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初級ミクロ経済学
-不完全競争(1)独占-
2014年11月24日
古川徹也
2014年11月24日
初級ミクロ経済学
1
完全競争市場

完全競争市場:今まで学んだように,各
経済主体(消費者も生産者も)価格支配
力を持たない世界。他の経済主体の行動
を一定として1人だけ(1企業だけ)が
行動を変えたとしても,市場価格には影
響を与えない。
→プライステイカー
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不完全競争市場
現実には価格に対する影響力を持つ
場合も多い。
 影響を与えることが可能な経済主体
を「価格支配力を持つ」経済主体と
名付ける。
 以下では,売り手側に価格支配力が
ある場合を考える。

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主な不完全競争市場:独占と寡占




売り手が1企業のみであるケースを
独占(monopoly)と呼ぶ。
売り手が少数ではあるが複数の場合
を寡占(oligopoly)と呼ぶ。
寡占の中でとくに2企業の場合を複
占(duopoly)と呼ぶ。
この講義では,独占と複占を扱う。
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なぜ価格支配力は生まれるのか(1)
マーケットシェア
1企業が100%のマーケットシェアを持つケー
スが独占,少数の企業がマーケットシェアを分
け合っている状態が寡占。
 市場が占有される原因
① 知的財産権の保護(特許権や著作権)
② 規模の経済性(自然独占の発生)
③ ネットワーク外部性(自然独占につながる)

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価格支配力の源泉(2)
製品差別化



本質的に同じ財でも厳密には品質などが
異なることを製品差別化と呼ぶ。
製品差別化のもとでは独占的競争と呼ば
れる現象が発生する。
独占的競争:競争相手が無数に存在し,
個々の売り手のマーケットシェアはゼロ
に近くても,売り手に価格支配力が生ま
れる。
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限界収入による特徴づけ

企業の利潤最大化条件は完全競争,独占,寡占
もすべて
MR  MC (x )


である。
右辺の限界費用は各企業の生産量 x に依存して
決まるか、一定である(と仮定)。
問題は,限界収入の違いである。
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各市場タイプによる利潤最大化条件(1)
完全競争市場

完全競争市場では
MR  p  MC (x )
となる。限界収入は市場価格に等しく,各企業に
とっては与件。与件である市場価格に限界費用が
等しくなるような生産量 x を選ぶ。
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各市場タイプによる利潤最大化条件(2)
独占

独占では
MR ( x )  MC ( x )
となる。限界収入は自らの生産量に依存する。企
業は,限界費用が x に依存することだけでなく,
限界収入も xに依存することを考慮に入れて利潤
を最大化する。
 あとに見るように,限界収入と市場価格は等し
くない。
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各市場タイプによる利潤最大化条件(3)
複占

複占では
MR ( x, x)  MC ( x )
となる。限界費用が自らの生産量 x に依存する点
は前と変わらない。前と異なるのは,限界収入が
自らの生産量 x だけでなく,ライバル企業の生産
量 xに依存する点である。
 相手の行動が自分に影響を与え,自分の行動が
相手に影響を与える点が,ゲーム理論的状況。
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独占企業の行動
独占企業の「モデル」は
(1)逆需要関数: p  a  bx
(2)限界費用: c(一定と仮定)
費用関数: C ( x )  cx
(3)(必要に応じて)固定費用: F
の2つ(または3つ)の要素で特徴づけられる。
 ポイントは,限界収入と市場価格の間に乖離が
生じる点である。そこに注意すること。

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限界収入の計算

逆需要関数を
p  a  bx
とおく( a, bは正の定数)。このとき収入 Rは,
R( x )  px  ( a  bx ) x  ax  bx
2
と書ける。
x
)
R(xを
)
 限界収入 MR (x は,
で微分したもので
ある。したがって,以下のようにあらわせる。
MR ( x )  R( x )  a  2bx
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逆需要関数と限界収入のグラフ
p  a  bxと
MR ( x )  a  2は,(1)縦軸との切片が同じ,
bx
(2)傾きは限界収入が逆需要関数の2倍,という性質を持
つ。
p, MR
MR( x)  a  2bx
p  a  bx
 2b
b
a
2b
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a
b
x
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収入関数と限界収入
R (x )
MR(x )
a
2b

x
x
a
2b
収入関数は放物線
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限界費用との関係

p, MR


pM
限界費用は cで一定
利潤最大化条件 MR ( x )  c が成立
する生産量は x M
そのときの価格は p M であり,限
M
MR

p
界収入とは一致しない(
が成立)ことに注意
ac
x 
2b
M
c
xM
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x
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収入関数と利潤最大化
R (x )
c
c
xM
※実際は半
円ではない。
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a
2b
x
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パレート効率性の条件:復習
需要曲線は限界便益曲線を表している。
※限界便益:1単位の限界的な生産量(消費
量)の増加がもたらす経済全体の便益(厚
生、余剰)の増加分。
 限界費用曲線は,1単位の限界的な生産量
(消費量)の増加がもたらす経済全体での
費用の増加分をあらわしている。
 パレート効率性の条件
限界便益=限界費用

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完全競争市場と独占市場の比較(1)


完全競争市場でも独占市場でも,需要曲線
は限界便益曲線を表している。
完全競争市場では,限界費用曲線は供給曲
線に一致する。したがって完全競争市場均
衡では,
限界便益=市場均衡価格=限界費用
が成立する。したがってパレート効率的とな
る。
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完全競争市場と独占市場の比較(2)

独占市場では,限界費用曲線は供給曲線と一
致しない(そもそも供給曲線がない)。市場
均衡では,以下の関係が成立する。
限界便益=市場均衡価格>限界収入=限界費用
したがってパレート効率的とはならない。
 独占市場では,市場均衡配分はパレート効率
的とはならない。これは,市場メカニズムは
効率的な資源配分を達成しないということで
ある。
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市場均衡配分と効率的な資源配分

p, MR


市場均衡生産量は x M
効率的な生産量は x *
黄色い三角形の大きさの余剰が
失われている。
ac
x 
b
pM
*
c
xM
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x*
x
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独占のモデル:具体例
各文字に数字をあてはめてみる
(1)逆需要関数: p  12  x
(2)限界費用: 2
費用関数: C ( x )  2 x

市場均衡需給量,市場均衡価格
を求めてみよう!
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独占の「問題点」



1企業による市場の独占については,「不当
な価格の引き上げ」などが問題になりやすい
。
しかし,独占企業も需要曲線の制約にある以
上,無茶な価格引き上げはできるとは限らな
い。
ミクロ経済学では,価格の引き上げよりもむ
M
しろ,それによって生じる過少生産(x*  x)と
それに伴う厚生損失が問題である。
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独占は常に「悪」なのか?



効率性の条件は,限界費用についてしか言及
がない。
巨額の固定費用を必要とする場合などでは,
多くの企業が供給を行うよりも,1つの企業
に集中したほうが1単位あたりのコストを下
げられることがある。
その場合には,規制が必要となる(平均費用
価格規制と限界費用価格規制)。
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