FOREX WEEKLY

2015 年 2 月 13 日
FOREX WEEKLY
市場営業統括部
チーフ・エコノミスト
山下えつ子
Tel: +1-212-224-4561 (ニューヨーク)
[email protected]
Global View …
ギリシャ・リスクの大きさは? → p.2
・ ギリシャと EU の協議は来週へ持ち越され、マーケットはニュースに大きく振らされている。
・ だが今週の欧米の政治の優先順位から見ると、ギリシャ・リスクは小さいと考えられる。
US View
…
決定打に欠けた → p.3
・ 小売売上高が下振れ、決定打に欠けた。ただし 10 年債利回りは 2%台まで一時上昇。
・ 翌週の Fed 議長の議会証言を前に、来週は 1 月 FOMC 議事録に注目。
FX Outlook
… 再びギリシャに振らされた → p.4
<来週の予想ポイント>
ドル/円
上昇
ユーロ/円
上昇
・
米国のFOMC議事録に注目。
・
日銀は追加緩和をしないが、円高への巻き戻しは限定的。
・
ギリシャ問題が一段落し、ユーロ上昇。
今週のレンジ
本日東京 9 時
来週の予想レンジ
今後 3 ヶ月の予想レンジ
ドル/円
117.17-120.48 円
118.93 円
118.50-120.50 円
112.00-127.00 円
ユーロ/ドル
1.1270-1.1473ドル
1.1404ドル
1.1350-1.1550ドル
1.1000-1.1600ドル
ユーロ/円
133.68-136.70円
135.65 円
134.00-137.00 円
130.00-140.00 円
(今週のレンジは先週金曜日東京9時~本日東京9時、予想レンジは本日東京9時~来週金曜日東京9時)
・今週号本文はニューヨーク時間木曜日正午までの情報をもとに作成しています。
・FOREX WEEKLYに関するお問い合わせは、現在お取り引き中の営業部/支店にお願い申し上げます。
・FOREX WEEKLY は弊行ホームページでもご覧頂けます。(http://www.smbc.co.jp/ マーケット情報→外国為替情報→
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い申し上げます。また、本レポートの全部または一部の無断コピー使用はご遠慮ください。
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FOREX WEEKLY 2015/2/13
Global View
… ギリシャ・リスクの大きさは?
今週のユーログループ会議や EU サミットでギリシャ支援の新プログラムが合意できず、ニュース
が流れる度に金融市場は一喜一憂した。だが、外から眺めるほどギリシャ問題は緊迫していないと思
える。
ギリシャの実質 GDP(前年比)は 2011 年にマイナス 10%まで悪化した後、少しずつ回復し 2014
年半ば以降はプラスに浮上している。IMF などトロイカの言う通りに財政緊縮を進めることへの反発
は経済が回復してきたことの裏側にあるのだろう。そうでなければ、トロイカの支援なしに回復でき
るとの考えは出て来ない。一方、失業率は多少低下したとはいえ、25%もの高水準である。長期に亘
る財政緊縮への国民の不満は限界に近づいている。こうした中での総選挙の結果が反財政緊縮を掲げ
る急進左派の勝利となったのは、ある意味自然な成り行きである。
問題はギリシャ新政府がトロイカからの支援を断って、しかし一時的な支援を EU から受けつつ、
債務再編を行って、財政緊縮を緩めようとしたことだ。極めて一方的な案であり、対 EU あるいは対
ECB でそのまま通るはずがない。協議がすぐに合意できなくても仕方がない。しかし、表面的な動向
と政治の世界の中で進んでいることは恐らく別だ。ギリシャ新政府が EU との協議を拒み、独自路線
を行くならば協議は永遠に合意されず、行き着くところは本当にユーロからの離脱しかなくなる。だ
が、ギリシャのツィプラス首相もギリシャ国民もユーロからの離脱は望んでいない。
政治の駆け引きでは、ギリシャがユーロ離脱を望まない以上、ユーロ離脱の脅威は EU に対する交
渉のカードにはならない。2010 年からのギリシャ危機はイタリアやスペインなど他の周辺国への波
及のリスクが高く、EU はギリシャを切り離すことは出来なかった。政治的にも統合したユーロ圏を
