2014 年 4 月 18 日 FOREX WEEKLY 市場営業統括部 チーフ・エコノミスト Tel: 山下えつ子 +1-212-224-4561 (ニューヨーク) [email protected] Global View … 米国の金融政策は動かない → p.2 ・ イエレン議長の講演では、インフレに関する個人的見解は超ハトのままだった。 ・ 当面、Fed の金融政策に新たな動きはないだろう。 ・ 注目すべきは、労働市場のスラックとインフレを巡る Fed 内部の議論の行方である。 … US View 景気と金融政策に対する見方は固まった → p.3 ・ 3 月の小売売上高と製造業生産は強めだった。マーケットもこれを好感。 ・ イエレン議長の講演で、金融政策に対する見方は固まった。 FX Outlook … 落ち着いてきた → p.4 <来週の予想ポイント> ドル/円 横ばい ・ 米国の経済指標に注目。 ユーロ/円 横ばい ・ ウクライナ情勢の展開にも注意が必要。 今週のレンジ 本日東京 9 時 来週の予想レンジ 今後 3 ヶ月の予想レンジ ドル/円 101.32-102.47 円 102.46 円 101.70-102.70 円 100.00-105.00 円 ユーロ/ドル 1.3790-1.3906ドル 1.3810ドル 1.3750-1.3900ドル 1.3000-1.4000ドル ユーロ/円 140.24-141.77円 141.51円 140.00-142.00 円 130.00-145.00 円 (今週のレンジは先週金曜日東京9時∼本日東京9時、予想レンジは本日東京9時∼来週金曜日東京9時) ・今週号本文はニューヨーク時間木曜日15時までの情報をもとに作成しています。 ・FOREX WEEKLYに関するお問い合わせは、現在お取り引き中の営業部/支店にお願い申し上げます。 ・FOREX WEEKLY は弊行ホームページでもご覧頂けます。(http://www.smbc.co.jp/ マーケット情報→外国為替情報→ フォレックス・ウィークリー) 本レポートは情報の提供を目的としており、何らかの行動を喚起するものではありません。ここに示した意見は本レポート作成日 現在の筆者の意見を示すのみです。データや数値の抽出範囲・基準は任意で設定している場合があります。データ・資料等につい ては、数値等の誤りが含まれている可能性があります。本レポートに基づき、お客さまが投資のご判断をされた結果に基づき生じ た損害・損失について当行は一切責任を負いません。投資や資金運用に関する最終決定は、お客さまご自身で判断されるようお願 い申し上げます。また、本レポートの全部または一部の無断コピー使用はご遠慮ください。 1 FOREX WEEKLY Global View 2014/4/18 … 米国の金融政策は動かない 16 日のイエレン FRB 議長の講演は「金融政策と経済の回復」と題するものだった。テーマもその ものズバリだが、何より、イエレン氏が議長に就任して初めて、金融政策についての個人的見解にも 言及する機会で、その分注目度が高かった。 結論から言えば、イエレン議長は超ハトのままである。議長として FRB の意見を代表して述べてい る時には、以前のようにデフレリスクには言及しなくなっていたが、今回の講演会では、「インフレ 率が 1%を長期に下回れば、デフレリスクが高まり、デフレになれば長期の経済停滞に陥る」と発言 している。そして FRB の政策のマンデートであるインフレ率 2%について、「2%を大きく上回る確 率は、2%を大きく下回る確率よりも、遥かに低い」。イエレン氏のデフレ懸念はまだ無くなってい ないようである。 質疑も興味深かった。雇用については、失業問題に Fed が金融政策でどこまでコミットするのかが 問われ、物価については、雇用情勢が未達であるのにインフレが 2%以上になったらどうするのかが 問われた。イエレン議長の答えはこうだ。「スキルや教育が不足する人については地方政府による職 業訓練の提供も必要である。」「労働市場のスラックはインフレを抑制するほどに大きいと考えてい る。もちろんインフレのマンデートも忘れていない。」いずれの答えも、失言を誘導されそうだが(「金 融政策で出来る限り・・・。」「インフレが上昇してくれば即座に引き締めに転じる。」など)、イエ レン議長は無難にかわし、会場からは上手くかわしたと拍手がおきた。 