2014 年 12 月 5 日 FOREX WEEKLY 市場営業統括部 チーフ・エコノミスト Tel: 山下えつ子 +1-212-224-4561 (ニューヨーク) [email protected] Global View … 原油価格の下落とユーロ圏 → p.2 ・ 原油価格の下落はユーロ圏の「日本化のリスク」を高めている。 ・ ECB は来年、QE を実施することになるだろう。 … 雇用統計は強かった → p.3 US View ・ 雇用統計は強め。Fed スピーチも利上げ開始へのプロセスを印象づけた。 ・ 来週は小売売上高に注目だが、マーケットの目は翌週の FOMC に向いている。 FX Outlook … ドル円は急上昇 → p.4 <来週の予想ポイント> ドル/円 上昇 ユーロ/円 上昇 ・ 米国では翌週のFOMCに目が向く。 ・ 日本の総選挙を控え、円安はどこまで進むか。 ・ ユーロ圏のQEへの期待の持続。 今週のレンジ 本日東京 9 時 来週の予想レンジ 今後 3 ヶ月の予想レンジ ドル/円 117.84-120.25 円 119.82 円 119.50-123.00 円 115.00-125.00 円 ユーロ/ドル 1.2280-1.2507ドル 1.2386ドル 1.2200-1.2350ドル 1.2000-1.2700ドル ユーロ/円 146.88-148.95円 148.42円 148.00-150.00 円 135.00-155.00 円 (今週のレンジは先週金曜日東京9時~本日東京9時、予想レンジは本日東京9時~来週金曜日東京9時) ・今週号本文はニューヨーク時間金曜日正午までの情報をもとに作成しています。 ・FOREX WEEKLYに関するお問い合わせは、現在お取り引き中の営業部/支店にお願い申し上げます。 ・FOREX WEEKLY は弊行ホームページでもご覧頂けます。(http://www.smbc.co.jp/ マーケット情報→外国為替情報→ フォレックス・ウィークリー) 本レポートは情報の提供を目的としており、何らかの行動を喚起するものではありません。ここに示した意見は本レポート作成日 現在の筆者の意見を示すのみです。データや数値の抽出範囲・基準は任意で設定している場合があります。データ・資料等につい ては、数値等の誤りが含まれている可能性があります。本レポートに基づき、お客さまが投資のご判断をされた結果に基づき生じ た損害・損失について当行は一切責任を負いません。投資や資金運用に関する最終決定は、お客さまご自身で判断されるようお願 い申し上げます。また、本レポートの全部または一部の無断コピー使用はご遠慮ください。 1 FOREX WEEKLY 2014/12/5 Global View … 原油価格の下落とユーロ圏 先週号では中国の経済の減速と原油相場の下落について考えた。今週号では、原油相場の下落がユ ーロ圏へどのような影響をもたらすかを考えたい。 原油価格の下落でガソリン価格が下落し、個人消費にはプラスだ、という波及ルートはユーロ圏に おいてもある。だが、こうした効果がフルに働くためには、消費者マインドは良好か、雇用情勢はど うか、賃金はどうなのか、といった他の条件が揃う必要がある。ユーロ圏の場合、原油価格の下落は 理論的には経済にプラスではあるが、他の条件がネガティブで効果はほとんど現れていない。 ECB は 12 月に経済見通しを改定し、実質 GDP、インフレ率のいずれもが 9 月見通し対比大幅に下方 修正された。しかし、この見通しの作成後に原油価格が一段と下落したため、これを踏まえると、今 回発表された経済見通しは更に下方修正される。2015 年のインフレ率見通しは+0.7%だったが、こ れよりも低くなるわけである。 ドラギ総裁記者会見では当初、QE 実施はあっても来年初旬という発言があり、もっと前のめりな 発言を期待していたマーケットは落胆した。だが、実際には、総裁のインフレ低下への警戒感は極め て強い。ユーロ圏では賃金上昇率が物価上昇率にスライドして決定される慣行が強く、このため、原 油価格が低下し、インフレ期待が低下すると、これに伴い賃金が低下する可能性がある。