2015 年 2 月 20 日 FOREX WEEKLY 市場営業統括部 チーフ・エコノミスト 山下えつ子 Tel: +1-212-224-4561 (ニューヨーク) [email protected] Global View … ドル高と米国の金融政策 → p.2 ・ 利上げ開始を前に、ドル高の米国景気への影響を Fed は警戒し始めた。 ・ だが、実際に利上げの計画を中止するかどうかは疑問がある。 US View … 議長の議会証言を待つ → p.3 ・ 1 月の FOMC 議事録では早過ぎる利上げへの慎重意見が多数。予想外の記述だった。 ・ 来週の Fed 議長の議会証言で、利上げ時期やフォワード・ガイダンスへのスタンスが明確化する だろう。 FX Outlook … ギリシャ問題から米国利上げ観測へ → p.4 <来週の予想ポイント> ドル/円 上昇 ・ 米国のFed議長の議会証言に注目が集まる。 ユーロ/円 上昇 ・ ギリシャ問題が収まれば、ユーロ上昇。(交渉決裂になれば、 ユーロ売り。) 今週のレンジ 本日東京 9 時 来週の予想レンジ 今後 3 ヶ月の予想レンジ ドル/円 118.11-119.42 円 118.99 円 118.50-120.50 円 112.00-127.00 円 ユーロ/ドル 1.1320-1.1450ドル 1.1365ドル 1.1300-1.1450ドル 1.1000-1.1600ドル ユーロ/円 133.96-136.22円 135.25 円 134.00-136.50 円 130.00-140.00 円 (今週のレンジは先週金曜日東京9時∼本日東京9時、予想レンジは本日東京9時∼来週金曜日東京9時) ・今週号本文はニューヨーク時間木曜日正午までの情報をもとに作成しています。 ・FOREX WEEKLYに関するお問い合わせは、現在お取り引き中の営業部/支店にお願い申し上げます。 ・FOREX WEEKLY は弊行ホームページでもご覧頂けます。(http://www.smbc.co.jp/ マーケット情報→外国為替情報→ フォレックス・ウィークリー) 本レポートは情報の提供を目的としており、何らかの行動を喚起するものではありません。ここに示した意見は本レポート作成日 現在の筆者の意見を示すのみです。データや数値の抽出範囲・基準は任意で設定している場合があります。データ・資料等につい ては、数値等の誤りが含まれている可能性があります。本レポートに基づき、お客さまが投資のご判断をされた結果に基づき生じ た損害・損失について当行は一切責任を負いません。投資や資金運用に関する最終決定は、お客さまご自身で判断されるようお願 い申し上げます。また、本レポートの全部または一部の無断コピー使用はご遠慮ください。 1 FOREX WEEKLY 2015/2/20 Global View … ドル高と米国の金融政策 18 日に公表された米国 FOMC 議事録(1/27-28 開催分)ではドル高についても Fed にしては珍しく 多めの言及が記載されていた。Fed は国際情勢のリスクを列挙しているが(中国経済のスローダウン、 地政学リスク、ギリシャなど)、ドル高にもリスクを感じている。特に、ここまでのドル高よりも、 今後一段とドル高が進んで景気を冷やすのではないか、という恐れが利上げに対する慎重論の背景の 一つにあるようだ。 グローバルには利上げに向かっている国は限られる。米国と英国だけかもしれない。次の一手は利 上げだと方向付けたという点では米国だけかもしれない。また、他の先進国は追加緩和の領域にある、 と分類してもよいだろう。利上げ開始を計画してきた米国にとっては、こうした金融政策の局面の相 違がドル高として反映されることをどの程度考慮すべきかが問題となる。 計量モデルではドルが 10%上昇すると米国の実質 GDP は約 0.5%押し下げられる。2014 年の米国 の年間の実質 GDP は+2.4%だった。2014 年並みの成長をベースラインとすれば、ドル高が更に 10% 進むと、2015 年の実質 GDP は+1.9%となり、長期的な成長率(≒潜在成長率:Fed は+2.0∼+2.3%と 推計)をやや下回る、というイメージである。 ドル円は 2014 年初は約 105 円、現在は約 120 円。1 年間で約 15%のドル高。ユーロなど主要通貨 を含めた加重平均であるドル・インデックスでは約 20%のドル高である。米国が QE 縮小を始め、利 上げ観測も高まる一方で、日本やユーロ圏が追加緩和を実施したことが為替相場に反映されたと考え ることが出来る。