FOREX WEEKLY

2015 年 3 月 13 日
FOREX WEEKLY
市場営業統括部
チーフ・エコノミスト
山下えつ子
Tel: +1-212-224-4561 (ニューヨーク)
[email protected]
Global View … QE の評価 → p.2
・ ECB は 9 日から国債購入を始めたが、マーケットは大きく反応している。
・ 一方、米国では利上げが始まろうとしているが、Fed はこれまでの QE など非伝統的手法に効果
があった、と評価している。
US View
… FOMC に注目 → p.2
・ 雇用統計は強かった。
・ 17 日・18 日の FOMC では利上げ開始へシグナルが出されよう。
FX Outlook
… ユーロ圏の QE の威力
→ p.4
<来週の予想ポイント>
ドル/円
上昇
ユーロ/円
横ばい
・
米国のFOMC前後にドル上昇。
・
日銀の金融政策決定会合は無風。
・
ユーロはQEを背景に下落圧力があるが、景気指標の改善がこ
れを支える。
今週のレンジ
本日東京 9 時
来週の予想レンジ
今後 3 ヶ月の予想レンジ
ドル/円
119.90-122.04 円
121.33 円
120.50-122.50 円
115.00-127.00 円
ユーロ/ドル
1.0494-1.1032ドル
1.0626ドル
1.0400-1.1000ドル
1.0000-1.2000ドル
ユーロ/円
127.64-132.50円
128.92 円
126.00-133.00 円
130.00-140.00 円
(今週のレンジは先週金曜日東京9時~本日東京9時、予想レンジは本日東京9時~来週金曜日東京9時)
・今週号本文はニューヨーク時間木曜日正午までの情報をもとに作成しています。
・FOREX WEEKLYに関するお問い合わせは、現在お取り引き中の営業部/支店にお願い申し上げます。
・FOREX WEEKLY は弊行ホームページでもご覧頂けます。(http://www.smbc.co.jp/ マーケット情報→外国為替情報→
フォレックス・ウィークリー)
本レポートは情報の提供を目的としており、何らかの行動を喚起するものではありません。ここに示した意見は本レポート作成日
現在の筆者の意見を示すのみです。データや数値の抽出範囲・基準は任意で設定している場合があります。データ・資料等につい
ては、数値等の誤りが含まれている可能性があります。本レポートに基づき、お客さまが投資のご判断をされた結果に基づき生じ
た損害・損失について当行は一切責任を負いません。投資や資金運用に関する最終決定は、お客さまご自身で判断されるようお願
い申し上げます。また、本レポートの全部または一部の無断コピー使用はご遠慮ください。
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FOREX WEEKLY 2015/3/13
Global View
… QEの評価
ユーロ圏で国債買入れプログラムが 9 日から始まった。クーレ ECB 理事によれば、最初の 3 日間で
合計 98 億ユーロの買入れが実施された。これを受けて、ユーロ圏の国債利回りは一段と低下し、独
10 年債利回りは 0.2%台へ低下している。一方、独 DAX 指数は先週末から約 2%上昇、ユーロは対ド
ルで 2003 年以来となる 1.05 まで下落した。昨年来のユーロ安を一因にユーロ圏景気は上向き始めて
いるが、QE 実施でユーロ安・金利低下・株高が更に進み、実質 GDP は約 0.5%押し上げられ、デフレ
リスクも解消される、
というのが ECB が計算する QE を含む非伝統的政策の効果である(先週号参照)。
QE スタートからのこの数日を見ると、それが実現しそうに思える勢いである。
米国は昨年 10 月で QE 縮小を予定通り終了し、今年は金融正常化として利上げを開始する予定であ
る。雇用情勢が改善を続け、超緩和状態を少しずつ解除してもよいとの判断に Fed は傾きつつある。
その一方で、金融危機後のゼロ金利や非伝統的手法の効果について改めて評価が行われている。Fed
は、過去に実施した QE によって 10 年債利回りは 110bps 押し下げられ、現在も再投資を行うことで
バランスシートの規模が維持されているため、今後も効果を発揮し続ける、としている。そしてそう
した長期金利の低下は家計や企業の長期借入れコストの低下や株価上昇に寄与し、明瞭なフォワー
ド・ガイダンスとの相乗効果によって、実体経済に対しては、失業率を 1.5%ポイント押し下げ、イ
ンフレ率を 0.5%押し上げる効果を発揮した、との評価に至っている。