分解することは出来なかったのだ。だが、今は違う。EU はギリシャが独自路線を行くならばユーロ
からの離脱を検討してもいい、というほどに相当に腹を決めているように見える。ECB はギリシャと
の会談直後にギリシャ国債を適格担保条件の適用外とする特例措置を解除するという発表を行い、ギ
リシャに厳しい態度を見せた。ギリシャと EU の交渉は圧倒的に EU 側の主導で進み、ギリシャ新政府
はいかに国民を納得させるかに腐心するのみとなるだろう。交渉決裂、ギリシャのユーロ離脱、とい
うシナリオの確率はゼロではないが、外から見るほど高い確率ではないはずだ。
9 日・10 日に開催された G20 財務相・中銀総裁会議では、ギリシャ問題も議題にはなっただろうが、
どうやら中心的な議題ではなかったようだ。会合の前後の欧州の政治はギリシャよりもウクライナの
停戦合意に重点が置かれていた(マーケットではギリシャの方に重きがあったが)。また、ドイツ・
メルケル首相と米国・オバマ大統領の会談でもギリシャ問題は全く議論の中心ではなかった。こうし
た政治の優先順位を通して見ると、今回のギリシャ問題は過去のような欧州債務危機への発展のリス
クは小さく、ギリシャ新政府と EU の協議も早晩、危機なしに合意に至るという道筋しか、始めから
存在しないように見えるのである。
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US View
… 決定打に欠けた
10 年債利回りは 6 日の雇用統計発表の後に 1.9%台へ上昇し、今週はじりじりと上昇して 2.0%台
まで一時上昇した。原油相場はこの間、OPEC が世界の原油生産見通しを引き下げたこと(理由は OPEC
自身の減産ではなく、北米の生産減)を受けて上昇、その後は北米の生産増加・在庫増加で再び 50
ドル以下へ下落、と上下したが、下げ止まり感は出てきた。
原油相場が底打ちし、それに伴う相場の巻き戻しがあっても、米国債利回りが一段と上昇するため
には、米国の利上げ観測がもう少し堅固になるか、地政学リスクなど国際情勢が落ち着くか、といっ
た条件が必要である(と先週号にも記した)。今週は、ウクライナ停戦合意やギリシャ支援の新プロ
グラムの合意に向けた動きなど、国際情勢は良い方向に向かったが、米国内では 12 日に発表された
小売売上高が下振れるなど、雇用統計後の動きを後押しする材料がなかった。
12 日の小売売上高は 2 ヶ月連続でマイナスとなった。ガソリン価格は昨年夏から大きく下落し、
1ガロン当たり 3 ドルを切った頃から明らかに消費者センチメントの向上にも繋がり、秋以降の消費
はデフレーター要因による実質消費の増加だけではなく、名目ベースでも増えている。つまり、ガソ
リン価格が下がったことで、センチメントが改善して、財布の紐が緩んだのである。ところが、これ
は年末商戦の前倒しで 11 月に盛り上がりを見せた後、12 月以降は反動のように、再び財布の紐は固
くなった。消費者センチメントはガソリン価格が反転上昇し始めた 1 月終わりまでは改善していたが、
年末商戦以降も必要以上に消費してしまう、といった浪費は続いていない。これが各種統計から分か
ることである。米国人は金融危機前に比べ堅実になったのだ。散財を続けられるだけの賃金上昇の見
込みもまだない。
小売売上高は物への消費なので、外食や旅行とい
ったサービス支出(消費の 3 分の 2 を占める)が増
えて、小売売上高で見るほど個人消費全体は減って
いない可能性も高い。だが、先週号にも記したよう
に、ガソリン価格が底打ちしており、これに伴って
消費者センチメントも悪化していることは気になる。
ガソリン価格が 3 ドルを超えてくると、消費者は一
段と財布の紐を固くしてしまう恐れがある。
ただ、原油価格次第だが、その水準までガソリン
価格が上昇するには恐らくまだ時間がある。散財は
続けられないが、雇用環境の改善を踏まえれば、財
布の紐を一段と固くする(貯蓄率は更に上昇)必要
はまだない。ガソリン価格が上昇に転じ、センチメ
(注)ガソリン価格は全米平均レギュラー、ドル/ガロン。
(資料)AAA、Bloomberg
ントも悪化し始めたが、過度な悲観は禁物である。
来週は 18 日に 1 月の FOMC の議事録公表、経済指標では 17 日にエンパイア・ステート・インデッ
クス、18 日に住宅着工件数、鉱工業生産、19 日にフィラデルフィア連銀サーベイ、などの発表があ
る。経済指標よりも FOMC 議事録の方が来週は注目度が高い。