このため、米国のみが先んじて利上げを開始した場合、大幅なドル高が進行する、 と Fed が警戒するのは当然だろう。だが、これまでのドル高進行は、上記のような計算通りに、実際 に米国景気を冷やしたか。個々の企業の業績では海外での売上高の換算で収益が減少するなどの影響 はあるが、マクロの経済指標や企業サーベイではドル高の影響は明瞭には見当たらない。もしくは、 ドル高による輸入物価の下落が企業や家計にプラスに働き、ネガティブな影響が打ち消されている可 能性もある。2014 年 1 年間を見ると、為替レートの影響は過去よりも小さいとも推測されるため、 上記のようなモデルでの結果をそのまま鵜呑みには出来ない。つまり、それだけで利上げが出来なく なるとは信じ難い。 ここからの Fed の金融政策は、①議事録の印象のように、Fed が躊躇して、利上げ開始すら予定通 りには出来なくなる、②ゼロ金利からの離別で正常化を進めるが(予定通り今年半ば)、その後の利 上げのペースはゆっくりとなる、のいずれかではないだろうか。ここで躊躇するならば、今年は利上 げはない。その後もグローバルに金融緩和が終息していく見通しが立つまで、あるいは米国経済が 3%以上の成長となるまで利上げは出来ないだろう。 筆者は今のところ、Fed は今年利上げを開始すると予想しているが、その後の利上げは Fed が想定 しているよりも緩やかになる、と考えている(上記の②)。25bps 利上げをしても米国景気が腰折れ ることはないだろう。利上げ開始そのものは Fed の腹の括り方の問題でしかない。だが、Fed が想定 するような、そのまま利上げが年間 1%以上で継続するためには、米国経済は依然として弱く、何か ショックがあれば耐えられるだけのバッファーがない。このため、これまでの Fed の予定通りに利上 げが開始されても、その後は Fed の想定通りの利上げペースにはならない、と思うのである。 2 FOREX WEEKLY 2015/2/20 US View … Fed 議長の議会証言を待つ 18 日に FOMC 議事録(1/27-28 開催分)が公表された。議事録には“尚早な利上げに慎重→低金利 の長期化”に多数の参加者の意見が傾いた、とあった。何を今更、というのが筆者の率直な感想であ る。債券利回りは雇用統計以降上昇していたが、議事録を受けて 10 年債利回りは約 10bps 低下。 1 月の FOMC は声明文の発表のみの会合だった。声明文では雇用情勢を“強い”と表現するなど国 内景気については判断が上方修正され、予定通り利上げに向かうスタンスが感じられた。しかし、そ の会合の議事録が不透明要因となってしまった。議事録では、 「利上げ開始の時期やペースについて、 いくつかのシナリオをシミュレーションしてリスクを比較した結果、“早過ぎる利上げ開始は景気を 冷やすため、低金利の長期継続がよい”との考えに多数の参加者が傾いた」となっている。これまで 利上げへの準備を粛々と進めてきたはずだが、いよいよとなったら躊躇しているのかという悪い印象 すら受ける記載で、利上げ開始時期が分かり難くなった。 ただ、これまでの Fed の利上げ(金融正常化)を進めるスタンス(1 月 FOMC 声明文も含め)や 2/9-10 の G20 会議の共同声明での「金融政策の正常化に向かう国がある」との箇所なども併せて考えると、 議事録は連続的には理解できない内容である。もし“今年半ばに利上げ開始”としてきた計画を Fed が覆したのであれば、そもそも 1 月の FOMC 声明文の書き様も違ったはずだ。来週 24 日、25 日にイ エレン議長の議会証言がある。議長の口から明瞭に真意が語られるのを待つしかないだろう。利上げ の可能性が残っているならば、議会証言は議事録の印象を修正することになる(筆者はその可能性の 方が高いと見る)。(もし逆に、イエレン議長が利上げ開始の後ずれシナリオを強調した場合は、Fed はこれまでの予定を変更した、という意味になる。) 利上げのフォワード・ガイダンスについても、“patient”という文言をどう扱うか、議論は続い ている。利上げ開始を想定して挿入した文言だったはずだが、外した際のマーケットの過剰反応を懸 念するなど、悩みは尽きないようだ。また、利上げ開始時期はデータ次第、と言いつつも、データは あまりにも多過ぎて特定できない・・・など、今回の議事録は、悩み多き Fed をあまりに正直に公開 してしまい、コミュニケーションの観点では今ひとつである。