“故障ゼロ!”“経営に効く”設備保全活動を提案

トレンド
“故障ゼロ!”
“経営に効く”設備保全活動を提案
─最小の生産コストで最大の利益を実現する─
日産自動車 IP プロモーション部
生産設備が故障を繰り返し、その度にラインが
生産コスト削減に必須!
戦略的設備保全活動
停止する。メーカーに修理を依頼すると、リード
タイムが長くなる。整備の重要さは認識している
が、ついつい生産優先になってしまう…。こんな
「多くの会社で設備保全専門の担当者が確保でき
悩みに応えるべく、日産コンサルティングが、
ない状況にあります。本来設備保全はメンテナン
2014 年春から設備保全のコンサルティングに乗り
スをすることで故障を防ぐ活動ですが、残念なが
出した。日産では、長年にわたる自動車製造を通
ら修理屋に終わっているというのが現状です。ま
じ て 現 場 か ら 生 ま れ た 日 産 生 産 方 式( NPW/
ず、その概念をドラスティックに変えていただか
NISSAN PRODUCTION WAY)
を基盤に、さま
なければいけません」こう指摘するのは、日産自
ざまな現場の改善提案などコンサルティングサー
動車 IP プロモーション部日産コンサルティングの
ビスを提供してきたが、設備保全に特化したサー
石川祐介氏。では、日産コンサルティングが目指
ビスは、初めて。これまでの日産コンサルティン
す設備保全活動とは、どのようなものなのか。
グのなかで、製造業における保全への高いニーズ
同社が最も重視するのは、
“経営に効く”設備保
と必要性を痛感したからだという。グローバル展
全活動だ。
「一言で言えば、設備保全技術は生産コ
開も視野に入れた日産コンサルティングが目指す
スト削減の重要な手段の1つです。それを戦略的
のは、
“経営に効く”保全活動だ。
にどう実現していくかをご提案し、お手伝いして
④
・人件費、在庫、
エネルギー費の削減
・LT 短縮
①
設備信頼性の
向上
③
②
ライン数、設備数、 設備総合効率
工程数削減
向上
コスト削減実現のためには
保全活動とその波及効果
﹃故障ゼロ﹄
に徹底的にこだわる
図1 企業経営における保全活動の位置づけ
戦略的な
アプローチで
効率的な
維持管理体制
の構築
予知予防による
計画保全体制の
構築
保全活動における設備信頼性向上は
利益を生み出す生産活動の基盤
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Vol.61 No.2 工場管理
故障ゼロ!
“経営に効く”
”
設備保全活動を提案
トレンド
いくのが、私どものサービスです」
(石川氏)
現実的な対応からスタートするアプローチで、故
例えば、稼働率 90%であれば1台で済む設備が
障要因を分析して深掘りし、再発防止策、さらに
トラブルの頻発で稼働率 50%となった場合、同じ
は予知保全という高いレベルの活動を戦略的に実
設備が2台あるいは3台必要になり、多大なコス
施していく(図2)。
トを要してしまう。また、ライン停止時間分の生
故障ゼロ化に向けた戦略策定とアクションに当
産量を残業で確保しようとすれば、余分な人件費
たって威力を発揮するのが、日産が長年積み上げ
やエネルギーコストが加算される。あるいは、常
た技術とノウハウだ。その1つが、経営戦略に紐
に余剰在庫を持ちながら充当しなければならない
付いた目標の設定。まず会社の経営戦略、利益率
ことになる。
目標などに対して、最大限貢献できる工場やライ
こうしたロスをなくして稼働率向上を目指すた
ン、あるいは設備を選定する。
“会社の利益率何%
め、日産コンサルティングでは、①設備信頼性の
向上”という目標に対してある工場が“生産コス
向上→②設備総合効率向上→③ライン数・設備
ト 10%削減”という目標を掲げた場合、保全活動
数・工程数削減→④人件費・在庫・エネルギー費
によってコスト削減にどれだけ寄与できるかを算
の削減、LT 短縮→①…という保全活動のサイク
出し、最も費用対効果が高いところを対象として
ルに注力。これを回すことで、連鎖的に多くの生
決定する。
「あくまでも会社が儲かるための一手段
産コストが削減されることからその波及効果は多
なので、活動の推進でどれだけ利益につながるか、
大とみて、
「企業経営における戦略的な保全活動は、 定量的に見えないと意味がない」(同)というスタ
生産コスト削減の1つの方策であり、保全活動に
ンスで、対象となったラインや設備については、
おける設備信頼性向上は利益を生み出す生産活動
ロス低減目標を振り分け、ベンチマーク、シミュ
の基盤」
(同)
と位置づける
(図1)
。
レーションを経て、数値目標を設定する。