QE はいつ、どのような経済金融の状況下で、どのような資産の買取りを、どの程度の規模実施す
るのか、によってその効果の経路も大きさも異なるだろう。このため QE を実施さえすれば、危機的
経済状況やデフレ圧力が消失する、というほど簡単な汎用性のあるものでもないだろう。しかし米国
経済が金融政策の正常化を始められるところまで回復し、Fed が非伝統的手法の役割を評価している
という事実は、ECB が国債買入れに踏み出すにあたり、大いに参考とされたに違いない。
US View
… FOMC に注目
6 日に発表された雇用統計では非農業部門雇用者数は 29 万 5 千人増と引き続き強く、失業率は前
月の 5.7%から 5.5%へ低下して Fed が長期的な失業率として示している 5.2%~5.5%のレンジへ差
し掛かった。一方、時間当たり賃金は前月比+0.1%、前年比+2.0%で予想比下振れ。小売業や運送業
などの一部には労働力確保のための賃金引上げの例が見られるようになり、雇用改善が賃金上昇に繋
がり始めたが、データとなると、まだ少なくとも雇用統計には明瞭に現れていない。
来週は 17 日・18 日に FOMC が開催される。雇用統計では賃金が上昇しなかったものの、失業率の
低下が政策の決定には大きな意味を持つと考えられる。(これまでも何度が触れたので繰り返しにな
るが)“長期的な失業率”は完全雇用に近づき、物価上昇が促される理論的水準である。失業率の低
下→賃金上昇→物価上昇、のルートについては、しかし失業率が 5.5%まで低下しても賃金上昇→物
価上昇の部分が発現せず、そもそも 5.2%~5.5%のレンジはもっと低いのではないか、との議論も
ある。ただ他方、現時点では 5.5%まで失業率が低下し、賃金上昇に関わる例が聞こえ始めているた
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FOREX WEEKLY 2015/3/13
め、Fed はその先の物価上昇の“方向性”を意識せざるを得ない。イエレン議長が議会証言で“物価
が目標の 2%へ向かって上昇するという理にかなった自信”があれば利上げを開始する、と述べたが、
失業率の低下と最近の賃上げに関する事例は、この物価上昇への自信に繋がるものだろう。
FOMC での見どころはまず利上げ開始のフォワード・ガイダンスである”patient”という文言が外
れるかどうか。筆者は外れる可能性が高いと考えているが、この文言が外れると、“近いうちに金利
の変更をどの会合ででも行い得るほどに状況が改善したとの判断”を示す、とイエレン議長は述べた。
したがって、ガイダンスの変更は、雇用を始め米国の景気の改善が利上げ開始を検討するに十分だと
判断したので、今後、利上げ開始を検討する、というシグナルである。最速で 6 月会合での利上げ開
始が視野に入る。
次の焦点は利上げ開始後の利上げペースである。これは、既にゆっくりと引き上げることが声明文
にも書かれている。委員の金利予想のドットの変化(恐らく下方へ収斂するだろう)、またイエレン
議長の記者会見では、それがクリアになるだろう。だが、マーケットは雇用統計を受けて 6 月あるい
は 9 月に利上げが開始されるだろうと確信し始めたが、“patient”が外れることで一層確信を強め
るのか、それとも利上げペースがゆっくりであることに重きを置くのか。それによって、FOMC の後
の相場も異なる。FOMC の前に利上げ開始を織り込んでいる動きとなれば、FOMC 後には緩むと考えら
れるが、事前に織り込み不足の場合は“patient”が外れたことで利上げ開始をもう一度織り込もう
と動くだろう。雇用統計の後、米 10 年債利回りは 2.25%を一旦付けたが、そこからはユーロ圏での
QE 開始に連れて利回りが低下した。利回りの水準や動きから見ると、FOMC 前後に再び利回りが上昇
すると考えられるが、イールドハントの動きで米国債買い需要が強いため、米国の利上げとそうした
グローバルな利回り低下圧力の間で米債券相場の予想が難しくなっている。この点からは、米国の利
上げ開始は債券利回り上昇よりも為替ドル高にトレンドが形成されやすい、と思われる。
今週は米国の景気指標の発表は少なかった。小売売上高が総合で 3 ヶ月連続のマイナスと下振れた。
ガソリン価格が 2 月に底を打ったため、ガソリン支出が今回は増加。その一方、消費者センチメント
の悪化(ガソリン価格下落によるセンチメント改善は続かず)や東部を中心とする悪天候の影響など
から、個人消費全体は伸び悩んだ。3 月は気温が少し上がり始めているため、天候要因による消費低
迷は次回の小売統計では解消されるだろう。ただし、前回の小売統計発表後の 2/13 付本レポートに