高水準の失 業率、設備過剰状態、というスラックの存在は物価を押し下げる。賃金が低下し、物価が低下するス パイラルが回りやすいのが現在のユーロ圏経済である。 これまで、日本化のリスクを ECB は強く否定してきた。だが、最近は ECB 高官からもそのリスク(物 価が低下傾向となり、景気低迷が長期化していくリスク)が言及されるようになった。ユーロ圏の債 務危機が再燃しているわけではない。そうではないが、低成長が長期化し、物価に低下圧力がかかっ ているところに原油価格の低下がこれに拍車をかけそうだ、というのが現局面である。 こうした問題は日本でも経験済みのように、どのように対処すべきかが難しい。むろん構造改革な どは必要だろうが、いったん、物価の低下と景気低迷長期化の負のスパイラルに入ると、そこから抜 け出るのは容易ではない。ドラギ総裁は、インフレあるいはインフレ期待の低下で実質金利が上昇す れば、それは望まない金融引き締めになる、と説明している。QE を実施する場合は来年初旬と言い ながらも、QE の決定に全会一致は不要であると強い口調で言い切ったのは、ドラギ総裁がユーロ圏 の日本化のリスクを強く警戒し、早めに QE を導入したいという意思があるからだろう。来年の 1-3 月にはユーロ圏でも QE が実施されることになるだろう。 2 FOREX WEEKLY 2014/12/5 US View … 雇用統計は強かった 5 日の雇用統計は非農業部門雇用者数が 32 万 1 千人増加と強い数字だった。失業率は 5.8%で前月 から横ばい。また賃金は前月比+0.4%と大きめ(ただし前年比ベースでは+2.1%で 0.1%の上昇)で 全体的に雇用情勢の堅調さを印象づけた。特に好調な業種は会計、経営コンサルティングなどの専門 サービス、派遣スタッフ、自動車・同部品製造販売、衣料品、趣味用品の小売業、などだった。 来週は 11 月の小売売上高の発表が 11 日に予定されている。年末商戦の前倒しセールもあり、好調 な結果が予想されるほか、自動車販売も 1708 万台で前月の 1635 台を上回り、小売売上高は総合、除 く自動車ベースとも上振れが予想される。感謝祭後の週末にかけての小売店売上高が前年比マイナス だったとの調査もあるが、商戦が 11 月初旬あるいは 10 月から始まっているため、11 月全体の小売 売上高はそうした調査結果対比で良好だろう。 雇用統計以外にも製造業 ISM、非製造業 ISM などの経済指標や Fed のベージュブックが今週は発表 されたが、業者コメントなども含めて総合すると、米国経済は上向きである。原油価格の下落がエネ ルギー産業へネガティブな影響を及ぼすとの懸念はあるが、全体のバランスでは、雇用増加、ガソリ ン価格の低下、長期金利の低下といった要因が今年 Q4 の米国景気の押し上げに効いている。 原油価格が低下し、インフレ率やインフレ期待の低下が Fed の利上げを後ずれさせるとの予想もあ るが、先週号に記載の通り、筆者はその可能性は小さいと考えている。上記のように雇用を始め、米 国の景気が良好である以上、利上げ(金融政策の正常化)は予定通り進められる、と考えた方がよい。 インフレ率の上昇が遅ければ、利上げのスピードは遅くなるだろうが、QE の終了を予定通りに終え て、次は金利を正常化すべく、Fed は準備を進めている。1 日にはフィッシャー副議長が「ゼロ金利 というのは正常ではなく、金融市場調節も難しい」とコメントしたほか、ダドレーNY 連銀総裁は「(個 人的見解ながら)米国景気は 2015 年にかけて順調に推移すると予想しており、2015 年のどこかで利 上げを開始するのが望ましい」と発言している。16 日・17 日に開催される FOMC のイエレン議長記者 会見で「利上げは 2015 年の見込み」との発言があれば(議長はこれまでも FOMC メンバーの金利予想 ドットを引用しながら、同様のプレアドを何度もしているのだが)、マーケットは Fed が利上げに向 かって進んでいることを再認識することになるだろう。 