米雇用統計ショックと今後のドル円相場

外貨投資の視点
(No.213)
リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト 植野 大作
2015年4月6日
米雇用統計ショックと今後のドル円相場
ポイント
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米国の非農業部門雇用者数が市場予想を大幅に下回り、13ヶ月ぶりに「月+20万人」の節目を割り込んだ
残念な米雇用統計の結果を受けて「米利上げ開始時期の後ズレ観測」が台頭、ドル高・円安も一旦小休止
ただ、単月の指標結果には振れがあり、米国景気の回復が続く限り、「そのうち利上げ観測」は消滅しない
日米金融政策格差に基づくドルの先高観が、為替需給の基礎的変化にサポートされている構図は不変
市場の予想を大幅に下回
った米 3 月雇用統計
2015(平成27)年度のドル円相場が先週開幕した。ドル円相場は冴えない動き出しを
余儀なくされている。きっかけは、3日(金)に発表された米3月雇用統計だ。市場が最も注
目していた非農業部門雇用者数(NFP)は前月比+12.6万人と、「事前の市場予想=24.5
万人」を大幅に下回った。市場関係者が「順調な雇用回復の目安」としている「前月比+
20万人」の節目を下回ったのは2014年2月以来であり、13ヶ月ぶりの出来事だ。同時に発
表された失業率は前月と同じ5.5%で改善足踏み、平均時給は前年比+2.1%と前月の
同+2.0%から若干加速したものの、週平均労働時間は前月の34.6時間から34.5時間へ
僅かながら短縮した。単月の指標結果で米国の雇用回復基調が頓挫したとみるのは早
計だが、今回発表された3月の結果に限れば、「平均的な市場の期待」に応えられなかっ
た印象は否めない。
ドル円相場は 44 分間で一
時▲1 円 23 銭も急落、モ
ンスター指標の面目躍如
米3月雇用統計の残念な結果を受けて、ドル円相場は急落した。昨年来の外国為替市
場で頻繁に観察されるようになった「米雇用統計発表直前の思惑的な売買仕掛け」の影
響で一時1ドル=119円95銭界隈へ吹き上がっていたドル円相場は、指標発表の直後か
ら急落に転じ、一時118円72銭と6営業日ぶりの安値圏へ差し込む場面があった。日通し
高安の最大高低差では、わずか約44分間で▲1円23銭に達するドル安・円高ショックが
引き起こされたことになる。結果次第で刹那のドル円相場を上下ともに1円以上ワープさ
せることもあるモンスター指標の神通力の強さを再認識させる一幕だったと言えるだろう。
ただ、今回の米雇用統計
は「ワン・タイムの円高ショ
ック」であり、趨勢的なドル
高・円安局面はまだ終わ
っていない
ただ、問題になるのは、今後の展開だ。今回の「米雇用統計ショック」によって引き起こ
されたドル円相場の急落劇は、2011年10月の1ドル=75円35銭を大底、2015年3月の122
円03銭を直近ピークとして「過去最長の41ヶ月目」にまで伸びているドル高・円安局面(図
1)の「終わりの始まり」になるのだろうか。結論から先に述べると、今回の雇用統計で引き
起こされたドル円相場の差し込みは、恐らく既往のドル高・円安局面で何度も目撃された
「ワン・タイムの円高ショック」に過ぎず、当面のドル円相場は引き続き緩やかな右肩上がり
の傾向をキープする可能性が高い。足下4-6月期の予想レンジは気持ち下方修正するの
が無難な雰囲気が漂い始めているが、「趨勢的」にみたドル高・円安トレンドの寿命はま
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てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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外貨投資の視点
表2:日本からの主体別対外証券投資動向(国際収支ベース)
(億円)
対外証券投資(合計)
公的部門
預金取扱
機関
その他部門
銀行等及び
金融商品取
信託銀行
引業者
(信託勘定)
生命保険
損害保険
投資信託委
託会社等
その他
2005
235,674
-351
72,083
163,941
25,860
86,349
3,990
452
87,508
2006
96,890
-119
-23,995
121,005
7,090
71,637
-415
-4,069
88,792
-40,217
-42,031
2007
129,298
737
14,755
113,806
-11,449
55,775
9,931
-1,181
112,388
-51,659
2008
139,782
147
6,656
132,980
71,032
69,032
2,221
-2,560
15,720
-22,466
2009
163,036
-158
78,948
84,247
29,352
42,519
18,079
-4,430
39,080
-40,353
2010
258,341
124
106,198
152,019
32,425
61,994
39,659
-4,430
49,466
-27,096
2011
61,228
-672
9,048
52,853
15,931
65,302
-1,630
-4,375
5,644
-28,020
2012
146,968
227
88,414
58,327
6,809
64,335
40,818
-1,707
-17,034
-34,894
2013
-60,687
-872
-29,743
-30,071
-33,409
75,569
6,944
1,351
17,820
-98,346
2014
122,302
-31,624
154,652
36,660
103,254
42,234
-139
47,849
-75,205
2014/1
-26,066
-28,381
2,308
-2,583
10,325
-2,736
133
4,167
-6,999
2
-5,178
-8,947
4,003
-1,539
7,794
733
329
2,329
-5,643
3
-18,018
-15,247
-2,453
-3,988
6,628
2,169
373
-69
-7,565
4
9,401
-19,582
29,017
4,670
12,334
10,367
-621
6,007
-3,739
5
29,735
10,321
19,400
2,660
10,424
3,131
-132
5,859
-2,541
6
31,647
16,475
15,209
2,145
3,073
7,083
58
6,964
-4,115
7
26,210
-4,888
31,097
901
13,007
14,565
96
8,065
-5,536
8
23,584
3,671
20,017
10,668
7,502
3,580
153
3,668
-5,553
9
33,367
7,886
25,591
9,296
10,901
8,092
-79
5,035
-7,655
10
12,168
-7,439
19,746
8,212
6,803
1,671
-358
8,428
-5,009
11
19,831
21,439
-1,919
3,911
10,215
-629
-292
-6,481
-8,642
12
-14,378
-6,932
-7,365
2,306
4,249
-5,791
200
3,878
-12,208
2015/1
34,203
2
26,754
-36
8,749
25,516
10,612
7,953
4,471
645
9,010
-7,174
9,549
17,241
10,847
6,788
-2,827
7
9,344
-6,917
注:直近月が斜字体となっている場合は、指定報告機関ベース
出所:財務省より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
(4月6日 15:40)
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