(週次更新)2015年3月27日;pdf

2015 年 3 月 27 日
FOREX WEEKLY
市場営業統括部
チーフ・エコノミスト
山下えつ子
Tel: +1-212-224-4561 (ニューヨーク)
[email protected]
Global View … 日本の財政再建 → p.2
・ 日本の政府債務残高の対 GDP 比は世界最悪である。
・ デフレ脱却と同様に、財政再建も急務であるが、欧米の例は参考になるだろう。
US View
… 雇用統計に注目 → p.3
・ 経済指標には今後、リバンドも予想される。
・ 来週の雇用統計など経済指標に注目。イエレン議長の講演も重要。
FX Outlook
… 地政学リスクにも目配り
→ p.5
<来週の予想ポイント>
ドル/円
ユーロ/円
上昇
・
イエレン議長講演および米国の雇用統計に注目。
横ばい
・
地政学リスクと原油高にも注目。
今週のレンジ
本日東京 9 時
来週の予想レンジ
今後 3 ヶ月の予想レンジ
ドル/円
118.33-121.20 円
119.20 円
118.50-121.00 円
115.00-127.00 円
ユーロ/ドル
1.0655-1.1052ドル
1.0886ドル
1.0700-1.1000ドル
1.0000-1.1500ドル
ユーロ/円
128.72-131.52円
129.73円
128.50-131.00 円
125.00-135.00 円
(今週のレンジは先週金曜日東京9時∼本日東京9時、予想レンジは本日東京9時∼来週金曜日東京9時)
・今週号本文はニューヨーク時間木曜日正午までの情報をもとに作成しています。
・FOREX WEEKLYに関するお問い合わせは、現在お取り引き中の営業部/支店にお願い申し上げます。
・FOREX WEEKLY は弊行ホームページでもご覧頂けます。(http://www.smbc.co.jp/ マーケット情報→外国為替情報→
フォレックス・ウィークリー)
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現在の筆者の意見を示すのみです。データや数値の抽出範囲・基準は任意で設定している場合があります。データ・資料等につい
ては、数値等の誤りが含まれている可能性があります。本レポートに基づき、お客さまが投資のご判断をされた結果に基づき生じ
た損害・損失について当行は一切責任を負いません。投資や資金運用に関する最終決定は、お客さまご自身で判断されるようお願
い申し上げます。また、本レポートの全部または一部の無断コピー使用はご遠慮ください。
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FOREX WEEKLY 2015/3/27
Global View
… 日本の財政再建
日本は昨年 11 月に消費税率の再引き上げを当初予定の 2015 年 10 月から 2017 年 4 月へ延期した。
この結果、名目賃金が十分に上がり切らないうちに 2 回増税が実施される、という事態は避けられた。
1 度目の増税は乗り切れても、1 年半後に次の増税を迎えた場合、個人消費が腰折れするリスクがあ
ると筆者は懸念していたので、この延期措置については結果的によかったと思っている。
しかし、財政再建は日本経済にとって、デフレ脱却と同等に重要な課題であり、新たな期限は守ら
ねばならないだろう。昨今のギリシャ情勢を見れば、財政再建の重要性が良くわかる。ギリシャは未
だに EU 諸国に対して納得できる財政再建プランを提出することが出来ず、この間に金融システムは
破綻に近い状態になっている。政府債務残高の対 GDP 比はギリシャが 176%、日本が 230%である(日
本が世界1位(最悪)であることは周知の事実である)。つまり決して日本がギリシャよりも財政状
況が良好なわけではなく、厳密な再建計画とその実行が必要である点はギリシャと大差ない。
日本の財政再建のためには増税も必要だろうが、歳出削減も
必要であり、また有効だと筆者は考えている。90 年代の不動産
バブル崩壊後の税収の落ち込みに対して、歳出は 90 年代を通
じて増加していき(右上図)、このワニの口のように開いた差
は国債発行によって埋められ、その累積が世界最悪の政府債務