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FOREX WEEKLY 2015/2/13
1 月の FOMC では大きな変更はなかったものの、景気判断の上方修正のほか、利上げ開始に際して
“国際情勢”も判断材料とすることが加えられた。この“国際情勢”が具体的に何を指し、どの程度
心配されているのか。また、6 月に利上げ開始ならば次回 3 月の FOMC でフォワード・ガイダンスの
“patient”が変更される見込みだが、それに関するヒントがあるかどうか。原油価格の下落は利上
げに対してどのような意味を持つと考えられているか。これらが議事録発表時に確認すべき点となる。
声明文では雇用情勢が強いと書かれ、その後発表された雇用統計も強かったため、議事録では Fed
が利上げ開始への準備を粛々と進めている印象が強いと筆者は予想している。
翌週の 24 日と 25 日にイエレン議長の半期議会証言が行われる。最近の Fed のスタンスはこの議会
証言で確認することになる。それまでの繋ぎが来週。議事録を経て、議会証言で利上げプレアドが再
度なされる、との観測から相場がじりじりと高まっていくか、議事録や経済指標の発表では決め打て
ない、と方向が出ずに終わるか。筆者は議会証言でも、それまでの Fed の利上げに対するスタンスが
変わるとは思っていない。このため、もし来週は相場に方向が出なくても、翌週には債券利回りの上
昇のかたちでマーケットに動きが出ると予想している。今週 9 日・10 日に開催された G20 の共同声
明には、「成長見通しがより強固ないくつかの先進国において、金融政策の正常化を許容する状況に
近づきつつある」と記された。米国の金融政策の正常化のことが念頭にあると考えられる。G20 会合
の場では米国サイドから利上げ(金融政策の正常化)を遅らせるような発言はなかったのだろう。
FX Outlook
… 再びギリシャに振らされた
今週もギリシャがマーケットを揺るがした。今週は 11 日にユーログループ会合、12 日には EU サ
ミットがあり、ギリシャは救済プログラムを巡り、各国との協議を行った。しかし、合意がありそう
で結局、16 日のユーロ圏財務相会合まで先送りとなり、こうしたニュースがユーロ相場を大きく上
下させた。12 日には米国の小売売上高が下振れてドル売りユーロ買い。ギリシャの新プログラムが
合意される、との期待も加わり、ユーロドルは 1.13 台前半から 1.14 台へと上昇した。
ギリシャは現行の支援プログラムが 2 月末に失効した後は、IMF への返済金、国債借り換えなどの
ために少なくとも何らかのつなぎ措置が必要である。ドイツのメルケル首相が 12 日の会談後、ギリ
シャに対して好意的な発言を行い、妥協点を探ると示唆しているため、恐らく 16 日には合意が成立
することになると思われる。ウクライナ停戦合意もあったため、一時的にせよ、来週は欧州を巡るリ
スクが軽減した状態で過ぎることになろう。ユーロにとってはユーロ買い戻しとなる。ただし、リス
クの低下は米国の利上げの可能性も高めるため、時間差でユーロが先に上昇、その後(米国での 1
月 FOMC の議事録公表を手掛かりにしながら?)米国利上げ観測でドル上昇、となり、ユーロドルは
1.15 を上抜けても、どこまで上昇が続くかやや疑問である。リスクが軽減する分、ユーロドルより
もユーロ円の方が上昇トレンドになりやすいのではないか。
ただ、円安の材料が日本にあるか、と言えばなさそうである。日本では 17 日・18 日に日銀の金融
政策決定会合が開催される。原油価格の下落によって CPI の見通しは下振れているが、“機械的に”
追加緩和をするわけではなかろう。日銀は今年の賃上げに期待していると言われる。賃金が上昇し、
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FOREX WEEKLY 2015/2/13
個人消費が持ち直し、前向きな設備投資が増加する。そして、需給の引き締まりによる物価の上昇と
いう正規ルートでの CPI 上昇が見込まれているのである。2%というインフレ目標の達成がいつでも
よいわけではない。だが、追加緩和の決定の前に、まず正規ルートに乗っているのかどうかを見極め
る必要があろう。来週の会合で追加緩和を決定する理由はない。必要もないだろう。決定会合前の
