産業組織論 I 第 3 講:ミクロ経済学の復習 その 2 ∼生産者理論∼ 三浦慎太郎 2015 年 4 月 21 日・27 日 神奈川大学 1 概要 ⃝ 生産者理論. 1. 生産者 (=企業) の意思決定問題. ➢ 価格理論における企業とは? ➢ 企業の利潤最大化行動. ➜ 費用関数,限界収入と限界費用. ➜ 供給関数と供給曲線. 2. 微分アプローチ. ➢ 関数とは? ➢ 関数の “傾き”の概念. ➱ 直線の傾きと曲線の傾き. ➢ 微分の概念とその復習. ➢ 利潤最大化の一階条件. 2 1. 生産者の意思決定問題 3 生産者理論 ⃝ 価格理論における生産者を と呼称する. ➢ 完全競争市場において生産者は . ➜ 無し! ➜ 市場価格の下で「どれだけ財を生産するか?」を決定. ➜ 儲けが最も大きくしたい! と呼称. ⃝ 企業とは? ➢ 現実社会における企業(会社)のイメージ: ➜ 複数の個人で構成された “組織”である. ➜ 経営者と従業員の間には利害の対立があるかもしれない. ➜ 利害対立のため何らかの無駄が生じる可能性がある. ➜ 必ずしも利潤最大化が目標ではない. ➢ が必要.どう経営すべきか? 4 ⃝ 企業とは?(続き) ➢ 価格理論における企業とは? ➜ 市場メカニズムの生産部門を担う 意思決定主体. ➜ インプット(原材料・労働力・機械 etc.)を投入すればア ウトプット(生産物)を生み出す装置 (ブラックボックス). ➜ とし,常に無駄なく行動する. ➢ 本講義で “企業”と言った場合,上記の性質を持つ意思決定主 体を指す.現実社会の “会社”とは異なっていることに留意. 5 ⃝ 価格理論における企業は机上の空論? ➜ ➜ モデル分析とは,複雑な現象を如何に簡略化するか. ➜ “企業”は会社の重要な側面を反映している. ➢ 利潤最大化行動 * していない会社は,している会社に比べて儲けが少ない. * 競争に負けて最終的には市場から撤退する. * 長期においては,市場の企業は利潤最大化している. ➢ ブラックボックス,単一の意思決定主体 * 分析の簡略化のため. * 分析対象は市場メカニズムであり,個々の会社ではない. ➜ 個々の会社を分析するためには不十分では?➜ ➜ において会社内の組織は明示的に分析. ➜ 価格理論とともに が分析手法. 6 ⃝ 企業の . ➢ 価格理論における企業の目的は利潤最大化である. ➜ そもそも利潤とは? 利潤 = = − × − = ➜ p: を表す記号. ➜ q: を表す記号. ➜ C(q): 生産量 q に必要な費用. (1) で表す. ➢ 注意: ➜ 生産した財は . ➜ 在庫・品薄は価格を通じて市場が調整する. 7 ⃝ 企業の利潤最大化行動 (続き). ➢ 企業は二種類の意思決定を行っている. (1) どれだけ生産するのか?(生産量の決定) (2) どのようにして生産するのか?( の決定) e.g., 機械を増やすべきか,労働力を増やすべきか? ➢ 二段階の意思決定プロセスをとっていると考える. ➜ 一段階目:生産量を固定し,その量を実現する複数の生産 プランの中で で賄えるものを選択する. ❒ 最少費用の生産プランに必要な費用が C(·) で与えられる. ❒ , , を所与の条件とする. ➱ 消費者の最適化行動と本質的には同じ. ❒ 全ての生産量について同様の最適化を行う.➜ . 8 ⃝ 企業の利潤最大化行動 (続き). ➢ 二段階の意思決定プロセスをとっていると考える. ➜ 二段階目: と を基にして,利潤を最大 化する を選択する. ❒ 選択された最適な生産量が である. ❒ “供給量”は “生産物価格”によって決まる. ➱ 生産物価格と供給量の関係を表すものが . ➱ 供給関数のグラフが . ➜ 本講義では一段階目の意思決定プロセスの記述を省略. ❒ 生産量の決定(最適化の二段階目)に焦点を当てる. ❒ 各生産量に対する最少費用生産プランは選択済みであり, その結果は費用関数 C(·) で与えられる. 9 Q. 「どのように生産すると利潤が最大化されるか?」 ➜ A.「 と の関係で決定. 」 ⃝ 限界費用. ➢ . ➢ 「これからどの程度かかるか?」の “前向き”な費用. 例. 生産量 20 での限界費用. ➜ 「既に 20 だけ生産(すると)しており,更に一単位生産を 増やした場合にどれだけ追加的費用が必要か?」 を表す. ➢ ポイント:限界費用は必ずしも一定の値ではない. ➜ 一般的に に依存する.