残高という結果になっている。2005 年以降を見ると(右下図)、
単年度の財政収支の状況は金融危機への対応で多くの国が財
政赤字を大幅に拡大させ、その対 GDP 比は日本よりも米国やギ
リシャの方が大きかったが、米国やドイツ(もともと財政赤字
は小さめ)は財政再建を着実に進め、ドイツは財政黒字化に成
功。ギリシャも 2012 年までは努力したが再び悪化。そして日
本は、というと 2009 年以降は横ばい。
現在、日本では景気の回復によって、消費増税以外でも税収
が増加している。しかし、自然増収あるいは増税による税収増
だけでは財政赤字の十分な削減には不足する。このため増税か
歳出削減かではなく、増税も歳出削減も必要である。
ギリシャは IMF/EU/ECB のいわゆるトロイカからの金融支援
を受ける一方で経済の構造改革を含む財政緊縮パッケージに
従う必要があったが、構造改革は幅広な社会保障改革を含み、
急激な緊縮策が社会的な抵抗と経済的な疲弊を招き、持続でき
ない、というのがギリシャの新首相の主張である。他方、米国では財政再建のため、2013 年に増税
と歳出一律カットを実施したが、事前には財政の崖と言われたこの緊縮は懸念したほどの悪影響を及
ぼさなかった。経済の基調改善によって財政緊縮の足枷は大きくなかったと思われる。
日本の場合、歳出のうち構造的に増大する社会保障費の削減は技術的にも難しいものだろう。この
点はギリシャに似たリスクを抱える。しかし財政緊縮が経済を疲弊させるとは限らない、というのが
米国の例である。日本は財政再建は不可避である。多くの例を見てみることは参考になるだろう。
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US View
… 来週は雇用統計が重要
先週の FOMC の後は利上げ開始の時期が不透明になり、マーケットでは 6 月利上げ予想も減った。
しかし“patient”という“先 2 回の会合では利上げはない”ことを示すフォワード・ガイダンスが
外れた以上、利上げの実施そのものには前向きであると捉えるべきで、最速で 6 月の会合で利上げが
決定される可能性を今から排除してしまうのはリスクがある。
1-3 月は西海岸での湾岸労働争議や北東部の暴風雪など一時的な要因もあり、経済指標が下振れる
ことが多かった。しかし 3 月半ばからは天候も改善しているため、4 月以降に発表される経済指標に
はリバウンドが出ると思われる。先週号にも記したが、そうした中でマーケットにも自然に 6 月利上
げ観測が広がり、実際に利上げ開始となる可能性もある。4 月以降にリバウンドがなければ、景気そ
のものが実は弱いと判断し、6 月(この場合は 9 月も?)の利上げ開始の可能性は弱まる。“データ
次第”だと Fed はしばしば言及するが、まさにデータ次第である。
今週発表された経済指標では、2 月の中古住宅と新築住宅の販売には寒波の影響は比較的小さかっ
たようで、新築住宅は 2008 年以来の 50 万戸以上の販売と強かった。この時期、家を購入したい人は
極寒でも外出したようである。雪の影響で新築住宅の建築は大幅に減少したが(このため在庫は減少)、
需要はしっかりしている。3 月の販売の更なるリバウンドが見込める。一方、耐久財受注はコア資本
財受注が 6 ヶ月連続でマイナス。西海岸での湾岸労働争議でサプライチェーンに影響が出たのか、そ
れとも根本的に設備投資は弱いのか。これは不安の残る数字だった。
インフレについてはコア CPI 前年比+1.6%から+1.7%へ上昇。原油価格も WTI 先物が一時期再び
50 ドルを下回って不透明感を醸成したが、反発した。ガソリン価格の下げ止まりは個人消費にとっ
てはプラスにはならないが、CPI の下振れ懸念は後退する。
来週は 31 日にシカゴ PM、消費者信頼感指数、1 日に製造業 ISM、3 日に雇用統計の発表がある。雇
用統計は失業率が再び低下すると 6 月利上げ観測も一時的にであっても高まるだろう。
24 日にフィッシャーFed 副議長が「金融政策の回顧と展望」と題して講演を行った。金融危機後の
ゼロ金利政策と QE を経て、米国経済には累積的に大きな回復があった。金融正常化(=利上げ)は
小幅であればショックは小さく、今年内に実行しても正当化される。というのがフィッシャー副議長
