: 06 ― 6946 ― 7001
17