第1章 これからの生産管理とは

第1章
これからの生産管理とは
〜生産管理に対する状況の変化と対応の必要性〜
の、対応はできなかった。その理由は単純だった。
「現場積み上げ型生産管理」の限界
A 社は販売が 12 月に偏るという需要の季節変動が
日本の製造業は現場が強いといわれてきた。戦
回る注文が販社から大量に来て、生産能力不足に
前から IE
(Industrial Engineering)
手法を取り入
陥り、未納を引き落としていたのである。
大きい業界に属していて、時期的に生産能力を上
れ、作業改善を積み上げてきたのである。その後、 この状況に対して、現場改善や購買改革だけで
QC 活動、小集団活動を展開し、たぐいまれな現
乗り切ろうとしたことに無理があったのだ。根本
場の強さを築き上げてきた。効率の良い作業標準
的な問題は、需要変動に対する生産能力制約を考
がつくられ、作業標準への遵守が徹底された。勤
慮した生産計画、購買対応が A 社にはできていな
勉な働き手を得て、日本の製造業は大きく飛躍し
かったことだ。なぜなら、A 社は受注生産を自社
たのである。
の生産形態と規定し、注文が来てから部品調達し、
しかし、ここに来て日本の製造業は苦しい立場
製造をやり切るビジネスモデルを構築してきたか
に追い込まれている。外部環境が大きく変わり、
らだ。受注が来るまでどれほどの生産能力を必要
変化への適応が急務になっているのである。しか
とするのかわからず、受注が来た後では能力不足
し、高度経済成長の大量生産に適応した現場積み
で打ち手がないというありさまだったのだ。
上げ型の改革は限界に来ている。高度経済成長期
この受注生産というモデルの下で、いくら現場
の「つくれば売れる」時代に適応した現場任せの
で頑張っても、生産能力を超える注文が繰り返さ
生産管理、つまり「現場積み上げ型生産管理」の
れては対応できるはずもないのである。生産現場
やり方に依存していては、日本の製造業は変化に
が頑張っても処理できない注文が大量に来た時に
適応できなくなっていくと思われる。
は、現場で打てる手はほとんどないのである。一
「現場積み上げ型生産管理」だけでは
製造業は競争力を喪失する
A 社の事例
1.変動へ対応できないのはなぜか
時的な残業や現場改善では解決しない事態になっ
ていたわけだ。
2.見込み生産と受注生産に対応できる管理能
力がカギ
A 社に必要だったのは、現場改善ではなく、A
最近、筆者が支援した製造業の例を挙げよう。
社の現状に適応した生産管理方法の確立だった。
A 社は精密機器を世界中に販売している製造業
解決策としては、販売計画を販社と事前に共有し、
で、工場は日本、中国、ベトナムにあり、主力工
能力計画と実施して、能力を超える場合は見込生
場は中国である。
産で前倒し生産することだったのだ。つまり、販
A 社に呼ばれて状況を聞くと、
「販社の注文に対
社との情報連携を受注だけの状態から、販社の販
し大量の未納を発生させることが繰り返され、売
売計画と在庫計画、仕入計画を共有する形に変え、
り逃しと在庫滞留、廃棄・たたき売りを繰り返し
能力を大幅に超過する仕入計画が可視化できた時
ている」という状況であった。生産管理部門を中
には、見込み生産を取り入れることで確実に生産
心になんとか納期遵守を達成しようと努力したが
を行うことだった。ただし、すべてを見込生産に
状況は悪化するばかり。生産管理部門だけでは手
すると、莫大な在庫になり、かつ滞留するリスク
詰まり状態であった。
もあるので、品目を選んで見込生産を行い、見込
工場でできる現場改善、購買改革は行ったもの
生産と受注生産の両方が管理できる生産管理形態
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Vol.62 No.8 工場管理
特集1
システム導入で失敗しない!生産管理の極意
図1 現場積み上げ型生産管理と枠組みを持った生産管理
現場積み上げ型生産管理
枠組みを持った生産管理
工場だけでなく、生産
全体がどうなっている
のか即把握でき、マネ
ジメントできる
工場がブラックボックス化
され、どうなっているかわ
からず、まともな管理・意
思決定ができない
管理方法
工場 A
工場 B
統合管理方法
統合システム
工場 C
管理方法
システム
システム
組織
組織
工程
工程
設備
設備
設備・工程・組織・システム・管理方法すべてを工場
個別に、必要に応じて、かつ現場主導で積み上げてき
たため、標準がなく、全体がどうなっているのかすぐ
にわからない。工場内の工程間の連携も悪く、工場横
断で同じ管理方法で管理できない
に変えることにした。
工場マネジメント型生産管理を
再構築せよ
工場 A
工場 B
工場 C
設備・工程・組織・システム・管理方法が標準化され、
工程間連携もスムーズでどこかどうなっているのかす
ぐわかる。工場横断で同じ管理方法で管理できる。さ
らに、工場を横断した統合システムと統合管理方法が
実現され、生産マネジメントと生産統制が工場単位だ
けでなく、連結視点でできている
を変えず、結局 A 社は競争力をどんどん失ってい
ったのだった。
こうした例は今の日本の製造業に多く見られる。
生産管理を工場の現場管理レベルに矮小化してき
この変革は現場に任せでは実現できない。あの
たため、状況が変わると対応できず、競争力を失
まま現場任せにしていては、今まで通りのやり方
う事態を生み出しているのである。
で残業するくらいが関の山。現場努力に依存して
日本の製造業は生産管理を現場管理や工場内の
いては解決できなかったのだ。
工程管理と勘違いしてきた。生産管理は製造業の
現場依存の生産管理を「現場積み上げ型生産管
生産をマネージする機能であって、工場に閉じ込
理」と呼ぶとしよう(図1)
。この方法は従来の生
もった管理ではないのだ。工場を経営的にマネー
産方式を前提としたり、工場の外との連動を既存
ジし、生産機能として製造業としての自社の収益
の状況のままにしたりして、現場でできる改善だ
性と競争力を向上させる役割をもっているのだ。
けで乗り切ろうとする生産管理方法だ。現状追認、 従来型の工場に閉じ込もった生産管理ではなく、
今まで通りのやり方を固守するのが「現場積み上
工場マネジメントも視野に入れ、工場を超えて各
げ型生産管理」である。
組織と業務連携する生産管理の考え方を再構築し
環境が変わり、今まで通りのやり方では乗り切
なければならない。
「現場積み上げ型生産管理」で
れない状況が生じてきているのだから、
「現場積み
はなく、きちんと「工場マネジメント=生産マネ
上げ型生産管理」では限界が来る。A 社は製品競
ジメント」の視野を持った生産管理を定義してい
争力が高かったにも関わらず、従来の生産管理の
く必要があるのだ。
対応の機能不全で売り逃しを頻発させていた。納
期遅れで到着した製品はタイミングを逸して売れ
なくなり、廃棄・たたき売りで、せっかくの製品
競争力がムダにされ続けた。従来の生産管理方法
工場管理 2016/07
「現場積み上げ型生産管理」では
システム導入は失敗する
日本の製造業は緻密な現場管理で知られている。
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