の主張である。利上げ開始が何月なのかは不透明でも、利上げを実施することに Fed は前向きだと考
えてよいだろう。6 月の利上げ開始についてはフィッシャー副議長は「特に雇用の数字に注目し」、
6 月か 7 月か 9 月かそれ以降か、データ次第で判断する、と回答した。来週発表される雇用統計を含
めて、雇用改善が続いた場合、6 月利上げの可能性はあるのだろう。
もう一つ、フィッシャー副議長の講演で興味深かったのは利上げ開始後についての描写である。均
衡金利に向かうスムーズな上昇にはならないだろう、というものだ。利上げ開始後には金利は上にも
下にも動くようになり、想定外のショックがあれば対応することになるとのことだが、非常に実務的
な説明である。25bps 金利を引き上げても非常に緩和的な状態に変わりがない、と疑義を挟ませない
物言いにはマーケットにも納得感を覚えると同時に、やはり今年は利上げかと意識したただろう。
27 日にイエレン議長も「金融政策のニューノーマル」と題して講演する予定である。FOMC の後、
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FOREX WEEKLY 2015/3/27
利上げ後ずれ観測が高まったが、それに対してどういった発言があるだろうか。“ニューノーマル”
とは恐らく、政策金利の引き上げが極めて緩慢である状態も含むと想像するが、フィッシャー副議長
に続いてイエレン議長の講演も重要である。
米国 10 年債利回りは FOMC 後に 2.0%を割り込んで
1.8%台まで低下したが、今週、中東情勢の緊迫化で原油
相場が上昇すると、2.0%台へ反発。
米国債相場を考える時、利上げ開始を加味すれば利回
り上昇は当然だと考えるか、それ以外の要素を考慮すべ
きか、より正確に言えば両者のウェイトをどう置いたら
よいか、という問題に直面する。ECB が 3 月 9 日から国
債購入を開始して以来、欧州債利回りおよび米国債利回
りは低下し、ドイツ 10 年債利回りは今では 0.2%台であ
る。欧州債での運用は困難になりつつあり、利回りを求
めて米国債の買いニーズが高まるのは当然の成り行きで
ある。しかし、一方、利上げを意識する局面では米国債
券利回りは上昇しており、今年米国が利上げを始める場合、需給からの利回り低下圧力とどのような
力関係で推移するのか注視する必要がある。
FX Outlook
… 地政学リスクにも目配り
ドルは先週の FOMC 後に利上げ後ずれ観測が高まり、上値が重くなった。ドル円は今週 120 円を下
回り、一方、ユーロが対ドルで一時 1.10 を超える水準まで上昇した。
米国で再び利上げ観測が高まらなければ、ドル上昇の材料は多くない。利上げ開始の時期を巡り、
経済指標の重要性が高まる中、来週は金曜日に雇用統計の発表がある。失業率は 5.5%まで低下し、
長期的な失業率の想定レンジ上限に達したものの、先般の FOMC でこのレンジが 5.0%∼5.2%へ引き
下げられ、達していないことになってしまった。もし失業率が 5.4%へ低下すれば、再びレンジへ近
づいていたため、雇用統計後はドル買いに反応するだろう。ただ、6 月の FOMC まで来週を含めて雇
用統計の発表は 3 回あり、雇用統計でドルが上昇しても一巡後は下落、という展開になりそうだ。ま
た、27 日にはイエレン議長の講演が予定されているが、「利上げ開始後の緩やかなペースでの金利
引き上げ」に重点が置かれた場合には、ドルはむしろ下落する可能性すらある。6 月利上げ観測がド
ル上昇を牽引するには少し時期が早い。
サウジによるイエメンでの空爆で原油相場は 26 日に WTI 先物が 50 ドル台へ急伸した。為替相場に
対して、この地政学リスクの高まり、もしくは原油相場の上昇、は未だ明瞭なトレンドを招いていな
い。だが、米国の利上げやユーロ圏の QE など、これまでのテーマは FOMC や ECB による国債購入開始
というイベントを通過したことによって目先テーマ性が軽くなり、代わりのテーマとして、久しぶり
に地政学リスクや原油相場に注目が集まる可能性もあるだろう。地政学リスクが注目されるとドル円
の下落に繋がりやすいが、昨年の傾向では原油安→ユーロ安、またその他、原油高による景気下押し