しかし、今回の講演会からは 2 つのことを知るべきだと筆者は考える。ひとつは、イエレン議長は 労働市場のスラック(緩み)が非常に大きいと推定しており、それをベースにすれば、確かに 2016 年末でも FF 金利は 3%程度で中立金利以下になると、当面はその路線にマーケット参加者は乗るべ きなのだろう、ということである。 だがもう一つは、イエレン議長自身が言うように、「労働市場のスラックがどれだけあるのか、Fed にもまだ答えがない」。この答え次第、あるいは、経済構造自体の変化が認識された場合には、思っ ているよりも早くにインフレが上昇してくるリスクがあり、結果的に、現在示されているよりも利上 げのペースが速まる可能性もある、ということだ。 3 月の FOMC で、懸案だったフォワード・ガイダンスの修正を行い、QE 縮小は淡々と進める。利上 げは 2015 年半ば頃のつもりだとすれば、たとえば 4 月末の FOMC には注目すべきことがない。今後、 3 ヶ月から 6 ヶ月程度、新たな金融政策は出てこないだろう。ひたすら FOMC 内部で、上記の問題を 議論し続けるのみだろう。この間は前述の、労働市場のスラックが大きい、という説に乗る時間帯だ。 結論が見えてくるまでには時間がかかる。 昨年は Fed の想定よりも速いペースで失業率が低下したが、その際に議論の中心だった労働参加率 の低下を巡る論争(構造的要因か循環的要因か)は、構造的要因が 3 分の 2 ほど、と決着した。そし て、フォワード・ガイダンスは見直されたのである。しばらく実際の金融政策は動かない。ここから 注目すべきは、労働市場のスラックとインフレを巡る幅広い議論の行方である。その結論が金融政策 の行方を大きく左右する。 2 FOREX WEEKLY US View 2014/4/18 … 景気と金融政策に対する見方は固まった 今週発表された複数の経済指標では米国の景気が天候改善に伴ってリバウンドしたことが確認さ れたほか、イエレン FRB 議長の講演では低金利の長期化の方針が再度明示された。さらに、中国の 1-3 月 GDP が予想範囲内だったことやウクライナ情勢の緊迫化が 4 者会談でやや緩和されたことも好 材料となり、マーケットは今週、相応に再調整している。ダウ株価指数は 11 日に 16000 ドル近くま で下落したが、今週は戻り基調となり、17 日には 16400 ドル台まで上昇。ナスダックも 15 日に 3950 を一時割り込んだが、17 日には 4100 台へ上昇。ダウもナスダックも 4 月初のレベルには戻っていな いが、下落は止まった。一方、債券相場は 10 年債利回りが 17 日に 1 週間ぶりに 2.7%台へ上昇して 引けた。 3 月の小売売上高と鉱工業生産は天候の改善で、消費や製造業生産がリバウンドしたことを示した。 3 月もまだ気温は例年より低く、一部の小売業者からは消費不振のコメントもあったが、発表された 小売売上高は前月比+1.1%(除く自動車でも+0.7%)と高めの伸びだった。鉱工業生産も広い業種で 増加が確認された。16 日に公表された Fed のベージュブックでも消費と製造業生産について同様の コメントがあり、整合的である。一方、3 月の住宅着工件数にも一部リバウンドはあったものの、ピ ークアウト感のある数字だった。比較的良好な景況感対比、住宅セクターについては建築および販売 にピークアウト感があり、ベージュブックの中でも他の項目に比べ、住宅セクターの記述は弱く、住 宅の建築、販売が減少している地域があると記されている。 12 月以降の数字が落ち込んだため、3 月分が高めに出ても 1-3 月の実質 GDP は 2%に届かない可能 性があるが、4-6 月は高めのゲタをはいてスタートするので数字上は高い前期比が出ることになろう。 5 月、6 月の消費や生産、また住宅セクターの動向については今後の見極めが必要だが、まずは景気 のリバウンドが好感される時間帯だろう。 16 日にはイエレン議長の講演会も開催された。「金融政策と経済の回復について」と題する講演 だったが、FOMC の経済見通しを説明しつつ、個人的見解を述べる箇所は、イエレン議長は非常にハ トである、と再認識させる発言が多かった。雇用の最大化と 2%のインフレ率という二大マンデート を達成できるのは 2016 年末、との見方を示した後、その時でも、従来使用してきたテーラールール などのシンプルな政策ルールから算出されるよりも低い FF 金利を維持しているだろう、という見通 しだった。