記したように、特殊要因によるデータの下振れはあるとしても、米国人が堅実な消費態度を続けてい
ることも事実であろう。
しかし金融政策の観点からは、今回の小売売上高の下振れが来週の FOMC での決定に大きな影響を
与えることはないだろう。1 回目の利上げは雇用を始めとする状況の改善を前提に金融政策の正常化
のために行われる。したがって、利上げ開始決定は“決め”の問題でしかない(と筆者は考えている)。
2 月のイエレン議長の議会証言を見た限りでは、議長は正常化へのプロセスを進めるつもりである。
フォワード・ガイダンスの“patient”が外されれば、マーケットにそのシグナルが発せられた、と考
える必要がある。そもそも、フォワード・ガイダンスというのはその目的のためにある。個人消費や
賃金、物価の行方は、その正常化を始めた後に、2 回目以降どのようなスピードで金利を引き上げて
いくか、最終的な中立金利を何%と考えるか、という議論に影響することになる。
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FOREX WEEKLY 2015/3/13
年初来、マーケットは米国の利上げ開始の有無を巡っても大きく上下した。来週の FOMC でフォワ
ード・ガイダンス“patient”が外れると、今年の利上げ開始がいよいよ現実味を帯び、マーケット
はその次に向けて新しい局面に入る。
FX Outlook
… ユーロ圏 QE の威力
6 日の米国の雇用統計が強めとなり、ドル高が進行すると同時に、9 日からスタートした ECB の QE
を受け、ユーロ圏では一段とユーロ安・債券利回り低下・株高が進んだ。金融政策の方向性の歴然と
した違いがドル高、ユーロ安に拍車をかけた。ドル円は雇用統計で 120 円近辺から 121 円台へ。その
後 ECB の QE 開始で一時 122 円台へ上昇。ユーロドルはこの間、1.10 台から 1.05 台まで大幅にユー
ロ下落。
ユーロドルの 1.05 は 2003 年初以来となる。金融政策の方向性の違いが背景にあるとはいえ、
欧州債務危機を経て、遂にここまでユーロの実力が低下した、とユーロ圏の構造的な問題として捉え
ることも出来るだろう。
クーレ ECB 理事は QE 開始の 9 日以降の 3 日間で 98 億ユーロの債券購入があった、と説明している。
また独連銀バイトマン総裁によれば、そのうち独連銀はドイツ国債を 21 億ユーロ購入した。ドイツ
国債は 2 年債利回りがマイナス 0.20%を下回り、預金ファシリティ金利以下となったので、購入対
象外。5 年債利回りはマイナスだが-0.1%近辺で購入対象。今週の数日だけで、ドイツ 10 年債利回
りは 0.40%から一時 0.20%を下回る水準まで低下し、ドイツ国債のイールドは潰れている。フラン
スの 2 年債利回りはマイナス 0.1%台とやはりマイナス。かたや、株式市場ではドイツ DAX 指数は今
週、11800 まで一段と上昇した。DAX 指数は年初来 20%の上昇、フランス CAC 指数は+16%、イタリ
ア MIB 指数は+20%。他方、米ダウ指数は 3 月に入ってからの下げが大きく、年初と比較するとほぼ
横ばい水準。大規模な QE を始めたユーロ圏と利上げ開始に向かう米国の状況の違いが株式相場にも
現れている。
当面はユーロ圏の QE を背景にユーロ安に向かうだろう。ただし、たとえば来週の 17 日のドイツ
ZEW 指数など、景気指標の改善がユーロ下落の勢いを和らげる、あるいはユーロ買戻しとなる可能性
もある。QE 実施を理由とするユーロ安と景気回復によるユーロ上昇の力関係にも(今のところ前者
が大きいが)目配りが必要である。
来週は 16 日・17 日に日銀の金融政策決定会合、17 日・
18 日に米国の FOMC が開催される。日本では春の賃上げに
注目が集まるが、日銀も恐らく賃上げの度合い、および
1-3 月の景気の持ち直しの度合いに着目し、今回の会合で
は追加措置等、政策変更はないだろう。
日本の日経平均株価は 19000 円台へ上昇した。既に 2007
年の前回高値を超えており、2 万円に達すると 2000 年 4
月の前々回高値に並ぶ。1990 年の不動産バブル崩壊前に
は未だ遠く及ばないが、2000 年以降、上昇しても再び大
幅に下落し 1 万円を下回りながら大きなW字を描いて漸
く現在の水準まで戻って来たことに、感慨を覚える。
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FOREX WEEKLY 2015/3/13
