EY Institute 24 March 2015 執筆者 シリーズ:個人消費の論点⑥ ~2015年の国民所得は回復へ 経済全体の所得概念 個人消費を見通す上で、日本経済全体の所得を考えることが重要になっている。 鈴木 将之 EY総合研究所株式会社 経済研究部 エコノミスト <専門分野> ► 日本経済の実証分析・予測 ► 産業関連分析 なぜなら、購買力の源泉である所得は、ここ数年、輸出入の相対物価の動きや、海外所得の 還流などからの影響を強く受けてきたからだ。言い換えると、海外からの影響を抜きにして、日本 経済の購買力を語ることはできないことになる。 まず、日本経済全体の所得に影響を及ぼすものに、「交易条件」がある。これは、輸出物価を 輸入物価で割ったものである。この輸出入物価の影響を所得の概念に変換したものが、「交易 利得」(マイナスの場合は「交易損失」)である。 交易条件をみると、2000年代には、原油価格の上昇などによって、輸入物価が輸出物価以上 に上昇したため、悪化してきたことがわかる(内閣府『四半期別GDP速報』)。特に、08年には、 原油価格(WTI先物)が1バレル=147ドルに達するまで上昇するなど、輸入物価の上昇が目 立っていた。それに対して、家電製品などでは、主に技術進歩によって高性能の商品が低価格 で買えるようになるので、価格に低下圧力が常にかかっており、輸出物価は伸び悩んできた。 この交易条件の悪化に伴って、国民所得の海外への流出(=「交易損失」)も増えてきた。これ は、海外への販売価格(輸出物価)に比べて、海外からの購入価格(輸入物価)が上昇した分だ け、日本の所得が低下したことを表している。05年以降、交易損失が国民所得を低下させる状 況が続いており、12年末からの円安がその動きに拍車をかけてきた。 国民所得(GNI)が国内総生産(GDP)を下回る こうした中で、国民所得を下支えしてきたものが、海外子会社からの配当や利息などの「海外 からの所得」である。日本企業が海外進出を進めてきたことで、海外子会社からの配当や利息 Contact EY総合研究所株式会社 03 3503 2512 [email protected] などの収益が増えてきた。05~10年までは、交易損失よりも海外からの所得の方が多かったた め、日本経済全体でみれば、所得は補てんされてきたといえる。 しかし、11年以降になると、資源エネルギーの輸入が増えたことで、海外からの所得が交易損 失を補えなくなり、国民所得(GNI)が生産活動で得た国内の所得(GDP)を下回るようになってし まった。 15年の国民所得(GNI)は回復へ 足もとでは、それらの所得に改善の兆しが見え始めた。その一つ目の理由として、円安によっ て、海外からの所得の円建て評価額が膨らんでいることがあげられる。これは、海外からの配当 や利子などを含む第一次所得収支の黒字額が14年に18兆円と比較可能な1996年以降で、最 高額を記録したことからもうかがえる(財務省『国際収支統計』)。 また、二つ目の理由には、14年夏場から原油価格が低下してきたので、交易条件にもようやく 改善の兆しが見え始めていることがある。それに伴って、交易損失が縮小し、日本経済全体の 所得は回復に向かうとみられる。 実際、14年第4四半期には、交易損失(年率)は▲23.0兆円となり、第3四半期からマイナス 幅が0.9兆円縮小した(内閣府『四半期別GDP速報』)。それに対して、海外からの所得は25.9 兆円と前期(21.0兆円)から5.0兆円増加したことで、交易損失と海外からの所得の合計額が EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory EYについて EYは、アシュアランス、税務、トラ ンザクションおよびアドバイザリー などの分野における世界的なリー ダーです。私たちの深い洞察と高 品質なサービスは、世界中の資本 市場や経済活動に信頼をもたらし ます。私たちはさまざまなステーク ホルダーの期待に応えるチームを 率いるリーダーを生み出していき ます。そうすることで、構成員、クラ イアント、そして地域社会のために、 より良い社会の構築に貢献します。 3.0兆円と13年第2四半期(0.4兆円)以来、6四半期ぶりにプラスになった。 今後、こうした状況が続けば、日本経済全体の購買力が回復するので、15年4月以降、次第 に個人消費が回復する姿がみえるようになると考えられる。 図 日本の所得の推移 EYとは 、ア ーン スト・ アンド ・ ヤン グ・グローバル・リミテッドのグロー バル・ネットワークであり、単体、も しくは複数のメンバーファームを指 し、各メンバーファームは法的に独 立した組織です。アーンスト・アン ド・ヤング・グローバル・リミテッドは、 英国の保証有限責任会社であり、 顧客サービスは提供していません。 詳しくは、ey.com をご覧ください。 EY総合研究所株式会社について EY総合研究所株式会社は、EYグ ローバルネットワークを通じ、さま ざまな業界で実務経験を積んだプ ロフェッショナルが、多様な視点か ら先進的なナレッジの発信と経済・ 産業・ビジネス・パブリックに関する 調査及び提言をしています。常に 変化する社会・ビジネス環境に応 じ、時代の要請するテー マを取り 上げ、イノベーションを促す社会の 実現に貢献します。詳しくは、 eyi.eyjapan.jp をご覧ください。 出典:内閣府『四半期別GDP速報』よりEY総合研究所作成 © 2015 Ernst & Young Institute Co., Ltd. All Rights Reserved. 本書は一般的な参考情報の提供のみを 目的に作成されており、会計、税務及び その他の専門的なアドバイスを行うもの ではありません。意見にわたる部分は個 人的見解です。EY総合研究所株式会社 及び他のEYメンバーファームは、皆様が 本書を利用したことにより被ったいかな る損害についても、一切の責任を負いま せん。具体的なアドバイスが必要な場合 は、個別に専門家にご相談ください。 EY Institute 02 シリーズ:個人消費の論点⑥ ~2015年の国民所得は回復へ
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