例えば… ❒ 生産量少 ⇒ 生産能力に余裕有 ⇒ 限界費用は小さい. ❒ 生産量大 ⇒ 生産能力に余裕有 ⇒ 限界費用は大きい. 10 ⃝ 限界収入. ➜ ➜ 即ち, . が限界収入である. ➢ ポイント: . ➜ 現在の生産量に全く依存しない. ➢ 完全競争市場では,以下の二点を仮定していた. 1. 生産した財は所与の価格の下で全て売れてしまう. 2. 生産者はプライステイカーである. ➜ 生産量を変化させても生産財の価格は変化しない! ➜ 完全競争市場では . (例) 生産量 20,価格 100 の下での限界収入は 100 である.同 様に生産量 10 の下での限界収入も 100 となる. 11 ⃝ 利潤最大化と限界収入・限界費用 (続き). ➢ 限界費用と限界収入がどうなれば利潤最大化となるのか? 例. 生産物価格が 100 で与えられているとする. (1) 企業は 20 だけ財を生産しようと考えており,この時の限界 費用が 40 とする.この生産量は利潤を最大化しているか? ➜ ➜ 一単位の追加的な生産で得られる収入(限界収入)は ➜ 一単位の追加的な生産に必要な費用(限界費用)は ➜ 一単位分追加的に生産することで更なる利潤を得られる! ➜ の状況では,企業は生産量を増やすこと で利潤を増加可能. ➱ 利潤に伸びしろ有.利潤最大化していない! 12 ⃝ 利潤最大化と限界収入・限界費用 (続き). ➢ 限界費用と限界収入がどうなれば利潤最大化となるのか? 例. 生産物価格が 100 で与えられているとする. (2) 企業は 60 だけ財を生産しようと考えており,この時の限界 費用が 120 とする.この生産量は利潤を最大化しているか? ➜ ➜ 一単位の追加的な生産で得られる収入(限界収入)は ➜ 一単位の追加的な生産に必要な費用(限界費用)は ➜ 言い換えると, ➱ 一単位生産を減らすと収入は 100 減る. ➱ その一方で費用は 120 だけ浮く! ➜ 一単位分生産を減らすことで更なる利潤を得られる! ➜ の状況では,企業は生産量を減らすこと で利潤を増加可能. ➱ 利潤に伸びしろ有.利潤最大化していない! 13 ⃝ 利潤最大化と限界費用・限界収入 (続き). ➢ 利潤最大化の生産量 q ∗ は次のように特徴づけられる. 定理 1 完全競争市場における生産者の利潤最大化の点では, .即ち, . (2) ➢ M C(q ∗): 生産量 q ∗ の下での限界費用(Marginal Cost). 14 ⃝ ・供給関数・ . ➢ “所与の条件”下で を供給量と呼称. ➜ 単なる生産量や “供給した”量ではない! ➜ 所与の条件とは, や のこと. ➜ 所与の条件が変化すれば供給量も当然変化する. ➱ 生産物価格の上昇,原材料費の変化,etc. ➢ これらの条件と供給量の関係性を表すものが である. ➜ 本講義の範囲内では,“ ”と “ ”の関係性を 表すものが供給関数であるという認識で十分. ➱ 即ち,供給関数とは生産行動の計画書である. ➱ 「生産物価格が∼円の時は∼だけ生産するのがベスト」. ➜ 原材料費の変化については捨象. ➜ 詳細は伊藤ミクロ 7 章,奥野ミクロ 2 章を参照. 15 ⃝ 供給量・供給関数・供給曲線 (続き). ➢ が供給曲線である. ➜ 本講義で頻出の供給曲線は以下の二種類. ➜ S(p): 生産物価格 p の下での供給量.供給関数 S(·) で表す. p p q = S (p) q = S (50) 50 100 0 S (100) q 0 q 16 2. 微分アプローチ 17 微分アプローチ ⃝ 全ての可能性を一つずつチェックするのは非常に面倒…. ➢ これまでの話を数学を用いてより厳密に考えてみる. ➢ 特に “微分”のイメージを明確化し,使えるようになる. ⃝ そもそも何故経済学で数学を使うのか? ➢ 経済学に数学は必ずし必要なのか? ➜ 必ず必要と言うわけではない! ➢ 必要な論理を全て言葉で誤解なく説明出来れば数学は不要! ➜ 実はこれが非常に難しい…. ➜ 専門用語は日常的に使っているものと違う意味を持つ. ➜ 誤解が非常に生じやすい! ➢ 数学を用いる最大の利点は,誤解なく議論を展開出来ること. ➜ 数学は訓練を積めば誰でも使いこなせる! 18 ⃝ そもそも関数とは? ➢ 関数とは, である. 例 1. 需要関数は “価格”と “その財の需要量”の関係を表す. 例 2. 