このほか、暫定予算の期限が到来するため、議会では延長など措置が必要だが、今のところ大きく 取沙汰されていない。オバマ大統領が移民法改革を大統領令(executive order)で決定したことに 共和党は反発したものの、しかしこれを巡って昨年のような政府閉鎖など予算審議を武器として混乱 を招くことは必ずしも政治的に賢明ではない。共和党は中間選挙で両院で過半数を制したものの、党 内には穏健派とティーパーティのような保守派の対立もある。政治の展開は読みにくいが、筆者は暫 定予算については短期延長でとりあえず決着するのではないか、と予想している。 今週は雇用統計後に債券相場が下落し、2 年債利回りは 0.6%台へ上昇、10 年債利回りは 2.3%台。 ダウも最高値を更新して終了。雇用統計の後は利上げ前倒しが今度は警戒されているのだろうが(先 週はインフレ低下による後ずれ観測だったが)、今回の雇用統計だけで、たとえば来年 1-3 月に利上 げが始まると考えるのも、行き過ぎだろう。ただ、マーケットは振れやすいため、FOMC 前後に利上 3 FOREX WEEKLY 2014/12/5 げ前倒し警戒が強まる可能性はあり、来週も債券利回りは中短期を中心に上昇方向を予想する。 FX Outlook … ドル円急上昇 週末にかけてドル円は 120 円超えた。週初の日本国債の格下げのニュースは円安の反応だったが、 これを材料とする相場は長く続かず、その後はドル高基調で金曜日は米国の雇用統計を受けてドル円 は 121 円台半ばまで上昇した。 先週は原油相場の急落で、インフレ見通しの低下が米国の利上げ後ずれに繋がるとの観測が浮上し、 ドル円も一時下落した。たが今週は、Fed のベージュブックで景気が堅調に拡大していることが示さ れ、金曜日の雇用統計で非農業部門雇用者数が 30 万人以上の高水準となると、今度は利上げ前倒し 観測に変わって、ドル円は 121 円台までドル高。来週は小売売上高の発表もあるが、マーケットの目 はその翌週の FOMC に向いているだろう。この FOMC で利上げ前倒し(たとえば 1-3 月に利上げ実施) が示唆されることはない、と筆者は思うが、マーケットでは FOMC に向けてドル高へバイアスがかか りやすいだろう。 円の方は格下げの影響は比較的短期間で一巡した。今後は総選挙を 14 日に控えて、120 円超とな った円安に対して牽制発言が出るかもしれない。日本経済に対する円安の影響については、中小企業 へのネガティブな影響が指摘されるなど、選挙を前にテーマになりやすい。ただ、そうした日本の政 局にも留意する必要があるものの、120 円を 110 円に押し戻すような発言までは出ないと思われるの で、ドル高にバイアスがかかっている時間帯では、円安牽制発言が出たとしても、ドル円の戻りは限 定的だと考えられる。 4 日の ECB 理事会では QE その他の追加措置はなかった。これは大方の予想通りだったと思われる が、しかしドラギ総裁の記者会見で QE を実施するとしても来年初旬、との発言がネガティブに捉え られるなど、ユーロ相場は ECB 理事会時に大きく上下した。事後的には再び QE 期待からユーロ安へ とマーケットは動いたが、記者会見時には QE に対して思ったほどの前のめり感がない、と捉えられ た。実際のところは、ドラギ総裁は QE に対して非常に積極的だと思われる。今は、カバードボンド 購入、ABS 購入、二度目の TLTRO、と見極めるべきものがあり、追加措置を実施する時期ではない。 だが、一方で、インフレ率あるいはインフレ期待の低下に対するドラギ総裁の警戒は極めて強く、QE についても「決定は全会一致である必要はない」と言い切るなど、記者会見が消極的だったとは言え ない内容だった。むろん、ユーロ圏の景気指標が上向き、インフレ期待の低下も下げ止まれば、QE を実施するには及ばないかもしれない。だが、理事会時点でのドラギ総裁のスタンスは明らかに QE 実施に傾いていた、と判断できる。