これは過去にもイエレン氏が支持する考え方として公表されてきたが、Fed 議長となって 今回初めて個人的見解として改めて述べられたものである。そして、FOMC の中では様々な意見があ るものの、この見解は FOMC の中心的な考え方と大きくはずれていない。今回のイエレン議長の講演 内容に特に新しい話はなかったが、マーケットは改めてイエレン議長の立ち位置や金融政策の行方に ついて納得した。 今後、債券相場が大きく動くとすると、当面は金融政策に関するニュースではなく、米国の景気指 標や物価指標の方がウェイトが大きいだろう(ウクライナ情勢などの地政学リスクを別とすれば)。 先に記したように、天候改善後の米国景気はリバウンドしているため、まずはこれを好感、その後、 基調の強さの見極めに入る。また、15 日に発表された 3 月の CPI がコア前月比+0.2%、前年比+1.7% と前回より上昇し、注目されたが、こうした物価動向もこれまで以上に注目されるだろう。 3 FOREX WEEKLY 2014/4/18 来週は 22 日に中古住宅販売件数、23 日に新築住宅販売件数、24 日に耐久財受注、がそれぞれ発表 される。住宅セクターの指標には期待薄、耐久財受注は事前の予想はニュートラル。その目線対比で の強弱で相場が動く。ただ、利上げに対する見方は大きく動かないと考えられるので、10 年債利回 りが来週末までに 2.80%を超える可能性は低いと考える。 FX Outlook … 落ち着いてきた 先週のドル安・円高は 101 円台で止まり、今週は 102 円台半ばまで戻って来た。米国の小売売上高 や鉱工業生産などの景気指標が良好だったことも一因であるが、先週のやや説明の付かない相場の調 整がそれ以上にオーバーシュートせず、とりあえず安堵である。 来週は、米国では中古および新築住宅販売件数、耐久財受注の発表がある。今週の住宅セクターの 指標は小売り売上高や生産と異なり、弱めだった。Fed のベージュブックでも、地域によっては住宅 の建築や販売が減少しているとの記述があった。米国の住宅セクターの数字には期待が出来ないが、 予想比大幅に下振れなければ、そろそろ織り込み済みの事実だろう。当面、経済指標は重要だが、次々 週が雇用統計の発表週となるため、来週は米国の経済指標ではあまり大きくは動かないだろう。 ユーロは、ドラギ総裁が早々に週末にユーロ高牽制を明確に打ち出した。週末の IMF 年次総会にお いて、ドラギ総裁は「最近のユーロ高は一段の緩和を必要とする」と発言した。11 日にはユーロド ルはドル安もあって 1.39 を付けるところまで上昇していたが、先週初の 1.37 近辺から 1 週間のユー ロ高進行はさすがに速過ぎた。ドラギ発言後のユーロドルは 1.38 台前半から半ば。発言が多少は効 いたとも言えるが、今週はドルがドル高方向に戻ったことが主因かもしれない。 一方、日本では消費増税後の消費の反動減を受けて、月例経済報告における景気判断が下方修正さ れたほか、実際に小売業者からは反動減の事例が多く挙げられている。しかし、予想された動きであ り、5 月あるいは賞与後の 6 月以降の消費動向を注目すべきだろう。その点、足元の消費不振に対し て小売業者も予想範囲内として、今後の持ち直しを見込んでいるようである。また、物価については、 消費不振の中で値引き戦略に戻るのか、あるいは、税率引き上げ以上の販売価格の引き上げ(いわゆ る便乗値上げ)の事例も散見されるため物価はむしろ高めに上昇するのか。日銀の政策を巡って、マ ーケットが憶測や投機などで動きやすいのがアベノミクス下での日本を巡る相場の特徴になってい るが、物価見通しが下振れなければ、次回の 4 月末の決定会合でも日銀は追加緩和を見送る可能性が ある。 中国の 1-3 月 GDP(16 日発表)は 7.4%。予想を裏切らない数字であった。また、17 日には一部の 銀行に対して預金準備率引き下げを適用すると政府が発表し、最近の傾向と同様に、マーケットはこ れを当局による景気下支え・市場安定化と捉えている。中国経済の中期的なリスクが大きく低減して いるわけではないが、これまでにも記したように、危機が発生していないため、マーケットは少し安 堵し、また当局の対応にも期待しているのが現状であろう。 もう一つのリスクファクターであるウクライナ情勢は、クリミアのロシアへの帰属を巡る住民投票 4 FOREX WEEKLY 2014/4/18 の後、再び渾然としてきた。