6 PART 2 実践編 こうすれば現場のあらゆる ムダなコストが排除できる! コストダウンに伴う生産性向上、不良撲滅などは利益確保のために、ど うしても取り組まなければならない企業としての命題です。 合理化の手段として、人手に代わり機械設備の自動化が進んでいます。 しかし、中小企業においては、たいていが多品種少量生産であるため、 複雑な仕上げ、組立・検査・梱包などの機械化がむずかしい作業も多く 残っています。 6-1 現場のムダ取りは利益の源泉 ロスやムダの温床を取り除くために、 「5S」や「目で見る管理」の徹底を! 76 76 現場改善の目的は生産性向上による原価低減で 着を持って接しているかは工場の5Sの状態 あり、その主体は人の動きのロスやムダ取りに関 を見れば一目瞭然です。立派な機械設備であ する工数低減です。工数低減は労働強化ではなく っても、油やホコリがついていたり、現場が 有効な作業を増やそうとする合理的なものです。 乱雑であっては今日の品質を、明日も達成で ロスやムダ取りを継続するには、現状分析を常に きるかどうか心配せざるを得ません。 怠らず、今の姿に満足しないことです。改善のア ③管 理者、監督者、一般作業員が、「目で見る イデアを思いついたら、とにかく実行することで 管理」を実施していくに際しての管理のチェ す。効果を測定し、改善の是非を判断します。改 ック項目を設定します。項目としては、品 善が進んだとしてもそれで満足することなく、さ 質・コスト・納期・安全・モラールなどで、 らに現状分析を勧めます。こうしたサイクルを地 これに自社の特色や管理レベルの実情を加味 道に繰り返します。 してチェック項目を設定します。その時に管 そして、“誰が見てもわかる職場づくり”と 理ポイントが、図や線、色などのように視覚 か、“わかりやすい職場づくり”が、永続的なコ に訴える形で表現されていることが望ましい ストダウン活動を続けていくためにも絶対に必要 といえます。 です。 つまり、管理ポイントが、図や線、色など そこで推進の基本となるものが、「目で見る管 のように視覚に訴える形で表現されているこ 理」(VM)または「見える化」です。 「目で見る とが望ましいでしょう。表 6-2 は目で見る 管理」とは、“職場の全員が目で見て、仕事の進 管理のいろいろな例です。 み具合が正常か異常かを素早く判断でき、対策に ④次に実施します。実質的な効果を上げていく つなげること”です。良い品を、安く、納期通り ために、決められたことを着実に守り、不具 に、必要数を安全に、しかも全員がやる気になっ 合があれば改訂していくことが大切です。 てつくりあげる際、目で見る管理は理解・納得し ⑤目で見る管理が定着するまでは、トップや事 て行動してもらうために必要になります。その推 務局が定期的にフォローアップすることを怠 進は次の手順に従うと効果的です。 ってはなりません。 ①“誰が見てもわかる職場づくり”といったス 5Sや目で見る管理が進むと、例えばムダの温 ローガンを掲げ、組織をつくって全社的に推 床や、仕掛品の工程間で停滞する状況などがハッ 進していきます。 キリします。工程間には余分なものを置かないこ ②目で見る管理を実施するには、まず最初に5 とが鉄則で、そこから間締め(工程間の距離を S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)を徹 詰めること)へと改善を進めていくことになりま 底的に推進していきます。表 6-1 は5Sの す。 推進ポイントを示したものです。現場の人が どの程度、自分の職場や機械設備に関心と愛 Vol.57 No.5 工場管理 第 6 章 こうすれば現場のあらゆるムダなコストが排除できる! 表 6-1 5S推進 語 句 整 理 (Seiri) 目指す姿 活動のポイント ●モノを定義分類し、いるものだけを残す ・思い切った決断をし、不要品を一掃する ・必要度による層別管理 ・汚れ発生源防止ができている ・層別管理―不要物に赤札をはる ・元から絶つ改善やルール化する 整 頓 (Seiton) ●いるものをすぐ届く位置に置く ・5W1Hを入れた機能的保管、ル ・機能的(品質、能率、安全)なモノの置き方やレイアウト ール化、所番地管理 にする ・スッキリとした職場や設備 ・「探す」作業の排除で能率向上 ・「探す」排除の改善 清 掃 (Seiso) ●掃除を通じての、異常の発見と次の準備 ・機能やニーズに合ったクリーン化で、ゴミナシ、汚れナシ の実現 ・清掃点検による微欠陥の排除 ●整理・整頓・清掃が継続できる効果的な仕掛けづくり ・2S の崩れの根本原因をなくして問題を発生させない仕組 清 潔 みを構築させる (Seiketsu) ・異常の顕在化と目で見る管理の工夫 躾 (Sitsuke) ・機能部位の清掃 ・設備治工具の清掃点検 エア漏れ、ネジのゆるみ ・異品混入 ・目で見る管理の工夫、徹底 ・異常の早期発見とアクション ・維持管理のツール (マニュアルやカレンダー化) ・色彩管理 ●決めたことが守れる人づくり ・一斉に○分間5Sの実施 ・全員参加で守る習慣づけと、決めたことを守る職場づくり ・1人ひとりの私の責任 ・各種習慣づけの運動 77 表 6-2 目で見る管理のいろいろ 何を見えるよう にするのか 物のあるべきと ころ 