フォワード・ガイダンスについても議 長が説明するだろう。 今週の経済指標では鉱工業生産、住宅着工件数など、中堅クラスの指標の発表があった。生産は予 想比下振れ、住宅着工件数はこのところ 100 万件を少し超える水準で横ばい推移。ミシガン大消費者 センチメント(速報)の下落はガソリン価格の反転上昇が嫌気されたと考えられる(先週号をご参照)。 西海岸の港湾労働争議による荷積み・荷下ろしの遅れや北東部の雪などの影響は数字ではっきり捉 えることが出来ないが、そうした特殊要因を除いたとしても、雇用統計以外にはアップビートな指標 が少ない。来週は議長の議会証言のほか、中古および新築住宅販売、消費者信頼感指数、CPI、耐久 財受注、シカゴ PM などの経済指標の発表も予定されている。それらもアップビートな指標は少なく、 CPI は前年比マイナスになると予想される。だが、今週の FOMC 議事録が不透明要因となっただけに、 来週は議会証言に大きな注目が集まる。議会証言で今年半ばの利上げ開始についての Fed の現時点で のスタンスが判明する(はずである)。経済指標との力関係では議長の発言の方が来週は重い。 3 FOREX WEEKLY 2015/2/20 FX Outlook … ギリシャ問題から米国利上げ観測へ ギリシャ問題は結局、まだ解決せず、持ち越された。ただ、マーケットはギリシャと EU の交渉の 成り行きの一つ一つのニュースには反応しなくなってきた。ギリシャのユーロ離脱やデフォルト・債 務リストラ、銀行の連鎖破綻、といった事態にならなければ、差し迫った大きなリスクはない。その リスクが示現する可能性が高まらなければ、ユーロ売りを仕掛けるのは早い、という判断なのだろう。 今週のユーロドルは 1.135∼1.145 の一時期に比べて小さめのレンジで上下したのみだった。 19 日時点では、ギリシャが 6 ヶ月間(だけ)現行のトロイカからの金融支援を延長する申請を EU に出した、と報じられている。20 日にユーロ圏財務相会合が開かれ、承認される見込みとも報じら れているが、ドイツが、財政緊縮策の維持が明記されていない、として難色を示している。ギリシャ が当初案(トロイカからの支援は終了)からトロイカの支援延長へと少しだけ歩み寄ったが、ドイツ などは厳格な姿勢を崩さず、承認されるかどうかはまだダンディールではないようだ。 承認されると今月末で期限が切れるトロイカからの金融支援が延長となり、少なくとも先 6 ヶ月間 はギリシャの資金繰り(IMF への返済、T-bill 償還、国債元利払いなど)は回る。今年の国債償還は 7 月・8 月に集中しており(7 月に元本 35 億ユーロ・利払い 7.6 億ユーロ、8 月に元本 32 億ユーロ・ 利払い 2.0 億ユーロ)、トロイカの支援延長がここで決まれば、国債デフォルトのリスクはなくなる と考えてよいだろう。まずは 20 日のユーロ圏財務相会合で支援が承認されるかどうか、である。承 認されれば、ユーロのリスクは低減、当面ギリシャは材料とならず(筆者のメインシナリオ)。 承認されなければ、ギリシャは承認してもらえる内容へ書き換えるか、EU からだけの支援という 新プログラムの交渉を続けることになるが、3 月以降のギリシャによる支払いには早晩滞りが発生す る恐れがある。7 月までに手当てが付かなければ国債デフォルトとなるリスクが高くなる。その間、 ECB からの緊急流動性供給も途絶すれば、銀行破綻が発生するリスクが高まる。EU がそこまで放置す るとは考え難いものの、これがリスクシナリオである。このため、ここで承認されなかった場合は、 そのリスクシナリオを一旦、マーケットが先走って織り込む可能性もある(=ユーロ売り)。 また今回承認されても、6 ヵ月後には再び金融支援の問題が繰り返されるので、それまではギリシ ャ問題は水面下に潜るが、夏に再び浮上してくる。ただし、その時には今年の国債償還は終わってい るので、現時点より危機感は小さいだろう(6 ヶ月延長ならば、8 月までカバーされる)。 今週は米国の FOMC 議事録の中で予想外に利上げ開始に対して慎重な記述があったため、一旦ドル 売りとなった。Fed のスタンスを確認するためにも来週のイエレン議長の議会証言(24 日・25 日) に注目が集まる。US View 欄に記した通り、金融正常化を始めるという Fed の意志に変化がなければ、 議会証言は利上げ観測を高めることになり、ドル買い要因となろう。