次のステップとしてステージ別・設備別分析、
“故障ゼロ” に徹底的にこだわる①
故障が多い現状を何とかしたい!を解消
管理上の要因分析、占有率の分析など層別分析を
行う。そもそも、一般的にはこうした分析の切口
では、どうすればいいのだろうか。石川氏は
さえわからないのが現状だが、さまざまな視点か
「『故障ゼロに徹底的にこだわる』こと。戦略的に
ら、故障の原因と設備全体に対する影響度、因果
活動に取り組むことで、故障ゼロを実現していく
関係を整理して優先順位を見極めるのが特徴。石
ことが重要」と言う。そのため、具体的には、
「戦
川氏が「自動車製造にしろ他の業種にしろ、基本
略的なアプローチで効率的な維持管理体制の構築」
、
的に加工設備は同じ。日産自体、悩み続けて築き
「予防予知の計画保全体制の構築」という2つの軸
上げた技術というのが最大の強みです」というよ
からのソリューションを提供するという。
うに、層別分析でも、日産ならではのノウハウと
まず、前者の戦略的アプローチ。これは、
「とに
技術が存分に駆使されている。このような考え方
かく、故障が多い現状を何とかしたい!」という
をコンサルティングサービスとして適用している。
図2 故障ゼロ化への戦略アプローチ
多い
故障件数
少ない
工場管理 2015/02
故障多発の状
劣化復元で明
態
日起きるかも
しれない故障
を未然に防止 再発防止で潜
在的な故障要
する
因をさらに減
らす
現状把握の
フェーズ
劣化復元の
フェーズ
再発防止の
フェーズ
定期保全で将
来起きる劣化
故障を未然に
防止する
定期保全の
フェーズ
予知保全で予
防保全の精度
と効率を上げ
さらに故障を
減らす
予知保全の
フェーズ
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図3 生産設備のフロー
仕様検討
生産設備フロー
設計製作
“故障ゼロ”を実現するには、
計画段階から設備保全の取組みを行う
ことが重要
設備稼働開始
初期流動段階での安定的な稼働の取組み
がデイリー生産に向けて重要
デイリー生産
稼働後での設備保全の効果には限界があり
コストがかかる
“故障ゼロ”に徹底的にこだわる②
予防予知の計画保全〜設備保全サイマル活
動〜
ど)に違いが出るのかを示したもの。工場 A は量
産開始の時点で、総合設備効率
(設備が計画に対し
てどれだけ稼働しているかを示す指標 /OEE *1が
70%と高く、さらに 10 カ月後に 90%に達している。
「故障ゼロに徹底的にこだわる」には、もう1つ
一方、工場 B は、スタート時ゼロに近く、工場 A
の軸、予防予知の計画保全体制の構築がある。こ
と同じレベルに達するまでに 10 カ月を要している。
の活動は多岐にわたるがその中でも設備保全サイ
この間、工場 B は人件費や光熱費を費やしている
マルと呼ばれる活動を今回は紹介したい。生産設
が、逆に工場 A はその分のコストを削減できたこ
備のフローは、仕様検討→設備設計→設備稼働開
とになる。
始→デイリー生産という流れ
(図3)
になるが、こ
設備保全サイマル活動は、新規設備導入や設備
こでは、設備の仕様検討・設計段階から“故障ゼ
の更新時がチャンスだが、石川氏は「海外展開で
ロ”を目指した設備保全のノウハウを織り込むこ
の工場立上げには、ぜひとも設備の仕様検討の段
とが重要となる。稼働後のデイリー生産での設備
階から設備保全のための活動を始めていただきた
保全では、その効果に限界があり、コストもかか
い」とコメントする。確かに、現地で設備トラブ
ってしまうからだ。
ルが発生した場合、修理や部品入手が困難なケー
図4は、事例をもとに、設備保全サイマル活動
スも想定されるし、人手に頼っている場合、雇用
を行った工場 A と、計画段階に何もしていない工
のリスクもつきまとう。その点、設備の信頼性が
場 B とで、どのくらいコスト(人件費・光熱費な
高ければ、リスク回避の面でも安心だ。
「新興国へ
石川祐介氏
の進出が近年加速していますが、一方で新興国で
も徐々に人件費の上昇が見られます。今までは労
働集約でモノづくりをしていましたが、人件費だ
けでなく品質面の安定性の側面から見ても今後、
自動化が進むと考えられます。新興国の拠点では
保全の知識がある人材が特に不足傾向にあります
ので、設備保全サイマルの活動の重要性がますま
す高まっていくことは、間違いありません」(同)
*1 OEE:overall equipment effectiveness
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Vol.61 No.2 工場管理
故障ゼロ!
