中国人民元:ドル高・元安誘導再開の背景と今後の長期

外貨投資の視点
(No.203)
リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト 植野 大作
2015年2月12日
ドル人民元相場:元安誘導再開の背景と今後の長期展望
ポイント
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中国人民元の対ドル相場が軟調に推移、昨年秋口からの約 3 か月間で約 2.5%のドル高・元安が進行
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中国人民銀行が景気刺激を意図した金融緩和を継続している間は、更なる元安誘導が進む可能性も
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中国政府が人民元の国際化・市場化改革の方針を放棄しない限り、超長期的な元高は緩やかに進行
ただ、対ドルでの元安誘導が続いている間も他通貨市場では元高が進行、実効元相場は概ね高止まり
人民元の対ドル相場が軟
調に推移
早春の外国為替市場で人民元の対ドル相場が軟調に推移している。2月2日の上海市
場でドル人民元相場は一時1ドル=6.2604元と2014年5月29日以来、約8か月ぶりのドル
高・元安水準まで上昇した。昨年10月31日に記録した直近安値(=人民元の高値)の
6.1083元と比較すると約3ヶ月間で最大+1521ポイント、騰落率換算では約+2.5%ものド
ル高・元安が進んだことになる。
「約 3 か月間で約 2.5%の
元安誘導」は、現行の管
理フロート導入後では 2 番
目の記録
為替変動相場制を採用している主要先進国にとって、「約3ヶ月間で2.5%程度の自国
通貨の変動」は日常茶飯事であり、大した動きに見えないかもしれない。だが、周知のよう
に、現在の人民元相場は中国政府による管理フロート制の下で制御されている。このた
め、滅多なことではこれほどの為替変動が起きることはない。実際、2005年7月21日に中
国が現行の管理フロート制を導入して以来、ドル高・元安方向への誘導実績としては、14
年1月14日の1ドル=6.0393元から4月30日の同6.2674元までの間に観察された「3ヶ月半
で約+3.8%」が最高だ。昨年10月31日をボトムに始まっている今回のドル高・元安誘導
は、これに次ぐ2番目の記録となっており、今後の動向が注目されている。
中国人民銀行の金融緩和
とセットで実施されている
人民元の安め誘導
中国政府がドル高・元安誘導を再開している背景は、一体何なのだろうか。中国当局
によるアナウンスメントが全く無いので推測するしかないが、恐らくは「金融緩和策とセット
になった需要刺激」が狙いだと考えられる。現行の管理フロート制下におけるドル人民元
相場の誘導実績を振り返ってみると、近年の中国の為替政策は国内の金融政策と平仄
を合わせた総需要管理政策の一環として運営されていた様子が窺えるからだ。図1は、現
行の管理フロート制が導入された後のドル人民元相場(逆目盛)の誘導実績と中国の預
金準備率、貸出基準金利、預金基準金利を並べたものである。中国人民銀行が預金準
備率や各種政策金利を引き上げて金融引き締めを実施している時期には漸進的な元高
の進行が許容されているのに対し、金融緩和に転じている局面では、それまで続けてい
た元高是認の姿勢を停止する、あるいは一時的な元安方向への誘導を強化する、という
分かりやすい傾向が認められる。
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外貨投資の視点
上すれば、「各種国際会議における中国政府の外交面での交渉力がアップする」、「国際
的な天然資源買い付け競争の現場での中国企業の存在感が増す」などのメリットもある。
筆者が想定しているように、ドル人民元相場がいずれ1ドル=4.0元前後にまで上昇する
ならば、人民元の価値は現在の「ドルの6分の1弱」から、「4分の1前後」へと、5割以上も
上昇する計算になる。かつての日本円が米国政府の方針によって半ば強制的に歩まさ
れた「世界最強通貨への道」とは趣こそ違うものの、人民元はこれから中国政府の主体的
な意思決定を背景に、「21世紀序盤における世界最強通貨への道」をゆっくり歩んで行く
ことになるだろう。
(2 月 12 日 8:30)
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