米国の FOMC は利上げ開始のフォワード・ガイダンスである“patient”(利上げ開始まで辛抱強く
あることができる(ただし先 2 回会合まで・・・))が外れる可能性が高く、その場合、いよいよ利上
げ開始が現実味を帯びてくる。雇用統計が強かったため、マーケットではこの文言が外れるとの見通
しが高まっているが、それでも実際に外れれば、為替市場はドル高に反応するだろう。ドルインデッ
クスは 100 を付けて反落したが、利上げ開始が具体的に視野に入れば、いずれ 100 を再び超えていく
ことになるだろう。米国の債券市場にはグローバルな金融緩和環境(ユーロ圏のマイナス金利など)
によって資金が流入し、米国の利上げ開始にも関わらず、債券利回りが上昇しにくくなっているが、
為替市場では利上げ見込みがドル高に素直に結びつく。FOMC 前後にドル円は 122 円を超えるだろう。
(データ出所:Reuters)
ディーラーに聞きました(来週のドル円相場の方向性~ブルベア)
月
2月
3月
週
2 日~
9 日~
16 日~
23 日~
2 日~
9 日~
16 日~
予想
+3
±0
+5
+4
+1
+2
+1
実績
中立
ブル
中立
中立
中立
ブル
≪見方≫
当行の為替ディーラー(マーケット、カスタマー)8 名を対象に、来週の相場予想を聴取。今週の東京市場 9 時から、ドル
ブル(終値から1円以上のドル高)、中立(終値から上下1円内)、ドルベア(終値から1円のドル安)の三択で、結果を(ドルブル
人数-ドルベア人数)で表記。+(プラス)は円安ドル高、-(マイナス)は円高ドル安を示す。
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FOREX WEEKLY 2015/3/13
各種相場の動き
<債券(日本国債・10 年債利回り)>
<債券(米国債・10 年債利回り)>
<株(日経平均株価)>
<株(米ダウ)>
<株(上海総合指数)>
<株(ドイツ DAX 指数)>
<原油(WTI 先物(期近物))>
<金(NY 先物(期近物))>
(出所:Bloomberg)
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FOREX WEEKLY 2015/3/13
今週のプライスアクション(ドル円)
① 強い米雇用統計を受けドル
円は上昇。
② ECB の国債買い入れを背景
としたユーロ安ドル高に連
れてドル円は一時 122.04 円
まで上昇。
③ 軟調な米株を眺めてドル円
軟化。
④ 弱い米小売売上高を受けて
一時 120.66 円までドル円下
落。
③
②
①
(出所:Reuters)
④
来週のチャ-ト分析
日足 J PY=E B S
(出所:Reuters)
2015/01/01
- 2015/03/18 (GMT)
日足 E U R =E B S
2015/01/01 - 2015/03/18 (GMT)
価格
価格
121
1.15
120
1.1
119
自動
118
数値
60
117
30
116
自動
0
01日
16日
02日
2015年 1月
16日
02日
2015年 2月
01日 16日
2015年 1月
16日
2015年 3月
02日
16日
02日
16日
2015年 2月
2015年 3月
<ドル円、日足、ボリンジャーバンド>
<ユーロドル、日足、RSI>
・ボリンジャーバンドとは移動平均±2σ(σ=標準偏差、ここ
・3/12 の RSI は 29.79 と、売られすぎのポイント(30)を割って
では 20 日間の平均)を上限・下限とするバンド。
推移している。
・バンド上限付近で推移。
来週の主な材料
3/16(月)
(日)金融政策決定会合(~17 日)
(欧)ドラギ ECB 総裁講演
(米)3 月エンパイア・ステート・インデックス、2 月鉱工業生産、1 月対米証券投資
3/17(火)
(日)黒田日銀総裁定例記者会見
(米)2 月住宅着工件数、2 月建設許可件数、FOMC(~18 日)
(欧)2 月ユーロ圏 HICP(確報)、3 月独 ZEW 期待指数
3/18(水)
(日)2 月貿易統計
(米)イエレン FRB 議長記者会見
3/19(木)
(日)1 月全産業活動指数
(欧)ECB 月報
(米)第 4Q 経常収支、3 月フィラデルフィア連銀サーベイ、2 月景気先行指数
3/20(金)
(日)金融政策決定会合議事要旨(2/17-18 分)
(時間は全て現地時間)
(本ページの担当:大野)
(注)FAX 配信の停止を希望される場合は、下記までご連絡頂きますようお願い申し上げます。
グローバルアドバイザリー部
電話
03-4333-4255
FAX
7
03-4333-9845
担当:紺野