現場の今の状態 生産技術の中身 標準作業手順 生産活動の結果 目 的 道 具 の 例 ・置き場所がすぐわかり、必要なものがすぐに取 ・置き場所(棚、引き出しなど)の表示 り出せる ・工具などは形跡板(工具の絵を描いてお く) ・床の置き場所は線引き ・不必要なものがすぐ分かる ・カラー札(一般に赤い札が用いられる) ・歩行場所と設備場所を区別する ・導線 ・正常か異常かが一目でわかる ・生産管理板(進捗表) ・管理図(X-R管理図など) ・アラーム、アンドン(異常灯) ・原料在庫 ・赤ライン ・製品の良否の判定 ・限度見本(良否判定基準) ・サラシ首(不良見本) ・隠れたノウハウ、カン、経験が形として現れ、 ・技術標準書、作業標準書 共有化される ・目で見る標準(ビデオなど) ・作業現場で分かりやすく見ることができる ・現場表示 ・成果や問題点がすぐわかる 工場管理 2010 年 4 月臨時増刊号 ・日報、月報 ・予算/実績対比 ・諸指標の計画/実績対比、推移票 6-2 作業改善と設備改善 改善を始める場合はまず作業改善から→やりつくしてから設備改善へ 儲けるためには新製品の開発、製品自体の改良 によるコストダウンだけでなく、作業の観察や測 定・分析を行って、ロスやムダを除き、直接工数 作業改善を先に行う理由は、 や間接工数の短縮を図っていく取組みも大きな成 ①設備改善は金がかかり、しかもやり直しがき 果が期待できます。 図 6-1 は就業時間の内訳を示したものです。 見てわかるように、付加価値を生むのはサイクル 作業の中の「加工」だけです。したがって、「工 78 78 う1つは設備を導入したり、自動化したりする 「設備改善」です。 かない ②ムダがそのまま機械化されてしまう ③設備は高価なため、減価償却が気になり稼働 率を高めることに注力することになる 程」や「動作」のすべての領域において、設備間 そういうことにならないためにも、改善を実施 の間締めをしたり、歩行を半歩でも減らす工夫な する場合は、まず知恵を搾り出す作業改善から取 どロスやムダを排除していかねばなりません。表 りかかり、いっさいのムダを取り去り、これをや 6-3 に人や物の動きから捉える生産の要素を、加 り尽くしてから、設備改善を行うことを忘れては 工、検査、運搬、停滞の4つの工程に分けて示し なりません。 ました。 ネック工程のことだけを考えて、生産全体の流 作業の改善を具体的に推進するには図 6-2 に れや設計変更、品種切替えなどを考慮しないで設 示すように、工数を低減して省人化を図ること、 備を導入すると、設置後に使いにくいとか、設計 また、出来高向上のためには、タクトタイムの 変更による要改造ということで設備が放置される 改善や設備稼動率の向上に努めなければなりませ ということがよく見られます。 また、加工を自動で行うように改善しても、チ ん。 作業改善の一般的手順は、次のステップになり ます。 ョコ停などが発生するために省人化できず、見張 り番をつけているのを見かけます。作業の標準化 ①改善対象の選択 を十分行わず、作業改善が不十分なまま自動化し ②現状分析(作業分析、動作分析) たためでしょうか。 ③重点発見 ④改 善案立案(すぐできる、やや準備がかか る、大掛かりな準備がいる) 改善のための道具として、目で見る管理が重要 です。製造工程は生産の状況(進み、遅れ、異常) が誰にでもすぐわかるよう職場を整備します。生 ⑤改善案具体化、試行、修正、実施 産管理板は製造工程の最終に表示します。特に異 ⑥歯止め、標準化 常発生状況はその原因を調べ、再発防止を行いま ⑦評価 す。 生産現場の改善案は2つに分けられます。1つ は作業場のルールを決めたり、配分をやり直した り、物の置場を明示したりする「作業改善」 、も Vol.57 No.5 工場管理 第 6 章 こうすれば現場のあらゆるムダなコストが排除できる! 図 6-1 就業時間の中身 就 業 時 間 非生産作業 生 産 作 業 サイクル作業 製品をつくるために 毎サイクル発生する作業 ・取り付け、取り外し ・加工 ・運搬、移動 非サイクル作業 休憩 朝会 後始末 ダウンタイム 一定ロットごと に発生する作業 ・工具交換 ・パレット入れ替え ・段取り ・設備故障 ・部品トラブル ・不良率 ・チョコ停 表 6-3 人や物の動きからとらえる生産の要素 人の動き 物の動き 加工 ・ワークや治工具を取ったり置いたり ・ワークに準備や付加価値をつけてい する動作 る状態 ・付加価値を生んでいる動き 検査 ・ワークを検査している動作 運搬 ・ワークや、型治具を移動する動作 停滞 ─ 顧客が金を 動きの単位 支払う要点 △~○ 秒 ・ワークが検査されている状態 × 秒/分 ・ワークが移動している状態 × 分 ・ワークが 1 ヵ所にとどまっている状 態 × 時/日/月 図 6-2 作業の改善 3ムの排除 探さない、選ばない、考えないといった作業の推進 省 人 化 手隙時間の有効活用 作業改善 手直し、バリ取り、カエリ取りの排除、バラツキの改善 出来高向上 ネック工程解消によるタクトタイムの改善 チョコ停の撲滅、段取り・工具交換時間短縮 工場管理 2010 年 4 月臨時増刊号 79
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