費用関数は “生産量”と “生産費用”の関係を表す. ➢ 一般に関数は “y = f (x)”のように書き表される. ➜ ことを意味する. ➜ x という “インプット”を f (·) という “装置”に通すと y とい う “アウトプット”が出てくるイメージ. ➜ x の値が変化すれば f (·) に対応して y の値も変化する. ➢ 以下では関数を “f (x) =∼”のように記述する. ➜ x のように “変化する数”のことを と呼称. 19 ⃝ . ➢ 最も単純な関数が一次関数であり,以下の式で表される: (3) ➜ a, b は任意の数字 (実数) である. ➜ “a”を関数 f (·) の “ ”と呼称.(詳細は後述.) ➜ “b”を関数 f (·) の “ ”と呼称. ➢ 変数である x の指数が “1”なので一次関数と呼称. ➢ 一次関数のグラフは次ページのようになる. 20 ⃝ 一次関数 (続き). 例. f (x) = 2x + 5 のグラフ. y 5 3 1 2 1 0 x f (x) = 2x + 5 ➢ グラフが直線となるので “ ”とも呼ばれる. 21 ⃝ 一次関数 (続き). y y 5 2 1 y 5 5 3 3 1 1 0 f (x) = 2x + 5 x 0 x f (x) = 5 0 f (x) = 1 x 2 2x + 5 ➢ 傾き a の符号でグラフの形状が変化する. ➜ a > 0: の直線. ➜ a = 0: な直線. ➜ a < 0: の直線. 22 ⃝ . ➢ 関数の傾きは,“ ”を表す. ➜ グラフで見た場合,“右方向に 1 だけ動いたときに縦方向へ どれだけ動くか”を表す. ➢ 一次関数 f (x) = 2x + 5 の傾きは? ➜ x = 2 における傾き: f (3) − f (2) = 11 − 9 = 2. ➜ x = 4 における傾き: f (5) − f (4) = 15 − 13 = 2. ➜ 一般に一次関数の傾きは となる. ➱ x の値に依らず常に (変数 x の係数) の値となる. ➱ この性質のためグラフは直線となる. 23 ⃝ 傾き (続き). ➢ グラフが曲線となる関数の傾きはどう求めるか? 例. f (x) = x2. f (x) (4; 16) (1; 1) 0 x ➜ 一次関数と異なり,傾きは変数 x の値に応じて変化する. 24 ⃝ 傾き (続き). ➢ 曲線の傾きは で定義される. ➜ グラフ上の A 点における傾きは, ➜ 詳細は省略.内山 3 章,石川 5 章を参照. . f (x) (2; 4) 0 x ➜ (2, 4) における f (x) = x2 の傾きは接線 (黒太線) の傾き. 25 ⃝ . ➢ 微分とは 操作である! ➜ 微分に関してはこのイメージがあれば十分. ➢ 更に詳しいことが知りたい人は尾山&安田 5 章を参照. ➢ 代表的な微分の公式: f (x) = axn ⇒ .(4) f (x) = bx ⇒ .(5) f (x) = c ⇒ .(6) f (x) = axn + bx + c ⇒ . (7) ➜ f ′(·): “関数 f (·) を微分した”ことを表す記号. 26 ⃝ 微分 (続き). 例 関数 f (x) = x2 の x = 2 における傾きは? f (x) (2; 4) 0 ➜ 関数 f (x) = x2 を x について微分: ➜ x = 2 における傾き (つまり接線の傾き): x . . 27 ⃝ 微分と傾きと限界概念. ➢ に他ならない! ➜ “∼関数”を微分すれば “限界∼”を導出できる! 例1 限界収入. ➜ : R(q) = 100q. ➱ 生産物価格が 100 の下で q だけ生産した際の収入が R(q). ➱ 線形関数.グラフは次ページを参照. ➜ 限界収入: q を追加的に 1 単位増やした際の収入の変化. ➜ R(·) の傾き: q を +1 した際の R(q) の値の変化量. ➱ 同じことを言っている! ➜ 限界収入を求めるには収入関数を q で微分すればよい. ➱ . 線形関数なので q に依らず値は一定. 28 ⃝ 微分と傾きと限界概念 (続き). 例 2 限界費用. ➜ 費用関数: C(q) = q 2. ➱ 生産量が q の場合の総費用が C(q). ➱ 二次関数. .