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FOREX WEEKLY 2015/3/27
懸念などから株安にも傾斜しやすい。この中東情勢で一気に原油が高騰し WTI 先物が 60 ドルや 70
ドルになるとは考え難いのだが、どこまで状況が深刻なのか、まだ情報も少なく判断しにくいため、
金融市場への波及も含めて目配りが必要である。
(データ出所:Reuters)
ディーラーに聞きました(来週のドル円相場の方向性∼ブルベア)
月
2月
3月
週
16 日∼
23 日∼
2 日∼
9 日∼
16 日∼
23 日∼
30 日∼
予想
+5
+4
+1
+2
+1
±0
+1
実績
中立
中立
中立
ブル
中立
ベア
≪見方≫
当行の為替ディーラー(マーケット、カスタマー)8 名を対象に、来週の相場予想を聴取。今週の東京市場 9 時から、ドル
ブル(終値から1円以上のドル高)、中立(終値から上下1円内)、ドルベア(終値から1円のドル安)の三択で、結果を(ドルブル
人数−ドルベア人数)で表記。+(プラス)は円安ドル高、−(マイナス)は円高ドル安を示す。
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FOREX WEEKLY 2015/3/27
各種相場の動き
<債券(日本国債・10 年債利回り)>
<債券(米国債・10 年債利回り)>
<株(日経平均株価)>
<株(米ダウ)>
<株(上海総合指数)>
<株(ドイツ DAX 指数)>
<原油(WTI 先物(期近物))>
<金(NY 先物(期近物))>
(出所:Bloomberg)
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FOREX WEEKLY 2015/3/27
今週のプライスアクション(ドル円)
(出所:Reuters)
価格
121.0
①
120.5
120.0
119.5
① 米金利低下を眺めてドル円
下落。
② サウジ主導のイエメン空爆
開始を背景にリスクオフム
ードとなる中、テクニカル
なドル売り円買いも巻き込
んで、ドル円下落。
119.0
②
18:30
03:30
15 3 20
15:30
03:30
15 3 23
18:30
06:30
15 3 24
18:30
15 3 25
118.5
06:30
18:30
06:30
15 3 26
来週のチャ−ト分析
18:30
15 3 27
(出所:Reuters)
日 足 QE U R =E B S
価格
価格
1.20
121
1.17
120
1.14
119
1.11
118
1.08
117
1.05
.12
0
02日
15 1
16 日
02 日
2015年 2月
16 日
01 日
2015年 3月
02日
15 1
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<ドル円、日足、一目均衡表>
雲の上を推移。
16日
2015年 2月
02日
16日
2015年 3月
01日
<ユーロドル、日足、ボリンジャーバンド>
ボリンジャーバンドとは移動平均±2σ(σ=標準偏差、ここでは
20 日間の平均)を上限・下限とするバンド。
バンド中心付近を推移。
4/3 の雲上限は 118.80 円、下限は 118.34 円。
来週の主な材料
3/30(月)
(日)2 月鉱工業生産(速報)
(米)2 月個人所得・支出
(欧)3 月ユーロ圏企業景況感・消費者信頼感
3/31(火)
(日)2 月毎月勤労統計、2 月住宅着工件数
(米)3 月シカゴ PM、3 月消費者信頼感指数
(欧)3 月ユーロ圏 HICP(速報)
4/1(水)
(日)日銀短観(3 月調査)
(米)3 月製造業 ISM
(欧)3 月ユーロ圏製造業 PMI(確報)
4/2(木)
(中)3 月製造業 PMI
(日)3 月マネタリーベース
(米)2 月貿易収支、2 月製造業受注、イエレン FRB 議長講演
4/3(金)
(欧米)市場休場(グッドフライデー)
(米)3 月雇用統計
(時間は全て現地時間)
(本ページの担当:井上)
(注)FAX 配信の停止を希望される場合は、下記までご連絡頂きますようお願い申し上げます。
グローバルアドバイザリー部
電話
03-4333-4255
FAX
7
03-4333-9845
担当:紺野