環境経済論 第10回目 市場は地球環境を救えるか その1:外部性とピグー税 1 市場の資源配分機能 2 需要と供給の一致 自由な市場 統制価格 3 資源の最適な配分について • 企業利益の最大化 利益=収入-支出 収入(売上げ)=売却数量q×単価p 支出(費用)=f(労働L、資本K、原材料M、、、) 費用の大きさは労働、資本、原材料などの投 入量で決まる 4 生産費用は生産規模によっ て変わる 5 単位あたり費用 • 平均費用(average cost, AC) • 限界費用(marginal cost, MC) 限界費用=追加生産量1単位当たりの費用 「限界(marginal)」とは追加1単位あたりの数量 6 利益最大化の仮定 完全競争とは 商品の同一性、等質性 企業と消費者が多数存在 商品に関する情報は瞬時に市場全体に広がる 市場への参入・退出は自由 限界費用の逓増 – 「限界費用MC」とは追加的1単位当たりの費用 – 資源制約のため、生産量を上げていくといつかは単 位あたり生産費用は上昇し始めると仮定する 7 利益最大化の結果 • 利益が最大となるのは、生産拡大による 追加的費用が追加的収入と等しくなる点。 MC=MR MC:限界費用、MR:限界収入 • つまり、限界費用が限界収入を上回るま で企業は生産規模を拡大する 8 MCとMRの交点で利益が最大 (p=MC) 9 限界純私的利益 MNPB MNPB=MR-MC とすると、利益最大と なるのは MNPB=0 10 この市場分析が示すこと • 生産物の価格が新たに用いられる資源(労働、 原材料など)の費用を上回る時にのみ、企業は 生産を増大させる • 企業は対価を支払う必要がある資源については 浪費しないように注意を払う • 価格がある資源について、利益最大化は過剰 利用よりもむしろ保全するインセンティブとなる 11 等量線による分析 • 等量線(isoquant)とは等しい生産量を生み 出す投入物の組み合わせ 例: 人手で行っていた運搬作業をベルトコンベ アに置き換える 労働 → 装置(資本)、電気エネルギーで代替 12 投入量同士を調節することにより 同じ生産量を少ない費用で生産できる 13 投入量の最適な組み合わせは投 入物の相対価格によって変化する 14 等量線の分析が示すこと • 企業は利益を最大にするために、資源の 利用を調節して、最も効率的な資源利用 の組み合わせを選択する • 投入資源の価格シグナルに対応して、企 業はもっとも効率的な投入の組み合わせ を変化させる • つまり、市場の機能により、資源は必要な 企業に必要なだけ配分される 15 外部性とピグー税 16 ピグーによる「外部性」の発見 • ピグー(A.C. Pigou)は競争市場で取引さ れる財の価格が真の費用を反映していな いことに着目 – 蒸気機関車から飛散する火の粉が周りの樹 木の火災を引き起こす – 鉄道経営者は火災による損失を負担する必 要がないため、蒸気機関車の運転が過大に なっていると考えた 17 外部性(externality)とは • 第三者が受ける利益または費用負担 – 外部費用(外部不経済) 受け手に不効用をもたらす … 廃水、火の粉など – 外部利益(外部経済) 受け手に効用をもたらす … 庭園の借景など • これに対し、通常の原材料費や賃金など は「内部」費用 18 外部性のパターン • 外部不経済か外部経済かは、受け取り手 の主観的判断によって左右される 隣家のピアノ 音楽好きな人には安らぎの音楽 静かさを求める人には騒音 • 一方向の外部性と双方向の外部性 河川上流の工場と下流の住民・・・一方向 菜種畑の農場主と蜂蜜業者・・・双方向 19 外部性による市場の失敗 • 外部性がある場合、企業が私的利益を最 大にしようとすると、社会全体の最適生産 量を上回る生産水準となる 外部性の無視→過大生産=市場の失敗 • 外部性による市場の失敗を防ぐには、外 部費用を生産者が負担することが必要 20 ピグーの考え方 • 蒸気機関車の場合、火災リスクを鉄道会社が負 担すれば鉄道サービスの利用は社会的に望ま しいレベルに落ち着く • 外部費用を支払わせるのが困難な場合は、政 府が外部費用を税として徴収する必要がある= 「ピグーの税」 • 汚染1単位あたりの限界外部費用が汚染の悪化 とともに増大する場合は、「限界外部費用」分を 徴収する必要がある 21 汚染排出による外部費用 22 汚染排出による外部費用EC と限界外部費用MEC 23 汚染排出がある場合の 「社会的最適生産水準」 • 生産による社会全体の利益が最大化とな るのは次の場合(費用に外部費用が追加 される) MC+MEC=MR あるいは MEC=MNPB 24 汚染排出がある場合の 最適生産 25 ピグーの税 • 政府が生産物1単位当たりの税額t*の税を生産 者に課すと、生産量QmはQsまで圧縮される ここで t*=MEC 26 環境税と料金、課徴金 • 政府による外部費用徴収手段 – 税(tax):税法に基づき、政府の歳入となる • 所得税、揮発油税など – 料金(fee):特定事業について利用者に負担を求め るもので、税法に基づかない • 水道料金、高速道路通行料金など – 課徴金(charge):料金と同じだが、懲罰的ニュアンス がある • 排水課徴金など • これらの政策的機能は同等と考えてよい 27 ピグー税と汚染者負担原則 • OECDの汚染者負担原則 (Polluter Pays Principle, PPP) 「国際貿易や国際投資のゆがみを防止しながら、環境を 受容可能な状態に保つ目的で公共当局が環境汚染防 止および規制の諸手段を講じるための費用が、生産・消 費に際して環境を汚染する財・サービスの価格に反映さ れるべきである」 28 ピグー税と汚染者負担原則 注意すべき点 • ピグーが着目したのは外部 性による「市場の失敗」の 是正手段についてであって、 税によって加害者が被害 者を「補償」すべきであると 主張したのではない • ピグーは外部費用として結 果としての「損害(a)」に着 目したが、PPP原則は汚染 が起こる前の「防止費用 (b)」に着目している 29
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