マネーストックから設備投資への波及経路 - 三菱UFJモルガン・スタンレー

「平成 28 年熊本地震で被災された方々に心よりお見舞い申し上げ
ますとともに、被災地の一日も早い復旧・復興を祈念いたします。」
景気循環研究所レポート
マネーストックから設備投資への波及経路
2016 年 6 月 9 日
機械受注は前月比 11.0%
減少
設備投資の先行きに不透明感が強まっている。内閣府が 9 日に発表した
4 月の機械受注によると、設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く
民需」は前月比 11.0%減少した。機械受注は単月の振れが大きい統計で
はあるものの、4 月の減少幅は 14 年 5 月以来の大きさであり、かつ受注
額は 4-6 月期の内閣府見通し(前期比 3.5%減)を月平均ベースで 7.5%
下回っている(図 1)。企業は足元で、設備投資に慎重な姿勢を一段と強
めている模様である。
広義流動性の伸び率が大
幅に縮小
投資に対する慎重な姿勢は、マネーの動きにも表れている。同じく 9
日に発表された 5 月のマネーストックをみると、現金と預金で構成される
M2およびM3が高水準の伸び率を維持しているのに対し、現預金に加え
て投資信託や外債等を対象としている「広義流動性」の伸び率が大幅に縮
小している(図 1)。企業および家計が、価格変動リスクのより小さい金
融資産への選好を強め、外債や投資信託などリスク性資産から現金・預金
といった安全資産へと資金をシフトさせた可能性がある。
広義流動性に含まれる外債や投資信託は、株価や為替レートなどの相場
嶋中 雄二
景気循環研究所長
変動の影響を受けやすいこともあり、広義流動性は国内全体のリスク許容
度の変化に敏感に反応する傾向がある。設備投資も同様に、リスク許容度
と密接な関係があるが、金融資産のように機動的に投資計画を変更するこ
鹿野 達史
景気循環研究所副所長
シニアエコノミスト
宮嵜
とはできない。実際、機械受注は、広義流動性の変動に遅れるケースが多
く見受けられる(図 1)。
図 1. 広義流動性の変動は機械受注に先行する
浩
シニアエコノミスト
03-6627-5132
miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp
(前年比、%)
220
6
マネーストック(広義流動性、右目盛)
200
(10年=100)
180
福田
圭亮
シニアエコノミスト
03-6627-5133
fukuda-keisuke@sc.mufg.jp
本レポートは、嶋中雄二の見方に基づ
き、宮嵜・福田が執筆を担当しています。
景気循環研究所
東京都千代田区大手町 1-9-2
大手町フィナンシャルシティ
グランキューブ
2
160
0
140
-2
120
内 閣府
-4
見 通し
100
80
4
機械受注(船舶・電力を除く民需、左目盛)
60
-6
-8
95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年、四半期)
(注)マネーストックの直近は16年4-5月平均値、機械受注の直近は16年4月。
(資料)内閣府「機械受注統計調査報告」、日本銀行「マネーストック」をもとに
三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
1
2016 年 6 月 9 日
資本ストックと広義
流動性の関係
設備投資は民間資本ストックの増分と概ね同義であり、設備投資の増加は、
資本ストックの増勢加速を意味する。設備投資の先行指標である機械受注の
水準を、資本ストックの変化率に置き換えても、広義流動性との連動性およ
び先行性は変わらない(図 2)。
地価の上昇は与信の
なお、広義流動性と資本ストックの先行・遅行関係の背景には、リスク許
積極化を通じて企業
容度の観点とは異なる、別の波及経路があるとみられる。一般に、マネース
の設備投資を後押し
トック(広義流動性)の伸び率が高まる局面では、不動産市場に投資マネー
が流入し、地価の変動率が上向きになるケースが多い(図 3)。地価の下落
リスクが小さければ、企業は土地の取得を伴う大規模な設備投資を実施しや
すくなる。金融機関にとっても、融資の担保となりうる不動産の価値上昇は、
積極的な信用供与を少なからず後押ししよう。
設備投資の本格回復
足元の地価上昇率は依然として水面下にある。しかし、広義流動性の動き
には資産デフレから
を見る限り、地価は 16 年度中にも前年比プラスに転じる可能性がある。もっ
の脱却が不可欠
とも、広義流動性の減速傾向が今後も続けば、地価上昇率は再び下向きとな
り、地価下落から企業の設備投資が抑制される状況へと後戻りするおそれが
ある。設備投資の本格回復には、資産デフレからの脱却が不可欠であり、政
府・日銀には今後、資産市場に対する積極的な資金供給と市場基盤整備が求
められよう。
図 2. 機械受注の水準と資本ストック前年比の比較
220
200
180
160
140
120
100
80
60
40
(10年=100)
(前年比、%)
10
8
機械受注の水準(左目盛)
6
4
2
0
-2
資本ストックの前年比(右目盛)
-4
87
89
91
93
95
97
99
01
03
05
07
09
11
13
(注)機械受注の直近は16年4月。資本ストックは実質・進捗ベース。
(資料)内閣府「機械受注統計調査報告」「民間資本ストック」をもとに
三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
15
(年、四半期)
図 3. 地価変動率と資本ストック、広義流動性の推移
20
18
16
(前年比、%)
14
12
10
8
6
4
2
0
-2
81
(前年比、%)
15
10
全国市街地価格指数(年度、右目盛)
5
0
-5
-10
広義流動性(四半期、左目盛)
-15
-20
資本ストック(四半期、左目盛)
-25
83
85
87
89
91
93
95
97
99
01
03
05
07
09
11
(注1)資本ストックは実質・進捗ベース。85年の電電公社民営化の影響を当研究所が調整。
(資料)日本不動産研究所「市街地価格指数」、日本銀行「マネーストック」、内閣府「民間
企業資本ストック」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
13
15
(年)
(以
上)
みやざき
ひろし
(16.6.9 宮嵜
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ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
2
浩)
2016 年 6 月 9 日
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。本
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