ワールブルグ効果について

◎ワールブルグ効果について
﹁癌細胞において特有の糖代謝である好
気 的 な 解 糖 現 象︵ ワ ー ル ブ ル グ 効 果 ︶ を 認
め る。 解 糖 系 か ら 枝 分 か れ し て い る ペ ン ト
ー ス リ ン 酸 経 路 が 亢 進 し、 核 酸、 蛋 白 質、
脂 肪 酸 合 成 を 増 加 さ せ、 癌 細 胞 自 身 の 増 殖、
分 裂 に 有 利 に 働 く。 癌 細 胞 は グ ル コ ー ス を
多 く 取 り 込 む と い う 性 質 を も っ て お り、 糖
尿 病 に お い て は、 血 糖 値 を 改 善 す る こ と が
癌の抑制につながる可能性がある﹂とのこ
と で す が、 詳 細 に つ い て、 文 献 を 併 せ て ご
教示ください。
︵青森県・内科︶
回答
愛知医科大学医学部
内科学講座
糖尿病内科
准教授
加藤義郎
糖尿病患者では様々な癌の発症リスクの増
加が近年、報告されています。
日本糖尿病学会と日本癌学会の合同委員会
により、糖尿病と癌に関する委員会報告が昨年
なされ、わが国の疫学データでは、糖尿病は全
癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌のリスク増加と関
好気的な解糖現象であり、オットー・ワールブ
ワールブルグ効果は、癌細胞に認められる
生率を増加させることが想定されています。
たワールブルグ効果を増強させることで癌の発
によりDNA修飾・変異を増加させること、ま
はミトコンドリアにおける酸化ストレスの増加
性炎症などの要因が考えられています。高血糖
スリン抵抗性と高インスリン血症、高血糖、慢
る癌罹患リスク上昇のメカニズムとして、イン
連していることが報告されました。糖尿病によ
1)
ルグにより報告されました。グルコースは解糖
系によりピルビン酸に代謝されますが、その多
くのピルビン酸は好気的条件︵酸素存在︶下に
おける正常細胞では、ミトコンドリアで代謝さ
れます。一方、癌細胞では、多くのピルビン酸
はミトコンドリアに入らずに乳酸が産生されま
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2)
す。乳酸の産生は正常細胞では嫌気的条件︵酸
利に働くと考えられます。1分子のグルコース
がって高血糖状態は、癌細胞の増殖、分裂に有
から
素非存在︶下においてのみ起こりますが、癌細
胞においては好気的条件下においても起こりま
︵TCA︶サイクルにお
tricarboxylic acid
す。これがワールブルグ効果と呼ばれるもので
い て、 最 大 分 子 の adenosine triphosphate
︵A
TP︶が産生されますが、解糖系はTCAサイ
す。
癌細胞では、腫瘍の増大に伴い低酸素状態
クルに比しエネルギー産生効率が悪く、2分子
︵HIF 1︶が活性化されます。H
factor-1
IF 1はピルビン酸キナーゼの発現増強によ
れます。癌細胞はグルコースを多く取り込むと
高血糖状態が腫瘍の増大に有利に働くと考えら
hypoxia-inducible のATPが産生されるのみです。そのため、癌
細胞の増殖には大量のグルコースが必要とされ、
り、乳酸生成反応を促進します。また、ピルビ
ことが癌の抑制につながる可能性があると考え
文献
糖尿病と癌に関する委員会、春日雅人ら 糖尿病と
癌に関する委員会報告、糖尿病、 、374∼39
いう性質をもっており、高血糖状態を改善する
ン酸からアセチル CoA
への変換を担うピルビ
ン酸脱水素酵素の抑制により、ミトコンドリア
られます。
に な る と、 低 酸 素 誘 導 因 子
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への基質の流入を抑えることで、乳酸生成へと
至ります。このことが、酸素消費を抑えること
につながり、低酸素条件下における癌細胞の増
また高血糖状態では、解糖系から枝分かれ
殖に有利に働くと考えられます。
しているペントースリン酸経路が亢進し、核酸
0︵2013︶
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