16 日には 10-12 月 GDP が発表されるが、7-9 月の前期比年率▲1.9%に対して、+3.0~+4.0%とプラ
ス成長が予想されている。正規ルートで考えるならば、インフレ目標達成に向けた動きになっている、
との評価になる数字である。
総裁記者会見の見どころは、原油価格の下落を踏まえた CPI 見通しと、その政策への影響、そして
インフレ目標達成の期限の考え方、である。CPI の下振れが機械的な追加緩和には繋がらないとの考
え方(前回も示されている)はマーケットには失望となるかもしれないが、追加緩和期待の盛り上が
りによる円安がないだけで、円高方向への大きな巻き戻しはないだろう。来週は先に触れたリスク軽
減によるユーロとドルの上昇で、円はドル円でもユーロ円でも円安を筆者は予想している。
(データ出所:Reuters)
ディーラーに聞きました(来週のドル円相場の方向性~ブルベア)
月
1月
2月
週
5 日~
12 日~
19 日~
26 日~
2 日~
9 日~
16 日~
予想
+2
+3
-3
+5
+3
±0
+5
実績
中立
ベア
ブル
中立
中立
ブル
≪見方≫
当行の為替ディーラー(マーケット、カスタマー)8 名を対象に、来週の相場予想を聴取。今週の東京市場 9 時から、ドル
ブル(終値から1円以上のドル高)、中立(終値から上下1円内)、ドルベア(終値から1円のドル安)の三択で、結果を(ドルブル
人数-ドルベア人数)で表記。+(プラス)は円安ドル高、-(マイナス)は円高ドル安を示す。
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各種相場の動き
<債券(日本国債・10 年債利回り)>
<債券(米国債・10 年債利回り)>
<株(日経平均株価)>
<株(米ダウ)>
<株(上海総合指数)>
<株(ドイツ DAX 指数)>
<原油(WTI 先物(期近物))>
<金(NY 先物(期近物))>
(出所:Bloomberg)
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FOREX WEEKLY 2015/2/13
今週のプライスアクション(ドル円)
(出所:Reuters)
① 1 月米雇用統計の良好な結
果が好感され、ドル買い。
② 日銀関係者の話として更な
る追加緩和は日本経済にと
って逆効果となるとの報道
を受けて、ドル円急落。
②
①
来週のチャ-ト分析
日足 QJ PY=EB S
(出所:Reuters)
2014/12/17
- 2015/02/27 (GMT)
日足 QEU R =EB S
2014/12/17 - 2015/02/27 (GMT)
価格
価格
1.24
122
1.22
120
1.20
118
1.18
116
1.16
114
1.14
112
1.12
.12
0
01日
14 12
16日
02日
2015年 1月
01日
16日
14 12
2015年 2月
16日
2015年 1月
02日
16日
2015年 2月
<ドル円、日足、一目均衡表>
<ユーロドル、日足、ボリンジャーバンド>
・雲上限付近を推移。
・ボリンジャーバンドとは移動平均±2σ(σ=標準偏差、ここ
・2/20 の雲上限は 118.05 円、下限は 117.86 円。
では 20 日間の平均)を上限・下限とするバンド。
・バンド中心付近を推移。
来週の主な材料
2/16(月)
(日)10-12 月期 GDP(1 次速報)
2/17(火)
(日)金融政策決定会合(~18 日)
(米)市場休場(プレジデント・デー)
(欧)2 月独 ZEW 期待指数
(米)2 月エンパイア・ステート・インデックス、12 月対米証券投資
2/18(水)
(日)黒田日銀総裁定例記者会見
(米)1 月住宅着工件数、1 月建設許可件数、1 月 PPI、1 月鉱工業生産、FOMC 議事録
2/19(木)
(日)1 月貿易統計、12 月全産業活動指数
(欧)2 月ユーロ圏消費者信頼感
(米)2 月フィラデルフィア連銀サーベイ、1 月景気先行指数
2/20(金)
(欧)2 月ユーロ圏製造業・サービス業 PMI(速報)
(時間は全て現地時間)
(本ページの担当:井上)
(注)FAX 配信の停止を希望される場合は、下記までご連絡頂きますようお願い申し上げます。
グローバルアドバイザリー部
電話
03-4333-4255
7
FAX
03-4333-9845
担当:紺野