来週 1 週間では、最初にギリシ ャ問題の結果を見て、次に Fed 議長の議会証言を聞く、という順番だが、ギリシャ問題が決着した後 に議会証言が続くと、ドル円、ユーロ円の上昇、ギリシャ問題が決着しなかった場合はドル上昇(特 に対ユーロ)、となるだろう。 日銀の金融政策決定会合では大方の予想通り、追加緩和はなく、黒田総裁の記者会見も「物価の基 調に変化が生じなければ、追加緩和は必要がない」との見解が出された。為替は日銀の決定や総裁発 言にサプライズはなく、反応薄だった。 4 FOREX WEEKLY 2015/2/20 (データ出所:Reuters) ディーラーに聞きました(来週のドル円相場の方向性∼ブルベア) 月 1月 2月 週 12 日∼ 19 日∼ 26 日∼ 2 日∼ 9 日∼ 16 日∼ 23 日∼ 予想 +3 −3 +5 +3 ±0 +5 +4 実績 ベア ブル 中立 中立 ブル 中立 ≪見方≫ 当行の為替ディーラー(マーケット、カスタマー)8 名を対象に、来週の相場予想を聴取。今週の東京市場 9 時から、ドル ブル(終値から1円以上のドル高)、中立(終値から上下1円内)、ドルベア(終値から1円のドル安)の三択で、結果を(ドルブル 人数−ドルベア人数)で表記。+(プラス)は円安ドル高、−(マイナス)は円高ドル安を示す。 5 FOREX WEEKLY 2015/2/20 各種相場の動き <債券(日本国債・10 年債利回り)> <債券(米国債・10 年債利回り)> <株(日経平均株価)> <株(米ダウ)> <株(上海総合指数)> <株(ドイツ DAX 指数)> <原油(WTI 先物(期近物))> <金(NY 先物(期近物))> (出所:Bloomberg) 6 FOREX WEEKLY 2015/2/20 今週のプライスアクション(ドル円) (出所:Reuters) 価格 ② ③ 119.2 119.0 118.8 118.6 118.4 ① ① 日本の 5 年債入札の低調な 結果を受けた円金利上昇を 眺めて、ドル円下落。 ② ギリシャ支援交渉の進展期 待を背景に、ドル円上昇。 ③ FOMC 議事録が想定よりハト 派的と受け止められ、ドル 円下落。 118.2 19:30 15 2 13 03:30 15:30 03:30 15 2 16 19:30 07:30 15 2 17 19:30 07:30 15 2 18 19:30 15 2 19 07:30 19:30 15 2 20 来週のチャ−ト分析 (出所:Reuters) 価格 価格 121 1.24 120 1.22 119 118 1.20 117 1.18 116 1.16 115 1.14 114 1.12 .12 0 01 日 14 12 16日 02日 2015年 1月 16日 01 日 14 12 02日 2015年 2月 <ドル円、日足、一目均衡表> ・雲の上を推移。 16日 2015年 1月 02日 16日 2015年 2月 02 日 <ユーロドル、日足、ボリンジャーバンド> ・ボリンジャーバンドとは移動平均±2σ(σ=標準偏差、ここ ・2/27 の雲上限は 118.59 円、下限は 117.85 円。 では 20 日間の平均)を上限・下限とするバンド。 ・バンド中心付近を推移。 来週の主な材料 2/23(月) (日)金融政策決定会合議事要旨(1/20-21 分) (米)1 月中古住宅販売件数 2/24(火) (欧)2 月独 Ifo 景況指数 (日)1 月企業向けサービス価格指数 (欧)1 月ユーロ圏 HICP(確報)、ドラギ ECB 総裁講演 (米)2 月消費者信頼感指数、イエレン FRB 議長議会証言(上院) 2/25(水) (米)1 月新築住宅販売件数、イエレン FRB 議長議会証言(下院) 2/26(木) (米)1 月 CPI、1 月耐久財受注 (欧)ドラギ ECB 総裁講演 (欧)1 月ユーロ圏 M3、2 月ユーロ圏企業景況感・消費者信頼感 2/27(金) (日)1 月失業率、1 月有効求人倍率、1 月家計調査、1 月全国 CPI、1 月住宅着工件数、 1 月大型小売店販売額、1 月鉱工業生産(速報) (米)10∼12 月期実質 GDP(改定値)、2 月シカゴ PM、2 月ミシガン大消費者センチメント(確報) (時間は全て現地時間) (本ページの担当:井上) (注)FAX 配信の停止を希望される場合は、下記までご連絡頂きますようお願い申し上げます。 グローバルアドバイザリー部 電話 03-4333-4255 7 FAX 03-4333-9845 担当:紺野
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