為替需給の再点検:「鉄板の円安ストーリー」に死角は

外貨投資の視点
(No.207)
リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト 植野 大作
2015年3月5日
為替需給の再点検:「鉄板の円安ストーリー」に死角はあるか?
ポイント
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本邦貿易赤字の縮小により実需絡みの円安圧力は減退しているが、黒字基調には転じそうにない
日本企業の海外進出は空前の規模で拡大しており、ステルス性の高い「隠れた円売り圧力」は健在
本邦公的年金による株式シフトと外貨シフトが一段と進展、来年度の生保・投信などの動向にも注目
方向感を見失って膠着気
味に推移するドル円相場
弥生相場が今週開幕した。時の経つのは早いもので、平成26年度も今月31日(火)に
は期末を迎える。そこで改めて最近のドル円相場のチャート・フェイスを眺めてみると、昨
年12月8日(月)に一時121円85銭と約7年5か月ぶりの高値圏まで吹き上がったものの、
年末年始を挟んで調整含みの展開となり、12月16日(火)には一時115円57銭、1月16日
(金)には一時115円86銭と断続的に115円台へ差し込む場面があった。ただ、116円00銭
を割り込むと底堅く、その後はジリジリと下値を切り上げているが、上値が目立って軽くな
りそうな雰囲気にはなっていない。茲許(ここもと)のドル円相場は116円台での下値が堅
いものの、120円台では上値が伸びず、再びレンジ取引の呪縛にハマりそうな怪しい気配
が漂い始めている。ドル円相場の予想変動率(1ヶ月物インプライド・ボラティリティー)を
みても、年末年始にかけては断続的に12~13%台まで上昇していたが、その後は急激に
低下、足下では8%台へ下落する場面も散見されている。
本邦を取 り巻 く基礎的な
為替需給環境をチェック
このような状況下、最近観察されているドル円相場の膠着状態が、2011年10月から始
まったドル高・円安局面の「踊り場」に過ぎないのか、「終わりの始まり」なのかの見極めが
重要になりつつある。2月27日(金)に発行した外貨投資の視点(No.205)「ドル円相場:
2015年2月の回顧と3月以降の中長期展望」で詳述したように、足下で一段と鮮明になっ
ている日米の金融政策格差からみて、「ドル円=右肩上がり」の局面はまだ続いている可
能性が高く、衆目に明白な「日米金融政策サイクルのズレ」を背景に先行きのドル円相場
はいずれ120円台半ばでの空中戦を展開することになりそうだ。ただ、現実の為替相場の
プライス・アクションは、日々のマーケットに持ち込まれている多種多様な需給を反映して
形成されている。このため、需給的な裏付けを欠いた相場見通しに固執すると、期待に反
する結果に遭遇することもしばしばだ。我々が主張し続けているドル高・円安の大局観は、
今でも需給的な裏付けを伴っているのだろうか。以下では足下のドル円相場を取り巻く基
礎的な為替需給環境について考察しておきたい。
大幅に減少し始めた日本
の貿易収支赤字
最近、非常に気になるのは、「日本の貿易収支の赤字が大幅に縮小し始めている」と
いう事実だ。本邦の通関貿易赤字の金額を、基調を示す3ヶ月移動平均でみると、2014
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外貨投資の視点
倍内閣発足以前の状態にまで進んでいる(図8)。今後は基礎収支の円売り超過を背景
にした円安圧力がジワジワと顕在してくるのではなかろうか。「日米金融政策の違い」とい
うファンダメンタルズ要因によって形成されているドル高・円安の大局観は、今のところ需
給的な裏付けにもシッカリとサポートされている。「いずれ1ドル=120円台後半の空中戦
をみる」という見通しを維持しておきたい。
(3月5日 10:00)
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