ユーロは QE 期待で上下しやすいが、記者会見を十分に消化する と QE 期待が残り、ユーロ安に相場は傾くと考えられる。来週は、ドルが FOMC を翌週に控えてドル高 となりやすく、ユーロは対ドルでユーロ安となるだろう。 4 FOREX WEEKLY 2014/12/5 (データ出所:Reuters) ディーラーに聞きました(来週のドル円相場の方向性~ブルベア) 月 10 月 週 27 日~ 3 日~ 10 日~ 17 日~ 24 日~ 1 日~ 8 日~ 予想 +3 +7 +7 +6 +4 +3 +3 実績 ブル ブル 中立 ブル 中立 ブル ≪見方≫ 11 月 12 月 当行の為替ディーラー(マーケット、カスタマー)8 名を対象に、来週の相場予想を聴取。今週の東京市場 9 時から、ドル ブル(終値から1円以上のドル高)、中立(終値から上下1円内)、ドルベア(終値から1円のドル安)の三択で、結果を(ドルブル 人数-ドルベア人数)で表記。+(プラス)は円安ドル高、-(マイナス)は円高ドル安を示す。 5 FOREX WEEKLY 2014/12/5 各種相場の動き <債券(日本国債・10 年債利回り)> <債券(米国債・10 年債利回り)> <株(日経平均株価)> <株(米ダウ)> <株(上海総合指数)> <株(ドイツ DAX 指数)> <原油(WTI 先物(期近物))> <金(NY 先物(期近物))> (出所:Bloomberg) 6 FOREX WEEKLY 2014/12/5 今週のプライスアクション(ドル円) (出所:Reuters) ② ① 来週のチャ-ト分析 日足 QJ PY=EB S ① ムーディーズによる日本国 債格下げを受けてドル円は 119.15 円まで上昇。 ② ECB による追加緩和観測を 巡って、ドラギ ECB 総裁の 記者会見中にユーロを中心 に相場が大きく振れる中、 ドル円は一時 120 円を突破。 (出所:Reuters) 2014/09/16 - 2014/12/17 (GMT) 日足 QEU R =EB S 2014/10/13 - 2014/12/12 (TOK) 価格 価格 1.31 120 1.3 1.29 117 1.28 114 1.27 111 1.26 108 1.25 105 1.24 1.23 自動 0 16日 03日 2014年 10月 17日 2014年 11月 16日 01日 16日 03日 17日 01日 16日 14 9 2014年 10月 2014年 11月 14 12 01日 14 12 <ドル円、日足、ボリンジャーバンド> ・ボリンジャーバンドとは移動平均±2σ(σ=標準偏差、ここ では 20 日間の平均)を上限・下限とするバンド。 ・バンド上限付近を推移。 <ユーロドル、日足> ・レジスタンスラインの 12/12 の値は 1.2407 ドル。 来週の主な材料 12/8(月) (日)7-9 月期 GDP(2 次速報)、10 月国際収支、11 月景気ウォッチャー調査 (米)11 月労働市場情勢指数 12/9(火) (欧)10 月独鉱工業生産 (中)11 月貿易収支 (日)11 月マネーストック 12/10(水) (日)10~12 月期法人企業景気予測調査、11 月国内企業物価指数、11 月消費者態度指数 (中)11 月 CPI、11 月 PPI、 12/11(木) (日)10 月第 3 次産業活動指数、10 月機械受注 (米)11 月小売売上高、10 月企業在庫 (欧)ECB 月報 12/12(金) (米)11 月 PPI、12 月ミシガン大消費者センチメント(速報) (中)11 月固定資産投資、11 月小売売上高、11 月鉱工業生産 (時間は全て現地時間) (本ページの担当:井上) (注)FAX 配信の停止を希望される場合は、下記までご連絡頂きますようお願い申し上げます。 グローバルアドバイザリー部 電話 03-4333-4255 FAX 03-4333-9845 担当:紺野 7
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