グラフは次ページ参照. ➜ 限界費用: q を追加的に 1 単位増やした際の総費用の変化. ➜ C(·) の傾き: q を +1 した際の C(q) の変化量. ➱ 同じことを言っている! ➜ 限界費用を求めるには費用関数を q で微分すればよい. ➱ . ➱ q = 20 における限界費用: . ➱ q = 60 における限界費用: . 29 C (q) R(q) C (q) = q2 R(q) = 100q 0 q 0 20 q 60 ➢ 収入関数 R(·) のグラフ (左) ,費用関数 C(·) のグラフ (右) 30 ⃝ . ➢ 収入関数と費用関数を定義すれば定理 1 から最適な生産量を 導出することが出来る. 例 収入関数: R(q) = 100q, 費用関数: C(q) = q 2. ➜ 限界収入: R′(q) = 100. ➜ 限界費用: C ′(q) = 2q. ➜ 定理 1 より最適生産量 q ∗ は以下の関係式を満たす: . ➜ 即ち最適生産量は, (8) . ➢ 定理 1 の内容を関数の傾きの概念を用いて再確認する. 31 ⃝ 利潤最大化の一階条件 (続き). ➢ . ➜ “収入関数 − 費用関数”で新たに利潤関数 π(·) を定義する. R(q ); C (q ) R(a) R(q ) = 100q (a) C (q ) = q 2 C (a) 0 a 100 q ➜ q = 0 から出発し, ,q = 100 で利潤は 0 となる. 32 ⃝ 利潤最大化の一階条件 (続き). ➢ 横軸を生産量 q ,縦軸を利潤 R(q) とした利潤関数のグラフ. (q ) (q ) = 100q 0 q = 50 100 q2 q ➜ q ∗ = 50 で利潤最大化.(q ∗ が最適生産量) ➜ q ∗ までは生産量の増加で する. ➜ q ∗ 以降は生産量の増加は させる. 33 ⃝ 利潤最大化の一階条件 (続き). ➢ 利潤関数 π(·) の傾きで最適生産量 q ∗ を特徴づけよう! (q ) A 0 ケース 1: 25 (q ) = 100q q q2 100 q 最適点よりも少ない生産量 (q < q ∗). ➜ q = 25 での利潤関数の傾きは A 点における接線の傾き. ➜ A 点での接線は ,つまり傾きは . 34 ⃝ 利潤最大化の一階条件 (続き). ➢ 利潤関数 π(·) の傾きで最適生産量 q ∗ を特徴づけよう! (q ) B (q ) = 100q 0 ケース 2: q 100 75 q2 q 最適点よりも多い生産量 (q > q ∗). ➜ q = 75 での利潤関数の傾きは B 点における接線の傾き. ➜ B 点での接線は ,つまり傾きは . 35 ⃝ 利潤最大化の一階条件 (続き). ➢ 利潤関数 π(·) の傾きで最適生産量 q ∗ を特徴づけよう! (q ) C (q ) = 100q 0 ケース 3: q 100 q2 q 最適生産量 (q = q ∗). ➜ q = 50 での利潤関数の傾きは C 点における接線の傾き. ➜ B 点での接線は ,つまり傾きは . 36 ⃝ 利潤最大化の一階条件 (続き). ➢ 利潤を最大化する点 q ∗ では 時に ➜ 条件 “ ➜ この条件を であり,同 ! ”が最適点の特徴! と呼称. 例 利潤関数: π(q) = 100q − q 2. ➜ 利潤関数の傾き: . ➜ 利潤最大化の一階条件より最適点 q ∗ は以下の条件を満たす: . ➜ したがって最適な生産量は (9) である. 37 ⃝ 供給関数の導出. ➢ 費用関数が与えられたならばそこから供給関数を導出できる. ➜ 供給量を求める場合と同様,利潤最大化の一階条件を利用. ➜ ポイントは 点. 例 費用関数 C(q) = q 2 の下での供給関数 S(p) を求めよ? ➜ 生産物価格を一般に “p”として利潤関数を定義: . (10) ➜ 利潤最大化の一階条件より,供給量 q ∗ は以下を満たす: . ➜ 生産量 q ∗ は価格 p の下での供給量 ➱ : . ➜ よって供給関数は, (11) (12) . 38 まとめ ⃝ 価格理論における生産者を と呼称. ➢ 企業は を目的とする の意思決定主体. ⃝ ➢ 上記の条件は となる点で利潤は最大化される. より導かれる. ⃝ 利潤を最大化する生産量を と呼称し, を表すものが である. ➢ 供給関数のグラフが である. ⃝ 微分とは を求める操作である. ➢ 費用 (収入) 関数の傾きが である. 39
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