“経営に効く”
”
設備保全活動を提案
トレンド
図4 予防予知による計画保全体制の効果
総合設備効率
設備立上げ時の故障率
OEE(overall equipment effectiveness)
*整備が計画に対しどれだけ稼働しているかを表す指標
100
Down
90
OEE
[%]
80
70
60
50
Cost
Down
40
30
20
10
0
DOP ★
工場 A
工場 B
Morh
DOP+10 か月
計画保全体制を敷いた工場 A は工場 B に対して
コスト(人件費・光熱費等)を削減が可能
計画保全体制前
計画保全体制後
15%
5%
計画保全体制により立上げ時の
故障率を 1/3 に実現可能
故障ゼロ化を実現する上で設備導入段階から
戦略的に保全計画を立てることが重要
部署の壁を超えた人材育成をセットで
コンサル ─ まずは悩みを気軽に相談
基盤構築といったご要望でも、規模の大小や内容
の如何、業種を問わず対応させていただきます」
(同氏)
“故障ゼロ化”に向かう2つの軸いずれの場合で
同社のコンサルティングは、まず、企業を訪問
も、日産コンサルティングでは人材育成を“必須”
して話を聞くところからスタートし、次に、現場
と位置づけ、コンサルティングとセットで提供し
で実際に設備を見ながら現場診断を実施。さらに、
ている。コンサルティングの期間は数カ月から長
診断結果と対策方法をレポートし提案する。ここ
くて数年と限られているため、設備保全活動の基
までは、無料サービスで、その先コンサルティン
盤となる人が育っていなければ、計画的保全の文
グを依頼するとなったら、予算、期間など要望に
化が根付かず、その後の継続が難しいからだ。
応じて具体的な内容を詰めていく。
「予算が少ない
そのため、同社では、常に現場と一緒に現実の
場合でも、まず生産効率に最も影響のある設備か
問題を解決しながら、意識を高め、知識、技術を
ら始めるなど成果を見ながら顧客の要望に合わせ
習得して、共に成長していく。その際、関わる人
て展開していくこともできます」(同)と、柔軟な
材は、生産、保全、生産技術と多部署にわたる。
対応を重視する。
「コンサルティングが入ることで、部署の壁を超え
グローバルな価格競争にさらされるなか、改善
て、会社全体、工場全体に外部の風を入れドライ
活動など生産性向上のための活動をやり尽くして
ブをかける原動力になる」
(同)
のも大きな役割だ。 いる企業も少なくない。これ以上のコスト削減は
とはいえ、
「設備関連はメーカー任せで、コンサ
限界という場合でも、
“経営に効くという視点での
ルティングと言っても何をどう頼んだらいいかわ
設備保全活動”はこれまでブラックボックスに近
からない」といった現場も少なくないだろう。
「設
かった。そこに、思い切ってメスを入れる時期に
備保全に人が割けない企業もあれば、設備点検・
来ているのだろう。
稼働状況のデータは取っているがどう活用してい
スタート間もない設備保全コンサルティングだ
いかわからないというところもあります。計画通
が、すでに複数の企業から問合せや現場診断の申
りの生産ができない。生産コストを削減したい。
し込みがあるという。今後の多方面での活躍が、
設備保全技術の人材育成がしたいなど、悩みはさ
大いに期待されるところだ。
まざまです。私どもは、どんな小さな悩みでも、
(山田 尚子)
また海外進出や拠点拡大に向けて設備保全技術の
工場管理 2015/02
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