ウクライナ政府と親ロ派の武力衝突が発生しているため、今後の展開も、 またロシアの関わり方も、予断を許さない。最新事情は、ウクライナ、ロシア、米国、EU の外相級 協議が 17 日スイス・ジュネーブにて開かれ、事態沈静化に向けた共同声明が出されたところだ。ウ クライナ内部での武力衝突になっているため、短期間で沈静化するのかは疑問である。マーケットは 一応、この 4 者会談を好感しているが、今後の展開次第では、再びリスクファクターとしての認識が 高まるだろう。当地米国において、専門家と言われる人々のコメントを見聞する機会は日本よりも多 いと思うが、ここまでの展開を(筆者が知る限り)誰も正しく読めなかったし、現時点でも今後につ いて信頼し得る確固たる見通しを示している人もいない。 (データ出所:Reuters) ディーラーに聞きました(来週のドル円相場の方向性∼ブルベア) 月 3月 4月 週 10 日∼ 17 日∼ 24 日∼ 31 日∼ 7 日∼ 14 日∼ 21 日∼ 予想 +6 +2 +1 +6 +5 +2 +4 実績 ベア 中立 中立 ブル ベア ブル ≪見方≫ 当行の為替ディーラー(マーケット、カスタマー)8 名を対象に、来週の相場予想を聴取。今週の東京市場 9 時から、ドル ブル(終値から1円以上のドル高)、中立(終値から上下1円内)、ドルベア(終値から1円のドル安)の三択で、結果を(ドルブル 人数−ドルベア人数)で表記。+(プラス)は円安ドル高、−(マイナス)は円高ドル安を示す。 5 FOREX WEEKLY 2014/4/18 各種相場の動き <債券(日本国債・10 年債利回り)> <債券(米国債・10 年債利回り)> <株(日経平均株価)> <株(米ダウ)> <株(上海総合指数)> <株(ドイツ DAX 指数)> <原油(WTI 先物(期近物))> <金(NY 先物(期近物))> (出所:Bloomberg) 6 FOREX WEEKLY 2014/4/18 今週のプライスアクション(ドル円) (出所:Reuters) E 価格 102.4 102.2 ③ 102 ② 101.8 101.6 ① 18:10 04:10 14 4 11 16:10 04:10 14 4 14 101.4 18:10 06:10 14 4 15 18:10 06:10 14 4 16 18:10 06:10 14 4 17 ① ウクライナ東部での親ロ派 とウクライナ軍との衝突を 嫌気し、円高。 ② 米株高に連れた日本株の上 昇や、予想を上回る中国 GDP を好感して円売り優勢。 ③ ウクライナをめぐる 4 者協 議での共同声明採択を受け てリスク回避姿勢が後退 し、ドル高。 18:10 14 4 18 来週のチャ−ト分析 (出所:Reuters) 価格 105 1.4 102 1.39 99 1.38 96 1.37 93 1.36 1.35 自動 2 3 4 5 6 13 Q1 13 Q2 7 8 9 13 Q3 10 11 12 13 Q4 1 2 3 4 5 自動 14 Q1 16日 03日 14 1 <ドル円、日足> 17日 03日 14 2 17日 01日 14 3 16日 01日 14 4 <ユーロドル、日足、一目均衡表> ・サポートラインの 4/25 の値は 101.41 ドル。 ・雲の上を推移。 ・4/25 雲上限は 1.3832 ドル、下限は 1.3722 ドル。 来週の主な材料 4/21(月) (日)3 月貿易統計 (米)3 月景気先行指数 (欧)市場休場(イースター) 4/22(火) (米)3 月中古住宅販売件数 4/23(水) (米)3 月新築住宅販売件数 4/24(木) (日)3 月企業向けサービス価格指数 (欧)4 月ユーロ圏消費者信頼感(速報) (米)3 月耐久財受注 (欧)4 月独 Ifo 景況指数、ドラギ ECB 総裁講演 4/25(金) (日)3 月全国 CPI、2 月全産業活動指数 (米)4 月ミシガン大消費者センチメント(確報) (本ページの担当:井上) (注)FAX 配信の停止を希望される場合は、下記までご連絡頂きますようお願い申し上げます。 グローバルアドバイザリー部 電話 03-4333-4255 FAX 03-4333-9845 担当:紺野 7
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